緑の檻の向こう側

犬派だんぜん

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4. スキル鑑定

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 まずスキルついて、説明を受ける。

 30人いれば、20人は持っていない、1つ持っている人が9人、2つ持っているが1人、ごくまれに3つ以上の人もいる
 スキルがあると、ない人よりも上達が早いが、訓練しなければ上達しない
 努力によって後天的に増えることもある

 次にスキル鑑定について、説明を受ける。

 結果はギルドカードに記載されるが、人に見せたくないものは非表示にできる
 他人のスキルを許可なく別の人に知らせると処罰される
 特定の有用なスキルを持っていることが知られた場合、貴族などに囲われることがある
 ギルド職員はここで見たスキルを誰にも漏らさないので、必要であれば相談に乗る

 オレには特定の有用なスキル、というのが分からないので、職員が秘密を守ってくれるなら相談すればいいな。
 いよいよスキル鑑定だ。
 ギルドカードをセットし、魔道具に触れる。ギルドカードが光ると、職員に「終了です」と言った。一瞬だった。拍子抜けだ。

 「剣」「火魔法」と表示されている。

 これがいいのか悪いのかも分からないので、職員に見せた。

「冒険者として活躍するにはかなりいいスキルですよ。「剣」は前衛向き、「火魔法」は後衛向きと、どちらもできるので引く手あまたです。将来を見越して自分たちで育てて取り込みたいと思うパーティーがいくつも名乗りをあげるでしょう。スキル自体は珍しくないので、ギルドカードには記載したままでもトラブルにはなりません。後日でも記載を消すことはできます」

 後日消せるなら、助祭様に相談してからにしよう。
 ついでに、魔物の本と薬草の本を見せてもらうにはどうすればいいか聞いた。この奥に資料室がありそこで見ることができるが、入るときに保証金を預ける必要があり、本を破損したりしなければ出るときに返される。都会でも本は高価なのだな。
 礼を言って部屋を出て、サリューを探すと、1階の依頼板を熱心に見ていた。Fランクの依頼は街中の依頼か薬草採取が多いな、とざっと見てからサリューに声をかけ、冒険者ギルドを出た。

 今後使うことになるギルド近くにある冒険者用の店を見て、その後孤児院に行き、最後に王都名物の屋台の広場を見て帰る予定で歩き回る。あちこち見て廻っていたら、思ったよりも時間が無くなり、最後は乗合馬車に乗って教会まで戻った。

 夕食にはぎりぎり間に合ったが、助祭様はすでに食堂にいて待たせてしまったようだ。「明日からの予定が決まったので話します。でもまずは食べましょう」と夕食をとる。
 旅の間の司教様にも思ったが、助祭様もサリューも食べ方がきれいだ。真似して食べようとしているが、まだあまり成果は出ていない。2人よりもだいぶ早く食べ終わってしまったので、食べ方を観察していると「どうしました?」と助祭様に聞かれてしまった。白状すると、姿勢を正すこと、1口を少なめに、ゆっくり噛んで食べるとよいと教わる。明日からやってみよう。

「明日の午後、調査官の聞き取りがあります。グザビエ司教様も立ち会われます。明日の話次第でその後の予定を決めます。どういう予定になっても、宿泊施設に3泊はしていただけます。空いている時間で、やりたいことはありますか?」
「本を読みたいです。タサマラで炊き出しの手伝いをしていたので、こちらでもあれば参加します」
「では、明日の午前はサリューとともに図書室を利用してください」

 翌日、朝食はサリューとともにとり、図書室に案内してもらう。
 各地方について書いてある本の中から、絵が多いものを選び、サリューと同じ机につく。まだ読むのに少し時間がかかるが、それでも内容を理解できることが楽しくて、時間だとサリューに肩をたたかれるまで読み進めた。

 調査官の聞き取りは、教会の奥まったところにある部屋で行われた。
 グザビエ司教様が、俺がタサマラで保護された経緯を話した後、調査官が俺に質問する。
 孤児院での1日、食事の内容、支給品、休み、成人後の扱い、街の人の反応、処罰など、順に答えていく。

「荷物も所持金もない状態で、なぜ街を出ようと思ったのですか?」
「ずっと世界を見てまわりたいと思っていましたが、今思えばとても無謀なことでした。タサマラの街で保護してもらえなければ死んでいたでしょう。それでも、あの場所に居続けるよりはいいと思いました」
「また同じ話を聞かせてもらうことになると思います。それまで少し時間が空くと思いますが、このまま教会に滞在してください。本日はこれでお終いにします」


 「少し話をしましょう」と、グザビエ司教様の部屋に招かれ、ケネス助祭様も合流し、状況の説明を受けた。
 孤児院の状況が想像以上に悪いので、査問会議が開かれる可能性がある。査問会議の証言者となると、査問会議が終わるまで教会内にとどまる必要があり、最短でも20日間はかかるが、ギルドカードの有効期限は凍結されるので心配はいらない。
 そうなると、しばらくは教会で本を読む日々だ。図書室は使わせてもらえるそうなので、俺には何も問題はない。よかった。

 ちょうどよいので、司教様と助祭様にスキルについて相談する。スキルカードに記載したままでよいか、他人に言ってもよいのか、どうやって訓練すればよいのか。

「スキル鑑定したのですね。冒険者として経験を積めば、言ってよいかどうか分かるようになりますので、それまでは言わないほうがいいでしょう。私たち聖職者は、信者さんから様々な相談を受けますが、その内容を話すことは許されていません。ですので、よければスキルを教えてください。アドバイスできることもあると思います」
「剣と火魔法です。ギルドではパーティーの勧誘があるだろうと言われました。珍しくないので表示は消さなくてよいとも」

 ギルドカードを見せると、二人とも驚いている。

「ほお。これはまた、冒険者向きですね。あなたならSランクになれるかもしれませんね。ですが表示は消したほうがいいと思います」
「そうですか?このスキルなら表示しておいたほうが、アレックスくんのためになるのでは?」
「このスキル表示を見たものは、彼がこのスキルを積極的に公開していると判断し、他の人に話すでしょう。自慢してもおかしくない、冒険者としてはかなり良いスキルです。話が広がると勧誘が殺到するでしょうが、冒険者の事情に詳しくなく、王都に知り合いもいない彼では、うまく処理できないでしょう」
「確かにそうですね。信用のおける高ランクのパーティーに見習いとして面倒を見てもらうのはいかがでしょう」
「あの、俺、私は、Eランクになったら、タサマラの友人とパーティーを組む約束をしているのですが」
「カリラスさんですね。それはやめたほうがいいでしょう。見習い期間が終わってからパーティーを組むか、まとめて面倒を見てもらうか、ですね」
「知り合いのパーティーに、どこか任せられるところがないか、聞いてみます」
「アレックスさん、あたなには知らないことが多すぎます。これは育った環境のせいで、今あなたはそれを取り返そうと努力していますが、それでもこのまま冒険者の活動を始めると、周りに利用されるのは避けられないでしょう。冒険者に有用なスキルがなければ、また違ったのでしょうが。ケネス助祭なら王都の冒険者に詳しいですから、彼に任せなさい」
「お願いします」
「いいパーティーを探しますね。あと、魔法スキルを持っているのであれば、魔力操作を鍛えたほうが良いでしょうから、サリューに教えさせます。彼の訓練にもなりますから」

 気付いたらどこかのパーティーに世話になることが決まっていた。信用できるパーティーを自分で探さないでいいのはラッキーだな。

 翌日、査問官による聞き取り調査が3日後に開かれることになったと知らされた。
 そのため、常にサリューが付き添い、宿も一人部屋に変更されることになった。これは査問会議の証言者を守るための措置だが、今回のことで俺が狙われるとは誰も思っていない。サリューも、付き添う変わりに苦手なお勤めを免除されたと嬉しそうだ。

 魔力操作の訓練は、苦戦している。
 サリューも神学校で苦労したそうで、いろいろアドバイスをくれるのだが、まだとっかかりも掴めずにいる。査問会議が終わるころまでには、少しはできるようになっていたい。

 査問官による聞き取りは、内容は調査官と同じだが、より詳しい説明を求められる。
 3日目に、査問会議を開くことは決まったので、日程が決まり次第知らせると告げられ、聞き取りは終わった。

 査問会議まで、他にやることもないので、読書と魔力操作訓練を淡々と行っている。
 サリューに「よく飽きませんね」とあきれられたが、俺は同じことを続けるのが苦にならないので、飽きるサリューが分からない。
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