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続 1章 神なる存在

11-2. ブランの帰還

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 落ち着かないまま迎えた翌朝、ユウは目を覚ましてすぐにブランを探し、夢じゃないんだと泣きだした。
 昨夜もしっかり眠れず、時々目が覚めてはブランを探していた。その度に抱きしめて宥めてはいたが、浅い眠りにしかつけなかったようだ。

「ユウ、大聖堂に行って祈りを捧げるか? ブランは神獣だから、祈りが届くかもしれないぞ」
「……うん」
「じゃあまずは果物だけでも口に入れるんだ」

 食欲はないようだが、食べないと痩せてしまう。帰ってきたときに痩せていればブランが心配するからと、口元まで果物を運び、何とか一皿食べさせた。
 熱が出たらブランが果物を凍らせてくれたことを思い出して、また泣きだすユウが可哀そうでならない。

 チルダム司教様にお願いして、大聖堂のバルコニー部分に入れてもらい、ブランが無事に帰ってくるよう祈りを捧げる。ドガイではここと同じようなところで結婚式を見ていたらブランが氷の花を降らせてくれたのだと思い出を語り、また落ち込んでいる。それからユウは目を閉じて、じっと何かを祈っている。
 俺も、ユウのためにどうか早く戻ってきてほしいと心から祈った。ブランがユウの悲しむことをするとは思えないので、きっと何か事情があるのだ。その事情が早く終わってブランが戻ることを祈った。

 大聖堂を出て部屋に戻ると、獣道が来てくれていた。
 教会から時間があれば訪ねてほしいと伝言を貰ったそうで、俺たちに何かあったのではないかと駆けつけてくれた。ブランがユウのそばを離れたことをすでに聞かされたようで驚いている。

「戻ると言われたんだろう。だったら大丈夫だ」
「でも……」
「あのな、愛想をつかすならもうとっくの昔につかされてるだろう。自分の従魔の扱いを考えてみろ」
「あれだけユウに甘いんだ。戻ってきてくれるって」
「ちゃんと食べないと、また小さくなるぞ」

 ブランはユウによく扱いが雑だとか犬扱いするな、などと言っていたが、あれはただのじゃれ合いだろうと流していたし、実際にそうだろう。本当に嫌ならユウに付き合って従魔のフリなどするはずがない。ユウが確かに神獣として接していなかったと反省して落ち込んでいるが、それは関係ないと思う。
 俺が斬られたとき、ユウを傷つけてからエリクサーで治すつもりだったという計画を聞いただけで、あれだけの怒気を見せたブランだ。それなのにその報復は、ユウが完全に寝入るのを待ってから出掛け、人を傷つけるのを厭うユウのために人間を退避させて屋敷を壊すのに留めるほどに、ユウには甘い。

 けれど今のユウにはそんな慰めも信じられないのだろう。
 ブラン、早く帰ってきてくれ。悲しいが、俺だけではユウの心を支えられない。


 なんとかユウを宥めて食事をさせ、浅いながらも眠り、迎えた三日目、ブランが帰ってきた。
 それは喜ばしいのだがその口に鳥をその咥えている。しかもその鳥がしゃべっている。

「ブラン? 帰ってきた! よかった。ホントによかった。おかえり」
『へえ、これが愛し子。ほんとに落ちてきたんだね。珍しい』
『それは人の前では言うな。さあ、アルと契約しろ。ユウ、待たせて悪かったな』
『これが愛し子の番? どうしようかなあ、何を要求しようかなあ』

 ブランとユウ、しゃべる鳥の間で会話が錯綜している。
 その中で出てきた俺と契約とは、どういうことだ。ブラン、説明してほしい。
 だがブランはユウを慰めるだけで、何も説明してくれない。
 ユウ、ブランが帰ってきて安心したのは分かるが、帰ってきてくれたから細かいことは気にしないとか言ってないで、鳥について聞いてくれないか。

「ブラン、その鳥さんはお友達?」
『ブランって言うのがマーナガルムのことなら違うよ』
『俺はただの従魔だと言っただろう!』

 ブランが咥えて連れてきたカラフルなしゃべる鳥によると、いきなり現れたブランに、自分の愛し子の番と契約しろと言って有無を言わさず連れてこられたらしい。
 ユウが詳しい説明を求めると、やっとブランが説明してくれた。

 風を司り、治癒も使える神獣ヴィゾーヴニル。
 ユウが過去にテイムしたいと言った動物に当てはまるのがこの鳥の神獣しかいなかったので、連れてきたという。

――通信のために自分で往復でき、攻撃されても負けない鳥
――ユウがいないときも俺が乗って移動できる
――そしてユウの希望にはなかったが、ユウの安心のために治癒魔法が使える

 ブランはこの鳥の神獣が近くにいるのを感じていたが、俺がダンジョンにいる間はユウのそばを離れられず、俺が帰ってきたタイミングでユウのそばを離れたそうだ。捕まえるのに時間がかかったために、待たせて悪かったとユウに謝っている。

『アルと契約してくれる神獣がいないか、と言っていただろう?』
「ブラン……、ありがとう!」

 ブランはユウに甘いと思っていたが、甘いなんてものじゃないな。これは溺愛と言うんじゃないか。
 俺がダンジョンに潜っている間、ユウが俺は無事かと心配するので、安心させるために治癒魔法の使える神獣を連れてくるとは。ユウが俺の移動のためにウルフを探してきてほしいと言っていたが、次元が違うだろう。

 だがこの鳥の神獣は、俺との契約に納得していないように見える。


 しばらくすると、ブランの帰還に気付いたのか、鳥の神獣の存在に気付いたのか、チルダム司教様とツェルト助祭様が部屋に駆け込んできた。膝をついて震えている。
 サジェルはただ事でないチルダム司教様の雰囲気に、廊下で控えている。聖職者ではない自分が聞いてはいけないことかもしれないと思っているんだろう。サジェルにはブランの正体は明かしていないが、会話の中に名前が出てくるのだからもちろん気付いているはずだ。

「ユウさん、この状況は……?」
「ブランが帰ってきました。ご心配をおかけしました」
「そちらの御方は……」
「僕もよく分からないんですけど、ブランがアルと契約させようと連れてきた鳥の神獣です。ここで一緒にお世話になってもいいですか?」

 ユウにとってはブランが帰ってきたことが最重要で、他のことはどうでもいいらしい。新たな神獣が現れたというのは、かなり大事件だと思うが、あまり気にしていない。ブランに抱き着いて、その毛に半分顔を埋めながら話している。
 抱き着かれているブランはというと、ユウのされるがままになりながら、鳥の神獣に文句を言っている。
 俺との契約を迫るブランと調度品に興味を惹かれて部屋の中を飛び回っている鳥の神獣で、話が全く噛み合っていない。ブランがキレそうだし、友達ではないというのは本当のようだ。
 そして俺と契約というが、俺の意思は全く考慮されていない。けれど、俺に選択権はないんだろうな。

 ブランに問いただせるのはユウだけなのだから、この場を何とかしてほしいが、ユウはブランが帰ってきたことに安心して、他のことにまで気が回っていない。
 恋人である俺の話なので少しは気にしてほしいんだが。
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