世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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5章 新しい街の建設

5-1. 新しい街

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 僕はある日突然、この世界に迷い込んだ。
 それからいろいろあったが、神獣のブランと、恋人のアルとこの世界で冒険者として生きている。
 僕には数百年に1度保持者が現れるかどうかという、レア度MAXのスキル「アイテムボックス」がある。このスキルを持っていると通常、国に保護という名の監禁をされてしまうのだが、僕はモクリーク王国と協力関係にあり、国内では冒険者として自由に活動している。

 この世界にはダンジョンがある。地中にあって、階層があり、モンスターがいる。モンスターは通常、ダンジョンの階層からは移動しなが、ダンジョン内の全モンスターが突如ダンジョン外に出てくることがある。その現象を「ダンジョンがあふれる」と呼んでいる。
 僕たちのいるモクリーク王国は、上級ダンジョンが多い。そして、200年周期でダンジョンのあふれが多発する時期がある。それが始まったのではないかと言われている。上級ダンジョンが多いということは、あふれた時の地上の被害も大きいということだ。
 僕はそのあふれのときに、アイテムボックスを使って、軍やギルドの物資を輸送している。僕ひとりで兵站を担えるのだ。

 ダンジョンは放置するとあふれが発生しやすくなる。神獣であるブランが教えてくれたので間違いない。
 これを知ってから、僕たちは国中の上級ダンジョンを攻略して回っているし、アルの故郷ドガイの教会から全世界に「神のお告げ」として広めてもらった。

 ダンジョン攻略を始めた最初のころに攻略した「カークトゥルス」という上級ダンジョンは、ドロップ品としてマジックバッグがでた。
 マジックバッグはバッグ内の空間が拡張されている不思議なバッグで、ものによっては中の時間の進みも遅くなるし、完全に止まっているものもある。バッグの口から一部でも中に入れば、バッグの口の大きさを超えたものも入れられる謎仕様だ。
 僕のアイテムボックスは、時間は止まっているし、おそらく無限に物を収納できる。マジックバッグはアイテムボックスの下位互換のようなバッグだ。

 カークトゥルスでは、途中のフロアボスのドロップ品もマジックバッグだったが、最下層のボスは、モクリークの全ダンジョンを合わせても年に数個出れば当たり年だと言われるほどレア中のレア、時間停止のマジックバッグを落とした。しかも容量が大きい。フロアボスのマジックバッグも、時間停止はないがかなり容量が大きく、ドロップ品としては当たりのダンジョンだ。
 けれど、カークトゥルスはギルドの記録にある限りは僕たちが初攻略だったし、マジックバッグが出ると知られてもいない。
 理由は、フロアボス以外のドロップ品は小さな魔石のみで、フロアボスがかなり強く、さらにカークトゥルスの付近に街がないだからだろう。一番近い街はスナンの街で、そこからダンジョンの近くまで馬でも1日はかかるので、小さな魔石を目当てにダンジョンに潜る人は少なく、ギルドにはフロアボスの情報もないので、挑む人もいなかったのだろう。

 ダンジョン攻略後、スナンのギルドに報告をした時に、混乱が予想されるため、このダンジョンの情報はギルドが公開するまで内密にしてほしいと依頼があった。
 そしてその情報も忘れかけていた時に、ギルドからいつもと毛色の違う依頼を受けた。


 僕は今、工事現場で働いている。

 僕たちがカークトゥルスの情報をギルドに伝えた後、ギルドは国に報告し、軍とギルド合同でカークトゥルスの攻略に乗り出した。
 カークトゥルスは山の中腹に入り口があり、洞窟を潜るようにダンジョンに入っていく。周りは森なので、魔物が出る。そのため、軍が裾野に野営地を作ったが、周りの魔物も警戒しなければならない。攻略を進める者だけでなく、物資を運ぶ者、野営地を守る者と多くの人間がかかわる。情報の機密性から、参加者は全員、機密保持の契約をして臨んだそうだ。
 そうして情報の検証をした結果、国はこのダンジョンの情報を公開することを決めた。さらに、スナンからは遠いので、近くに新たに街をつくることも決めた。
 カークトゥルスの付近には、上級ダンジョンがあと2つある。1つの街の近くに3つの上級ダンジョンがあるところは珍しいので、街ができれば、多くの人が集まるだろう。
 スナンの街からダンジョンに向かう途中に街の残骸があったが、200年前に3つのダンジョンのどれかがあふれて街は潰れ、破棄されたのかもしれない。そういう事態を避けるためにも、ここに街を作ってダンジョン攻略を進めてほしいという狙いが国にはある。
 そしてマジックバッグが大量にとれるようになって輸出できるようになれば、街の建設費用が回収できるどころかかなりの利益が出るだろう。

 3つのダンジョンに歩いて半日以内の距離で開けた土地に、冒険者用の街が作られることになった。
 スナンからの馬車が通れる街道と、新しい街の建設が、同時進行で始まる。多くの土魔法の使い手が雇われ、あちこちで魔法で土が削られたり均されたりしている。
 山間に街を作るには必要な物資の運搬が課題だが、そこに僕のアイテムボックスがあれば、街1つ分の建築資材も収納できる。しかも僕はブランに乗って移動しているので、道がなくても街の予定地までたどり着ける。

 僕は、他の街から建築資材や食料を運んだり、作業現場の積み上げられた土や岩を必要なところへ運んだりしている。
 最初はアイテムボックス持ちにこんなことをと言っていた作業員たちも、数人がかりで持ち上げなければいけない岩でも収納して出すだけで簡単に運べると分かってから、こっちの岩も動かしてくれ、と声がかかるようになった。ここから運び出す物がそろうのを待っている間は暇なのだ。
 街ができるまでは、カークトゥルスの情報は伏せられていて、作業をしている人も、その護衛をしている冒険者も、3つの上級ダンジョン攻略の拠点となる街を作るとしか知らない。

 荷物を運んで、その合間に近くの3つのダンジョンを攻略して、たまに工事を手伝って、少し離れたフイカヤチの街の温泉に行って、スナンの周りをウロウロしている間に、雪が解けてすぐに始まった街と街道づくりが完成した。魔法すごい。といっても、街は外壁と水道施設ができただけなので、街の中はこれからだが、街道ができたので、僕の臨時土方バイトは終わった。
 冒険者の衣食住を満たすための移住者が募集され、すでに移住が始まっている。街道が通って、坂道に強い馬の引く馬車で1日で着くようになったので、外壁が完成してからは街中で屋台を見るようになった。宿や食堂が出来れば、ここのギルドが始動する。
 この辺りは冬の雪が深いので、工事はいったん中断されるため、完成予定は次の夏だ。


 街の完成を目前にし、国とギルドから、新しい街とカークトゥルスについて情報が公開された。
 新しい街は、山の名前から「サネバ」と名付けられ、国の直轄地となった。軍も駐留し、一部はダンジョン攻略が任務になる。
 カークトゥルスに入れる冒険者はモクリークに3年以上いるSランクパーティーに限定され、事前にギルドの許可が必要になる。これは、他国から冒険者を装って軍が派遣されることを防ぐためであり、マジックバッグに目がくらんで無謀な挑戦をする冒険者を抑えるためでもある。
 下層はSランクの複数パーティー推奨で、モクリーク内でも1、2を争う難易度だ。あふれの対応をする冒険者が減っては困るのだ。
 ただ、カークトゥルスは階層が多いので、Sランクが荷物持ちとして雇えば、Sランク以外もダンジョンに入れる。その場合も、モクリークで3年活動していることが条件だ。

 夏前に街が完成して解放されると、宿が足りずに街中でテントを張るくらい、多くの冒険者が集まった。マジックバッグ狙いのSランクもだが、Sランクに荷物持ちとして雇ってもらいたいパーティーもだ。
 しかし、カークトゥルスの予想以上の難易度から、秋になるころには混雑は少しずつ落ち着いていった。モンスターの強さ以上に階層の多さが曲者で、1つ目のフロアボスに挑んでマジックバッグを1つ手に入れたところで引き返すパーティーが続出した。そういうパーティーは街を離れたので、残っているのはサネバを拠点にして長期的に攻略していこうとしているパーティーだけになった。
 もちろんカークトゥルス以外の上級ダンジョンを狙っている高ランクパーティーもいる。

 秋も半ば、僕たちは、サネバに来ている。
 僕のこの世界で初めてできた友人であるシリウスの3人が、Bランクに昇格した。それで、昇格のお祝い何が欲しいが聞いたら、今話題のマジックバッグとのことだったが、自分たちが使う分以外はギルドの買取に出してしまったので手元にない。なので、取りに来たのだ。

 ブランのお肉含め食料はスナンで買ってきたので、今回は買い出しは必要ないが、街の中を見て回る。僕たちが最後に見た時は、街の中には軍の施設しか出来ていなかったので、1年ほどでこの賑わいは感慨深いな。
 ギルドに行って許可をもらうと、可能ならマジックバッグをギルドの買取に出してほしいとお願いされた。許可を出す全ての冒険者に頼んでいるのだが、自分たちのパーティーの分を手に入れたら引き上げるパーティーが多く、期待したほど買い取りに出ないそうだ。

 カークトゥルスの攻略は4回目なので、道も分かっているブランに乗って、最短距離で下層へ進む。
 1つ目のフロアボスの部屋は上層の最後にあるが、ここには多くのパーティーがいるので通りすぎた。このダンジョンはフロアボスを倒さなくても下層に行けるようになっている。中層にあるフロアボス部屋も冒険者と軍が待っていたので通り過ぎた。
 下層の最初のフロアボス部屋はだれもいなかったので5回挑戦して、大中小でいうと中の容量のマジックバッグを集めた。下層の2つ目のフロアボス部屋も5回挑戦して、容量大のマジックバッグを4つ、容量は中だが中の時間が遅延するマジックバッグを1つ、手に入れた。
 そして1回挑戦すると、地上に戻る魔法陣以外に脱出方法がない最下層のボス部屋では、容量特大で中の時間が遅延するマジックバッグが手に入った。
 ちなみに、ブランの鑑定のおかげでマジックバッグの性能が分かるが、見た目はその辺りにありそうなバッグだ。
 容量特大のマジックバッグは初めて見たのだが、これはもう1つほしいなとアルがいうので、再度地上からダンジョン攻略することになり、結局4周することになった。ここのダンジョンは入れる人が限られているので、人目を気にせずブランに乗ってモンスターを蹴散らしながら最短距離を駆け抜けると、最下層に10日かからずに到着できる。

 地上に戻り、攻略報告を提出して、ドロップ品はシリウスの選んだ後にギルドに出すことを伝えた。
 予定以上にダンジョンにいたので、地上は雪が積もり始めている。
 何はともあれ、まずはお風呂だ。長くダンジョンにいたので、お風呂が恋しかった。シリウスのみんなのためだから我慢できたけど。
 お風呂から出て、アルも汗を流して、久しぶりの宿での夜だ。

「アル、疲れてる?」
「ああ。悪いな」
「ううん。ゆっくり休んで。お休み」

 最下層のボスも、途中までひとりで戦ってたし、疲れてるよね。今日はゆっくり寝よう。
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