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2章アルとの出会い(過去編)

2-1. カージの街に到着

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 アルとパーティーを組む三年前――



 昼前にソント王国の街カージに到着した。この街で戦闘奴隷を購入する予定だ。

「そのウルフは君の従魔か。街中で人に危害を加えたら君の責任になる。しっかり管理するように」

 列に並び、順番が来たので街門の兵士に冒険者のギルドカードを見せ、街へと入るときは必ず受ける注意を聞き、門をくぐった。街並みは衛生的な中世ヨーロッパといった雰囲気だ。

 僕はある日突然、この世界に迷い込んだ。
 何の前触れもなく、気がついたら足元がアスファルトではなく土の舗装されていない道で、遠くに森が見える草原だった。近所のコンビニへ行こうとお財布を片手に歩いていたのにだ。
 そこからまあいろいろあって冒険者となり、従魔のフリをしてくれている神獣のブランと一緒にこのカージの街を目指して歩いてきた。目的は戦闘奴隷を購入するためである。

 ソント王国は三大大国のひとつで繁栄している。カージは王都ノキオの隣にあり、上級ダンジョン「カルマク」に潜る冒険者のためにできた街である。そして戦闘奴隷の多くがこの街に集められる。
 隣国ノーホーク国のオモリで戦闘奴隷を購入することを決めたが、そこでは条件に見合う人を見つけられなかったので、戦闘奴隷の多く集まるカージを目指してきた。

 この世界にはダンジョンがある。
 地下の複数の階層からなり、常時モンスターが湧いていて、そのモンスターを倒すと光となりドロップ品を落とす。次の階層に行くためにはその部屋のモンスターを倒さなければならないボス部屋と呼ばれる部屋が途中階にある。最後の階層のボスを倒すと、ダンジョンを攻略したこととなり、入り口へと転送される。
 珍しいドロップ品による一攫千金を夢見てダンジョンに挑戦したり、森や場合によっては街に出る魔物を狩ったりする、戦闘系の何でも屋を冒険者といい、冒険者ギルドはその冒険者をまとめている組織である。国からは一応独立した組織であり、国を越えてギルド間では連携している。同じような組織として、商業ギルド、薬師ギルドなどもある。
 ダンジョンは冒険者ギルドによってざっくりと初級、中級、上級とランク付けされており、冒険者のランクによっては入れないように制限がかけられているところもある。

「まずは冒険者ギルドに行って、今日の宿をとろう。森で狩った魔物が高く売れるといいんだけど」

 隣を歩く白いオオカミに話しかける、端から見るとちょっと怪しい人になっているが、従魔を持つテイマー職ならそういうこともあるので、白い目では見られない。
 冒険者っぽい服装の人たちが向かう方向に進むと、剣と盾のマークが掲げられた建物が目に入った。剣と盾は世界共通の冒険者ギルドのマークで、文字が読めなくても分かるようになっている。
 建物内に入ると、夕方の混雑時間にはまだ早いため空いているが、ブランを連れているからか視線が集まったのを感じた。

「いらっしゃいませ。買い取りでよろしいでしょうか?」

 買い取りカウンターに進むと、大きな荷物をもっていないためか、怪訝そうに確認されてしまった。
 ここに来るまでに森の中で狩った魔物を買い取ってほしいが、ここに出すには大きいことを伝えると、解体倉庫に案内された。少し血生臭い空気の倉庫に入ると、職員に魔物を出す場所を指定されたので、大き目の肩掛けバッグから取り出すように見せかけて、アイテムボックスから魔物を取り出した。
 ウサギっぽいのとか、ウシっぽいのとか、ヘビっぽいのとか。全てブランが狩った魔物である。それを見て、どこで魔物を狩ったのか尋ねられたけど、僕はこの世界の地理を知らないので、ノーホークから来る途中の森の中としか答えられない。

「ということは、兄さんのマジックバッグは容量が大きいうえに時間停止か」
「え……?」

 なんでバレそうになっているのか分からず焦る僕を見て、職員が教えてくれた。ヘビっぽいのはこの辺りには出ないのに昨日狩ったような状態だから、時間停止機能があると分かるというのだ。迂闊だったが、アイテムボックスとはバレていないので、まだ良いと思うことにしよう。バレていないよね?
 守られるかは分からないが、内密にしてもらえるようお願いをした。

「この量はすぐには解体できない。今日中にやっておくから明日の朝以降に取りに来てくれ。解体料は査定金額より引く。あと、引き取りたいものはあるか?」

 ウシっぽいのとヘビっぽいのの肉は美味しいらしいので、引き取りを希望すると、明日肉の引き取りと買い取りの精算をすることになった。ブランの要望で、美味しいお肉は全て引き取るけど、僕では料理できないので、宿でお願いしてみよう。

 まずは一番の用事である買い取りが終わったので、カウンターに戻って従魔と一緒に泊まれる宿と奴隷商会の場所を教えてもらおう。大型犬の大きさのブランを部屋に入れてくれる宿は少ない。でも僕はブランと離れていたくない。

「宿は少し高くなりますが『オウルの止まり木』という宿が従魔も同じ部屋に泊まることができます。宿の主人がテイマーです。それから、奴隷の購入ですが紹介状はお持ちですか?」

 ノーホーク国のオモリのギルドマスターから紹介状をもらっていることを告げると、奴隷商会の場所を教えてくれた。紹介状は当日商会で見せればよいが、奴隷商会にはそれなりの格好で行かなければ入れてもらえないそうだ。オモリでは服装など気にしなかったけれど、そのときは有名なSランクパーティーに連れていってもらったので、特別だったようだ。身なりも整えられない人に売れないのは当然か。
 まずは宿を取って、それから服を買いにいこう。


 『オウルの止まり木』は冒険者ギルドから十五分くらい歩いたところにあった。建物は大きくないが、庭を広く取ってある、清潔な宿のようだ。
 奴隷購入がどうなるかわからないのでとりあえず二泊お願いすると、ちょうど大きめの従魔と泊まれる一人部屋が空いていた。部屋は二階でベッドはひとつ、空きスペースが広くなっていてブランが寝転がることができる。見せてもらって気に入ったので、部屋をお願いした。
 一階は食堂で、僕の朝食は料金に含まれている。従魔の食事も必要か聞かれたので、同じものをもう一人前頼んでおこう。従魔によって人と同じものを食べたり専用の餌を食べたりそれぞれだけど、ブランは人と同じ食事が好きだ。

 屋台で昼食を軽く食べた後、宿で聞いた街着の店を探すと、あまり歩かずに見つけることができた。ブランには入り口で待っていてもらう。肩に乗るような従魔でない限り、店には連れて入らないのが暗黙のルールなのだそうだ。ちなみに冒険者ギルドで登録時にもらう従魔の証のプレートをつけているものに無断で手出しをすると犯罪になるので、よほど希少な従魔でなければ目を離しても安全だ。
 店の中に入ると、作業服っぽいのからおしゃれな服まで置いてあったが、奴隷購入にはどの服なら問題ないのか分からないので、店員さんに聞いてみよう。

「奴隷を購入なさるのでしたら、仕立てられたほうがよろしいかと。ここでは行っていないので、紹介します」

 奴隷の購入に街着ではダメらしい。服を仕立てられるステータスも必要なのか。ハードルが高くてすでに挫けそうだ。

 街着のお店に紹介してもらった仕立ての店は、高級感が漂っていて入りづらかったが、勇気を出して入ると、執事のような店員さんがとても丁寧に接客してくれた。

「いらっしゃいませ。当店は服の仕立てを行っております。本日はどのような服をお求めでしょうか」

 欲しい服を説明し、紹介状を持っていることも一言添えておく。旅のままの服装で来たため、場違い感が酷いのだ。といってもこの店に入れるような服は、そもそも持っていない。

「でしたら、シャツとジャケット、ズボンをお仕立てになるとよろしいでしょう。お客様は冒険者のようですから、タイは不要でしょう」

 門前払いされることもなく、仕立ててもらえそうで安心した。
 担当者のところに案内され、全身の採寸をされてから、生地を選ぶように見せられたが、よく分からない。冒険者なのを考慮してくれて、高価なものは勧められなかったので、生地はお任せで色味は無難なものを、とお願いした。こちらの世界での普通がどのようなものか分からないから、選びようがない。
 金額は思っていたほどは高くなかったが、それでもさっきの街着の服に比べれば五倍以上する。必要経費と思って払うしかないが、奴隷購入にどれくらいかかるか分からないので、大きな出費は痛い。現在の所持金でCランク相当の冒険者なら余裕で買えるとは聞いているが、不安はある。

「明日の午前中には仕上がります。正午以降にこの引換証を持って、お受け取りにいらしてください」

 翌日に服ができるなんて、やっぱり裁縫も魔法があるんだろうか。分からないことだらけだ。
 丁寧なお辞儀で店を送り出され、店の入り口脇で丸くなって寝ていたブランを起こして、屋台が出ている広場へと戻った。採寸やらデザイン選びでなんだかんだと時間が過ぎたようで、もう陽が落ちてきている。どれくらいで終わるか分からなかったので、宿の夕食は頼まなかったが正解だったようだ。

「ブラン、待たせてごめんね。お腹が空いたから、屋台で何か買って宿で食べよう」
『(串焼きがよい)』

 人がいるところでは、ブランは声に出さずに念話で伝えてくる。
 念話が聞こえるということは、念話を返せるはずなのだが、僕はできない。魔力を使ってなんとかかんとかしたら、なんとかになるらしいのだが、そもそも魔力になじみがない僕にはブランの説明が理解できなかった。
 スキルは、魔力など意識しなくても使える便利機能だ。アイテムボックスも、原理は分からないが使えている。

 ブランの要望で今夜の夕食が決まったので、屋台で肉の串焼きとパンを買って、宿に帰った。
 部屋で夕食を食べ、身体を拭いたら、やることもないので早々に寝る準備だ。
 この世界、僕が知る範囲では、お風呂は貴族でも毎日は入らないほどの贅沢品である。お風呂好き日本出身者にはつらい。
 久しぶりの屋根の下で眠れるとあって気が抜けたのか、寝るにはいつもより早い時間なのに瞼が落ちてくる。

「ブラン、明日はいい人が見つかるといいね」

 階下から食堂で話す人たちの声が聞こえる中、僕の意識は眠りに落ちていった。
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