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8章 付与の商会の準備

8-4. ドガイからのお客様

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 楽しい美味しい食事の後は、首なし騎士だ。来たくなかった。
 相変わらずブランははっちゃけるし、またも魔剣が出た。売れないし、何度も何度も国に献上するのもどうかと思うし、行く先に困るのだ。こうなってくると魔剣の有難みが全くない。

「獣道に使うか聞いてみるか」
『ならばあと3本いるだろう』
「いりません」

 やだよ、あと3回もあの腐ってる首を見なきゃいけないの?
 嫌なのにブランに押し切られてさらにもう1回攻略したところで、もうすぐドガイからケネス司祭様とカリラスさんが到着するという連絡があった。
 さあ、カザナラに帰ってお迎えの準備をしないとね!忙しい、忙しい!


 カリラスさんは今後もこの国に来る可能性があるので、カザナラのお屋敷にカリラスさん用の部屋を準備した。このカザナラの屋敷には今のところ、シリウスの3人の部屋と、獣道の4人の部屋がある。それでもまだまだたくさん部屋は余っている。キリシュくんとソマロさんの2人部屋も増やさないといけないな。

 顔合わせ当日、早めに到着したフェリア商会の人を出迎えると、知らない人がいた。けれど、なんか偉い人っぽい。嫌な予感がする。

「ユウ様、ご紹介します。フェリア商会会頭のテリフェです」
「初めまして。テリフェと申します。いつもアイスの魔石の納品ありがとうございます」

 カザナラの支店長さんかと思っていたけど、まさかの会頭さんだった。つまりは社長さんだよね。なんでそうなった。
 どうしていいか分からなくてサジェルに視線で助けを求めると、まずは応接室へどうぞと会頭さんたちを案内してくれた。出だしから予想外過ぎてついていけない。
 けれど予想外はそれだけではなかった。

 教会の皆様がお着きになります、とサジェルに言われて、フェリア商会の人たちと一緒に出迎えのために玄関先に出たら、人が多いし、衣装が豪華だ。さらに嫌な予感しかしない。

「ユウさん、お久しぶりです。ドガイからのお客様をご案内しました」

 そう言ってケネス司祭様たちを案内してくれたのは、タペラの後で熱を出した僕の治療をしてくれたチルダム司教様だ。でもあれは王都の宿だったのに、ここはカザナラだ。そして、ケネス司祭様とカリラスさんだけでなく、グザビエ司教様までいるのに驚くが、さらにもう一人知らない人がいる。しかもその豪華な衣装ってもしかしてもしかするんじゃ。なんかドガイで見覚えがある豪華さなのだ。その予想は正しくて、モクリークの大司教様だった。なんでトップが来てるの。全部ブランのせいだ!
 その後ろにいる見知った顔は、王都ニザナのギルドマスターさんだ。これもう王都で打ち合わせしたほうがよかったんじゃないかな。

 隅っこのほうで気配を消していたカリラスさんがアルに、俺場違いじゃない?と愚痴っているが、僕だって場違いだ。なんでこんなことになっているのか、誰か教えて。


 豪華なメンバーではあったが、話し合いでは、実際の運用をどうするかと言った具体的な話が進められている。
 冒険者ギルドのギルドマスターが来た理由は、ギルドとしても仕事がなくて戦闘に向かない孤児院の子どもが冒険者になることは良くないと思っていて、けれど他に仕事もないから黙認している状態だったそうだ。そのため、今回の計画に協力的で、カークトゥルスの魔石のドロップ品を今以上に集めるようにするための案も考えているらしい。魔石がなければ始まらないので、これはありがたい。
 モクリークの大司教様が来ちゃったのは確実にブランが原因だから置いておいて、孤児院を管理している教会としてもこの計画には全面的に協力すると言ってくれた。
 それを聞いて、フェリア商会の会頭さんが、自分たちは手を引くと発言した。

「ユウ様とフェリア商会で新しい商会を立ち上げるつもりでしたが、これは教会主導のほうがいいと思いますので、フェリア商会としては、必要でしたら販売や管理にノウハウを提供するにとどめたいと思います」

 ここまで大きくなった計画を一つの商会がメインとなって進めるのはよくないそうだ。確かに、国は関わっていないが、すでに国家的なプロジェクトの様相を呈してきているので、他の商会との兼ね合いもあるのだろう。
 話を持ち掛けておきながら申し訳ないと謝ったが、大丈夫ですよと微笑んでくれた。その顔は商会のトップというよりも、孫を見るおじいちゃんのようだ。きっとそれだけの人では商会のトップになどなれないんだろうけど、これからも何かあったらフェリア商会にお願いしようと心に留めるくらいには優しい笑顔だった。

「ユウの名前を出さないで欲しいのですが。例えあふれで住民の命がかかっていると言われても、ユウは武器への付与は出来ません」
「教会が、ユウさんから話を聞いて立ち上げたことにすれば、いいでしょう。ユウさんが付与したものを、教会を通して売るか、フェリア商会を通して売るかは、ユウさんにお任せします」

 アルが僕の名前が表に出ないように言ってくれた。でももはや僕の手を離れているので、本当に関係がない気がする。
 結局、僕がすることは規格作りだけになった。見習いの間は、見習い神官と一緒に教会で暮らすことになり、魔力操作訓練も教会が教える。僕を指導したアルを指導したのは、当時見習い神官だったドガイのサリュー司祭様だ。アルがこういう風に教えたというのを聞いて、教会の関係者はみんな、あれねとなっていたので、国が違っても教会の訓練は同じらしい。

 冒険者ギルドは、カークトゥルスでの魔石の回収を進めるように策を講じるそうだ。
 最初のフロアボスまではそれなりの数の冒険者が行くので、上層の魔石は大量に拾えるはずだが、買い取り価格がそこまで高くないので拾われないらしい。腰も痛くなるしね。孤児院の子どもたちのためと言えば、義務にしなくても帰りに拾ってくれると踏んでいるそうだが、必要なら一定数拾うことを義務にすることも検討するそうだ。

 話し合いは終わり、この後実際に付与するところを見せてもらいたいという教会の関係者を残してフェリア商会と冒険者ギルドマスターが帰ったので、サジェル達使用人を一旦下がらせたところで、恒例の難しい言葉でのブランへのご挨拶が始まった。
 ブランと話したことのあるグザビエ司教様が、モクリークの大司教様たちを紹介している。

「ブラン様、よろしければモクリークの大司教にも是非お声をお聞かせ願えますか?」
『先日はユウが世話になった』
「もったいないお言葉です」

 こちらの大司教様は、ドガイの大司教様と違って感激で倒れたりはせず、冷静沈着な人のようだ。個性が垣間見えて面白い。
 大司教様はブランに向けて綺麗なお辞儀をした後、僕にも頭を下げてくれた。

「ユウさん、アレックスさん、本来ならば我々聖職者が行うべきことをしていただいてありがとうございます。またいつも多額の寄付をいただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」

 頭を下げられると思わず下げ返してしまう、日本人としての習慣は今でも抜けない。思わずぺこぺこしてしまう僕を、カリラスさんが不思議そうに見ている。

 それから魔石への付与を実演して、同じ効果を出すために気を付けていることなどを話した。司教様たちは繊細なコントロールを必要とする治癒魔法が使えるので、僕の拙い説明でもすぐに理解してくれた。これなら助祭に指導させられるので、あとは魔石の準備だけですねと、ドガイにはモクリークからどう魔石を輸入するかに話が移った。
 ドガイのダンジョンでも魔石はドロップするが、ほとんどが魔道具の燃料として使われているので、それを奪うと値段が高騰してしまう。やはり、カークトゥルスのドロップ品をドガイにも輸入したほうがいい。この世界、国境を越えて物を運んでも関税とかはないので、魔物や強盗に注意して運ぶだけだ。その担当者として、現役を引退して長いとはいえ、元は冒険者であり、そして孤児院出身のカリラスさんが指名された。護衛依頼も受けたことがあるそうなので、どの程度の力量の護衛を雇えばいいかなどの判断も適切に出来るだろう。

 とりあえず話は終わったので、司教様たちを食事にお誘いする。ドガイのチーズで作ったチーズフォンデュを食べてもらいたかったのだ。

「これは面白いですね」
「晩餐会で出してもよさそうです」

 ドガイの司教様たちだけでなく、モクリークの司教様たちにも好評だ。みなさんワインと合わせて舌鼓を打っている。チーズの本場で暮らすグザビエ司教様にも受け入れられて嬉しい。モクリークの大司教様もワイン好きのようで、グザビエ司教様とこのチーズならこのワインが、というような話をして、サジェルがそのワインをサーブしている。チーズをかけたお肉をバクバク食べているブランをチラチラと見ながら、幸せそうに飲んでいる姿は、休日のお父さんみたいだ。

「グザビエ司教様たちはいつまでモクリークにいらっしゃるんですか?」
「我々は3日後に帰りますが、カリラスさんはご自分で帰られますか?どうせならアレックスさんにモクリーク内を案内してもらってはどうでしょう」
「ユウ、構わないか?」
「うん。ブラン、いいよね?」
『(構わん)』
「いいって。カリラスさん、是非モクリークを楽しんでください」
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