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最終章 手を携えて未来へ
10-15. ダンジョン復帰への準備
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アルは獣道と一緒に王都周辺のダンジョン攻略、僕は付与と教会のお手伝いを続けて、季節は秋の終わりへと差し掛かった。
1日の付与の数も少しずつ増やして、今は午前中は付与にあてている。
冒険者ギルドからの要望で、テントだけでなくブーツも商品に加わった。足元は重要だよね、いろいろな意味で。
あれ以来アルが狙われることはない。隠されると不安になるから本当のことを教えてほしいと何度も聞いているけど、特にないということなので、本当にないんだろう。ギルドから高ランクに対して、アルが襲撃されることがないよう不審な者がいないか気にしておいてほしいと要請が出ていることを、獣道が教えてくれた。
カークトゥルスに潜るなら、そろそろ準備を始めなければならない。
僕はダンジョンに潜っても平気なのか確認するために、春に襲撃されて以来初めて、ダンジョンの入り口に来ている。
「アル、手を繋いでて」
「おいで」
ダンジョンで剣士の手を塞ぐのは本当は良くないけれど、あの時ダンジョンの土の上にアルが倒れた場面を思い出して不安になる。
そんな僕のためにアルが、右手に魔剣を持って左手を僕に差し出してくれたので、その手を両手でつかんだ。ブランは僕の足にピタリとくっついていて、その周りを獣道のみんなが取り囲んでくれている。
大丈夫、もうあんなことは起きない。次は躊躇せず全員倒すと、ブランが約束してくれた。
ダンジョンに一歩足を踏み入れると、空気が変わる。
じめっとした地下室のようだったり、カラッとした冬の朝のようだったり、変わり方は場所によるけれど、そこからは外の世界とは異なるのだと分かるのだ。連続しているのに、連続していない、不思議な空間に入ったと分かる。
最初は驚いていたけれど、最近では慣れてしまって気にもしなかった。あのウルバのダンジョンはどんな空気だったか、記憶にない。
「ユウ、大丈夫か?」
「うん」
「アレックスの手を離せるか?」
「……うん」
なんとか手を離した僕を、アルがブランの上に乗せてくれた。
ブランにひとりで乗って移動するのも久しぶりのために、ふらふらして安定しない僕を、ガリドラさんが横から支えてくれる。心優しき無口な熊さんは、気配りも出来る。
少し進んで、アルが戦闘をしているのを見ても、大丈夫だったので、そのまま下層に向けて進んだ。
問題だったのは戦闘ではなくて、知らない冒険者が近づいてくることだった。
違うのだと、あの襲撃者たちではないのだと分かっていても身構えてしまう。そして身構えた自分に驚く。
冒険者ギルドは室内だったし、屋外で誰かとすれ違ったりしたのは教会の敷地内だけだったので、平気だと思っていた。
「カークトゥルスは下層ならあまり冒険者に会うこともないと思うが、どうする?」
「行く」
「ユウ、来年でもいいんだぞ。無理してないか?」
「行く。大丈夫」
僕は冒険者なのだから、ダンジョン攻略が本業だ。アルとブランと一緒にダンジョンに潜るのが、本来の日常なのだ。
人が多いダンジョンはまだ無理だろうけど、下層ではほとんど人に会わないカークトゥルスなら大丈夫だろう。
攻略報告の後、ギルドマスターに僕もカークトゥルスに行くことを告げた。
ブランが無理そうなら帰ると言っているから、ダメなら強制送還されてしまうのだろうな。
カークトゥルスに潜ると決めたので、準備を始める。といっても必要なのは食料で、準備するのは僕じゃない。
なんと、カザナラの料理長が来て、ブランのお気に入りの料理をたくさん作ってくれたのだ。お鍋いっぱいに作られたシチューや、山盛りに焼かれたお肉を収納していく。横でヨダレを垂らさんばかりに凝視しているブランがいるので、急がなければ。
ブランのお気に入りの屋台の料理は、ツェルト助祭様たちが買ってきてくれたのを収納してある。焼きたてのパンも教会に届けられ、みずみずしい果物と野菜は、全てすぐ食べられるようにカットされていた。
ドガイの中央教会からモクリークへ戻ってくるときに大量に持たせてもらったブランお気に入りのチーズもある。
僕がしたのは、ただ並べられたものを収納しただけだ。そしてそれらは全てブランへの捧げものなので、料金は受け取ってもらえなかった。ドガイでしたように、聖堂の天井にクリーンの付与をしても、返せる気が全くしないくらいのものをもらっている。
アルは獣道と一緒にダンジョンに行っている。帰ってきたら、一緒にカークトゥルスに向けて出発なので、僕は孤児院のお手伝いはしばらくお休みすることになって、付与だけをしている。ダンジョン内でも付与ができるように、出来上がった付与待ちのテントと靴も収納済みだ。
そろそろアルたちが帰ってくるころ、孤児院での補習授業以外は僕の担当になったらしいツェルト助祭様が、僕にお客さんだと告げに来た。
「ユウくん、元気そうで良かったよ」
「カリラスさん!シリウスのみんなも、どうしてここに?」
「俺はチーズの運搬中。教会の前で彼らに会ってね」
「俺たちは獣道に呼ばれたんだよ。カークトゥルスに行くユウくんのお供」
僕がカークトゥルスに行くと決めてすぐ、獣道がギルド経由でシリウスに連絡してくれていたらしい。荷物持ちではなく魔石拾い係として同行してくれるそうだ。
王都についてギルドに行ったら、ダンジョンに潜ってるから先に着いたら僕の相手をしててほしいと、獣道からの伝言が残されていたために、ここに来てくれた。
カリラスさんは、王都にはチーズの販売と魔石の買取に来たところ、中央教会前でシリウスとばったり会って、一緒に僕のところまで案内されて来た。魔石の運搬は教会の事業の一環での移動なので、護衛の冒険者も一緒に教会の宿泊施設を利用しているそうだ。
「アルは多分数日以内に帰ってくると思うんですけど、時間ありますか?帰ってきたらカークトゥルスに行くので、春までは会えなくなります」
「帰ってくるの待ってるよ」
これでやっとアルとカリラスさんが会える。僕たちがドガイにいるときはカリラスさんがモクリークにいたようで、あの襲撃以来タイミングが合わず、すれ違っていたのだ。教会からグザビエ司教様経由で無事は伝えられていたようだけど、カリラスさんも心配してくれていたみたいだし、アルが帰ってきたらサプライズだ。
「ユウくんはダンジョン潜るのはもう大丈夫なの?」
「知らない冒険者が近づいてくるのは怖いんですけど、カークトゥルスは人が少ないので多分大丈夫です」
「マジックバッグがドロップするのに人が少ないの?」
「上層は混んでますけど、下層ではまず人に会いません。階層が多い上にフロアボスが強いので、中層までで引き返しちゃうみたいです」
シリウスのみんなも興味津々で聞いている。そういえば、カークトゥルスの話はあまりしたことがなかったかも。
階層がいくつあるのか、どんなモンスターが出るのか、僕の知っていることを話したけど、僕がモンスターの強さがよく分かっていないことは彼らも理解していて、そこはあまり聞かれなかった。
「じゃあ、複数パーティー推奨だけど、複数で行くことはあまりないんだ」
「ボスからはマジックバッグ1つと決まっているので、複数で行くと揉めちゃうみたいです。2周して同じものじゃなかった場合とか」
「あー、ドガイでもあったわ。事前に決めてても揉めるときは揉める。ましてやマジックバッグじゃな」
まあそうだよね。僕たちは容量特大を出して、もう1個欲しいと思ってさらに3周して手に入れられたけど、あれはブランに乗って走り抜けたからできたことだ。しかも何回に1回出るかもわからないから、何周すればいいかも事前にはわからない。揉めるだろうなあ。
「その、獣道ってパーティーとは分配はどうしてるんだ?」
「僕たちはマジックバッグは必要な分持っているので、僕たちが欲しい魔石と、獣道が欲しいマジックバッグは買取金額の半分をお互いに払って精算することになってたんですけど、いろいろあって今は全部僕たちの物です」
「いろいろって……何?聞いてもいいなら教えて」
「魔石は僕たちがご飯を用意するのと相殺で、マジックバッグは魔剣の対価です。ブランがいないと魔剣がドロップしないので、ゾヤラのブロキオン4周に付き合いました」
もう思い出したくないブロキオン4周。ブランが上機嫌でヒャッハーしていたブロキオン4周。僕の大変だったという顔に、シリウスのみんなが笑っている。彼らが付き合ってくれたから、4周頑張れたのだ。
でもあそこは人が多いから、今は行けない。ごめんね、ブラン。多分この先10年は行けないね、きっと。
翌日の午後もカリラスさんとシリウスの3人が遊びに来てくれて、ドガイの話やキリシュくんの恋人の話など世間話をしていたところに、アルが帰ってきた。
「アレックス、無事でよかったよ」
「心配かけたな、カリラス」
「僕はシリウスのみんなと話してるから、奥で2人でゆっくり話して」
肩を抱き合って挨拶している2人に提案したら、そうだなと言ってアルはカリラスさんと一緒に奥の寝室へ行った。きっと積もる話もあるだろう。
2人の親友という雰囲気にはちょっと妬けるけど、アルが本当に気を許しているのはカリラスさんだけだ。
「ユウくんは、これからダンジョンはどうするの?」
「行きたい気持ちはあるんだけど。ブランも退屈しちゃうだろうし、やっぱりアルが心配だし。キリシュくんはソマロさんに何か言われない?」
「心配だとは言われるけど、俺たちそんなに危険なところ行かないから」
「ごめんね。カークトゥルスは心配かけちゃうよね」
「いや、Sランクにはなれないから、二度とない、いいチャンスだと思ったんだ」
え、だったら毎年一緒に行こうよ。
慎重なシリウスの3人は、僕と一緒に行くことで自分たちが狙われる可能性もちゃんと考えて、それでもカークトゥルスに潜ってみたいという気持ちが勝ったらしい。
Sランクでなければ、荷物持ちとして雇われるか、魔石祭りに参加する以外ではカークトゥルスに入れない。シリウスはSランクを目指すようなガツガツしたパーティーではないので、この機会を活かすことにしたそうだ。
僕たちに付き合うことで周りからやっかみを受けないのか心配したけど、今更らしい。
「ブロキオン4周の後から、どちらかというと同情されてるよ」
「え、なんで?」
「ユウくんのご機嫌取りのために、獣道に頼み込まれて付き合わされたって思われてる」
「今回もまた接待係に呼び出されたのかって冗談交じりに言われたし」
というか、それ事実だよね。今回も僕のためなわけだし。なんかごめん。
でも彼らの立場が悪くなるようなことにならなさそうで、よかった。
後からアルに聞いたところ、シリウスは功績を競ったりするようなパーティーではないと認識されていて、僕に付き合うのは純粋に友情からでその立場を利用したりしないと思われているからこそ、羨ましがられはしても妬まれることは少ないらしい。
ゾヤラで活動している冒険者からは、彼らの人柄が正しく理解されているんだと思ったら、僕も嬉しくなった。
1日の付与の数も少しずつ増やして、今は午前中は付与にあてている。
冒険者ギルドからの要望で、テントだけでなくブーツも商品に加わった。足元は重要だよね、いろいろな意味で。
あれ以来アルが狙われることはない。隠されると不安になるから本当のことを教えてほしいと何度も聞いているけど、特にないということなので、本当にないんだろう。ギルドから高ランクに対して、アルが襲撃されることがないよう不審な者がいないか気にしておいてほしいと要請が出ていることを、獣道が教えてくれた。
カークトゥルスに潜るなら、そろそろ準備を始めなければならない。
僕はダンジョンに潜っても平気なのか確認するために、春に襲撃されて以来初めて、ダンジョンの入り口に来ている。
「アル、手を繋いでて」
「おいで」
ダンジョンで剣士の手を塞ぐのは本当は良くないけれど、あの時ダンジョンの土の上にアルが倒れた場面を思い出して不安になる。
そんな僕のためにアルが、右手に魔剣を持って左手を僕に差し出してくれたので、その手を両手でつかんだ。ブランは僕の足にピタリとくっついていて、その周りを獣道のみんなが取り囲んでくれている。
大丈夫、もうあんなことは起きない。次は躊躇せず全員倒すと、ブランが約束してくれた。
ダンジョンに一歩足を踏み入れると、空気が変わる。
じめっとした地下室のようだったり、カラッとした冬の朝のようだったり、変わり方は場所によるけれど、そこからは外の世界とは異なるのだと分かるのだ。連続しているのに、連続していない、不思議な空間に入ったと分かる。
最初は驚いていたけれど、最近では慣れてしまって気にもしなかった。あのウルバのダンジョンはどんな空気だったか、記憶にない。
「ユウ、大丈夫か?」
「うん」
「アレックスの手を離せるか?」
「……うん」
なんとか手を離した僕を、アルがブランの上に乗せてくれた。
ブランにひとりで乗って移動するのも久しぶりのために、ふらふらして安定しない僕を、ガリドラさんが横から支えてくれる。心優しき無口な熊さんは、気配りも出来る。
少し進んで、アルが戦闘をしているのを見ても、大丈夫だったので、そのまま下層に向けて進んだ。
問題だったのは戦闘ではなくて、知らない冒険者が近づいてくることだった。
違うのだと、あの襲撃者たちではないのだと分かっていても身構えてしまう。そして身構えた自分に驚く。
冒険者ギルドは室内だったし、屋外で誰かとすれ違ったりしたのは教会の敷地内だけだったので、平気だと思っていた。
「カークトゥルスは下層ならあまり冒険者に会うこともないと思うが、どうする?」
「行く」
「ユウ、来年でもいいんだぞ。無理してないか?」
「行く。大丈夫」
僕は冒険者なのだから、ダンジョン攻略が本業だ。アルとブランと一緒にダンジョンに潜るのが、本来の日常なのだ。
人が多いダンジョンはまだ無理だろうけど、下層ではほとんど人に会わないカークトゥルスなら大丈夫だろう。
攻略報告の後、ギルドマスターに僕もカークトゥルスに行くことを告げた。
ブランが無理そうなら帰ると言っているから、ダメなら強制送還されてしまうのだろうな。
カークトゥルスに潜ると決めたので、準備を始める。といっても必要なのは食料で、準備するのは僕じゃない。
なんと、カザナラの料理長が来て、ブランのお気に入りの料理をたくさん作ってくれたのだ。お鍋いっぱいに作られたシチューや、山盛りに焼かれたお肉を収納していく。横でヨダレを垂らさんばかりに凝視しているブランがいるので、急がなければ。
ブランのお気に入りの屋台の料理は、ツェルト助祭様たちが買ってきてくれたのを収納してある。焼きたてのパンも教会に届けられ、みずみずしい果物と野菜は、全てすぐ食べられるようにカットされていた。
ドガイの中央教会からモクリークへ戻ってくるときに大量に持たせてもらったブランお気に入りのチーズもある。
僕がしたのは、ただ並べられたものを収納しただけだ。そしてそれらは全てブランへの捧げものなので、料金は受け取ってもらえなかった。ドガイでしたように、聖堂の天井にクリーンの付与をしても、返せる気が全くしないくらいのものをもらっている。
アルは獣道と一緒にダンジョンに行っている。帰ってきたら、一緒にカークトゥルスに向けて出発なので、僕は孤児院のお手伝いはしばらくお休みすることになって、付与だけをしている。ダンジョン内でも付与ができるように、出来上がった付与待ちのテントと靴も収納済みだ。
そろそろアルたちが帰ってくるころ、孤児院での補習授業以外は僕の担当になったらしいツェルト助祭様が、僕にお客さんだと告げに来た。
「ユウくん、元気そうで良かったよ」
「カリラスさん!シリウスのみんなも、どうしてここに?」
「俺はチーズの運搬中。教会の前で彼らに会ってね」
「俺たちは獣道に呼ばれたんだよ。カークトゥルスに行くユウくんのお供」
僕がカークトゥルスに行くと決めてすぐ、獣道がギルド経由でシリウスに連絡してくれていたらしい。荷物持ちではなく魔石拾い係として同行してくれるそうだ。
王都についてギルドに行ったら、ダンジョンに潜ってるから先に着いたら僕の相手をしててほしいと、獣道からの伝言が残されていたために、ここに来てくれた。
カリラスさんは、王都にはチーズの販売と魔石の買取に来たところ、中央教会前でシリウスとばったり会って、一緒に僕のところまで案内されて来た。魔石の運搬は教会の事業の一環での移動なので、護衛の冒険者も一緒に教会の宿泊施設を利用しているそうだ。
「アルは多分数日以内に帰ってくると思うんですけど、時間ありますか?帰ってきたらカークトゥルスに行くので、春までは会えなくなります」
「帰ってくるの待ってるよ」
これでやっとアルとカリラスさんが会える。僕たちがドガイにいるときはカリラスさんがモクリークにいたようで、あの襲撃以来タイミングが合わず、すれ違っていたのだ。教会からグザビエ司教様経由で無事は伝えられていたようだけど、カリラスさんも心配してくれていたみたいだし、アルが帰ってきたらサプライズだ。
「ユウくんはダンジョン潜るのはもう大丈夫なの?」
「知らない冒険者が近づいてくるのは怖いんですけど、カークトゥルスは人が少ないので多分大丈夫です」
「マジックバッグがドロップするのに人が少ないの?」
「上層は混んでますけど、下層ではまず人に会いません。階層が多い上にフロアボスが強いので、中層までで引き返しちゃうみたいです」
シリウスのみんなも興味津々で聞いている。そういえば、カークトゥルスの話はあまりしたことがなかったかも。
階層がいくつあるのか、どんなモンスターが出るのか、僕の知っていることを話したけど、僕がモンスターの強さがよく分かっていないことは彼らも理解していて、そこはあまり聞かれなかった。
「じゃあ、複数パーティー推奨だけど、複数で行くことはあまりないんだ」
「ボスからはマジックバッグ1つと決まっているので、複数で行くと揉めちゃうみたいです。2周して同じものじゃなかった場合とか」
「あー、ドガイでもあったわ。事前に決めてても揉めるときは揉める。ましてやマジックバッグじゃな」
まあそうだよね。僕たちは容量特大を出して、もう1個欲しいと思ってさらに3周して手に入れられたけど、あれはブランに乗って走り抜けたからできたことだ。しかも何回に1回出るかもわからないから、何周すればいいかも事前にはわからない。揉めるだろうなあ。
「その、獣道ってパーティーとは分配はどうしてるんだ?」
「僕たちはマジックバッグは必要な分持っているので、僕たちが欲しい魔石と、獣道が欲しいマジックバッグは買取金額の半分をお互いに払って精算することになってたんですけど、いろいろあって今は全部僕たちの物です」
「いろいろって……何?聞いてもいいなら教えて」
「魔石は僕たちがご飯を用意するのと相殺で、マジックバッグは魔剣の対価です。ブランがいないと魔剣がドロップしないので、ゾヤラのブロキオン4周に付き合いました」
もう思い出したくないブロキオン4周。ブランが上機嫌でヒャッハーしていたブロキオン4周。僕の大変だったという顔に、シリウスのみんなが笑っている。彼らが付き合ってくれたから、4周頑張れたのだ。
でもあそこは人が多いから、今は行けない。ごめんね、ブラン。多分この先10年は行けないね、きっと。
翌日の午後もカリラスさんとシリウスの3人が遊びに来てくれて、ドガイの話やキリシュくんの恋人の話など世間話をしていたところに、アルが帰ってきた。
「アレックス、無事でよかったよ」
「心配かけたな、カリラス」
「僕はシリウスのみんなと話してるから、奥で2人でゆっくり話して」
肩を抱き合って挨拶している2人に提案したら、そうだなと言ってアルはカリラスさんと一緒に奥の寝室へ行った。きっと積もる話もあるだろう。
2人の親友という雰囲気にはちょっと妬けるけど、アルが本当に気を許しているのはカリラスさんだけだ。
「ユウくんは、これからダンジョンはどうするの?」
「行きたい気持ちはあるんだけど。ブランも退屈しちゃうだろうし、やっぱりアルが心配だし。キリシュくんはソマロさんに何か言われない?」
「心配だとは言われるけど、俺たちそんなに危険なところ行かないから」
「ごめんね。カークトゥルスは心配かけちゃうよね」
「いや、Sランクにはなれないから、二度とない、いいチャンスだと思ったんだ」
え、だったら毎年一緒に行こうよ。
慎重なシリウスの3人は、僕と一緒に行くことで自分たちが狙われる可能性もちゃんと考えて、それでもカークトゥルスに潜ってみたいという気持ちが勝ったらしい。
Sランクでなければ、荷物持ちとして雇われるか、魔石祭りに参加する以外ではカークトゥルスに入れない。シリウスはSランクを目指すようなガツガツしたパーティーではないので、この機会を活かすことにしたそうだ。
僕たちに付き合うことで周りからやっかみを受けないのか心配したけど、今更らしい。
「ブロキオン4周の後から、どちらかというと同情されてるよ」
「え、なんで?」
「ユウくんのご機嫌取りのために、獣道に頼み込まれて付き合わされたって思われてる」
「今回もまた接待係に呼び出されたのかって冗談交じりに言われたし」
というか、それ事実だよね。今回も僕のためなわけだし。なんかごめん。
でも彼らの立場が悪くなるようなことにならなさそうで、よかった。
後からアルに聞いたところ、シリウスは功績を競ったりするようなパーティーではないと認識されていて、僕に付き合うのは純粋に友情からでその立場を利用したりしないと思われているからこそ、羨ましがられはしても妬まれることは少ないらしい。
ゾヤラで活動している冒険者からは、彼らの人柄が正しく理解されているんだと思ったら、僕も嬉しくなった。
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