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続 2章 新たな日々

12-3. 僕への依頼

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 目が覚めると、タハウラの教会のベッドに寝ていた。
 教会の倉庫に、教会への物資と領主館への物資を出したところからの記憶があやふやだが、そこで限界が来て、ふらふらになりながらベッドに倒れ込んだのはうっすら覚えている。ブランにひとりで乗って揺られたせいか、全身が筋肉痛だ。

 このタハウラはキバタのすぐ隣の小さな街で、教会には貴賓室や来客用の部屋などもないので、ここの責任者である司祭様の部屋に泊めてもらっている。本来の住人である司祭様は空いている見習い神官用の部屋に移動してくれたそうだ。僕たちがそっちでいいと思うんだけど、ブランをそんなところには泊めさせるわけにはいかないというのも分かるので、大人しく使わせてもらおう。

 まずは昨日渡せなかった軍の物資を渡すために、ブランに乗って移動しようとしたところで、筋肉痛で動きがおかしい僕を見かねたブランに止められてしまった。ブランがツェルト助祭様に、僕と一緒に乗るように言っている。

「そ、そのような、畏れ多いことは……」
『(いいから乗ってユウを支えろ。でないとユウが落ちる)』
「は、はい……」

 ツェルト助祭様の耳が緊張でピンと真横に立っている。可愛いなあ。
 ツェルト助祭様が恐る恐る僕の後ろに乗って、後ろから支えてくれるけど、僕はどうせなら前に乗ってくれればウサミミが近くで見れたのになあ、と場違いなことを考えていた。

 助祭様の支えがあるので安定して走ることができ、無事に言われた場所に全部の荷物を出して、街へと引き返した。
 次にギルドへ向かうと、そこで思わぬ依頼を受けた。

「住民が避難しているダンジョン、ですか?」
「ああ。ダンジョンのモンスターは別のダンジョンに入れない、それは知ってるだろう? それでキバタの住民が近くの初級ダンジョンに逃げ込んでいる。そこに物資を運んでほしいんだが」

 初級ダンジョンの上層のほうが、モンスターが押し寄せてくるかもしれない街の中よりも安全だ。けれど、そこへ物資を運ぶ前にモンスターが街に押し寄せてしまったので、物資を乗せた馬車が街から出られなくなった。
 避難した人たちは、あふれが収まらなければダンジョンから出られない。そこのダンジョンのドロップ品に食料はないので、飢えてしまう。急いで逃げ込んだので、必要な物資はほとんどもっていないはずだ。
 しかも、その初級ダンジョンの入り口は、キバタの街の南側からの道の突き当り、崖の下にある。
 僕たちがいるタハウラはキバタの西、あふれたダンジョンは北東、初級ダンジョンは南なので、西からキバタに近づき、城壁の外を回って南の街道に出て、初級ダンジョンへ行って帰ってくる必要がある。整備された道を進むとキバタ周辺にあふれているモンスターに襲われる可能性があるため物資輸送の馬車は出せない。後ろが崖なので回り込むこともできない。
 ブランなら崖を下れるので、水と食料、ポーションを初級ダンジョンまで運んでほしいという依頼だ。

 けれど僕は、あふれのモンスターがいるところには行かないと決めている。
 アルがいない今、僕が自分でちゃんと決めなければいけない。この依頼を受けた場合の、今後への影響も含めて考えて。
 と思っていたら、僕が決めるよりも先に、ブランがダメだというよりも先に、ツェルト助祭様が耳をぴんと立ててキリッとした顔で、きっぱりと断った。

「その依頼は教会として許可できません。ユウさんは後方支援のみです。そこはもはや前線です。それに教会から必ず誰か一人は同行すると言ってあるはずです。ユウさんと従魔だけで送り出すなど論外です」
「やはり、そうだよな……」

 どうやらギルドマスターもとりあえず言ってみただけらしい。
 おそらくギルドマスターはタペラのあふれから脱出したのと似ているから受けてもらえるかもしれないと思ってダメもとで言ってみたのだろう。

 あふれがどれくらいで収まるのかは誰にも分からない。長期間になれば、初級ダンジョンの人たちはもたないだろう。
 ダンジョン内の人たちを助けたい気持ちはあるけど、正直僕が行くのは現実的でない。平地でもふらふらになった僕に、崖を下るブランに乗っていられると思えない。
 かといって、せっかく避難できた人たちが飢えてしまうのは辛い。

「ギルドマスター、容量大のマジックバッグを貸し出します。ですが一つ条件があります」
「なんだ?」
「物資置き場にするのは、セーフティーエリアですよね。物資を出すときに、セーフティーエリアから全ての住民と冒険者を出してください。マジックバッグを見られたくありません」
「……分かった」

 使っていない容量大のバッグをユラカヒでたくさん貸し出してトラブルになったから、初級ダンジョン内でマジックバッグを見られたくない。それだけあるんだから、一つくらい置いていってくれと言われそうな気がする。
 正直一つくらいあげてもいいと思うけど、そういう僕の甘さがトラブルを呼んでしまうのだと自覚している。
 アルがいない今、僕が隙を作ってはいけないのだ。ここでちゃんと対応できなければ、アルが僕のそばから離れられなくなってしまう。

「ライダーズに依頼を出したい。マジックバッグに物資を入れて初級ダンジョンに運んでほしい」
「俺たちは坊ちゃんの護衛だ。離れるわけにはいかない」
「護衛は他のものを手配する。さすがに知らない奴にマジックバッグを任せられない」
「ライダーズが戻るまで僕は教会から出ないようにしますので、護衛は必要ありません。教会内で従魔がいますので」

 ギルドマスターはしばらく考えて、ツェルト助祭様にも確認して、僕が教会内にいる限りは護衛を付けないことになった。
 アイテムボックスから容量大のマジックバッグを十個取り出して渡し、足りるか聞いたが、問題なさそうだ。

「これだけあれば十分足りるだろう。信用できるパーティーをもう一つ増やしてはダメか? 口外しないという契約を受けさせる」
「契約するのであれば」

 マジックバッグは、容量とは別に、収納できるものの大きさに制限がある。容量大の場合、ワンルームくらいの容量が入るのに、その大きさの箱を用意しても入れられないので、小分けにする必要がある。
 バッグの口の大きさを越えても一部が入れば収納できるのに、制限があるとか意味が分からない。まあダンジョンが神様の遊び場なら、バッグの仕様も適当なのかもしれない。
 とにかく、大きさに制限があるので、僕のアイテムボックスのように大きい塊にして一度に収納、というようなことはできない。つまり、出し入れの手間がかかる。

 ライダーズの二人だけで行くのは危険なので、ライダーズの護衛をつけるつもりだが、そのパーティーにも物資の出し入れをさせたいそうだ。取り出すときにセーフティーエリアを封鎖するのであれば、あまり時間をかけていられないので、手分けして収納と取り出しの時間短縮をしたいからだと、理由をちゃんと説明してくれた。
 もう一つのパーティーはこれからギルドマスターが選んで条件を伝えてくるというので、それまでに少しでも作業を進めておこうと、運びたい物資が用意されているところまで案内してもらった。ここも人払いをしてもらう。

 ライダーズの二人も契約すると言ってくれたけど、彼らは信用している。ホトでは僕がパニック起こしたところも見られているし。
 でも契約をしたほうがトラブルに巻き込まれる可能性も減るだろうから、もう一つのパーティーと一緒に契約をすることにした。
 僕の出した荷物を、ツェルト助祭様も手伝ってマジックバッグに水や食料を詰めていく。僕は筋肉痛のせいでゆっくりしか動けないでいると、見ていられないから休むようにと言われてしまった。一応冒険者なのに、情けなくて悔しい。
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