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完結記念 もふもふ増量キャンペーン

もふもふ-1. 子犬1日目

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 「世界を越えてもその手は」をお読みいただきありがとうございました。
 完結記念に、もふもふを増量します。タイトルのまんま、全4話+おまけです。裏話もあります。
 裏話はメニュー下のリンクから飛んでください。
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 それはいつもと変わらないダンジョン攻略のはずだった。僕がうっかり宝箱を開けるまでは。

 ダンジョンへの復帰を目指して、アルと獣道のダンジョン攻略に同行していた時だった。
 いつものように倒されたボスが光となり、たまたま僕の近くで宝箱を形作ったので、いつものように宝箱を開けようとした。

『ユウ、待て!』
「え?」

 ブランが慌てて僕を止めたけど、すでに箱を開けようと動いていた僕の反射神経では間に合わず、開けてしまった。
 ボン!と音がして、僕は煙に包まれた。

 何があったのか、ブランに聞こうと思って振り返ったら、ブランがいつものシルバーウルフに擬態している大きさではなく、本性に近い大きさになっている。何があったの?

『ユウ、悪い。気づくのが遅れた』
「ユウ?ユウだよな?大丈夫か?」

 あれ、アルも巨人になっている。宝箱も大きい。獣道の4人が寄ってきたけど、巨体に覗き込まれるとちょっと怖い。
 みんなが大きくなったんじゃなくて、僕が小さくなったんだ。
 怖くてブランの足に隠れようと思ったけど、上手く立ち上がれない。

「くーん、きゅーん」

 何が起きたの?と聞いたはずが僕から出たのは、子犬のような鳴き声だった。

 もしかして、と自分の手を見てみると、白いふさふさの毛におおわれている。これはもしかして犬?ブランの子犬バージョンに似てない?

「ユウ、子犬になっている。大丈夫か?痛いところとかないか?」
『安心しろ。しばらくたてば戻る。宝箱に呪いの罠がかかっていたんだ』
「きゅん……あうあうっ」

 アルが抱き上げてくれたけど、高さが怖い。ここから落ちたら助かる気がしない。怖くてアルにしがみついていたら、ブランがアルに降ろすように言ってくれた。
 地面に置かれた僕の毛をブランが舐めてくれると、安心して震えが止まった。
 怖かったよう、高いところ怖いよう、とブランの足にしがみついたら、胸の下に抱き込んで、頭のてっぺん、耳の間を舐めてくれた。背中に感じるブランの毛の安心感がすごい。
 大丈夫。ブランとアルがいるから大丈夫。

「なあ、スキルは使えるのか?」
「どうだろう。試してみるか」

 宝箱の中に入っていたドロップ品をガリドラさんが僕の目の前に置いてくれたので、試しに前足て触ってアイテムボックスに収納と思うとちゃんとできた。取り出すこともできる。
 とりあえず地上に戻ろうとなったが、アルに抱き上げられるのは怖い。必死でブランの足にしがみついていたら、ブランが首の後ろを咥えて運んでくれることになった。

 転移陣に乗って地上に戻ると、ダンジョン入り口のギルド職員が近づいてきた。

「攻略お疲れ様です。あれ?テイマーさんは?」
「この後ギルドで報告するが、最下層の宝箱に呪いがかかっていて、子犬になった」
「ええっ?」
「きゃんきゃん!」

 なんで僕のうっかりを言っちゃうの!
 アルに怒ったけれど、ちゃんと伝えておかないと同じように最下層で呪いにかかる冒険者がいては困るから、というまっとうな理由を説明してくれた。僕のように不用意に宝箱に触る人が出ないように、周知は必要だ。かなり恥ずかしいけど。

 ダンジョンから王都まではそれなりに距離がある。ずっとブランに運んでもらうと僕が疲れてしまうだろうということで、アルに抱きかかえられてブランに乗ることになった。ブランの背中のすぐ上だけど、落ちて怪我をしないようにとアルが毛布で包んで抱きかかえてくれているので、怖くない。
 僕たちを乗せたブランと獣道で街道を行く。ブランの歩みに合わせて少し揺れるのが心地よくて、気付くと眠っていた。


「従魔とそっくりですね。確かにあのダンジョンには、宝箱の罠で動物に変えられることが、過去にもあったようですね」
「どれくらいの期間で戻ったかの記録は?」
「最短で10日、最長で2か月のようです」

 声がするなあと思って起きたら、ブランのお腹に抱きかかえられていた。これはギルドマスターさんの声だ。ギルドで寝てしまったのかと思って起きようとしたら、転んだ。

「きゃん!」
『(大丈夫か?)』
「ユウ、起きたのか?ブランのお腹につまづいたのか?」
「子犬になってもどんくさいのは変わらないんだね」

 そうだった。僕は今子犬になっているんだった。それを忘れて2本足で立ち上がろうとしたので転んだらしい。
 オラジェさん、自分でも分かっているので、そんなにはっきり言わないでください。
 アルが落ち着けというふうに撫でてくれる手が気持ちいい。思わずもうちょっと首の後ろを撫でてほしいなあと手にすり寄っていたら、笑われてしまった。

 ギルドマスターさんが調べてくれたが、過去にも同じようなことが3年に1度くらいあって、一番長い人でも2か月で元に戻ったそうだ。過去の例からすると本人の一番嫌いな動物に変えられるらしいので呪いって感じがする。でも僕はむしろ好きな動物になっている。

「従魔契約があると、それに影響されるのかもしれませんね。ところでユウさん、今あふれが起きた場合、どうされますか?」
「あうわう」
「行くと言っています」

 行くよ。犬になってるけど、アイテムボックスは使えるのだ。物資の輸送には特に困らないだろう。
 僕が何を言っているかブランは理解できるみたいで、アルに通訳してくれるし、これなら戻るまで何とかなるかな。

 あふれの対応のためにも記録のためにも、僕がもとに戻ったら連絡するということで、ギルドを後にした。
 アルは僕が元に戻るまでそばにいてくれるので、しばらく獣道とは別行動することになった。


 中央教会に戻ると、ブランに咥えられた僕を見て、出迎えたサジェルが驚いている。サジェルのポーカーフェースが崩れたところなんて、とても貴重だ。
 アルがサジェルに、僕がダンジョンの呪いで子犬になってしまったことを説明している。

「お風呂はどうされますか?」
「きゃふっ!」

 もちろん入りますとも。ダンジョンから帰ってきたらまずはお風呂。これは譲れない。
 ブランに降ろしてもらってお風呂のドアをカリカリしていると、サジェルが開けてくれたので、お風呂場へ飛び込んだ。服を脱がなくていいのだから、このまま行けるのだ。
 アルが服を脱ぐのを待つ間、尻尾が勝手にぶんぶん振れてしまう。キリシュくんが美味しいものを食べているときに尻尾がゆらゆらするのはこんな気分なのかな。

 アルに身体を洗ってもらってから、お風呂へ入れてもらったけど、サイコーだ!
 ここの広いお風呂も、さすがに人が泳げるほど深くはない。というかそんなに深いと僕はきっとひとりでお風呂に入れてもらえない。でも子犬には十分に深いので、泳げる。カイカイと犬かきをして泳ぎ回る僕を見て、アルが笑っている。

「ブランの影響を受けているのに、お風呂は嫌いじゃないんだな」
「きゃう!」

 ブランは氷の神獣だしお風呂が好きじゃないので、その影響で熱くて入っていられないようなことにならなくて、本当に良かった。
 泳ぎ疲れた僕をアルが膝に乗せてくれるので、そこで十分に温まってから上がった。

 タオルドライの後、アルの風魔法で豪快にドライヤーをかけられて毛が渇いたところで、サジェルが手櫛で毛を整えてくれるので、ブランに使っているブラシを渡した。
 優しく丁寧にブラッシングされると気持ちいい。いつもブランはブラッシングされているとき、こんな感じなのかな。人に戻ったらブランにいっぱいブラッシングをしよう。

 毛が綺麗に整ったところで部屋に戻されたので、ブランに突撃だ。行くぞ、毛玉ロケット!

『落ち着け』
「そうしていると親子のようだな」
「きゃん!」

 ブランお父さん、お腹に抱き込まれた時の安心感が半端ない。アルも落ち着くけど、ブランは全身が守られている感じがする。
 と思ったらそれはブランの神気を感じているかららしい。おそらく身体が動物になったので、感覚が鋭くなっているのだろう。部屋の外で歩いている人の足音が聞こえる。
 ブランの近くに動物が寄ってくるのはこの感覚が心地よいのだと思うと納得だ。

 今の小さな僕から見ると、ブランは公園にある登って遊ぶ遊具のようだ。ブランの身体をよじよじと登って、滑り台のようにして平らなところを滑り降りる。つやつやふさふさの毛が滑りやすくて、登るのは大変だけど、滑り降りるのは楽しい。
 しばらくその遊びに熱中していて気付くと、部屋に大司教様とチルダム司教様がいて、僕たちを見てニコニコ笑っていた。

「本当に、マーナガルム様が子犬に擬態されているときとそっくりですね」
「ユウさんは精神が身体に引っ張られている感じもしますね」

 え、そうかな。確かにこんなに滑り台に夢中になるなんて、子どもに戻っている気もする。
 と我に返ったところで、ブランの上にいた僕はひっくり返って落ちてしまった。

「きゃん!」
『お前は何をやっているんだ』

 ブランが、転がり落ちた僕の首の後ろを咥えて、アルの膝まで運んでくれた。そして、僕が落ちても大丈夫なように、アルの足元を囲うように寝転がってくれた。
 アルのお腹にすり寄ると撫でてくれたので、嬉しくてへそ天になってしまう。お腹を撫でられるとくすぐったいけど気持ちいい。

「しかし、なぜユウさんは子犬なのでしょう。過去の記録を見ると年相応の動物になるようですが」
『ユウの体力が子犬並みにしかないからだろう』
「嫌いな動物ではなく子犬なのはマーナガルム様の影響ですか?」
『だろうな』
「ということは、子犬ではなく、子狼なのですね」
「ぎゃおっ!」

 狼ならかっこよく鳴いてみようと思ったけど、上手く鳴けなかった。
 可愛いなとアルが首の下をこちょこちょしてくれるので、その手に身を任せていたけれど、なんだか眠い思ったところまでしか記憶がなく、そのまま眠ってしまったらしい。
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