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続 1章 神なる存在

11-7. 王家の事情

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 何度かリネと一緒にダンジョンに潜り、少しずつリネとの付き合い方にも慣れてきた。
 リネに敬語は使わなくていいと言われてからは普通に話している。
 リネは孤児院で面倒を見ていたチビどもと同じだと思えば、腹も立たない。いや、腹は立つが、収めることが出来る。そもそも人の枠組みに入りきらないからと腹を立てる俺が間違っているのだ。それは分かってはいるが、腹を立てないでいられるほど俺は人間ができていない。

 冒険者たちもリネがいることに少しずつ慣れてきたのか、最近では騒動になることも減った。
 リネが初めて参加したダンジョン攻略後に馬車を燃やしたことで、貴族からの接触はほとんどなくなった。気に入らなければ燃やされてしまう、厄介な神獣として認識されたようだが、それこそ人の身勝手だ。

 少し周りが落ち着いてきたところで、サジェルを通して、第二王子から面会の申し入れがあった。一対一、あるいはユウも入れて二対一の非公式を希望しているらしい。
 国から面会依頼があると予想していたが、今まで申し入れもなく、国はリネには関わらないと決めたのかと思ったが、そうでもないらしい。しかも一対一というのは、側近も入れず本当に王子だけで話したいらしい。
 サジェルが話を持ってきたということは会ったほうがいいのだろうと考え、俺だけ会うことにした。

「テオリウスです。この国の第二王子だけど、今は軍にいるよ。テオって呼んで」

 この王子、なんか軽いな。
 神獣の契約者である俺に対しては、本当は敬語を使わないといけないんだけど、ここはプライベートの場ということで見逃してほしい、と言われた。立ち合いはサジェルだけにしたので、室内には三人しかいない。こっちも敬語なしでいいなら、言葉遣いは見逃してもらえるだろうから楽だ。
 軍にいると聞いて、俺が少し警戒したのが分かったのだろう。

「ごめんね。私がもう少し軍を掌握できていればさっさと将軍を更迭できたんだけど、王族の権力でも古参の幹部には勝てなくてね。あの一件で私に反抗する勢力は一掃したから」
「そうですか」
「そんなに警戒しないで。今日来たのは、できれば友達になりたいなあと思って」
「神獣目当てでしたらご期待には沿えません」

 冒険者でも反応は二分している。今までほとんど話したことがなかったのに寄ってくる者と、今までまあまあ親しくしていたのに俺を見かけると離れていく者。前者は恩恵を期待し、後者は神罰を恐れてだろう。
 今まで特に親しくしていた者たちは、リネを畏れながらもいつもと変わらない風を装ってくれる。それを見ると俺のほうが心苦しくなるが。

「まあ違わないんだけど、ぶっちゃけるとね、うち今大変なのよ」

 王子が説明してくれた王家の内情は、ほとんど俺たちに起因するものなので、少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 ユウがいることで、モクリークの貴族だけでなく周りの国からも、いろいろな要望が来ていた。多いのは、ユウと面会の場を設けてほしい、マジックバッグを売ってほしい、ユウを派遣してほしいというものだ。持て余しているようだからうちで引き取る、というような上から目線の申し出もあるらしい。
 自国の貴族を押さえつけ、国内で勝手にユウに接触されないように他国からの出入りに目を光らせ、誘拐や暗殺がないように暗部を動員し、俺の襲撃に関する粛清でガタガタになった王宮と軍部を立て直し。

「やっと落ち着いて一息できるってところに、今度は神獣様でしょう。過労と心労で父上が寝込んじゃってね。あ、これ内緒ね」
「それは……」
「あ、謝ってほしいんじゃないよ。一番の懸念事項は君たちなの。今出ていかれると、きっとクーデターが起きちゃうから。それで、王家の信頼回復に私が来たってわけ。兄上も忙しいし、ほら、私たち同じ年みたいだし、同じ戦闘職だし」

 俺の襲撃の後から、一年に一度はユウと王の会談をしているが、そこではどちらかというと事務的な会話しかない。それで、今回こういう場を望んだそうだ。
 だが、率直に内情を話しすぎではないだろうか。サジェルを見ると少し機嫌が悪いような気もする。いや、これはわざと表情に出しているのか。

「アレックス様、発言の許可を」
「どうした」
「同情を誘う発言をされていますが、気になさる必要はございません。王族が責務を果たすのは当然のことです」
「サジェル、そんなに睨まないでよ」

 この場で口に出すということは元侍従長として王子の発言に思うところがあるんだろう。
 けれど逆に言えば、王宮の内情を詳しく知っているサジェルの前で話しているのだから、この話は事実だ。

「私たちの安全が保証されるなら、今のところこの国を離れる予定はありません」
「とりあえずそれを聞いて安心したよ。今後も時々遊びに来ていいかな?」
「そのときの状況によりますが」

 都合が悪ければ、俺のところに話が届く前にサジェルが潰すだろう。

「普通に話してよ。君のほうが身分は上だから、さっきからサジェルの視線が痛くて」
「分かった」
「ねえ、訓練ってどんなことしてるの? 一度手合わせしてほしいなあ」
「ダンジョン内で冒険者パーティーの獣道と訓練することが多い」
「ダンジョンじゃ無理だねえ」

 王子と一緒にダンジョンなど、ただでさえ何が起きるか分からない場所なのだからお断りだ。
 もしもダンジョンにいる最中にあふれがおきたら、きっとリネは王子を助けないだろうから、お付きの人たちとトラブルになりそうだ。

 それからしばらく世間話をして、会談は終わった。信頼回復が目的だったのは本当のようで、特に何も要求はなかった。


「王子様、どうだった?」
「王家の信頼回復がしたいらしい。友達になってほしいと言われた。出来ればユウにも会いたいそうだ」
「断ったらダメ?」
「大丈夫だ。断っておく」

 ユウは身分制度というものがよく分からないと言っていたが、本当に分かっていないんだと初めて実感した。
 身分で言えば、現状表向きでは俺よりも高位になる人間はいない。それだけ神獣の契約者という神に連なるものの立場は大きい。実情はブランの愛し子であるユウが誰よりも高位だが、それは公表していないから無効だ。けれどユウは俺の恋人だと公になっているので、俺と同じ位と周りは見なしている。王と王妃のようなものだ。
 今回の面会についても、受けるも断るも俺の、俺たちの一存で決められる。けれどユウは王族からの申し入れを断らないほうがいいんじゃないかと気にしている。

「ユウの世界には王はいなかったのか?」
「いる国もあったよ。僕の国は、うーん、王様に当たる人はいたんだけど、実権はないというか」
「ギルドの運営方法のようだと言ってなかったか?」
「そうだよ。形だけ王様がいる、みたいな?」

 ユウの言っていることが全く理解できない。ユウも上手く説明できないようだが、おそらくこの世界に似たような形態がないのだろう。
 俺がユウの世界を想像できないように、ユウがこの世界を理解できないとしても仕方がない。俺がフォローしていけばいいだけのことだ。
 ユウが身分のことでトラブルになる可能性がほぼなくなったのは、俺が神獣の契約者になったことで良かったことの一つだな。
 それに、ユウがおかしな発言をしても、神獣様から聞いたと誤魔化せそうだ。リネには申し訳ないが、リネを少しでも見たことがあれば、あの神獣様ならそういうこともあるか、と思ってくれそうな気がする。
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