33 / 181
4章 もう一つのスキル
4-2. この世界で生きていく努力
しおりを挟む
ニザナからカザナラへと、途中の街を拠点に周りのダンジョンも攻略ながら、少しずつ進み、カザナラに着いたときは、季節がひとつ移ろっていた。
別荘は内装工事も終わり、使用人も揃っているという。
完成した馬車で、別荘へと乗り入れる。
お屋敷に入ると、使用人が勢揃いして、お帰りなさいませ、と頭を下げた。どう振る舞ってよいのかわからず、ちょっとずつアルの後ろに隠れるように移動していたら、アルに捕まった。
これからよろしく頼む、というアルの横で、頭を下げたら、サジェルさんから使用人に頭を下げる必要はないと、指摘される。玄関ですでに心が折れそうです。
まずはお部屋へ、と案内されたのは、日当たりのいい2階の広い部屋だ。広いバルコニー、広いトイレ、広い寝室、広いお風呂、広いウォークインクローゼットがついている。トイレが広い必要性が、一般庶民の僕には分からない。センスのいい落ち着いた色調で統一されていて、それだけは僕の要望が通ったみたいだ。
次に執務室へ、と1階の書斎のような部屋に案内された。
だれがお仕事するんだろう?と思いながら、棚に並べられた本を眺めていたら、サジェルさんから質問された。1度のダンジョン攻略における収支を把握しているか、と。
知らない。ブランのお肉をたくさん買って、ドロップ品のお金がたくさん入ってくる。入ってくる方が多いから、困っていない。
アルも細かいことは把握してないみたいだ。僕たちふたりでどんぶり勘定だな。執事ってこんなこともしてくれるんだ。
「サジェルさんにお任せします」
「ユウ様、使用人に対しては、」
「サジェル、ユウの言動には口を出すな。先に風呂の準備を。ユウ、悪かった。宿に移動するか?」
サジェルさんの言葉に僕が委縮してしまったのを感じたアルが、優しく抱き込んで背中をなでてくれるので、僕は首を振った。
「大丈夫。でも僕が思ってた家は、あの部屋くらいの大きさで、アルとブランと3人だけで住むんだって」
「冒険者を引退したら、そういう家に住もう。ここの使用人とは俺がやり取りするから、ユウはしなくていいから」
「でも」
「ユウ、ユウがくつろげるようにするのが彼らの仕事だ。彼らがいるとユウはくつろげないだろう?」
「そうだけど」
「サジェルには、必要だと思うことは指摘するように言ってあったから、ああいう態度になってしまった。すまない」
違う。僕がこの世界の常識に馴染めないのがいけないのだ。
僕は、身分というものがうまく飲みこめない。法の下に人は平等なのだと、そうなくてはならないのだと、15年間教えられて育ったのだ。頭ではこの世界のルールなのだと分かっていても、根付いた考え方は抜けない。
僕が王族や貴族を避けている理由はこれだ。全く意識していないところで、地雷を踏みそうで怖い。
僕が日本とこの世界のずれに戸惑っているときは、僕がこの世界に合わせなくていいように、アルがフォローしてくれる。それは日本に帰るのを諦めきれない僕への配慮なのだろう。だけどいつまでも甘えててはいけないと思う。
少しずつ、この世界で生きていく努力をしていこう。
「アルは僕がこういうことに慣れる必要があると思ってるんでしょう?」
「ああ。だが急ぎすぎた。悪い」
「アル、教えて。なんで必要だと思ったのか、何に慣れたほうがいいのか」
アルが、説明してくれた。
この別荘を買ったのは、ここがもともと王族の持ち物だからだ。今まで国と直接かかわりを持つのを避けてきた僕たちだが、国とも良好な関係だと他の国へのアピールになる。
そして今後はあふれの対応で各地の領主と会うことが増える。普段接触は禁止されているが、あふれの時だけは会えるのだから、取り込むためにあの手この手で来る可能性がある。その時に足元をすくわれないように、貴族の内情に詳しいものが欲しかった。それがサジェルだ。おそらくそのために王が送り込んできていると思っている。
ユウには、貴族が近づいてきても、上手くかわせるようになってほしい。
「ありがとう。アルにばっかり負担かけてごめんなさい。これからは頑張るね」
「少しずつな。まずは風呂に入るか?」
「入る!」
難しいことは全部棚上げして、広いお風呂は最高でした!
アルとサジェルと、今後について決めた。
まず、サジェルと呼び捨てにすること。
僕たちの滞在中、部屋には使用人は入らないこと。食事は部屋ですること。
僕たちの資産の管理をサジェルに任せるため、ギルドカードの残高をサジェルも照会できるようにし、僕たちが大きな金額を動かすときはサジェルに伝えること。
貴族相手に対応に困ったときは「後程連絡する」と言って返答しないで、すぐサジェルに知らせること。
僕が狙われるのはアルと離れた時で、押しに弱いと気付かれて、ごり押しされる可能性が高いらしい。
また、従魔になにかをされたといってくる可能性もあるので、ブランと使用人などが僕の見ていないところで接近しないように気をつけなければいけないらしい。ブランが僕から離れることはないので、それは問題ない。ブランが僕から目を離せない、という理由で。
「ブランはこのお屋敷気に入った?」
『宿より部屋が広いのはいいな』
「明日は庭でのんびりしようか」
ブランが気に入ってくれたなら、嬉しい。
僕は3つスキルを持っている。アイテムボックス、付与、テイムだ。
テイムはブランと契約したおまけらしいので、一生出番はない。ブラン以外とも契約できるらしく、もふもふ天国が作れる!と思ったけど、猫もいいよねっと言ったらブランに白い目で見られたので諦めた。悔しくなんかない。
僕は、この世界に迷い込んで5年たって、付与スキルを伸ばしていく決意を初めてした。この世界でアルとブランと生きていくために。
かつてカイドのギルドで武器への付与を強制されていて、その時の嫌な記憶があるので、武器の付与はもうやりたくない。他の付与を使えるようになりたい。
でも付与スキルを使いこなすためにはまず、魔力操作訓練、無属性魔法の練習、そして付与魔法の練習をする必要がある。
付与は、紋を対象に書いて、魔法を発動させる。紋は意味を持つものではなく、各自が好きに作ってよい、ただの記号だ。
発動する魔法の種類を決めるのは何かというと、紋を書くときに乗せる魔力である。発動させたい魔法を魔力に乗せる。それはつまり、自分が発動できない魔法を付与することはできない、ということを意味する。
僕には付与スキルがあるので、魔力を乗せて紋を書くという部分はできる。けれど、紋に乗せる魔法は、自分が発動できる魔法に限られ、その部分にはスキル補正がかからない。自分で習得するしかないのだ。
この世界、ファンタジーならもうちょっとイージーモードでいいんじゃないの?と思うことがときどきある。
では僕が発動できる魔法にはなにがあるのか。それには魔法の属性が関わる。
魔法には風水土火といった属性と、属性をもたない無属性があり、属性魔法は魔素に属性を付け加え、無属性魔法は魔素をそのまま使用する。
魔素をそのまま扱うことは皆大なり小なり出来るが、魔素に属性を付けられるかどうかは人によって異なり、できる属性のことを適性がある属性と呼ぶ。
アルは火魔法スキルを持っているので、魔素に火属性を付け加えることができるが、風属性にも適性があり、火魔法ほどではないが風魔法も使える。
では僕はというと、ブランによれば水属性にかろうじて適性があるが、他は全く適性はないらしい。ブランと契約したことで氷属性がついているが、これは契約を解除すると使えなくなる。つまり僕が発動できる魔法は、誰でも使える無属性魔法と、ブランのおこぼれの氷魔法だ。水魔法は、頑張れば少しは使えるかもしれない、くらい。
ちなみにブランは氷を司る神獣なので氷属性の魔法が得意だが、そもそも魔法全般に関して神様チートだ。
次に魔法を発動させるためには、魔力操作が必要になる。
魔法を発動させるためには、魔力を体外に出力する必要があり、出力量や継続時間を調整して威力や効果範囲を変えていく。この量や時間を自由自在に操れるようになることが、まず最初の難関である。ここを補正してくれるスキルはない。
日常でちょっとした魔法を使うくらいなら魔力を体外に出せるようになるだけでいいが、戦闘で使うためには、出力も時間もコントロールして節約していかないと、魔力が枯渇してしまう。
この魔力操作訓練、僕はかなり苦戦した。早ければ数日、遅くても2週間もあれば体外に魔力を出せるようになるらしいのだが、1月以上かかった。体外に出せるようになってからも、コントロールが上手くいかなかった。最近やっとコントロールできるようになってきたところだ。
魔力操作ができるようになって、やっと魔法を発動する許可が出た。
といっても、ずっと使いたかったクリーンと、明かりのライトだけだ。コントロールが完全ではないので、暴発すると危険な魔法の許可は出ていない。
ライトは、ただ光るだけで、失敗しても眩しすぎて目が痛くなる以外の危険がなく、持続時間や明るさの調整などの発動結果が見やすいので、初心者の練習によく使われる無属性魔法だ。浄化などの効果が付く光魔法とは異なる。
どういう魔法の効果を出すか、それはイメージするだけなので簡単なのだが、同じ明るさで同じ場所に一定時間明かりを出しておく、それが魔力操作が苦手な僕には難しい。明滅したり、明かりがどこかに行っちゃったり、すぐ消えたりするのだ。
ライトの魔法が発動するようになったところで、付与魔法の練習も始まった。
小さな無属性の魔石に、ライトを付与する。魔石はダンジョンのドロップ品を大量に持っているので、元手を気にせず練習できる。付与魔法スキルを持つ多くの人が、貴族の支援を受けているのは、この魔石など魔力を内包するものを手に入れるのが大変だからだ。
魔石が光る、その光量と時間を調整するために、紋に乗せる魔力を調整しなければならないが、これも魔力操作だ。
結局のところ、基礎である魔力操作が上手くできないので、魔法の発動も上手くいかないし、付与も安定しない。何事も基礎が大事、練習あるのみである。つらい。
「魔力のないところで育ったのに、ユウは頑張ってる」
アルが褒めてくれるから、もうちょっと頑張ろう。僕は褒められて伸びるタイプだったようだ。
カイドでの武器付与では、付与スキルが補正して紋を書くときに乗るわずかな魔力に、武器の強化の無属性魔法がなんとなく乗っていたようだ。とういことは効果も推して知るべしである。武器への付与は二度とやりたくないが、アルの防具になら付与をしてもいいかも。
ところで、僕には付与を使って作りたいものがあった。「時間停止のマジックバッグ」である。
僕が、というよりも、アイテムボックススキル保持者が狙われるのは、時間が停止する容量無制限の収納を持っているからだ。時間停止のマジックバッグを作れるようになって普及すれば、きっと狙われることもなくなる。だから作りたかったのだ。
けれど、時間停止のマジックバッグを作るには、時間や空間に干渉する魔法が必要だ。しかし、時間や空間に干渉する魔法は人には使えない。そして、自分の使えない魔法は付与できない。諦めるしかなかった。
今目標にしているのは、「クリーン」の付与だ。テントや部屋にクリーンを付与できれば、お掃除いらず手間いらずだ。
テントは布なので、殆ど魔力を内包しておらず付与魔法の対象ではないが、付与スキルなら付与できる。だが、魔力の乗せ方がより難しい。
とにかく練習あるのみだ。
別荘は内装工事も終わり、使用人も揃っているという。
完成した馬車で、別荘へと乗り入れる。
お屋敷に入ると、使用人が勢揃いして、お帰りなさいませ、と頭を下げた。どう振る舞ってよいのかわからず、ちょっとずつアルの後ろに隠れるように移動していたら、アルに捕まった。
これからよろしく頼む、というアルの横で、頭を下げたら、サジェルさんから使用人に頭を下げる必要はないと、指摘される。玄関ですでに心が折れそうです。
まずはお部屋へ、と案内されたのは、日当たりのいい2階の広い部屋だ。広いバルコニー、広いトイレ、広い寝室、広いお風呂、広いウォークインクローゼットがついている。トイレが広い必要性が、一般庶民の僕には分からない。センスのいい落ち着いた色調で統一されていて、それだけは僕の要望が通ったみたいだ。
次に執務室へ、と1階の書斎のような部屋に案内された。
だれがお仕事するんだろう?と思いながら、棚に並べられた本を眺めていたら、サジェルさんから質問された。1度のダンジョン攻略における収支を把握しているか、と。
知らない。ブランのお肉をたくさん買って、ドロップ品のお金がたくさん入ってくる。入ってくる方が多いから、困っていない。
アルも細かいことは把握してないみたいだ。僕たちふたりでどんぶり勘定だな。執事ってこんなこともしてくれるんだ。
「サジェルさんにお任せします」
「ユウ様、使用人に対しては、」
「サジェル、ユウの言動には口を出すな。先に風呂の準備を。ユウ、悪かった。宿に移動するか?」
サジェルさんの言葉に僕が委縮してしまったのを感じたアルが、優しく抱き込んで背中をなでてくれるので、僕は首を振った。
「大丈夫。でも僕が思ってた家は、あの部屋くらいの大きさで、アルとブランと3人だけで住むんだって」
「冒険者を引退したら、そういう家に住もう。ここの使用人とは俺がやり取りするから、ユウはしなくていいから」
「でも」
「ユウ、ユウがくつろげるようにするのが彼らの仕事だ。彼らがいるとユウはくつろげないだろう?」
「そうだけど」
「サジェルには、必要だと思うことは指摘するように言ってあったから、ああいう態度になってしまった。すまない」
違う。僕がこの世界の常識に馴染めないのがいけないのだ。
僕は、身分というものがうまく飲みこめない。法の下に人は平等なのだと、そうなくてはならないのだと、15年間教えられて育ったのだ。頭ではこの世界のルールなのだと分かっていても、根付いた考え方は抜けない。
僕が王族や貴族を避けている理由はこれだ。全く意識していないところで、地雷を踏みそうで怖い。
僕が日本とこの世界のずれに戸惑っているときは、僕がこの世界に合わせなくていいように、アルがフォローしてくれる。それは日本に帰るのを諦めきれない僕への配慮なのだろう。だけどいつまでも甘えててはいけないと思う。
少しずつ、この世界で生きていく努力をしていこう。
「アルは僕がこういうことに慣れる必要があると思ってるんでしょう?」
「ああ。だが急ぎすぎた。悪い」
「アル、教えて。なんで必要だと思ったのか、何に慣れたほうがいいのか」
アルが、説明してくれた。
この別荘を買ったのは、ここがもともと王族の持ち物だからだ。今まで国と直接かかわりを持つのを避けてきた僕たちだが、国とも良好な関係だと他の国へのアピールになる。
そして今後はあふれの対応で各地の領主と会うことが増える。普段接触は禁止されているが、あふれの時だけは会えるのだから、取り込むためにあの手この手で来る可能性がある。その時に足元をすくわれないように、貴族の内情に詳しいものが欲しかった。それがサジェルだ。おそらくそのために王が送り込んできていると思っている。
ユウには、貴族が近づいてきても、上手くかわせるようになってほしい。
「ありがとう。アルにばっかり負担かけてごめんなさい。これからは頑張るね」
「少しずつな。まずは風呂に入るか?」
「入る!」
難しいことは全部棚上げして、広いお風呂は最高でした!
アルとサジェルと、今後について決めた。
まず、サジェルと呼び捨てにすること。
僕たちの滞在中、部屋には使用人は入らないこと。食事は部屋ですること。
僕たちの資産の管理をサジェルに任せるため、ギルドカードの残高をサジェルも照会できるようにし、僕たちが大きな金額を動かすときはサジェルに伝えること。
貴族相手に対応に困ったときは「後程連絡する」と言って返答しないで、すぐサジェルに知らせること。
僕が狙われるのはアルと離れた時で、押しに弱いと気付かれて、ごり押しされる可能性が高いらしい。
また、従魔になにかをされたといってくる可能性もあるので、ブランと使用人などが僕の見ていないところで接近しないように気をつけなければいけないらしい。ブランが僕から離れることはないので、それは問題ない。ブランが僕から目を離せない、という理由で。
「ブランはこのお屋敷気に入った?」
『宿より部屋が広いのはいいな』
「明日は庭でのんびりしようか」
ブランが気に入ってくれたなら、嬉しい。
僕は3つスキルを持っている。アイテムボックス、付与、テイムだ。
テイムはブランと契約したおまけらしいので、一生出番はない。ブラン以外とも契約できるらしく、もふもふ天国が作れる!と思ったけど、猫もいいよねっと言ったらブランに白い目で見られたので諦めた。悔しくなんかない。
僕は、この世界に迷い込んで5年たって、付与スキルを伸ばしていく決意を初めてした。この世界でアルとブランと生きていくために。
かつてカイドのギルドで武器への付与を強制されていて、その時の嫌な記憶があるので、武器の付与はもうやりたくない。他の付与を使えるようになりたい。
でも付与スキルを使いこなすためにはまず、魔力操作訓練、無属性魔法の練習、そして付与魔法の練習をする必要がある。
付与は、紋を対象に書いて、魔法を発動させる。紋は意味を持つものではなく、各自が好きに作ってよい、ただの記号だ。
発動する魔法の種類を決めるのは何かというと、紋を書くときに乗せる魔力である。発動させたい魔法を魔力に乗せる。それはつまり、自分が発動できない魔法を付与することはできない、ということを意味する。
僕には付与スキルがあるので、魔力を乗せて紋を書くという部分はできる。けれど、紋に乗せる魔法は、自分が発動できる魔法に限られ、その部分にはスキル補正がかからない。自分で習得するしかないのだ。
この世界、ファンタジーならもうちょっとイージーモードでいいんじゃないの?と思うことがときどきある。
では僕が発動できる魔法にはなにがあるのか。それには魔法の属性が関わる。
魔法には風水土火といった属性と、属性をもたない無属性があり、属性魔法は魔素に属性を付け加え、無属性魔法は魔素をそのまま使用する。
魔素をそのまま扱うことは皆大なり小なり出来るが、魔素に属性を付けられるかどうかは人によって異なり、できる属性のことを適性がある属性と呼ぶ。
アルは火魔法スキルを持っているので、魔素に火属性を付け加えることができるが、風属性にも適性があり、火魔法ほどではないが風魔法も使える。
では僕はというと、ブランによれば水属性にかろうじて適性があるが、他は全く適性はないらしい。ブランと契約したことで氷属性がついているが、これは契約を解除すると使えなくなる。つまり僕が発動できる魔法は、誰でも使える無属性魔法と、ブランのおこぼれの氷魔法だ。水魔法は、頑張れば少しは使えるかもしれない、くらい。
ちなみにブランは氷を司る神獣なので氷属性の魔法が得意だが、そもそも魔法全般に関して神様チートだ。
次に魔法を発動させるためには、魔力操作が必要になる。
魔法を発動させるためには、魔力を体外に出力する必要があり、出力量や継続時間を調整して威力や効果範囲を変えていく。この量や時間を自由自在に操れるようになることが、まず最初の難関である。ここを補正してくれるスキルはない。
日常でちょっとした魔法を使うくらいなら魔力を体外に出せるようになるだけでいいが、戦闘で使うためには、出力も時間もコントロールして節約していかないと、魔力が枯渇してしまう。
この魔力操作訓練、僕はかなり苦戦した。早ければ数日、遅くても2週間もあれば体外に魔力を出せるようになるらしいのだが、1月以上かかった。体外に出せるようになってからも、コントロールが上手くいかなかった。最近やっとコントロールできるようになってきたところだ。
魔力操作ができるようになって、やっと魔法を発動する許可が出た。
といっても、ずっと使いたかったクリーンと、明かりのライトだけだ。コントロールが完全ではないので、暴発すると危険な魔法の許可は出ていない。
ライトは、ただ光るだけで、失敗しても眩しすぎて目が痛くなる以外の危険がなく、持続時間や明るさの調整などの発動結果が見やすいので、初心者の練習によく使われる無属性魔法だ。浄化などの効果が付く光魔法とは異なる。
どういう魔法の効果を出すか、それはイメージするだけなので簡単なのだが、同じ明るさで同じ場所に一定時間明かりを出しておく、それが魔力操作が苦手な僕には難しい。明滅したり、明かりがどこかに行っちゃったり、すぐ消えたりするのだ。
ライトの魔法が発動するようになったところで、付与魔法の練習も始まった。
小さな無属性の魔石に、ライトを付与する。魔石はダンジョンのドロップ品を大量に持っているので、元手を気にせず練習できる。付与魔法スキルを持つ多くの人が、貴族の支援を受けているのは、この魔石など魔力を内包するものを手に入れるのが大変だからだ。
魔石が光る、その光量と時間を調整するために、紋に乗せる魔力を調整しなければならないが、これも魔力操作だ。
結局のところ、基礎である魔力操作が上手くできないので、魔法の発動も上手くいかないし、付与も安定しない。何事も基礎が大事、練習あるのみである。つらい。
「魔力のないところで育ったのに、ユウは頑張ってる」
アルが褒めてくれるから、もうちょっと頑張ろう。僕は褒められて伸びるタイプだったようだ。
カイドでの武器付与では、付与スキルが補正して紋を書くときに乗るわずかな魔力に、武器の強化の無属性魔法がなんとなく乗っていたようだ。とういことは効果も推して知るべしである。武器への付与は二度とやりたくないが、アルの防具になら付与をしてもいいかも。
ところで、僕には付与を使って作りたいものがあった。「時間停止のマジックバッグ」である。
僕が、というよりも、アイテムボックススキル保持者が狙われるのは、時間が停止する容量無制限の収納を持っているからだ。時間停止のマジックバッグを作れるようになって普及すれば、きっと狙われることもなくなる。だから作りたかったのだ。
けれど、時間停止のマジックバッグを作るには、時間や空間に干渉する魔法が必要だ。しかし、時間や空間に干渉する魔法は人には使えない。そして、自分の使えない魔法は付与できない。諦めるしかなかった。
今目標にしているのは、「クリーン」の付与だ。テントや部屋にクリーンを付与できれば、お掃除いらず手間いらずだ。
テントは布なので、殆ど魔力を内包しておらず付与魔法の対象ではないが、付与スキルなら付与できる。だが、魔力の乗せ方がより難しい。
とにかく練習あるのみだ。
41
お気に入りに追加
1,134
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる