聖地巡礼≒ストーカー

哀上

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2話

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 ……え?

 とあるポストが目に入る。
 予想外の内容。
 画面をスクロールする手が止まった。

 つい、力が抜けてしまう。
 私はベットに寝っ転がってスマホを眺めていたわけで。
 そうなればどうなるかは明白。

 スマホが顔面目掛けて落下してきた。

「痛っつー」

 角がおでこに直撃。

 痛い。
 めっちゃ痛い。
 激痛だ。

 おでこをさする。
 別に血とかは出ていないけど、これ腫れちゃうかもしれないなぁ。
 最悪だ。

 スマホは凶器である。
 金属の塊なのだ。
 それが顔に落ちてくれば、こうなるに決まっている。

 別に今日が初めてでも無い。
 動画を見ながら寝落ちして、スマホに叩き起こされたことが何度あったか。
 その度にもう二度としないと心に決めた訳だが。

 相変わらず学習しないな、私は。

 ……じゃなくて。
 そんな事はどうでもいいのだ。

 いや、どうでもよくは無いけど。
 痛いけど。
 それどころじゃなくて。

 これ、

 ーーーーー
 小山駅到着!
 やっと栃木県に入った……

 ここで乗り換え
 推しの聖地まであと少し
 今から楽しみだなぁ

 もうすぐ着くよ
 ーーーーー

 私宛のリプライでは無い。
 ただ、私の誕生祭のタグを使ってポストされた文章だ。
 ポストしたのも例のふろろさんだし。

 推しってのは私の事。
 さっきリプに書いてあった、聖地巡礼の話の続きだろう。
 どうやら本当にどこかに行くつもりらしい。

 巡礼ってぐらいだ。
 どこかに行くのだろうとは思いっていた。
 けど、

 小山駅……

 何かリプを返そうとして、画面をタップする。
 しかし、文字を打とうにも指が宙を彷徨うばかり。

 ……辞めた。
 うん、辞めだ辞め。
 辞めよう。

 私は、タグをつけてくれたポストには残らずリプしている。
 今回の誕生祭のタグに限らない。
 日向アオイ関連のタグをつけてくれた人全員に、だ。

 それは、もちろんファンサの意味合いもある。
 人気Vtuberって訳じゃ無いからね。
 私のような、吹けば飛ぶような弱小Vtuberにとってファンとの交流は大切なのだ。

 そうやって必死にやってきたからこそ、今があると思う。

 登録者1000人突破して、
 収益化も果たして、
 配信すれば誰かが見にきてくれて、

 そんな幸福な今がある。

 でも、それだけじゃなかった。
 単純に嬉しかったのだ。
 誰かが、私のことを話してくれているのが。

 引きこもり一歩手前だったから。
 当然友達なんかいない。
 家族とも会話なんかしなかったし。

 誰かが私のことをポストしてくれているというのが、嬉しくてたまらなかった。

 理屈的にも、感情的にも、それが自然だった。
 残らずリプをしてきたのだ。
 だから、これだけ無視するのも不自然だとは思う。

 でも、どうしても返せなかった。
 どうやって返せばいいのかも分からなかった。
 だって、

 栃木県って今私の住んでる……
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