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3章 アルの里帰り

3-8. アルのかつての師匠

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 2階層下で会えそうと思うと、足取りも軽く進みも早くなる。
 というか、この辺りではもう僕には歯が立たないので、アルとブランがバッサバッサ切って進んでる。僕はドロップ拾い係だ。
 カレンデュラがよく探索しているという階を進んでいると、ブランが「戦闘音がするな」と言いながら進路を変えた。
 その先では、とてもよく連携の取れたチームが、危なげなくモンスターを倒していた。

「カレンデュラだ」

 やっと見つけた。少し離れたところで、戦闘が終わるのを待っていると、終わったところで「何の用だ!」と誰何される。警戒されている。

「見習いだったアレックスだ。会いに来た」
「アレックスだと?!」

 体格のいい男の人がすごい勢いで走ってくるので、思わずブランの後ろに隠れた。

 「お前元気だったか?なんでこんなところにいるんだ?」と肩をバシバシたたきながら話してるんだけど、迫力がすごい。
 ドロップ品の回収が終わったパーティーメンバーが合流して、僕を見ながら「リーダー、怖がられてるよ?落ち着いて」と言ってくれた。ありがとう。

 とりあえず簡単に自己紹介をして、セーフティーエリアに移動する。
 リーダーさんにビビってる僕に、カレンデュラのメンバーが「大丈夫、噛みつかないよ」と言ってくれるんだけど、子ども扱いされている気がする。ちょっと冒険者らしからぬ行動をした自覚はあるけど。「だいぶ前に成人してます」と自己申告したけど、信じてもらえていない。悔しい。

 セーフティーエリアには、彼らのテントが張りっぱなしになっていて、荷物持ちの留守番もいた。ここのドロップ品を効率よく集めるために泊まり込んでいるようだ。
 パーティーの半分はアルの知っている人で、半分はアルがいなくなってから加入した人だそうだ。

「客だ。昔見習いをやっていたアレックスだ。今は、まだ戦闘奴隷?解放された?」
「リーダーその情報だいぶ古いよ。モクリークのSランクだよ」
「戦闘奴隷は解放されて、今はユウとブランとパーティを組んでいる。モクリークを中心に活動していて、ドガイには以前世話になった人に会うために来たんだ。この後指名依頼で『カルデバラ』の攻略に行くので、カレンデュラが地上に戻ってくるを待てなくて会いに来た。カルデバラの後はモクリークに戻る予定だ」
「まあ難しいことはともかく、元気でよかった。Sランクか、試合しようぜ!」
「ごめんね。こんなリーダーだけど、Sランクの強い剣士だよ。剣以外は全然だめだけど。アレックス、元気そうでよかったよ。カリラスには会った?」
「タサマラで会ってきた。初っ端に殴られた」
「あはは。あいつ本当に必死で金集めてたんだ。俺たちのところにも来たし、マグノリアのところにも頭下げて。愛情の裏返しだ」
「分かってる」

 誰に会っても最初にカリラスさんの話が出てくる。アルのこと本当に心配してくれたんだなあ。
 近況報告も終わったところで、戦おうといって聞かないリーダーのために、共闘することになった。ダンジョンの中で試合なんて、モンスターを呼んでしまって危ないから。

「そっちのちっこいのは戦わないのか?」
「ユウにはこの階層は厳しいので戦わない。従魔が守っているから気にしなくていい」

 ちっこいの。どうせ僕はこっちの成人前の子どもたちの身長しかありませんよ。悔しい。

 さっきはパーティーで倒していたモンスターを、リーダーとアルの2人で剣だけで倒していく。
 カレンデュラのメンバーたちも僕の横で見ていた。

「アレックスに魔法を教えたのは俺なんだ。俺は『風の魔法』スキル持ちで、リーダーは『剣』スキル持ちだから、リーダーが剣の師匠、魔法は俺が師匠。まあ、魔力操作は教会のやつに習ってたから、俺はあんまり教えることなかったけどな」
「強くなったねえ。やっぱりモクリークの上級ダンジョンに挑んでるからか?」
「アルは努力家ですから。モクリークでも、いろんな人に指導をお願いしていましたよ。僕には槍を教えてくれています」
「アレックスに槍を教えたのもこのパーティのメンバーだったけど、もう引退したんだ」
「お、団体が来た。俺たちも参加するか」
「あれくらいならアルひとりで大丈夫ですよ」
「え?ひとりは厳しくない?」

 そこからアルは魔法も使って無双していた。かっこいいなあ。
 普段ブランは、アルが倒せそうなときは時間がかかっても手を出さない。無理そうだとアルのサポートに回る。おかげで着実に実力を上げてきた。
 ブランが暴れたいときは「これは俺が倒す!」と宣言するので、そういうときはアルと僕は遠くから見学。「映画で見た。CGすごい!」って感じの光景を特等席で見る。僕は多分かすっただけで死んじゃうけど。

 戦闘は、アルの無双を見たリーダーの「俺もモクリーク行く。行って強くなるぞ」という言葉で終わった。パーティーメンバーに「ついていかないからね」「ひとりじゃモクリークに着くまでに野垂れ死ぬぞ」と言われているので実現は難しそうだ。

 モクリークのダンジョンで出た大剣をリーダーに渡して、代わりにドロップ品を全てもらった。
 それを見て「リーダーだけズルい!」と言った魔法使いさんには杖を、アルが見習いだったころからメンバーの斥候さんには短剣を渡した。
 「流石にこれはもらえない」ということでお金を払ってくれたんだけど、アルが本来の値段の半分くらいを伝えていた。

 ここで別れ、僕たちは最下層を目指す。
 お互い「気をつけて」「無理するな」とあっさり挨拶を交わして、別々の方向へと歩き出す。この冒険者流のあっさりとした別れには、未だ慣れない。
 明日どうなるか分からない職業だけど、覚悟の上でなったんだという矜持を感じるような、単純に戦闘狂だからのような。


 そこから先は特筆すべきこともなく、いつものように最下層のボスを攻略して、地上に戻った。
 戻ってギルドに行くと、今日もすぐにギルドマスターの部屋に案内された。その途中でアルが知り合いの冒険者に声を掛けられてちょっと話したりもしたけど、職員さんの「トラブルが起きると困ります」って圧で、短く切り上げていた。

 今回のダンジョンは中級だし、自分たちで使いたいドロップ品がなかったので、全部売りに出す。
 一緒に、モクリークのダンジョンの武器がほしいと言われて、会議室へ移動する。
 買取担当の職員さん2人が部屋に入ったところで、鍵を閉めて、「さあ出してくれ」と言われた。

 「武器フォルダ > 買い取り用フォルダ > 剣フォルダ」の下に、FからSの品質ごとのフォルダに分けて収納されている剣を、各品質1つずつ出す。
 品質はブランの鑑定頼みで、以前はダンジョンごとにフォルダ分けしてたけどフォルダが多くなりすぎたので、ダンジョン攻略後の買い取りで売れなかったものは、買い取り用フォルダにまとめている。
 C, B, A辺りが欲しいということだったので、剣、槍、弓、盾などを品質ごとに出していく。全部出すと会議室に入らないので10個ずつ勝手に選んだ。こうやって見ると、これでもごく一部って、ずいぶん溜めたなあと思う。
 すぐには査定できないので時間が欲しいと言われ、カルデバラの攻略後に受け取ることにした。

 冒険者ギルドを出たら、教会の馬車が待っていた。
 一部貴族が突撃しそうな状況になっているので、万全を期してってことなんだけど、ブランが怒って貴族と一緒に周りの建物吹き飛ばしたりしないように、なのかもしれない。もしかしたら、ブランによるカージギルド凍結事件が伝わってるかも。

 教会でのお泊りはやっぱり豪華なお部屋だけど、これはブランと一緒だからしょうがない。
 ケネス司祭様が僕たちがダンジョンに潜っている間のことを教えてくれた。

「皆様がダンジョンに潜っていらっしゃる間に、神のお告げとして、ダンジョンの放置がダンジョンがあふれる原因につながる可能性があるということを、発表いたしました。現在、各国の冒険者ギルドより過去のあふれとダンジョンに潜った冒険者の数について資料を取り寄せています。これからも調査を続けていきます」
「もしかして、それで貴族が?」
「はい。ダンジョンを領地に抱える貴族が、冒険者ギルドに依頼を出そうとしたところ、お二人は貴族の指名依頼は受けないと冒険者ギルドが受け付けなかったために、直接依頼をしようと画策するものたちが出ています」
「この国にもSランクパーティーがいるのに失礼だなあ」
「他の国の反応はどうですか?」
「各国のギルドから教会に、発表についての問い合わせが来ていますが、モクリークは静観しています。おそらくお二人がモクリークのダンジョン攻略を進めていたことから、情報源がお二人であることを気付いているように思われます」
「戻ったら何か聞かれるかなあ」
「聞いてこないでしょう。今まで言わなかったということは、今後も言う気がないと分かっているはずです」

 アルが他の国の反応を詳しく聞いている。確かに気になる。
 さっきまで冒険者仕様の口調だったのに、教会だと丁寧にしゃべってて、器用だなあ。

「ところで、お二人はパーティー名はお決めにならないのですか?」
「いい名前を思いつかないままですね。モクリークでは、アイテムボックス持ちで通じていましたから」

 パーティー名を考えないまま登録して、そのまま困らないのですっかり忘れていたが、そういえばパーティー名が未定のままだ。

「氷の花にしよう!」
「そうだな。氷花のほうがパーティー名らしいな」
「ブランいい?」
『構わんぞ』

 ということで、パーティー名が『氷花』に決まりました!
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