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4. ハザコアの街に移動

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 テシコユダハで冒険者になって3年、俺たちはCランクになっている。
 パーティー名は「シリウス」に決めた。冬の空に輝くオオカミの目に例えられる明るい星だ。俺が狼の獣人だから連想しやすくて覚えてもらいやすいだろう、という理由で決まった。

 本当はあと1, 2人くらいメンバーを増やしたいのだが、気の合うやつがいなくて、3人パーティーだ。いいかもと思うやつも、お試しでダンジョンに潜ると、俺たちが慎重すぎる、臆病すぎる、と断られてしまう。
 初めてダンジョンに潜ったときに獣道から言われたことを守って、避けられる危険は避ける、まだ行けると思ううちに引き返す、をモットーに活動しているから、確かに慎重すぎるのかもしれないが、俺たちは冒険者を引退したら、生まれた村のツシタムに戻って長生きすると決めている。無謀なことはごめんだ。

 このままテシコユダハにいても、新しいメンバーは入りそうにないし、ここには中級ダンジョンしかないからいずれは上級ダンジョンのある街へ移動する予定でいる。それなら今でもいいだろうと、上級ダンジョンのある街への移動を決めた。
 移動先の街は、ここと王都ニザナの間にあるハザコアの街だ。故郷からは遠くなってしまうので、一度3人で故郷に帰って、それから出発だ。

 ハザコアはとても大きな街だった。故郷の村に比べれば、テシコユダハも大きいと思ったが、比じゃなかった。周辺にダンジョンもたくさんある。
 まずは冒険者ギルドに行き、宿を紹介してもらい、ダンジョンに潜る冒険者用の安宿をとって、屋台に繰り出した。

「すげえな。屋台がたくさんあるぞ」
「屋台も高いな」
「旅の間の食料も結構かかったし、とりあえずダンジョン行って稼がないとな」

 翌日、朝の依頼を受ける冒険者の落ち着いたタイミングで、受付の職員に声をかける。
 テシコユダハから移動してきたこと、俺たちの戦闘スタイル、いままで倒して来たモンスターなどを伝えて、どこのダンジョンが稼げるか相談する。ギルドは管轄のダンジョンの情報を持っているので、こういう相談には的確に答えてくれる。穴場などの冒険者が秘匿している情報は持っていないが、おれたちはそういう一攫千金を狙わないので関係ない。
 いくつか勧められたダンジョンのうち、最初に行くダンジョンを決め、モンスターの情報を頭に入れた。

 ダンジョンも多く、冒険者も多いので、あまり知り合いの冒険者に会わないのか、セーフティーエリアは静かだ。テシコユダハでは顔見知りが多かったので、パーティーエリアは情報交換でにぎやかだったが、ここではほかのところで情報収集する必要がありそうだ。
 最初なので慎重に、そこそこドロップ品を集めたところで切り上げた。

 ハザコアでも、メンバー集めは上手くいかなかった。むしろ悪くなった気がする。同じくらいの実力のやつらに、チキンパーティーだ、お前ら狼じゃなくて鶏だろう、と言われるようになってしまった。ハザコアはここで一旗揚げて王都ニザナに行くぞ、という向上心の強い冒険者が多いようだ。テシコユダハは田舎だったからか、のんびりしていたんだなと、ここにきて気付いた。

 その代わりに、Aランクの『道草』というパーティーに、荷物持ちとして連れて行ってもらえるようになった。彼らはランクアップに興味がなく、自分のやりたいことだけやる冒険者の集まりだ。道草ばっかり食っている、というのがパーティー名の由来で、攻略に重きを置いていないがために、下層に行かないからと荷物持ちを断られることもあるらしい。
 俺たちには、戦闘は勉強になるし、冒険者としてこういう生き方もあるんだと知れたのもよかった。それに、道草の荷物持ちをしているうちに、他の高ランクのパーティーからも荷物持ちに呼んでもらえるようになった。最下層攻略の荷物持ちをしたいパーティーはたくさんいるが、中層のドロップ品を狙うようなときにはなかなか見つからず、重宝してもらっている。そういう時は、俺たちも戦闘に参加させてもらえることもあり、アドバイスを貰えたりもするので、おいしい。
 だが同年代からは荷物持ち専門のパーティーだと言われるようになって、メンバー集めはもう諦めた。

 冒険者はだいたい、登録から1~2か月でEランクに昇格する。Eランクは依頼を規定回数こなすだけで上がれるので、難しくはない。だいたい半年後にはDランクに昇格するための依頼の規定回数を終えられるが、Dランクになるにはギルドで戦闘試験を受けて合格しなければならない。これも半年真面目に訓練していれば、普通は合格できる。Dランクになると、自分たちだけでダンジョンに入れるようになるので、冒険者はまずDランクになることを目指すのだ。
 次に1人前とされるCランクにあがるのに、2~5年かかる。5年かかってもCランクになれない場合は、適性がないので冒険者をやめたほうがよいと考えられている。そしてCランクからは、あふれの対応に強制参加である。
 多くの人は成人して5年くらいでCランクにはなれるが、半数以上はそこから上がれずに冒険者生活を終える。
 努力を続けた者はBランクに上がれるが、Aランクに上がれるのはその中でもたゆまぬ努力を続けたものだけである。ましてやSランクは飛びぬけた強さがなければなれない。

 アイテムボックス持ちの戦闘奴隷が契約を終了し、その後Sランクになり、2人でパーティーを組んだという噂は、冒険者の間で一気に広まった。
 それならSランクになれば自分もパーティーに入れてもらえるのではないかと、Sランクを目指すものも出てきた。ユウくんを知る身としては、あの気の弱いユウくんが、たくさんのパーティーメンバーに囲まれているところが想像できない。今でもアルさんの後ろに隠れていそうだ。
 また、ユウくんと契約したときはBランクだったアルさんが3年でSランクになったのは、アイテムボックス持ちおかげではないか、ギルドに優遇されているのではないか、なにか秘密があるんじゃないかという噂も流れていた。
 ユウくんの動向は、冒険者の間ではすぐに噂として駆け巡る。
 しばらくして、フスキのダンジョンがあふれ、ユウくんがあふれの物資輸送をしたというのも耳に入ってきた。いよいよ200年周期が始まるのだろう。


 雪が積もり始めた冬の始まりに、ハザコアのギルドから、ユウくんがハザコアに来るが、絡んだら追放する、という通達があった。ニザナを出て、あちこちのダンジョンを攻略して回る予定で、その最初がハザコアらしい。
 街中は大騒ぎだ。特に冒険者は、どうやったら仲良くなれるか、パーティーに入れてもらうにはどうすればいいか、あーでもない、こーでもないと話している。

「ユウくん、ハザコアに来るんだね」
「大きい街だし会わないだろう。向こうももう忘れてるんじゃないか」
「槍は上手くなったのかな」
「無理だろ」

 そんな話はしたが、俺たちには関係ないと、いつもの日常に戻った。
 
 3人だけで中級ダンジョンの中層に潜るときは、7日間くらい潜って、その後2日休みにする。ダンジョンを出て街まで歩いて帰り、門が見えてきたあたりで、周りがざわつき始めた。何だろうと後ろを見たら、大きなウルフに乗った2人組が近づいてくる。
 あれは間違いなくユウくんだな。それに、俺たちのほうに向かってきてる。

 お久しぶり、と挨拶された。どうやら覚えられていたようだ。そして俺の耳と尻尾を見ている。ユウくんが覚えていたのは、俺ではなくて耳と尻尾かもしれない。
 アルさんも戦闘奴隷の契約は終わって今はパーティーメンバーだと自己紹介してくれるが、噂で知ってる。
 コーチェロが、ギルドからの通達が出てることを伝えると、こうして話していると俺たちが他の冒険者の妬みを買うのではないかと心配してくれた。過去にそういうトラブルがあったんだろうか。テシコユダハの時と違ってCランクだし、まあ何とかなるだろう。
 ユウくんは相変わらず槍は上達せず、最近は弓を使っているが、動いてる的に当てられないらしい。もう戦闘するの諦めればいいのに。そのウルフがいれば大丈夫だろ。とは思うが、本人がやりたいみたいなので、上達するように祈っておくよ。
 そんな近況報告をしながら、ギルドまで案内した。

 ギルドに入ると、連絡が来ていたのか職員が待っていたので、そこで別れ、買取カウンターへ行く。混雑する時間のため列に並ぶと、案の定周りからユウくんのことを聞かれる。
 コーチェロが、テシコユダハにいた時に少し話したことがあるから道案内をしただけだと説明しているが、どういう知り合いだ、何を話していたんだと、周りがうるさい。中には紹介してくれと言ってくるものもいる。

 だから、テシコユダハのギルドで顔見知りだったくらいで話したことはほとんどないって言ってんだろう。テシコユダハだって、絡んだら追放って通達が出てたんだ。ほとんど話したことないって。話したいなら自分たちで話しかけろ。

 答えても答えても同じことを聞かれる。うっとおしい、と思っていたら、ギルドの職員に呼ばれ、会議室で買い取りの手続きをすることになってしまった。
 めんどくさいので聞かれる前に、答えておく。

「アイテムボックス持ちとはテシコユダハの槍の初心者講習で一緒になったので顔見知りです。門の近くで話しかけられたのでギルドまで案内しました」
「ここ1年くらい君たちを見ているからね、疑ってはいないよ。ただ周りは引かないだろうからこっちに呼んだんだ」
「テシコユダハだとみんな追放をおそれて遠巻きにしていたので、紹介してくれってのにはちょっと驚きました」
「ここは野心の強い冒険者が多いから。剣士がパーティーメンバーになったことで、自分もと思う者たちがいるんだよ。身の程も知らずにね」

 俺たちが疑われているのではなく、周りから俺たちを守るために会議室に呼んでくれたらしい。そんなふうにギルドに認められていてちょっと嬉しい。そして、ギルドの職員が意外と辛辣だ。

 買い取りは無事に終わった。
 本来冒険者同士の争いにはギルドは関与しないが、ユウくんに関することでしつこくされるようならギルドに相談してもいいと言ってもらえて、安心して会議室を出る。話しかけられるのを無視して進めばさすがについてこられるようなこともなかったが、宿でもあれこれ聞かれた。ただ泊っている宿が安宿なのもあって高ランクはいないので、どちらかというと世間話として聞きたいという感じなので、こちらは話に付き合ってやった。といっても詳しく話せるほどユウくんのこと知らないけどな。

 うっとおしい周りをかわしながら、ダンジョンに潜る。さすがにこの状況では何をされるか分からないので、人の少ないところには行かないようにしようと3人で決めた。
 今まで話しかけても来なかったパーティーから一緒に潜ろうと誘われるが、目的があからさますぎてお断りだ。数回しか付き合いのない高ランクパーティーからの荷物持ちの依頼も、申し訳ないが断った。
 3人だけで、帰りにユウくんと会った中級ダンジョンの中層に潜るが、何かあると怖いので、いつもより浅い層までした。その間にユウくんは別の中級ダンジョンに行ったので、ダンジョンから戻ったころには俺たちに絡んでくるやつもいなくなって、それからはいつも通りにダンジョンに潜っている。
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