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2章アルとの出会い(過去編)
2-6. 日用品の購入
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泣いたことで少し気持ちがすっきりした。起き上がって、今後の話をしよう。
議題は、今日の買い物リスト、今夜の宿、今後の予定。決めなければならないことがたくさんある。
まず簡単なところで今夜の宿を二部屋にするか一部屋にするか。相談の結果、一部屋にすることになった。
今の僕は部屋に他人がいて眠れるのか分からないし、悲鳴を上げて飛び起きることがあるのでアルを起こすかも知れない。けれどダンジョンに行くなら護衛という意味でも同じテントになる。まずは同じ部屋で寝てみて、結果次第でまた考えることになった。
アルの買い物リストは、街で着る服と靴、冒険者の服と靴、日用品、テントなどの冒険者セット一式、武器、防具、あたりかな。
今日必ず買わないといけないのは、街で着る服と靴と日用品。冒険者のあれこれは、時間が足りなければ明日以降でもいいだろう。僕も街で着る服と靴が欲しい。あと冒険者の靴の替えも欲しい。
アルからは、僕のバッグも買うように勧められた。アイテムボックスを隠したいなら、一つのバッグから、お金も食べ物も魔物も出し入れしているのはよくない。マジックバッグも十分貴重だけど、マジックバッグと普通のバッグとか、用途別に複数のマジックバッグを持っているようにみせかけたほうが、まだ無難だ。偽装のために小さめのバッグを買って、貴重品は小さいほう、魔物は大きいほう、という使い分けをしていこう。
買うものが決まったところで、元手があるか確認しなくてはいけない。
手持ちはあとわずか、ギルドカードの残金はギルドカードに記載されている数字を見せ、これで買い物リストの全てが買えるかアルに聞いてみる。だって、僕にはものの値段が分からない。
アルによると、宿代などを引くと、今の残高では武器と防具は買えないそうだ。それなら、アイテムボックスの魔物を売るしかない。今入っている魔物を教えてほしいと言われたので、アイテムボックスの中身を見ながら読み上げていく。
「黒いウシが十四頭? 十四匹? 赤いヘビが二匹、黒いヘビが四匹……」
『それでは伝わらん、魔物の名前で言ってやれ』
ブランに突っ込まれてしまった。僕にはアイテムボックスに入っているもののリストが見えるけど、その名前は僕が認識しているものになるようだ。つまり「黒いウシ」のように。
魔物の名前を覚えないといけないとは思うものの、見た目が恐ろしいのもあって気が乗らず、ブランに任せて後回しにしてきた。
狩りをした張本人のブランに補足してもらいながら魔物を読み上げたところ、そのうちの五匹くらい売れば買い物には十分に足りるが、そうするとギルドにマジックバッグが時間停止なのではないかと怪しまれてしまうそうだ。実はすでにバレていそうなことを伝えると、ちょっと呆れられた。
ならば、必要な分を売ってすぐにこの国を出るほうがいいそうだ。ここは王都に近いため、王族からのご招待を警戒する必要がある。権力に対しては低ランクの冒険者では対抗できない。
服と靴を買ったらギルドに行って、もしもの逃亡に備えて多めに魔物の買い取りをお願いすることに決めた。
今後のギルドの対応は、全てアルにお任せする。正直なところ、僕はギルドが怖い。冒険者も怖い。でも従魔がいて、魔物で生計を立てている以上、ギルドと縁は切れない。奴隷ではダメだと言われたときは出ていくが、それ以外は全てアルに対応してほしい。アルは、それも契約のうちだからと引き受けてくれた。
ひとまず今日の予定が決まり、明日からどうしようかと話し始めたところで、ウルドさんと奥さんが夕食の相談のために中庭にやってきた。
「オリシュカです。料理を担当しています。夕食に料理してほしい肉があると聞きましたが」
急いで立ち上がって挨拶を返すと笑われた。頭に草がついていたようで、アルが取ってくれているけど、この中庭をこんなにも楽しんでくれて作った甲斐があると、ウルドさんにも笑われてしまった。
気を取り直し、ブラックバイソン、ブラックサーペントの肉があって、どれかで夕食を作ってほしいとお願いした。どれも美味しいお肉だとブランが張り切って狩って回った魔物の肉だ。アルの歓迎会にしたいので、できれば少し特別な料理が嬉しいと伝えると、オリシュカさんが目を輝かせながら「それならぜひブラックバイソンを」と意気込んでいる。珍しいお肉なのかな? アルが、歓迎会という言葉に反応しかけたので、反論は聞きませんって意味の目線を送ったら黙った。よし勝ったぞ。
オリシュカさんはブラックバイソンのモモ肉でシチューを作りたいとのことなので、モモ肉を出そうとしたが、ここで出しても置く場所がない。オリシュカさんがウキウキとキッチンに案内してくれるので、ついて歩きながら、疑問に感じたことをアルに聞いてみた。
「ブラックバイソンの買い取り価格は低かったのに人気なの?」
「そもそもブラックバイソンで一番価値があるのは肉なので、それを全部引き取った時点で買い取り価格はかなり低くなりますよ」
なるほど。それでブランが「この肉は旨いんだ!」と嬉々として狩ってきたのか。これは今日の夕食が楽しみだぞ。
キッチンにモモ肉の塊を一つ出して、これで何人分できるのか聞くと、三十人分くらいだそうだ。キッチンの入り口で待っているブランの期待に満ちた視線が強すぎる。ヨダレ垂らさないでね。
モモ肉の塊をもう一つ出して、今日の夕食用とは別に、鍋ごと全部引き取りもお願いしよう。今日の夕食用は、僕たちに五人前で、残りは料理をしてくれるオリシュカさんたちに食べてもらおうと思ったが、食いしん坊ブランが「俺は五人前食べる」と伝えてきたので、僕たちに十人前もらうことにした。残りは宿の従業員とオウル君で食べてもらっていいのだが、食べきれない分を宿の客に販売したいそうだ。
困ったときのアル先生、とアルを見上げると、パパっと交渉して、材料代と料理の手間賃を考慮して、売上の半分を僕がもらうことで決着した。さらに引き取り用の鍋を売っている店とサイズも聞いてくれた。
アルが優秀すぎる。横に立ったら見上げないといけないのが、悔しいけど。
夕食の話が一段落したところで、「部屋は今日までですが延長しますか?」とウルドさんに聞かれて思い出した。話し合って決めたブランも入れる二人部屋に変更して三泊追加をお願いすると、空きがあったのですぐに移動できることになった。僕は荷物は全てアイテムボックスに入れているし、アルはそもそも荷物を持っていないので、このまま夕方新しい部屋に入ればいいだけだ。
夕食と部屋の目途がついたので、中庭に戻って今後の話を続けよう。
ブランのブラッシングをすると約束していたのを思い出して、草の上に座り、昨日買ったブラシで寝転がったブランの胸のあたりの毛をブラッシングすると、意外と毛がからまっている。さては食べこぼしだな、食いしん坊め、と思いながら強く毛を引っ張らないようにブラシをかけていると、アルが代わりますよと言ってくれた。でも、これは僕の癒しなので譲れない。アルには、予備に買っていた二本目を渡して、尻尾のほうをお願いしよう。
今日と明日は買い物の日として、明後日からどうしようか。
ダンジョンに潜るなら僕も何か武器を持つべきだとアルに言われたが、刃物などはさみか包丁かカッターナイフしか扱ったことがない。学校で使った彫刻刀も刃物になるのだろうか。どういう武器が自分に合っているのか分からない。
アルによると、ギルドの訓練場ではいろんな武器のお試しができるので、今日時間があればやってみて、僕に合う武器を選ぶことになった。
今日やることが多くなってきた。これは早めに服を買いに行ったほうがいいかもしれない。ブラッシングを切り上げて不機嫌になったブランに夜またする約束をして、さあ出かけよう。
アルの格好に集まる街中の視線を振り切って、初日に行った街着の店に入ると、店員さんは僕のことを覚えていたようで「無事ご購入されたんですね」と迎えてくれた。
ちょっとおしゃれなのと、普通のと、作業用を三着ずつ買おうとアルに伝えると、また「奴隷が……」というのでさらっと無視する。このやり取りで僕が折れないのは分かっているんだろうから、いい加減諦めて。
自分のを選ぼうと思って服を見るけど、そういえば冒険者以外の人がどんな服を着ているか、あまりちゃんと見たことがないのでよく分からないことに気づいた。ここは潔く店員さんにお任せしようとお願いすると、ぱぱぱっと候補の服を並べてくれた。この中のどれが好きか聞かれるが答えられず、二つのうちどちらが好きかにもやはり答えられずにいたら、最後はどちらの色が好きか聞かれ、さすがにそれには答えられたら、三着ずつ決まっていた。手品だ。腰から下の長さを測られ、お昼までにズボンの裾上げをしてくれることになった。
アルのほうも、もう一人の店員さんが対応してくれて決まったようで、「着替えられますか?」と店員さんが主人である僕に聞いてきた。裾上げは不要なのですぐ着替えられるそうだ。悔しい。冒険者ギルドに行くので、作業用の服に着替えさせてもらって、やっと奴隷服とはおさらばだ。
アルが着替えている間にギルドカードで支払い、日常用の靴と下着を売っている店を教えてもらい、そのお店も回って買い物を続けた。アルは自分で気に入るものを選んでいたけど、僕は最初から店員さんに全部お任せでお願いした。下着はさすがに自分で選んだけど、悩むほどバリエーションがなかったのは幸いだった。
今日は夜ご飯が豪勢な予定なので、昼は屋台で簡単に済ませて、買い物を続ける。
屋台の近くでシチュー持ち帰り用の鍋を買い、次は日用品だ。
アルは冒険者で移動に慣れてるだけあって、必要な品とそれらを入れるバッグまで素早く揃えていく。僕がこのコップ買おうかなと迷っている間に、選び終わっていたので、僕の貴重品用ダミーのバッグもアルに選んでもらうことにした。ここまでで店員さんに丸投げしていた僕を見ていたからか、候補を二つに絞ってくれたので、両方買うことに決めた。選べなかったんじゃなくて、予備が必要だからだ。もちろんコップも買いましたとも。
これで今日の買い物リスト最低ラインはクリアしたので、最初の服のお店で裾上げの終わった僕のズボンを受け取り、冒険者ギルドに向かう。いつもは緊張するギルドだけど、アルが対応してくれると思うと気が楽だ。
昼の冒険者ギルドは空いていた。アルは迷いない足取りでカウンターへ向かっていくので、どうしてか聞いたところ、ギルドはだいたい同じような配置になっているから分かるらしい。
アルは登録カウンターで、僕のギルドカードを見せながら、戦闘奴隷の登録をしたいことや、主人の希望で自分が対応していることや奴隷になる前の所属やランクなどをよどみなく伝えている。そして僕のランクアップができないかも聞いている。
戦闘奴隷が登録する際は、模擬試合などで戦闘能力を確かめて、そのランクで登録する。アルはもともとBランクだったので、Bランクのランクアップ試験を受けて合格すれば、Bランクとして登録される。
同様に冒険者も、兵士からの転職などギルドが認めた特別な場合に限って、依頼をこなした件数など条件を満たさなくても、ランクアップすることができるので、僕のFランクも、魔物の買い取りの実績で上げられないかと交渉してくれている。
上長に確認してくるという職員に、その間に魔物の買い取りを依頼するからとギルドカードを返してもらい、次のカウンターに向かうアルは、とっても有能だ。
買い取りカウンターでギルドカードを提示し、解体倉庫へと移動する通路は、僕が教えた。任せてばかりなので、少しくらいは役に立ちたい。
「本日より、主人に変わり私が対応させていただきます。あまり目立たない範囲で、買い取っていただきたい魔物がいくつかあります」
アルが魔物の種類を告げ、買い取りの数や引き取りの部位について交渉している。
僕は聞いていてもよく分からないので、邪魔にならないように倉庫の隅でブランを撫でている。ブラッシングしたからか手触りがいつもよりいいな。もふもふ。
しばらくブランの毛を撫でまわしていたら、交渉を成立させたアルに呼ばれたので、言われた魔物を言われた数だけ出した。
「では明日受け取りに来ますので、よろしくお願いします。もちろんお分かりのことと思いますが、情報は漏らさないでください」
アルの口止めを、聞いてくれるといいなあ。ギルドへの信用がマイナスの僕としては、守られる気がまったくしない。この解体担当の人は感じがいいけれど、ギルド全体がそうとは限らない。そう考えると、やはり早くこの街を離れたほうがいいのかもしれない。
登録カウンターに戻ると、明日の午前中にアルと僕のランクアップ模擬試合をすることが決まっていた。僕は戦えないので試合などできないと伝えてもらったけど、僕の試合はテイマー用の、テイマーと従魔の連携、従魔のレベルの確認になるらしい。
ブランのレベル確認って大丈夫なのかな? ギルドの建物が壊れて、僕が責任取らされたりしないよね?
議題は、今日の買い物リスト、今夜の宿、今後の予定。決めなければならないことがたくさんある。
まず簡単なところで今夜の宿を二部屋にするか一部屋にするか。相談の結果、一部屋にすることになった。
今の僕は部屋に他人がいて眠れるのか分からないし、悲鳴を上げて飛び起きることがあるのでアルを起こすかも知れない。けれどダンジョンに行くなら護衛という意味でも同じテントになる。まずは同じ部屋で寝てみて、結果次第でまた考えることになった。
アルの買い物リストは、街で着る服と靴、冒険者の服と靴、日用品、テントなどの冒険者セット一式、武器、防具、あたりかな。
今日必ず買わないといけないのは、街で着る服と靴と日用品。冒険者のあれこれは、時間が足りなければ明日以降でもいいだろう。僕も街で着る服と靴が欲しい。あと冒険者の靴の替えも欲しい。
アルからは、僕のバッグも買うように勧められた。アイテムボックスを隠したいなら、一つのバッグから、お金も食べ物も魔物も出し入れしているのはよくない。マジックバッグも十分貴重だけど、マジックバッグと普通のバッグとか、用途別に複数のマジックバッグを持っているようにみせかけたほうが、まだ無難だ。偽装のために小さめのバッグを買って、貴重品は小さいほう、魔物は大きいほう、という使い分けをしていこう。
買うものが決まったところで、元手があるか確認しなくてはいけない。
手持ちはあとわずか、ギルドカードの残金はギルドカードに記載されている数字を見せ、これで買い物リストの全てが買えるかアルに聞いてみる。だって、僕にはものの値段が分からない。
アルによると、宿代などを引くと、今の残高では武器と防具は買えないそうだ。それなら、アイテムボックスの魔物を売るしかない。今入っている魔物を教えてほしいと言われたので、アイテムボックスの中身を見ながら読み上げていく。
「黒いウシが十四頭? 十四匹? 赤いヘビが二匹、黒いヘビが四匹……」
『それでは伝わらん、魔物の名前で言ってやれ』
ブランに突っ込まれてしまった。僕にはアイテムボックスに入っているもののリストが見えるけど、その名前は僕が認識しているものになるようだ。つまり「黒いウシ」のように。
魔物の名前を覚えないといけないとは思うものの、見た目が恐ろしいのもあって気が乗らず、ブランに任せて後回しにしてきた。
狩りをした張本人のブランに補足してもらいながら魔物を読み上げたところ、そのうちの五匹くらい売れば買い物には十分に足りるが、そうするとギルドにマジックバッグが時間停止なのではないかと怪しまれてしまうそうだ。実はすでにバレていそうなことを伝えると、ちょっと呆れられた。
ならば、必要な分を売ってすぐにこの国を出るほうがいいそうだ。ここは王都に近いため、王族からのご招待を警戒する必要がある。権力に対しては低ランクの冒険者では対抗できない。
服と靴を買ったらギルドに行って、もしもの逃亡に備えて多めに魔物の買い取りをお願いすることに決めた。
今後のギルドの対応は、全てアルにお任せする。正直なところ、僕はギルドが怖い。冒険者も怖い。でも従魔がいて、魔物で生計を立てている以上、ギルドと縁は切れない。奴隷ではダメだと言われたときは出ていくが、それ以外は全てアルに対応してほしい。アルは、それも契約のうちだからと引き受けてくれた。
ひとまず今日の予定が決まり、明日からどうしようかと話し始めたところで、ウルドさんと奥さんが夕食の相談のために中庭にやってきた。
「オリシュカです。料理を担当しています。夕食に料理してほしい肉があると聞きましたが」
急いで立ち上がって挨拶を返すと笑われた。頭に草がついていたようで、アルが取ってくれているけど、この中庭をこんなにも楽しんでくれて作った甲斐があると、ウルドさんにも笑われてしまった。
気を取り直し、ブラックバイソン、ブラックサーペントの肉があって、どれかで夕食を作ってほしいとお願いした。どれも美味しいお肉だとブランが張り切って狩って回った魔物の肉だ。アルの歓迎会にしたいので、できれば少し特別な料理が嬉しいと伝えると、オリシュカさんが目を輝かせながら「それならぜひブラックバイソンを」と意気込んでいる。珍しいお肉なのかな? アルが、歓迎会という言葉に反応しかけたので、反論は聞きませんって意味の目線を送ったら黙った。よし勝ったぞ。
オリシュカさんはブラックバイソンのモモ肉でシチューを作りたいとのことなので、モモ肉を出そうとしたが、ここで出しても置く場所がない。オリシュカさんがウキウキとキッチンに案内してくれるので、ついて歩きながら、疑問に感じたことをアルに聞いてみた。
「ブラックバイソンの買い取り価格は低かったのに人気なの?」
「そもそもブラックバイソンで一番価値があるのは肉なので、それを全部引き取った時点で買い取り価格はかなり低くなりますよ」
なるほど。それでブランが「この肉は旨いんだ!」と嬉々として狩ってきたのか。これは今日の夕食が楽しみだぞ。
キッチンにモモ肉の塊を一つ出して、これで何人分できるのか聞くと、三十人分くらいだそうだ。キッチンの入り口で待っているブランの期待に満ちた視線が強すぎる。ヨダレ垂らさないでね。
モモ肉の塊をもう一つ出して、今日の夕食用とは別に、鍋ごと全部引き取りもお願いしよう。今日の夕食用は、僕たちに五人前で、残りは料理をしてくれるオリシュカさんたちに食べてもらおうと思ったが、食いしん坊ブランが「俺は五人前食べる」と伝えてきたので、僕たちに十人前もらうことにした。残りは宿の従業員とオウル君で食べてもらっていいのだが、食べきれない分を宿の客に販売したいそうだ。
困ったときのアル先生、とアルを見上げると、パパっと交渉して、材料代と料理の手間賃を考慮して、売上の半分を僕がもらうことで決着した。さらに引き取り用の鍋を売っている店とサイズも聞いてくれた。
アルが優秀すぎる。横に立ったら見上げないといけないのが、悔しいけど。
夕食の話が一段落したところで、「部屋は今日までですが延長しますか?」とウルドさんに聞かれて思い出した。話し合って決めたブランも入れる二人部屋に変更して三泊追加をお願いすると、空きがあったのですぐに移動できることになった。僕は荷物は全てアイテムボックスに入れているし、アルはそもそも荷物を持っていないので、このまま夕方新しい部屋に入ればいいだけだ。
夕食と部屋の目途がついたので、中庭に戻って今後の話を続けよう。
ブランのブラッシングをすると約束していたのを思い出して、草の上に座り、昨日買ったブラシで寝転がったブランの胸のあたりの毛をブラッシングすると、意外と毛がからまっている。さては食べこぼしだな、食いしん坊め、と思いながら強く毛を引っ張らないようにブラシをかけていると、アルが代わりますよと言ってくれた。でも、これは僕の癒しなので譲れない。アルには、予備に買っていた二本目を渡して、尻尾のほうをお願いしよう。
今日と明日は買い物の日として、明後日からどうしようか。
ダンジョンに潜るなら僕も何か武器を持つべきだとアルに言われたが、刃物などはさみか包丁かカッターナイフしか扱ったことがない。学校で使った彫刻刀も刃物になるのだろうか。どういう武器が自分に合っているのか分からない。
アルによると、ギルドの訓練場ではいろんな武器のお試しができるので、今日時間があればやってみて、僕に合う武器を選ぶことになった。
今日やることが多くなってきた。これは早めに服を買いに行ったほうがいいかもしれない。ブラッシングを切り上げて不機嫌になったブランに夜またする約束をして、さあ出かけよう。
アルの格好に集まる街中の視線を振り切って、初日に行った街着の店に入ると、店員さんは僕のことを覚えていたようで「無事ご購入されたんですね」と迎えてくれた。
ちょっとおしゃれなのと、普通のと、作業用を三着ずつ買おうとアルに伝えると、また「奴隷が……」というのでさらっと無視する。このやり取りで僕が折れないのは分かっているんだろうから、いい加減諦めて。
自分のを選ぼうと思って服を見るけど、そういえば冒険者以外の人がどんな服を着ているか、あまりちゃんと見たことがないのでよく分からないことに気づいた。ここは潔く店員さんにお任せしようとお願いすると、ぱぱぱっと候補の服を並べてくれた。この中のどれが好きか聞かれるが答えられず、二つのうちどちらが好きかにもやはり答えられずにいたら、最後はどちらの色が好きか聞かれ、さすがにそれには答えられたら、三着ずつ決まっていた。手品だ。腰から下の長さを測られ、お昼までにズボンの裾上げをしてくれることになった。
アルのほうも、もう一人の店員さんが対応してくれて決まったようで、「着替えられますか?」と店員さんが主人である僕に聞いてきた。裾上げは不要なのですぐ着替えられるそうだ。悔しい。冒険者ギルドに行くので、作業用の服に着替えさせてもらって、やっと奴隷服とはおさらばだ。
アルが着替えている間にギルドカードで支払い、日常用の靴と下着を売っている店を教えてもらい、そのお店も回って買い物を続けた。アルは自分で気に入るものを選んでいたけど、僕は最初から店員さんに全部お任せでお願いした。下着はさすがに自分で選んだけど、悩むほどバリエーションがなかったのは幸いだった。
今日は夜ご飯が豪勢な予定なので、昼は屋台で簡単に済ませて、買い物を続ける。
屋台の近くでシチュー持ち帰り用の鍋を買い、次は日用品だ。
アルは冒険者で移動に慣れてるだけあって、必要な品とそれらを入れるバッグまで素早く揃えていく。僕がこのコップ買おうかなと迷っている間に、選び終わっていたので、僕の貴重品用ダミーのバッグもアルに選んでもらうことにした。ここまでで店員さんに丸投げしていた僕を見ていたからか、候補を二つに絞ってくれたので、両方買うことに決めた。選べなかったんじゃなくて、予備が必要だからだ。もちろんコップも買いましたとも。
これで今日の買い物リスト最低ラインはクリアしたので、最初の服のお店で裾上げの終わった僕のズボンを受け取り、冒険者ギルドに向かう。いつもは緊張するギルドだけど、アルが対応してくれると思うと気が楽だ。
昼の冒険者ギルドは空いていた。アルは迷いない足取りでカウンターへ向かっていくので、どうしてか聞いたところ、ギルドはだいたい同じような配置になっているから分かるらしい。
アルは登録カウンターで、僕のギルドカードを見せながら、戦闘奴隷の登録をしたいことや、主人の希望で自分が対応していることや奴隷になる前の所属やランクなどをよどみなく伝えている。そして僕のランクアップができないかも聞いている。
戦闘奴隷が登録する際は、模擬試合などで戦闘能力を確かめて、そのランクで登録する。アルはもともとBランクだったので、Bランクのランクアップ試験を受けて合格すれば、Bランクとして登録される。
同様に冒険者も、兵士からの転職などギルドが認めた特別な場合に限って、依頼をこなした件数など条件を満たさなくても、ランクアップすることができるので、僕のFランクも、魔物の買い取りの実績で上げられないかと交渉してくれている。
上長に確認してくるという職員に、その間に魔物の買い取りを依頼するからとギルドカードを返してもらい、次のカウンターに向かうアルは、とっても有能だ。
買い取りカウンターでギルドカードを提示し、解体倉庫へと移動する通路は、僕が教えた。任せてばかりなので、少しくらいは役に立ちたい。
「本日より、主人に変わり私が対応させていただきます。あまり目立たない範囲で、買い取っていただきたい魔物がいくつかあります」
アルが魔物の種類を告げ、買い取りの数や引き取りの部位について交渉している。
僕は聞いていてもよく分からないので、邪魔にならないように倉庫の隅でブランを撫でている。ブラッシングしたからか手触りがいつもよりいいな。もふもふ。
しばらくブランの毛を撫でまわしていたら、交渉を成立させたアルに呼ばれたので、言われた魔物を言われた数だけ出した。
「では明日受け取りに来ますので、よろしくお願いします。もちろんお分かりのことと思いますが、情報は漏らさないでください」
アルの口止めを、聞いてくれるといいなあ。ギルドへの信用がマイナスの僕としては、守られる気がまったくしない。この解体担当の人は感じがいいけれど、ギルド全体がそうとは限らない。そう考えると、やはり早くこの街を離れたほうがいいのかもしれない。
登録カウンターに戻ると、明日の午前中にアルと僕のランクアップ模擬試合をすることが決まっていた。僕は戦えないので試合などできないと伝えてもらったけど、僕の試合はテイマー用の、テイマーと従魔の連携、従魔のレベルの確認になるらしい。
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