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9章 魔石と魔剣
9-5. 感電注意
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ほぼ1か月、魔剣の訓練をして、マジックバッグと魔石を集めた。
獣道は前回同様、マジックバッグよりも修行がメインだ。魔剣の取扱いに慣れてきて、1回の戦闘に魔剣が2本使われるようになると、下層2つ目のフロアボスも、そこまで苦労せずに倒せるようになった。ブランは一応警戒はしているものの、僕のそばで座って戦闘を見ている。
『(これなら最下層もあやつらだけで苦労せず倒せるだろう)』
「そうなの?でもルフェオさんとガリドラさんの魔剣は、ゴーレム相手じゃあんまり威力を発揮できないんでしょう?」
『(それでも普通の剣よりは効果がある。前回も5人で何とか倒しただろう)』
「そうだったっけ?」
前回は、最下層で特大が出て獣道が大喜びしてたことと、アルがヘロヘロになってたことしか覚えていない。
あの後アルは、獣道の体力についていけなかったことを反省して、地上にいるときは毎朝走ったり筋トレしたりするようになった。獣人と人じゃそもそもの基礎体力が違うんだから、そこまで頑張らなくてもいいんじゃないかなと思ったけど、ブランに僕のためにアルは頑張ってるんだって言われて、見守ることにした。そのおかげでタペラのあふれで戦い続けても何とかなったそうだから、備えあれば憂いなしなんだろう。
ちなみに僕も一緒に鍛えようと思ったけど、翌日筋肉痛で動けなくなったために、1日で禁止されてしまった。僕は肉体派じゃないから、悔しくなんかない。
そうして迎えた下層2つ目のフロアボス挑戦26日目、ついに、10個目の時間停止のマジックバッグがドロップした。
『(容量小の時間停止だ)』
「時間停止だって。10個目だ」
長かった。本当に長かった。
どこかで区切りをつけないといけないので、時間停止が10個出たら終わろうと決めていたのだ。
アルは魔剣を使って1人でフロアボスを倒せるようになっているし、獣道の3人も早くも魔剣を使いこなしている。タムジェントさんは魔力の回復具合との兼ね合いで、大技は封印して少しだけ魔力を込めた魔剣の威力で戦うことに決め、込める魔力の調整をしていた。今まであまり魔力量を細かく調整したことがなかったらしくて、アルに魔力操作のコツを教わっていた。
でも僕は、ひたすら魔石を拾って、休憩中は魔石にアイスの魔法の付与をする以外に、することが何もないので、早々に飽きてしまった。
うーん、やっぱり僕が料理を教わるべきだろうか。そうしたらダンジョン内でやることができて、気分転換になるかもしれない。
ここのセーフティーエリアはほぼ1か月僕たちが占有していたけど、他に誰も来なかった。軍は魔石祭りの警備があるからしばらく下層には潜らないと聞いていたけど、相変わらず冒険者たちは潜っても中層までで引き返しているようだ。ギルドとしては誤算なんだろうけど、かといって入る条件を緩和するとトラブルが起きかねないので、様子見をしているようだ。
来年でカークトゥルスが解放されて3年目になる。カークトゥルスに潜るためにモクリークに移動してきた冒険者もいるので、これから少しずつ挑戦するパーティーも増えていくかもしれない。その中には僕たちみたいに長期で潜ってたくさんマジックバッグを手に入れるパーティーも出るだろう。
時間停止が10個揃った翌日の朝、最下層に向かうためにセーフティーエリアを片付けているけど、オラジェさん以外の獣道3人は、ここからまだ出たくない雰囲気を醸し出している。確かに、前回は2か月半いて、今回も同じくらいだから、雪が完全に溶けるまでもう少し時間はある。けれど、前回は、下層1つ目のフロアボスにも挑戦していたから、途中で移動もあったのに、今回は移動と魔石祭り以外はずっとここにいるのだ。目的の魔石も十二分に集めたし、最下層に向かおう。
「タムが最初に最大威力で攻撃、その後ガリドラと俺が魔剣で、アレックスとオラジェはサポートでいいか?」
「ああ。タムジェントは攻撃したらユウのところまで下がれ。ユウ、魔力ポーションを用意しておいてくれ」
「ユウ、俺がそっちに行くから、絶対に従魔より前に出てくるなよ」
今回は僕にも役目ができた。魔力切れでフラフラになるタムジェントさんに魔力ポーションを渡す係だ。
役割分担を確認して、最下層のボス部屋の扉を開ける。
光が集まって、金属のゴーレムを形作った。あまり魔法が効かないらしいけど、どれくらいタムジェントさんの大技が決まるかな。
開始直後に放たれた水の魔剣の攻撃は、ゴーレムの片方の足を破壊した。前回のアルの大技よりも効いている。
その代わりにフラフラになったタムジェントさんが、僕たちのところまで何とか歩いてきたので、魔力ポーションを渡して飲んでもらった。これは絶対的な守りがある場面じゃないと使えない技だなって言っているけど、これだけふらふらだと戦闘から離脱するのも大変そうだから、ゴーレムみたいに足の遅いモンスターじゃなければ、逃げることも難しいだろう。本当に使いどころが難しそうだ。
片足を壊されてうまく動けないゴーレムに向けて、ルフェオさんとガリドラさんが攻撃を仕掛ける。ルフェオさんの魔剣はあんまり効かなかったけど、ガリドラさんの雷の魔剣がよくない方向に威力を発揮してしまった。
「おい、バチバチ言ってるぞ!」
「オラジェ、近づくな!」
「近づかないでどうやって倒すんだよ!」
ああ、そうか。金属だから電気が通っちゃうんだ。きっと触ったら感電するし、剣も金属だから危ないよね。剣の持ち手の部分って絶縁体なんだろうか。
アルが剣を魔剣に変えて、少し離れたところから斬撃を放って攻撃しているけど、外殻を壊すまでには至らない。ルフェオさんも魔剣で炎を飛ばしているけど、金属の融点が高いからかなのか、あまり効いてない。
これは、もしかして打つ手なし?絶体絶命のピンチじゃない?どうしよう。
『(焦るな。いざとなったら倒してやる)』
「ダメだよ、ブランが感電しちゃうよ」
『(あれくらい、氷の矢で貫けるわ)』
そうだった。実はとっても強いブランにはこれくらい大したことないんだった。アルたちが魔力切れになるのと、金属ゴーレムが放電するのと、どっちが先だろうか。
ってか靴を履いてないのに何で放電しないの?冬に静電気がバチバチするのって学校指定のゴム底の靴のせいで電気が抜けないからじゃなかったっけ。
そんなことを考えているうちに、アルが膝をついた。ゴーレムを足止めするために斬撃を放ち続けて、魔力が切れてしまったらしい。短期間に魔力ポーションをたくさん飲んでも、魔力は完全に回復はしない。
「アル!」
「魔力切れだ。ブラン頼む。ルフェオいいよな?」
「ああ、頼む」
「ブラン、お願い」
『(よし、見本を見せてやろう)』
え、見本って何、いつも通りでいいんだけど。と思ったのに、止める間もなくブランが上に向いて吠えたら、すごい音をたてて雷が落ちた。
突然の音と光に悲鳴を上げることもできないほど驚いたし、目はチカチカ、耳がキンキンする。
他のみんなも何が起きたのか分からなくて呆然としていたけど、気が付いたらゴーレムが宝箱に変わっていた。
「なんだ?!あ、宝箱」
「あー、雷で倒したってことか?」
びっくりした。まだ心臓がバクバクいっている。
衝撃から立ち直れない僕をアルが心配してくれるけど、魔力切れになったアルのほうが大変だ。アルに魔力ポーションを渡そうと思ってアイテムボックスから取り出したけど、手が震えて瓶のふたが開けられない。
アルが大丈夫だから落ち着くようにと背中を撫でてくれるし、ブランも悪かったと頭をこすりつけてくるけど、震えが止まらない。突然の大きな音とか苦手なんだ。というか、なんでみんな平気な顔してるの。
なだめられて、なんとか僕が立ち直ったところで、ブランにドロップしたマジックバッグを鑑定してもらった。宝箱を放置しておいて消えるといけないので、オラジェさんが開けてくれたそうだ。
ドロップしたのは容量大の時間停止で、迷惑をかけたから貰ってほしい僕と、倒してないから貰えないという獣道の攻防戦の結果、当初の予定通り獣道が買い取ることになった。獣道には迷惑ばっかりかけている気がする。
獣道は前回同様、マジックバッグよりも修行がメインだ。魔剣の取扱いに慣れてきて、1回の戦闘に魔剣が2本使われるようになると、下層2つ目のフロアボスも、そこまで苦労せずに倒せるようになった。ブランは一応警戒はしているものの、僕のそばで座って戦闘を見ている。
『(これなら最下層もあやつらだけで苦労せず倒せるだろう)』
「そうなの?でもルフェオさんとガリドラさんの魔剣は、ゴーレム相手じゃあんまり威力を発揮できないんでしょう?」
『(それでも普通の剣よりは効果がある。前回も5人で何とか倒しただろう)』
「そうだったっけ?」
前回は、最下層で特大が出て獣道が大喜びしてたことと、アルがヘロヘロになってたことしか覚えていない。
あの後アルは、獣道の体力についていけなかったことを反省して、地上にいるときは毎朝走ったり筋トレしたりするようになった。獣人と人じゃそもそもの基礎体力が違うんだから、そこまで頑張らなくてもいいんじゃないかなと思ったけど、ブランに僕のためにアルは頑張ってるんだって言われて、見守ることにした。そのおかげでタペラのあふれで戦い続けても何とかなったそうだから、備えあれば憂いなしなんだろう。
ちなみに僕も一緒に鍛えようと思ったけど、翌日筋肉痛で動けなくなったために、1日で禁止されてしまった。僕は肉体派じゃないから、悔しくなんかない。
そうして迎えた下層2つ目のフロアボス挑戦26日目、ついに、10個目の時間停止のマジックバッグがドロップした。
『(容量小の時間停止だ)』
「時間停止だって。10個目だ」
長かった。本当に長かった。
どこかで区切りをつけないといけないので、時間停止が10個出たら終わろうと決めていたのだ。
アルは魔剣を使って1人でフロアボスを倒せるようになっているし、獣道の3人も早くも魔剣を使いこなしている。タムジェントさんは魔力の回復具合との兼ね合いで、大技は封印して少しだけ魔力を込めた魔剣の威力で戦うことに決め、込める魔力の調整をしていた。今まであまり魔力量を細かく調整したことがなかったらしくて、アルに魔力操作のコツを教わっていた。
でも僕は、ひたすら魔石を拾って、休憩中は魔石にアイスの魔法の付与をする以外に、することが何もないので、早々に飽きてしまった。
うーん、やっぱり僕が料理を教わるべきだろうか。そうしたらダンジョン内でやることができて、気分転換になるかもしれない。
ここのセーフティーエリアはほぼ1か月僕たちが占有していたけど、他に誰も来なかった。軍は魔石祭りの警備があるからしばらく下層には潜らないと聞いていたけど、相変わらず冒険者たちは潜っても中層までで引き返しているようだ。ギルドとしては誤算なんだろうけど、かといって入る条件を緩和するとトラブルが起きかねないので、様子見をしているようだ。
来年でカークトゥルスが解放されて3年目になる。カークトゥルスに潜るためにモクリークに移動してきた冒険者もいるので、これから少しずつ挑戦するパーティーも増えていくかもしれない。その中には僕たちみたいに長期で潜ってたくさんマジックバッグを手に入れるパーティーも出るだろう。
時間停止が10個揃った翌日の朝、最下層に向かうためにセーフティーエリアを片付けているけど、オラジェさん以外の獣道3人は、ここからまだ出たくない雰囲気を醸し出している。確かに、前回は2か月半いて、今回も同じくらいだから、雪が完全に溶けるまでもう少し時間はある。けれど、前回は、下層1つ目のフロアボスにも挑戦していたから、途中で移動もあったのに、今回は移動と魔石祭り以外はずっとここにいるのだ。目的の魔石も十二分に集めたし、最下層に向かおう。
「タムが最初に最大威力で攻撃、その後ガリドラと俺が魔剣で、アレックスとオラジェはサポートでいいか?」
「ああ。タムジェントは攻撃したらユウのところまで下がれ。ユウ、魔力ポーションを用意しておいてくれ」
「ユウ、俺がそっちに行くから、絶対に従魔より前に出てくるなよ」
今回は僕にも役目ができた。魔力切れでフラフラになるタムジェントさんに魔力ポーションを渡す係だ。
役割分担を確認して、最下層のボス部屋の扉を開ける。
光が集まって、金属のゴーレムを形作った。あまり魔法が効かないらしいけど、どれくらいタムジェントさんの大技が決まるかな。
開始直後に放たれた水の魔剣の攻撃は、ゴーレムの片方の足を破壊した。前回のアルの大技よりも効いている。
その代わりにフラフラになったタムジェントさんが、僕たちのところまで何とか歩いてきたので、魔力ポーションを渡して飲んでもらった。これは絶対的な守りがある場面じゃないと使えない技だなって言っているけど、これだけふらふらだと戦闘から離脱するのも大変そうだから、ゴーレムみたいに足の遅いモンスターじゃなければ、逃げることも難しいだろう。本当に使いどころが難しそうだ。
片足を壊されてうまく動けないゴーレムに向けて、ルフェオさんとガリドラさんが攻撃を仕掛ける。ルフェオさんの魔剣はあんまり効かなかったけど、ガリドラさんの雷の魔剣がよくない方向に威力を発揮してしまった。
「おい、バチバチ言ってるぞ!」
「オラジェ、近づくな!」
「近づかないでどうやって倒すんだよ!」
ああ、そうか。金属だから電気が通っちゃうんだ。きっと触ったら感電するし、剣も金属だから危ないよね。剣の持ち手の部分って絶縁体なんだろうか。
アルが剣を魔剣に変えて、少し離れたところから斬撃を放って攻撃しているけど、外殻を壊すまでには至らない。ルフェオさんも魔剣で炎を飛ばしているけど、金属の融点が高いからかなのか、あまり効いてない。
これは、もしかして打つ手なし?絶体絶命のピンチじゃない?どうしよう。
『(焦るな。いざとなったら倒してやる)』
「ダメだよ、ブランが感電しちゃうよ」
『(あれくらい、氷の矢で貫けるわ)』
そうだった。実はとっても強いブランにはこれくらい大したことないんだった。アルたちが魔力切れになるのと、金属ゴーレムが放電するのと、どっちが先だろうか。
ってか靴を履いてないのに何で放電しないの?冬に静電気がバチバチするのって学校指定のゴム底の靴のせいで電気が抜けないからじゃなかったっけ。
そんなことを考えているうちに、アルが膝をついた。ゴーレムを足止めするために斬撃を放ち続けて、魔力が切れてしまったらしい。短期間に魔力ポーションをたくさん飲んでも、魔力は完全に回復はしない。
「アル!」
「魔力切れだ。ブラン頼む。ルフェオいいよな?」
「ああ、頼む」
「ブラン、お願い」
『(よし、見本を見せてやろう)』
え、見本って何、いつも通りでいいんだけど。と思ったのに、止める間もなくブランが上に向いて吠えたら、すごい音をたてて雷が落ちた。
突然の音と光に悲鳴を上げることもできないほど驚いたし、目はチカチカ、耳がキンキンする。
他のみんなも何が起きたのか分からなくて呆然としていたけど、気が付いたらゴーレムが宝箱に変わっていた。
「なんだ?!あ、宝箱」
「あー、雷で倒したってことか?」
びっくりした。まだ心臓がバクバクいっている。
衝撃から立ち直れない僕をアルが心配してくれるけど、魔力切れになったアルのほうが大変だ。アルに魔力ポーションを渡そうと思ってアイテムボックスから取り出したけど、手が震えて瓶のふたが開けられない。
アルが大丈夫だから落ち着くようにと背中を撫でてくれるし、ブランも悪かったと頭をこすりつけてくるけど、震えが止まらない。突然の大きな音とか苦手なんだ。というか、なんでみんな平気な顔してるの。
なだめられて、なんとか僕が立ち直ったところで、ブランにドロップしたマジックバッグを鑑定してもらった。宝箱を放置しておいて消えるといけないので、オラジェさんが開けてくれたそうだ。
ドロップしたのは容量大の時間停止で、迷惑をかけたから貰ってほしい僕と、倒してないから貰えないという獣道の攻防戦の結果、当初の予定通り獣道が買い取ることになった。獣道には迷惑ばっかりかけている気がする。
応援ありがとうございます!
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