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9章 魔石と魔剣

9-6. マジックバッグの行き先

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 ギルドに戻った報告に行くと、去年の大量持ち込みがあったからか、すぐに会議室に案内され、鑑定士さんが2人と一緒にギルドマスターも入ってきた。立ち合いの人選にギルドの期待の高さが見える。

 まず最初にルフェオさんが、今回は下層2つ目のフロアボスのドロップ品が104個で、最下層のボス部屋のドロップは獣道が買い取ること、下層2つ目はすべて僕たちのものであることを伝えてくれた。
 104個という数に、ギルドマスターはホクホク顔で、鑑定士さんは喜んでいいのか仕事がたくさんで悲しんでいいのか複雑な顔をしている。

 鑑定士が105個確認している間に、ギルドマスターに攻略報告をするが、特に変わったことはないので、ギルドによる魔石収集依頼の結果を教えてもらった。予想以上にSランクが参加したので、ギルドの期待以上の数が集まったそうだ。
 依頼の参加者の中に他の階層に行けないかと試みたパーティーがいたそうだが、そのパーティーは今後たとえSランクになってもカークトゥルスは立ち入り禁止だ。見せしめ的な処分だが、ギルドとしては今後も魔石収集依頼を定期的に続けたいので、トラブルのもとは早めに摘んでおきたい思惑がある。
 それから、上層のフロアボス部屋がある階層までは、常時魔石収集用のパーティーを入れようという話も出ているそうだ。今回予想以上に魔石収集にAランクとBランクのパーティーが集まったので、依頼料が安くても参加したいパーティーが今後も一定数はいるのではないかと考えているらしい。フロアだけでも経験できればSランクになって入る時の予行演習になるからというパーティーもいれば、Sランクにはなれないからフロアだけでも入っておこうというパーティーもいるらしい。

 フロアボス部屋の順番待ちパーティーが魔石を集めるようになったので、セーフティーエリアには魔石拾いセットの籠とマジックハンドが常に置かれている。ほとんどのパーティーはマジックバッグを手に入れて地上に戻るので、魔石をマジックバッグに入れ、不要になった魔石拾いセットをそこにいるパーティーに貸していくうちに、いっそのことセーフティーエリアの備品にしてしまえ、となったらしい。安価なうえに、魔石のような雑に扱っても構わないドロップ品にしか使えないものだから、誰かに持っていかれる心配もない。
 けれどそのために、魔石拾いセットを持たない入り口からの往復では魔石は拾わないパーティーが多い。魔石拾いのパーティーがいれば、Sランクが拾わない魔石も彼らが拾ってくれるかもしれない。

 そんな話をしているうちに、マジックバッグの鑑定が終わった。

「まず最下層ですが、容量大の時間停止です」
「よしっ!」

 ここの最下層で今まで出たものの中で一番買取価格が高いのは、容量特大の時間遅延で、次が容量大の時間停止だ。
 獣道が自分たちで使うと分かって、ギルドマスターが残念な顔をしている。
 獣道はもともと容量小の時間遅延と容量中を持っていて、ここカークトゥルスで知り合いのパーティーとともに容量大の時間遅延を、僕たちと潜ったときに容量中の時間停止と容量特大を手に入れた。今回容量大の時間停止はパーティーで6つ目だ。

「次に下層2つ目ですが、時間停止は容量中が2個、容量小が8個ありました」
「10か。全部売ってくれるか?」
「ああ」

 それを聞いて、ギルドマスターが嬉しそうだ。僕たちは自分で使うものは持っているので、特に必要ない。
 残りは容量中か大で時間遅延のあるものが14個、後は普通の容量大だ。

「あの、普通の容量大を3個くらいは引き取りたいんですが」
「ユウ、何に使うんだ?」
「集めた魔石って教会が使うんですよね?だったらその運搬用に使ってもらいたいなと思って。かなり大量みたいだし」

 カリラスさんにはモクリークとドガイ間の魔石運搬用に容量大を渡してあるけど、モクリーク国内の運搬も大変そうだ。魔石って石だから重いし。
 フェリア商会と話を進めていた時は、出資の代わりにマジックバッグを提供してほしいと言われていたけれど、教会主導になってその話も立ち消えていたことを思い出したのだ。
 ここには教会がないので、スナンに移動してから教会とギルドと調整することになった。買取の話もスナンのギルドでいいそうだ。

 ということで、今回はすぐにスナンに移動するけれど、その前にまずは宿でお風呂だ。これは譲れない。
 明日朝の集合時間を決めて、ギルドを後にした。


 翌日は馬を借りて、僕たちの馬車で一緒にスナンの街に移動だ。
 荷台にラグを敷いてクッションを出し、アルとルフェオさんが御者台で、残りは荷台だ。獣人4人では狭苦しいからと僕が荷台に入れられた。僕が小さい訳じゃない、獣人が大きいだけだ。ブランは子犬になって僕の膝の上だ。

「ユウ、アルは優しいか?」
「優しいです。いつも僕の希望を優先してくれます。それに、ドガイの中央教会でアルが結婚式をしてくれました」
「そうか、よかったな。おめでとう」

 この人たちは、僕が人を信じられなくなっていた頃を、街で人の中にいるのは嫌だと言っていた頃を知っている。そんな状態で、しかもトラブルしか呼ばないスキルを持っていることを知っていたのに、それでも一緒に行こうと誘ってくれた人たちだ。
 あの時、ブランが彼らに助けを求めなかったら、彼らが僕を助けてくれなかったら、アルと出会うことも、今こうして一緒にダンジョンに潜ることもなかった。

「獣道のみんなには感謝しています。あの時助けてもらえなければ、きっと今の僕はないから」
「従魔が子どもを連れてきたから、てっきり森の中で襲われた冒険者が連れていた子どもだと思ったんだけどね」
「ギルドカードも親の物だと思ったから、親の情報が分かれば、出身の街に送ってやれると思ったんだ」

 まさか、そんな理由でギルドに身分照会したの?!確かに僕のカードかどうかを確認しようってギルドに連れていかれたけど、ただの身元確認だと思っていたのに。
 ダンジョン攻略を楽しんでいるようでよかった、と頭を撫でられたけど、それを聞いた後だとちょっと複雑だ。もうだいぶ大人になったんだけどなあ。
 でも僕の中でも親戚のお兄さんという位置づけだから、彼らから見れば親戚の子どもなのかもしれない。


 スナンの冒険者ギルドで、教会とギルドと調整した結果、魔石運搬用のマジックバッグは獣道と僕たちから冒険者ギルドに寄付することになった。ギルドが教会へ魔石を売る際に、それ専用のマジックバッグとして使うらしい。
 そして、マジックバッグ寄付のセレモニーを後日王都ですることも決まった。なんでセレモニー?と思ったけど、その寄付の功績をもって、僕たちはこの先10年カークトゥルスの下層2つ目を1か月独占する権利を貰えるので、その公表も兼ねている。
 これは、僕たちが毎年冬に合宿しているから、今後そこで共闘を目論むパーティーが出てくるのを防ぐためらしい。来年はカークトゥルス解放から3年目。カークトゥルスに潜るためにモクリークに移動してきている冒険者もいるので、トラブル事前防止の措置だ。
 けれど、僕たちは表に出ると面倒なことになるから、セレモニーには獣道だけの参加にしてほしいとアルが交渉している。

「いいけど代わりに、1つお願いを聞いてほしいな」
「なんだ?」
「ゾヤラのブロキオンに一緒に潜って」
「嫌です!」

 嫌だ。絶対嫌だ。僕は行かないぞ。
 魔剣を貰ったとなると面倒ごとが起きるので、ブロキオンに潜って取ってきたってことにしたいらしい。それにどうせならオラジェさんが使える魔剣がもう1本ほしいしって。本気で嫌なんだけど。もうさ、獣道とブランで行ってくれば?
 けれど、セレモニーを引き受けてくれた獣道のためだからというアルの説得と、行かないならここで暴れるぞというブランの脅しに、渋々行くことを了承した。悲しい。

「よーし、魔剣のために頑張るよ!」
「お前らは面倒が起きる前にゾヤラに行っておけよ。王都の屋台の肉は買って行ってやるから」

 それを聞いてブランが期待のまなざしで獣道を見ている。アルが苦笑しながら時間停止のマジックバッグを渡して、ブランがいつも注文する屋台を伝えた。でも多分王都のギルドマスターに聞いたら分かるよ。

 ブロキオン挑戦が決まって落ち込んでいる僕に気付いたガリドラさんが頭を撫でてくれるけど、僕はこれでも成人してますよ、とヤサグレてしまった。
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