世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

文字の大きさ
上 下
123 / 181
続 1章 神なる存在

11-12. 神獣の力

しおりを挟む
 ドガイからの司教様たちの訪問のためにダンジョン攻略を休んでいたが、そろそろ復帰しないとリネが退屈している。
 獣道は王都を離れてダンジョンに潜っているので、そこにリネに乗って移動して合流する。俺のために最近はずっと王都周辺か、カークトゥルスのあるサネバだけになっていたが、リネという移動手段もできたので、範囲を広げることにした。リネが獣道の居場所ならたとえダンジョン内であってもわかるというので、俺のことは気にせず潜ってもらって、合流することになっている。リネにとって獣道は、ダンジョンに潜るためには必要な人という認識のようだ。

 王都から馬車だと二日の距離の街の近くのダンジョンに獣道がいるというので、大きくなったリネに乗って空を飛んで向かっている。

『よけてー』
「すまない!」

 リネがダンジョン内でも飛んで移動しているので、周りの冒険者たちが驚いてる。申し訳ないが、リネが早く合流したいようで外から飛びながらそのままダンジョンに突入してしまったのだ。
 フロアボスの部屋は、リネが順番を飛ばして入り込み、サクッと倒してそのまま下へと進んだ。リネに順番待ちをするように言っても理解してもらえると思えないので、神獣の特例として許してほしい。

『追いついた! やっほー』
「神獣様、お久しぶりです」
「よお、アレックス。用事は終わったのか?」
『見て見て、この宝石似合うでしょ。もらったの』
「神獣様、お似合いですよ」
『グァリネでいいよ』

 リネは鷲の獣人であるタムジェントを特に気に入ってるらしい。よく耳の羽をつついているが、鳥の特徴を持っているからだろうか。ブランは特にキリシュに対して思うところはなさそうなので、よく分からない。

 獣道に対してドガイから贈られた宝石の首飾りをリネが見せびらかしているが、オレを乗せて飛ぶために大きくなったときには足首につけている。さっきは小さくなって外れた首輪に自分でうまく首を通していた。大司教様に調整してもらったのかもしれない。
 ドガイの国も協力して作られた超一級品なので、容量大のマジックバッグくらいの価値はありそうだ。もしかするともっと高価なのかもしれないが、宝石の価値はよく分からない。さすがに宝石全部が同じに見えていそうなユウよりは分かっているが。
 ブランは首輪はもってのほかだし、その他装飾品も嫌がって、従魔のフリをするためのプレート以外は決して身に着けないが、リネは見ようによっては首輪にも見えるこの首飾りもまったく躊躇なく着けている。
 ただ、リネの中で流行りすたりがあるようで、しばらく気に入っていた宝石も、ある日突然別のものに興味を移すこともある。

 そんな気まぐれで可愛らしいリネだが、ダンジョンの最下層でその力の一端を見ることとなった。
 獣道と共に危なげなく最下層のボスを倒し宝箱を開けたところ、中に入っていたのは虹色に輝くエリクサーだった。

「おお、エリクサーだ!」
「アレックス、いるか?」
「いや、俺は一本持っているし、リネがいるから」
「じゃあ買取金額の五分の一を払う」

 ユウとブランと氷花として、獣道と共闘するときは、パーティー単位で取り分を半分にしていた。けれど、俺だけが参加するようになって、頭数で割るように変えていた。そこにリネが参加するようになって、最初はパーティー単位の半分に戻そうと獣道は言ってくれたが、周りの冒険者へのけん制などいろいろと世話になっているので、リネを抜いた頭数での分配のままになっている。リネには、リネが気に入ったドロップ品は無条件で献上することで報酬にする。戦闘に参加するかしないかがそのときの気分によって全く違うので、そういうことになった。

 俺たちは過去にエリクサーを二本手に入れて、一本はタペラのあふれでクルーロに使ったが、もう一本は俺の時間停止のマジックバッグに入れてある。だが今はダンジョン内での俺の怪我はリネが治癒してくれることになっているので、必要ないだろう。
 俺のいらないという言葉を聞いて、獣道が喜んでいる。一本も持っていなかったので、自分たち用に持っておきたかったそうだ。このダンジョンは最下層でエリクサーが出ることがあるという噂を聞いて挑戦していたらしい。

 そこに、ボス戦も宝箱も興味なさげに見ていたリネが、耳を疑う発言をした。

『そんな質の悪いエリクサー、捨てろよ』
「リネ、多少質が悪くても、人には貴重なんだ」
『ええー、そんなの失敗作だよ?』

 治癒魔法の使えるリネにとっては価値のないものかもしれないが、人にとってはとても貴重なものだ。
 エリクサーは、たとえ致命傷を受けても死んでいなければ回復することができる。ただし、致命傷を受けてからの経過時間によってはエリクサーを使っても回復できない。質が悪ければ受傷後すぐでなければ回復しない。逆に言えば、たとえ質が悪くとも受傷後すぐに使えば死を回避できる。
 冒険者なら、たとえ質が悪くとも常備しておきたいものだ。

 そのことを説明していたら、リネにポーションを出すように言われ、よく分からないが急かすので、マジックバッグに入れていた中級ポーションを出した。
 するとリネが俺の手の中にあるポーションに羽根をかざして言った。

『はい、これが成功したエリクサーだよ』
「え?」

 中級ポーションだったものが虹色に輝いている。どういうことだ?
 リネに聞くと、中級ポーションをエリクサーに変えたらしいが、意味が分からない。いや、言葉の意味は分かるんだが、起きたことが理解できない。

 エリクサーの作り方は教会にも薬師ギルドにも伝わっていない。失伝したとも、材料が手に入らないので人には作れないとも言われているが、とにかく人には作れない。
 それを、何の苦労もなく作って見せた。
 鑑定が使えるものが誰もいないので、本当にエリクサーなのか分からないが、リネが嘘を言う理由はない。見たことがないほど虹色に輝く液体は、かなり上質なエリクサーなのだろう。

 リネと出会ってから初めて、リネは神獣であるのだと得心した。
 獣道がぽかんと口を開けている。彼らもまた、リネの我儘気ままな部分ばかりを見ていたので、驚きが隠せないでいる。

 とりあえず、地上に戻ることにしたが、このリネ作のエリクサーをどうするのか。
 まずは教会に報告したほうがいいというオラジェの提案で、中央教会に戻って教会に相談することになった。

 獣道は、ギルドにドロップ品やエリクサーを鑑定してもらい、買い取り価格の五分の一を俺に振り込んだら、また別のダンジョンに挑むので、いいときに合流してくれと少し投げ槍だ。
 「神は理不尽だ」とガリドラがつぶやいているが、せっかくのエリクサー入手の喜びを台無しにしてしまって申し訳ない。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!

竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。 侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。 母が亡くなるまでは。 母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。 すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。 実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。 2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。

処理中です...