狼くんは耳と尻尾に視線を感じる

犬派だんぜん

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2. 獣人のSランクパーティー

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 3週目からは座学がなくなり、街の外へ出ての午後までかかる訓練で、3週目が森、4週目がダンジョンだ。
 森での訓練は、薬草採取、森の浅いところでの魔物狩りで、講師と護衛の冒険者がついていて安全だ。希望すれば野営訓練にも参加できる。薬草と魔物は買い取ってもらえるので、講習が終わって宿をとるときの資金にできると全員参加している。
 単独での魔物の討伐は初めてだったけど、アルさんと訓練できたので、浅いところで出る魔物のほうが弱くて、余裕を持って対応できた。

 ユウくんは、すでにこの街に来る間にウルフが狩った魔物を買い取ってもらったりしているので、この訓練は必要なさそうだけど、参加している。アルさんの後ろに隠れて、ウルフがぴったりくっついているが、森に出て戦闘できるんだろうか。
 と思ったら、薬草はウルフが見つけていたし、魔物もウルフがどこからか咥えてきた。ユウくんはウルフに抱き着いて、何か独り言を言っているが、会話になっているようなので、テイマーだと従魔の言葉が聞こえるのかもしれない。
 従魔って頭いいんだなと呟いたら、護衛の冒険者に、あの従魔が特殊なんだと返された。Bランクのアルさんより強いらしいし、特殊個体なのかもしれない。俺が臆病なわけじゃないと分かって安心した。

 野営の訓練に参加している人は半分弱で、テントが用意できた人が参加している感じだ。テントを張る場所の決め方、野営中の見張りの仕方など、かなり勉強になったので参加してよかった。
 テントは後で買う予定だったので参加するつもりはなかったが、参加したほうが良いとアドバイスしてくれたのはアルさんだ。最初の野営が自分たちだけだとかなり心細いので、もしテントが用意できるなら参加したほうが良いと言われたのだ。それを聞いて、防具を先に買おうと思っていた俺たちは予定を変えたのだが、確かにこれを明かりのない森の中で教えてくれる人もなくやるのは避けたい。アドバイス貰ってよかった。

 4週目はダンジョンだ。参加者全員、これを楽しみにしていた。
 ダンジョンに入るにはランク制限があり、自分たちだけではDランクになるまで入れないし、荷物持ちとして入れるのもEランクからなので、Fランクでダンジョンに入れるのは特例だ。初級ダンジョンで、入り口から2階層しか進まないが、それでもダンジョンに入るというだけでワクワクする。周りの受講者たちもソワソワしている。
 ダンジョンの中は地下なのに明るい、不思議な空間だ。モンスターは生き物に寄ってくるのが、通常はダンジョンの外には出られない。またダンジョン内にはセーフティーエリアと呼ばれる、モンスターが入ってこれないエリアがあるので、そこに逃げ込むのも有効だ。
 2階層進んで、セーフティーエリアに入って休憩し、入り口に戻って今日の探索は終了だ。モンスターは護衛の冒険者が倒したし、セーフティーエリアまでの見学して帰ってくるだけだった。
 ユウくんは、ウルフとアルさんに守られて、一番後ろからついてきていた。ユウくんは、緊張感なくダンジョン内をきょろきょろと見ているが、アルさんは今までダンジョンにも潜った経験があるだろうし、楽勝なんだろう。
 明日からは、ダンジョンでも森でも好きにして良いが、ダンジョンに入ってもあまり訓練にはならなさそうなので、森の薬草採取に行くことにした。


 こうして、ユウくんと関わるというイレギュラーはあったものの、俺たちの冒険者生活は問題なく始まった。
 3人でパーティーを組んで活動している。リーダーはコーチェロだ。

 Fランクの薬草採取や森での魔物の狩りの合間に、練習場が取れるときは訓練をしている。
 自分たちだけでダンジョンに入れるようになるには、まずDランクにならないといけない。Eランクであれば、Bランク以上のパーティーの荷物持ちでダンジョンに入ることができるが、高ランクパーティーの荷物持ちはだいたいコネで決まっているので空きがない。知り合いがいない俺たちはこつこつDランクまでランクを上げるしかない。

 その日は狩りに行ったものの、途中で魔物が出なくなったので、諦めて常時依頼の薬草を摘んで帰ろうとしてた。そこに森の奥からユウくんとアルさんと従魔が歩いてきた。
 訓練場での怖さが比じゃないくらい、従魔が怖い。なんだこれ。でもみんな平気そうだ。俺の感知スキルが何か感じているんだろうか。
 ユウくんに挨拶されて、ギルドまで一緒に帰ったが、正直シルバーウルフが怖すぎて、何を話したか覚えていない。

 次の日、ギルドに呼び出されたので行ってみると、会議室にギルドのお偉方が揃っている。
 なぜユウくんと一緒にいたのか、なぜユウくんが俺とだけ話をするのか聞かれるが、そんなこと俺だって知らない。追放するぞと脅されたので、必死で弁解する。

「何もしてません、本当です。彼がペアもいなくて一人だったので、組むか声を掛けて、一緒に練習しましたが、それだけです」
「あの、多分なんですが、こいつの耳と尻尾をすごく見てたので、獣人が珍しいのかな、と……」

 コーチェロが加勢してくれるが、ギルドは納得してくれない。何かしたら追放すると言われて、その日は解放された。疲れた。


 休みの日、家族に手紙を出して宿へと歩いていたら、路上でユウくんとアルさんと従魔が、獣人4人と一緒にいるところに出くわした。
 追放されるのは嫌だけど、ここで避けるのもおかしいだろうと、ユウくんと挨拶をかわす。獣人4人が俺に興味を持ったようで、ユウくんに誰だと聞いている。
 でもこの4人、絶対勝てないって分かるくらいの力量差がある。今日はシルバーウルフがそこまで怖くないが、こんなに揃うとやっぱり怖い。

「ギルドの初心者講習で一緒になったんです。こちら、Sランクパーティーの獣道の皆さんです。こちらはキリシュくんです」
「Fランクのキリシュです。人族2人とパーティーを組んでます」
「狼族か」
「しばらくこの街にいるから、何かあったら力になるよ」

 獣人4人組の獣道ってめちゃめちゃ強いって有名なパーティーだ。会えて嬉しい。戦闘しているところ見てみたいな。
 最初は会ってビビったけど、今日はいいことあったな。


 数日後、練習場の予約が取れたので、戦闘訓練をしようと3人で訓練場に向かったら、ユウくんと獣道がいた。

「お、この前の狼じゃないか。訓練か。よし、坊主たちも鍛えてやろう」

 俺たちFランクです。Sランクに訓練つけてもらうとか、一撃で死にそうなんだけど!
 と思ったけど、俺たちのレベルに合わせて、指導してくれた。スリナザルと一緒に片手でいなされてるけど。よそ見してるところに突っ込んでも当てられないけど。Sランクすげえな。コーチェロも短剣の使い方を習っている。これはラッキーだったな。

「3人とも筋はいいから、コツコツがんばれ」

 嬉しい言葉を貰った。
 しかもアルさんの訓練もしてるので、すぐ近くで見学できた。すごく強いと思ったアルさんも、Sランクにかかると遊ばれている。俺たちの先は長そうだ。
 でも今日はめちゃめちゃ充実した訓練になった。

 そして流れで、ユウくんが狩ったアリゲーターという魔物を獣道が買って、俺も食べさせてもらえることになった。
 初めて聞く魔物だが、獣人の好物らしく、獣道の尻尾がゆれている。俺たち獣人は嬉しいときに尻尾が勝手に揺れるのだ。ユウくんの視線が獣道の尻尾に釘付けになってる。やっぱりユウくん尻尾とか耳とか見てるよな。

「高いのでは……?」
「人族には美味しくないらしくって、そんなに高くないよー」
「それくらい出してやるから、食っとけ。マジでうまい」
「食べないと後悔するぞ」
「俺たちの宿で焼いてもらおう。人族には他の料理出してもらうから一緒に来い」

 これだけ勧められると食べてみたい。コーチェロとスリナザルには普通の料理を出してくれるらしいので、一緒についてきてもらう。さすがに俺一人で行くのはビビる。
 しかもその魔物を解体に出すところも見たが、でかいアリゲーターを何もなかったところにいきなり出した。ユウくんは本当にアイテムボックス持ちだったんだな。

 その日の夕方、獣道の泊まっている宿に3人で行ったが、かなり高そうな宿で、部屋も広い。Sランクになるとこんな宿に泊まれるんだ。しかも、ユウくんもここに泊まっているらしい。
 アリゲーターを焼いたものと、コーチェロとスリナザル用の普通の食事が運ばれて来た。これは確かに旨そうなにおいがする。
 口に入れると、甘みとうま味と、ピリッとくる刺激と、なんだこれめっちゃ旨い。そこから夢中で貪るように食った。

「キリシュ、尻尾がバサバサいってるぞ」
「いやこれ、マジで旨い」
「そんなにか?俺も一口食べてみたい」
「キリシュ、少しだけ分けてやれ。ほんとに少しにしておけ。人族には一口食べるのがやっとだからな」
「え、これ、なんか舌がぴりぴりする。スリナザルどうだ?」
「俺も無理。苦い」

 コーチェロとスリナザルは本当に一口も食べられないみたいだ。でもそのおかげで高くないのは、獣人にはいいことなのかもしれない。
 俺は腹いっぱい食べて、獣道に心から感謝した。
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