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1章 アルとの転機

1-9. 合同ダンジョン攻略

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 シリウスのみんなと中級ダンジョン攻略の初日だ。
 Sランクのパーティーは『ドライジン』で六人、Aランクのパーティーは『道草』で四人だ。
 出発前に、みんなの荷物もアイテムボックスに預かろうとしたけど断られてしまった。

「もし、何らかの理由で君とはぐれたら困るからね。装備は自分で持っているよ」
「食料を持ってもらえるだけで、ずいぶん楽なんだ。ありがとな」

 ダンジョン攻略で一番の荷物は、食料と水だ。
 全行程の水を持ち運ぶのは無理なので、水を生み出す魔道具を買う。魔道具では一定量までしか水を出せないので予備も必要だ。飲める水を水魔法で出せる人は重宝される。
 食料は、少しでも軽くするため、携帯食と呼ばれるカンパンみたいなものと干し肉の組み合わせが多い。それでも、行き返りに少し余裕を持たせて食料を用意すると、かなりの重さになる。
 重い荷物を持っての戦闘は大変だし、モンスターに遭遇するたびにいちいち荷物を降ろしてもいられない。また、ドロップ品を拾えばその分荷物が増える。
 そのため、高ランクのパーティーが下層を攻略するときは、荷物持ちを雇って食料と水、ドロップ品を運んでもらうことが多い。その場合でも、最低限の食料と水は自分で持っているそうだ。

 僕たちはいつも全ての荷物をアイテムボックス内に入れて、武器と防具くらいしか身に着けていない。「はぐれたら、アルが死んじゃう?」と呟いたら、ブランが念話で「そんな状況にはならないし、はぐれても見つけてやるから安心しろ」と答えてくれた。いざとなったらダンジョンなど吹き飛ばすと言っていたけど、多分本当にできるんだろうなあ。

 僕のアイテムボックスがあるのに、同行者のご飯が携帯食などありえない。携帯食の人たちの前で普通のご飯を食べられるほど、僕は鋼のメンタルじゃないんだ。
 ドライジンと道草への報酬は、ドロップ品全部ではもらいすぎだと言われたこともあって、ダンジョン内での食事を僕たちが用意することに落ち着いた。ダンジョン内で温かい食事ができるのは、かなりの報酬になるらしい。
 ということで、昨日はシリウスのみんなとお店巡りをして、全員のダンジョンでのご飯を買って回った。日々のメニューはシリウスが考えてくれて、メニューに沿って買い出しをした。シリウスは、荷物持ちという設定なので、本来なら二パーティーの食料の運搬も彼らの担当になる。今回は僕のアイテムボックスに入れちゃうけど、僕たちも含めて合計十五人分の食料は、かなりの量だ。そこにブランの鼻が厳選したお肉も大量に買うので、匂いだけでお腹いっぱいになった。

「すごい買い方してたよな。アイテムボックスすげえ」
「中身の半分は、ブランのお肉だよ。ブランが狩った魔物とかドロップ品のお金だし」
「時間停止してると保存期間とか考えなくていいのか」
「時間停止のマジックバッグほしいな」
「いや、おまえら、普通はそんな使い方しないからな。マジックバッグだって容量は限られてるから」
「ユウは、食事と風呂は妥協しないからな」
「食事に妥協しないのはブランだよ。お風呂は僕だけど」

 マジックバッグをたくさん持っているパーティーならそういう使い方もあるかもしれないが、そこまでダンジョン内での食事にはこだわらないらしい。通常は、時間経過で魔物の素材やドロップ品が傷まないように使われるそうだ。確かに、遠くで狩った魔物を解体に出して、時間停止のマジックバッグを持っていると思われたことがあった。
 ドライジンもパーティーで一つマジックバッグを持っているが、ドロップ品を入れるのに使っているので、食料を入れたりはしないそうだ。

 ダンジョンの上層では、僕の弓の実践訓練だ。
 ドロップ品で、クロスボウのような形をした、力を必要としない弓を手に入れてから、僕の武器は弓に変わった。矢はアイテムボックスに入れておけばすぐに出すことができるので、僕にぴったりの武器だ。モンスターに接近しなくていいし。
 僕一人で戦えそうなモンスターがいると、ブランとアルが横やりが入らないようにお膳立てしてくれて、そこで僕は一対一で戦う。

「あっ」

 僕の矢をかわしたモンスターの突撃を避けようとして尻餅をついたところで、モンスターが光になって消えた。ブランが氷の矢を飛ばして倒してくれたみたいだ。アルが手を引いて起こして、怪我を確認してくれるから、「大丈夫だよ」と答えながら周りを見たら、ドライジンのメンバーがこちらを温かい目で見ていた。小さい子が一生懸命頑張ってて微笑ましいなあって感じの目だ。悔しい。
 シリウスは、離れたところで連携の確認をしていて、道草のメンバーがアドバイスをしているのが見える。一緒に初心者講習を受けた仲なのに、差を感じて心が折れそうになる。でも、弱気になっちゃダメだよね。頑張って訓練すれば、少しずつでも上達するはずだ。「もうちょっと頑張る」と言うと、ブランがまたモンスターを一匹連れてきてくれた。


「ここから先は、ユウは戦闘には参加しない。ブランがユウの護衛だ」

 中層に差し掛かる辺りで、アルが僕をブランに乗せて、戦力外通告をした。みんなが納得という顔をしているのが、悔しい。

 ダンジョンには大まかに適正ランクがある。
 上級ダンジョンの下層はSランク、中層はAランク、上層はBランクが適正だ。中級ダンジョンの場合は、下層はAランク、中層はBランク、上層がCランクだ。
 メンバー構成やモンスターとの相性などもあるし、一言に中層と言っても上層に近い部分と下層に近い部分ではモンスターの強さは全く異なるので、ざっくりとした目安だ。

 道草によると、シリウスは、慎重に進んでいるから中層の途中までしか挑戦していないが、下層の手前までは進める実力を持っているそうだ。その辺りまでは、僕とブランを除いて、通常の合同パーティーでの攻略として進んでいくことになった。アルはシリウスのサポートに入っているが、アルの手を借りなくても彼らは危なげなくモンスターを倒している。初心者講習のころとは全く動きが違う。
 僕はブランに守られて見学、兼、ドロップ品集めだ。ドロップ品は倒したパーティーのものなので、それぞれパーティーごとに大きな袋を用意して入れたものを、僕がアイテムボックスに預かる。

 下層に近い辺りまで潜ると、セーフティーエリアは空いてくる。
 ここなら他の冒険者の迷惑にならないので、マットを敷いてシリウスのみんなと買った食べ物や食器を広げよう。
 シリウス監修のメニューは、人が多い上層ではサンドイッチや串焼きなど片手で食べられるようなもの、人が少なるくなる中層の下層寄りからは食器が必要なもの、とよく考えられている。さすがにお酒はダメだろうということで、飲み物は樽に入った水、ブラン作の氷入りだ。

「まさかこんなところでシチューが食べられるとはな」
「水も冷えてるとうまいな」
「酒が飲みてえ」

 食べ物の周りに輪になって座り、今日の反省や、全然関係ない雑談をしながらの食事だ。僕たちにとってはいつも、他の冒険者にとっては特別な、温かい料理を楽しんだ。

 食事が終わってもそのまま話し続ける人もいれば、武器の手入れをしたり、テントで早めに休む人もいる。
 シリウスの三人は疲労をためないように早めに休んだので、僕はテントに入って、ブランにもたれかかりながら魔力操作訓練だ。少しだけできるようになってきたので、前よりはやる気が出る。まずは、クリーンの魔法が使えるようになりたい。
 アルは他の冒険者と情報交換しているので、水の樽だけは残してある。まだまだアイテムボックスに入っているから、今出しているものは終わらせても構わないので、情報の対価に振舞っている。

「ブラン、全然出番がなくてごめんね」
『問題ない。この辺りのモンスターはつまらん』

 ブランの相手にはならないもんね。ブランのご機嫌を取るためという理由をつけて、あまり上手くできない魔力操作の訓練は早々に切り上げて、ブラッシングをしていたらアルが戻ってきた。言葉を交わし、お休みの挨拶をして、眠った。


 それは、不運が重なっただけだった。

 下層に入り、シリウスの三人だけではモンスターに苦戦するようになったので、アルとドライジンの魔法使いを加えた即席パーティーを作って戦闘していた。進むうちにモンスターの集団にあたってしまい、三つのパーティーとモンスターの混戦となったが、その最中に、僕から一番遠いところで戦っていたキリシュくんがモンスターの攻撃に当たって大きく飛ばされてしまった。獣人の高い身体能力で何とか着地したが、たまたまそこに別のところでモンスターに遭遇して叶わないと判断し、逃げていたパーティーが駆け込んできたため、キリシュくんも巻き込まれてしまった。そして、そのパーティーがそのまま逃げたため、追いかけてきたモンスターにキリシュくんが狙われてしまっている。

「キリシュくん!」

 一番近くにいるアルたちは、もともと戦闘していたモンスターがいるため助けに行けない。抜けるとシリウスの他の二人が危ない。他のメンバーが間にいるので、ここからブランの魔法で倒すのも無理だ。

『(ここにいろ)』

 僕の隣にいたブランが跳んで助けに入り、キリシュくんのところに着いたと同時にモンスターは光になって消えてきた。
 ほっと安心したところに、僕のほうを見てアルが叫んだ。

「ユウ! 目を閉じろ! 見るな!」
「え?」

 すぐ後ろでバチッという音がしたので、振りむくと冒険者が三人倒れていた。手や足から血が出ている。

『(見るなと言われただろう)』

 ブランが身体をすり付けてきたので、とりあえず首に抱き着いたけど、いま、何が起きたの?
 アルも走ってきて、「大丈夫か?」と聞いてくれるけど、そもそも僕には何も起きてない。それより、アルたちが戦っていたモンスターは、と見るも、集団でいたモンスターはすでに一匹もいなかった。

 しばらくして戻ってきたドライジンのリーダーは、キリシュくんにモンスターを押し付けたパーティーを連れてきていた。キリシュくんも一緒に戻ってきたけど、ぱっと見た限りでは怪我はなさそうだ。

「キリシュくん、大丈夫? ポーションあるよ?」
「飛ばされただけだから大丈夫。ユウくんは? 狙われていただろう?」
「狙われたの、かなあ? 僕もよく分からない」
「とりあえずセーフティーエリアに行くか」

 結局何が起きたのか僕には分からないまま、ドライジンのリーダーの言葉で移動を開始した。
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