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続 1章 神なる存在

11-3. 神獣との契約

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 混沌とした部屋に現れた大司教様は、神獣の降臨に気付いて急いで着替えたのか、初めて見る、ドガイの大司教様がブランを迎えるときに似た、かなり豪奢な衣装だ。
 鳥の神獣とブランに対して膝をつき、挨拶を始めた。

「ブラン様、お帰りなさいませ。……ヴィゾーヴニル様、ですね。ご降臨まことに恐悦至極に存じます」
『お、あんたの宝石もキラキラでいいねえ』
「こちらの宝石でしょうか? ヴィゾーヴニル様、この度のご降臨はどのような」
『そっちのも見せて』

 鳥の神獣が大司教様の装飾品の宝石に興味をひかれて、一切挨拶を聞いていない。それでも大司教様は根気強く対話を試みている。

 大司教様がブランと鳥の神獣から聞き出したこと、またもともと教会の知識として伝わっている契約についてまとめると、ブランが鳥の神獣と俺の間で結ぶように言っている契約は、条件付きで対価を渡して行う、従魔契約に近いものらしい。といっても形態が似ているというだけで、相手は神獣なので人は命令などはできないし、条件も対価も神獣の気に入るもので決まりは何もない。そして神獣が気に入らなければいつでも破棄されてしまう。過去に国の守護神獣となったと伝わっているのが、この契約らしい。
 一方、ユウとブランの間で結ばれているものは、神獣が気に入った相手に加護を与えるもので、これは本当に神獣側の気持ち一つで結ばれるものだ。対価も条件もなく、無条件で神獣が与えるものなので、加護を与えられたものは『愛し子』と呼ばれる。ブランの溺愛っぷりを見ていると納得がいく。

「ブラン様のご意向で、ヴィゾーヴニル様が対価をもってアレックスさんと契約を結ばれるのですね」
『そうだ。これでユウも安心できるだろう』
「ヴィゾーヴニル様、対価には何をお望みですか?」

 契約の対価といわれても俺に差し出せるものは何もない。宝石が気に入っているようなので、ユウがアイテムボックスに入れている宝石を出してみたが、お気に召さなかったようだ。
 というか、俺との契約なのにユウのアイテムボックスに入っているものでいいのか? ダンジョンで戦闘に多少は貢献したが、神獣が気に入るようなものであればブランが倒したモンスターのドロップ品になりそうだ。
 困ったユウが、魔剣もキラキラしているけど、とアイテムボックスから出したが、それは宝石ではないし、そんなものを気に入りはしないだろう、と誰もが思った。
 けれど、そのうちの一本を気に入ったらしい。

『おお、これいいじゃん。カッコいい。気に入った。いいよ、これで契約してやるよ。条件は、愛し子の番がダンジョンに潜るときに付き合う。死なせない』
「あの、ヴィゾーヴニル様」
『オレにもなんか名前付けてよ』

 なんだか不安にしかならない条件なのだが。といっても俺がその条件を変えてもらうこともできない。
 しばらく考え、治癒魔法も使えるということで慈悲という意味のある古い言葉の音からとって提案してみた。

「グァリネ、でいかがでしょうか」
『うん、気に入った』

 名づけで契約が成立したのかと思ったが、ブランによるとそれより前に契約は終わっているそうだ。
 ユウとブランのときは何かあったのか聞くと、後から教えてもらったからいつ契約したのか分からないというユウの答えを聞いて力が抜けた。そうだった、こういうことで、ユウは頼りにならない。

 契約の場に立ち会えたと大司教様が感激しているが、契約を結んだはずの俺は全く実感がない。
 神獣との契約など大事のはずだが、そこに俺の意志は全くないし、深く考えるのは放棄した。


 グァリネは何を食べるのか、教会に住むのかなどを大司教様を中心に聞きだしているが、室内のいろいろなものに興味を持って飛び回るグァリネとそもそも会話が成立しない。
 ユウはそんな苦労を尻目に、ブラシを取り出してブランのブラッシングをしている。グァリネを中心とした慌ただしい雰囲気の中、ブランとユウの周りだけは緩やかな空気が流れている。

 そんな中、ブラッシングを見たグァリネが自分もしてほしいとユウの手元に割り込んだ。

「オレもそれやってよ」
『貴様、邪魔をするな!』

 グァリネは落ちてきたユウに興味があって俺と契約したのだ。あるいはブランの愛し子であるユウに。だから契約した俺よりもユウのことを気にかけている。
 ブランの怒りに司教様たちが震えあがっているので、頼むから神獣同士で喧嘩をしないでほしい。といっても俺には仲裁できないので、ユウ、頑張ってくれ。

「ブラン、落ち着いて。鳥さんは、アルにやってもらったらどうでしょうか」
『愛し子もオレのことグァリネって呼んでいいよ』

 グァリネの興味はブラッシングから、自分の呼び方に移ったようだ。
 名前を呼んでいいと言われて、ブランに確認を取ってから、ユウが「グァリネ」と呼ぼうとした。だが何度挑戦しても、上手く発音できないようだ。

 ユウの言葉は自動的にこの世界の言葉に翻訳されていて、自分では母国語を話しているつもりだと言っていた。
 たまに、この世界にないものについて言及すると、不思議な音を話すことがある。おそらくあれがユウの母国語なんだろう。俺には音楽のようにしか聞こえなかった。
 ということは、ユウにとってはこの世界の言葉の発音は難しいのかもしれない。

「ユウ、リネなら呼べるか?」
「リネ」
「大丈夫だな。グァリネ、私はアレックスですが、アルと呼ばれています。同じようにあだ名でリネと呼ぶことにします」

 リネならユウも呼べるので、リネと呼ぶと宣言したが、当のリネが不満そうで、ユウが落ち込んでいる。先にユウが発音できるか確かめてから決めればよかった。

『えー、グァリネって響き、気に入ったのに』
「ごめんなさい」
『黙れ! ユウを傷つけたら許さんと言ったはずだ』

 どうやってリネを宥めようかと思っていたら、ブランが牙で黙らせた。もうここは神獣同士で任せよう。
 それよりも、リネがうっかりユウが落ちてきたことを言ってしまいそうな気がする。けれど俺の言葉を聞いてくれるかどうか。
 とりあえずそれは棚上げして、リネのブラッシングをして、リネの気をそらせよう。ユウが子犬になっていたときのブラシなら柔らかいから鳥でも大丈夫だろう。これ以上ブランが怒ると、司教様方が倒れそうだ。
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