世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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4章 もう一つのスキル

4-8. シリウスの目標

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 いよいよ、ダンジョン攻略に復帰することになった。

 シリウスがハザコアに帰るには、馬車の移動が大変になる冬が来る前に、カザナラを出発する必要がある。
 スリナザルくんが剣にも慣れたし、僕ももう外出も戦闘も平気になったので、一緒にダンジョンに行くことになった。
 ホトのあふれへ同行してくれた冒険者さんたちがまだカザナラにいるそうで、彼らと3パーティーで中級ダンジョン攻略を目指す。

 今回食事は、お屋敷の料理人が作ってくれることになった。
 人数分を作成しバスケットに詰めてくれたものや、鍋ごとなど、食堂の机にずらっと並んだ出来立ての料理を収納していく。
 もちろんブランのお肉も作ってくれているが、屋台のお肉も買っておく。アイテムボックス内は時間経過がないので、傷まないからね。

「元気になったようでよかったよ」
「あの時は、ご迷惑をおかけしました」
「俺たちのほうこそ、護衛だったのに止められなくて悪かったな」

 久しぶりに会ったホトに同行してくれた冒険者から謝られたけど、彼らに責任はない。
 ギルドが僕たちの護衛につけただけあって、人当たりも良く、状況をよく見てうまく立ち回ってくれていた。
 彼らは『ライダーズ』というパーティーで活動しているキトキガの冒険者で、別荘まで御者をしてもらったところで護衛の依頼は終了になった後、せっかくカザナラに来たからとダンジョンに潜って、ちょうどキトキガに帰ろうとしていたところに、今回の誘いだったらしい。
 付き合ってもらう代わりに、シリウスがハザコアへ帰る馬車に、途中のキトキガまで同乗する。シリウスには僕たちの都合で来てもらっているので、往復の馬車はこちらの払いだ。

 ダンジョンの入り口で、周りから注目を浴びているが、無視して中に入る。
 今回は僕の戦闘訓練はなしで、上層は駆け抜ける。もちろん僕はブランの背中で、鉢合わせしたモンスターのみ倒してひたすら移動する。
 昼食もそこそこに移動を続け、セーフティーエリアでの野営では、話しかけられる前に僕はテントの中に避難して、食事はアルからみんなに渡してもらった。
 中層も半ばまで進み、人が少なくなったところからは、普通に戦闘しながら進み、セーフティーエリアでもみんなで一緒に食事をする。

「スリナザル、新しい剣はどうだ。慣れたか?」
「重さにはだいぶ慣れましたけど、思った以上に斬れるので、そっちがまだ慣れないです」
「俺たちも、もう一撃いるだろうなと思ってたら倒せて、ちょっと戸惑います」
「けっこういい剣だよな、それ。カザナラで買ったのか?」
「えっと、その……」
「ブロキオンのドロップ品だ。前の剣が俺たちとの訓練で折れたから、ギルドの買取価格で売った」
「なるほど。頑張って剣の分稼げよ」

 周りにいる冒険者も聞き耳を立てて知りたそうにしているのに、こういう時にサッと引くところが、ライダーズがギルドに信頼される理由なんだろうな。さらに、予備の武器を何本持っているか、とさりげなく話を変えている。
 剣をあげないで売ったのは、こういう時のためだったのかと、やっと分かった。
 ちなみにアルの予備の剣2本は僕が収納している。

 中層から下層に差し掛かる辺りは、シリウスの戦闘訓練として、ゆっくり進む。
 新しい剣での連携を確認し、さらに3人の実力ではギリギリの相手との戦闘を3人だけで行う。ブランがアルを鍛えるときにやっている方法で、ブランという絶対の安心があるからできることだ。
 そろそろ下層なのにシリウス単独でなんとか倒せているということは、Bランクに近い実力があるのだ。
 シリウスから少し休みたいと申し出があったので、休憩しようとセーフティーエリアに入った。

 飲み物と軽食を出して休憩にすると、ギリギリの戦いが続いたシリウスの3人は、緊張が切れたようで、あれは死んだと思った、あの時のおれの動き奇跡だろう、と話しながらぐったりしている。
 反省したり、アドバイスをもらったりしている3人を見ていたら、先にセーフティーエリアにいた冒険者が近づいてきた。

「氷花、だよな。俺たちホト出身なんだ」

 その言葉にみんなが警戒するのが分かる。アルは僕を背中にかばうように前に出た。

「そんなに警戒しないでくれ。お礼が言いたかっただけなんだ。俺たちもあふれの対応に行ったんだけど、物資運んでくれてありがとうな」
「孤児院出身の友達から聞いたけど、孤児院に寄付してくれたって。嫌な思いさせたのに、ありがとう」

 僕たちはあふれの対応でもらった依頼料は全て、その地方の孤児院に寄付することにしている。モクリークの孤児院出身の冒険者に、あふれの後には孤児となる子供が増え、けれどその地域全体が影響を受けているためお金だけでなく食料の寄付も減って孤児院は大変になると聞いてから、モクリークの中央教会経由で孤児院へ渡してもらっている。ブランが張り切って倒した魔物やモンスターのドロップ品で、十分な収入があるからできることなのだけど。

「どこでもやっていることだ」
「それでもさ。それが言いたかっただけだから。攻略頑張ってな」

 そう言って、そのパーティーはセーフティーエリアを出て行った。
 みんなが心配してくれるけど、僕は特に何も思わなかった。いい人もいれば悪い人もいる。

「大丈夫だよ。あの兵士だって家族を守りたくて必死だったって分かってるし、僕が昔の嫌なこと思い出してパニックになったから大事になっちゃったけど。ギルドが動いたのも、これを許したら毎回同じことが起きるからだっていうのも分かってるよ」

 アルが肩を抱いてくれる。大丈夫、きっとこの先しばらくはホトであふれは起きない。心からそう願う。

「どこでもやってるって寄付もか?」
「公表はしてないが隠してるわけでもない」
「優しいんだな」

 優しいのではなくて、価値観の違いだろう。
 僕は救助も救護もできないのに、物資を運ぶだけでかなり高額の依頼料をもらっている。依頼料のほとんどは国からだ。物資を輸送するのにかかる兵士の人数と日数から計算し、それが指名依頼という形でギルドを通して僕に入る。輸送のコストを考えれば依頼料は正当なものだけど、スキルというある意味反則技で非常時に稼ぐことに、当たり前の対価だと僕が開き直れないだけだ。この辺りのわだかまりは言っても分かってもらえないので、説明もしない。
 ちなみに、ギルドの物資輸送分は緊急時の強制依頼の料金なので、ランクで一律に決まっていて格安だ。

 それから数日シリウスの特訓をしてから下層へ進み、そこからはアルとライダーズを中心に戦闘して、最下層まで攻略した。

 ギルドで攻略の報告とドロップ品の買取をして、みんなでお屋敷に戻る。
 シリウスとライダーズは、ハザコアへの出発までここで数日休みだ。

「今回カザナラに来て、俺たちはどんなパーティーになりたいのか、考えるようになりました。俺たち、ライダーズみたいなパーティーが向いてるのかなって」
「俺たち?なんで?そんなに強くないぞ」

 ダンジョン攻略お疲れ様夕食会の途中、シリウスのパーティーリーダーであるコーチェロくんが教えてくれた。
 最初は冒険者になりたての時に会った、獣人のSランクパーティー『獣道』の強さに憧れた。でも彼らのようにそれぞれ個人がSランクになれるような強さは自分たちにはない。
 ハザコアで面倒を見てもらっているAランクパーティーの『道草』は強くなることよりも自分たちのやりたいことに重きを置いている。これ以上のランクアップも狙っていない。そういう活動方針もいいかと思っていた。
 カザナラで『ライダーズ』に会って、ギルドから氷花の護衛を頼まれるくらいだから強いんだろうと思っていたが、突き抜けた強さではなかった。けれど、依頼が終わっても氷花と上手くやっていたり、地元のパーティーとすぐに打ち解けたり、戦闘もそつなくこなして、こういうところでギルドの信頼を得ているんだと思った。

「そういうなんでもできるパーティーになりたいなって」
「俺たちただの器用貧乏だと思うけど、そんな風に評価してもらえて嬉しいよ」
「お前たちならなれるだろう。ユウも最初からあまり警戒してなかったし」
「今までダンジョンばかりだったんですけど、ハザコアに帰ったら商人の護衛の依頼とかも受けてみようかって」
「今回ギルドが俺たちを選んだのは、護衛や貴族の依頼を何度も受けていたからだと思う。今のうちにいろいろ受けておくといいぞ。高ランクにいろいろ教えてもらえるからな」

 僕のせいで貴族に目をつけられてしまっているけど、商人は大丈夫なのだろうか?と心配したけど、商人は僕たちの印象が悪くなると分かっているのに、手を出したりはしないらしい。そういう機微に疎い商人は生き残れない。

「あいつらは利に敏いから、繋がりを持てる機会は逃さないだろうが、それ以上はしてこないさ。ただし、ハニートラップは気をつけろよ」
「恋人ほしいのに……」

 本当にごめんね。


 今日は、シリウスのみんなの出発の日だ。
 お屋敷の料理人が作ってくれた日持ちする食料も持って、ハザコアへ帰る。キトキガまでは、タダ乗りする代わりにと、ライダーズが御者をしてくれる。

「ハザコアに会いに行くね」
「なんかあったらまた呼んでくれ。俺たちは何もできないけど」
「そんなことないよ、来てくれて嬉しかった。帰り道気を付けてね」

 遠くなる馬車に手を振る。相変わらず冒険者のあっさりした別れは慣れない。この世界は、交通も通信手段も発達してないからなおさらだ。
 また会いに行こう、アルが優しく頬と髪を撫でてくれるので、ぴったりと抱き着く。
 この寂しさを温もりで埋めてほしい。
 アルがそっと抱きしめてくれた。

 シリウスの3人と初めて会ったときは、彼らは冒険者に登録したばかりで、まだ幼さが残る感じだったのに、今やしっかりした冒険者だ。
 そして自分たちの将来を堅実に考え、出会いの中で目標を見つけた。僕も負けていられない。

 もうすぐ僕たちもカザナラを離れる。
 夏の終わりからここにいるのだから、そろそろどこかへ移動してダンジョン攻略をしよう。
 次はケイネイギに行くことに決めた。林に囲まれた修道院が有名らしく、行ってみたかったところの1つだ。
 ダンジョン攻略もだけど、いろんなところに行ってみたい。この世界を見てみたい。

 僕は今、この世界で生きている。
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