聖地巡礼≒ストーカー

1話

　よし、これで準備完了！
　ポストもしたし。
　後は時間を待つだけ。

　それにしても……誕生日、か。
　なんか感慨深い。
　まだデビューしたばかりのことを昨日のように思い出せる。

　あの頃は、誰も配信を見にきてくれなくて。
　登録者も全く増えないし。
　同接も長い事ずっと一桁台だった。

　だから、視聴者からのコメントなんて滅多に無い。
　そのせいで、ただただ私が独り言を言ってるだけみたいになっちゃった配信が何度もあった。
　その度に何度Vtuberを辞めようと思ったか。

　ただ、苦しかった。
　ひたすらにもがいていた気がする。

　でも、今思い返す分には別に嫌な記憶ではない。
　いい思い出ってやつ？
　むしろ、どこか懐かしいという感覚すらある。

　まぁ、戻りたいとは思わないけど。

　今じゃ登録者1000人超えのVtuber。
　上を見上げればキリがない。
　けど、大台には乗ったんじゃないかな？

　収益化もこの間通ったし。
　まだまだ職業Vtuberとは言えないけど。
　それが見えてきたって感じはする。

　……あ、通知。
　私のポストに、もう反応してくれてる人がいる。

『おめでとう』
『絶対見に行きます』
『楽しみにしてる』

　いいねも、リポストもたくさん付いて。
　リプもこんなに……
　あぁ、辞めずに続けてきたよかった。

　タグを使って、ポストしてくれてる人もいるし。
　幸せ。
　なんて私は幸福なのだろうか。

　日向アオイは別に私本人ってわけではない。
　まぁ、当然だ。
　それがVtuberって存在なのだし。

　それに、この体はネットで購入したもの。
　私がアイデアを考えて、絵師さんに発注して、と作った物じゃない。
　だから、完全に私が生み落とした子供って訳でもないのだ。

　でも、思い入れは人一倍。
　二人三脚でやってきたのだから。
　もう1人の私みたいなものだ。

　Vtuberを始める前。
　私は、引きこもり一歩手前みたいな状態だった。

　以前の私と比べて、どうだ。
　ネット越しとはいえ、こんなにたくさんの人に囲まれて祝われて。
　ほんと、夢みたい。

　ベットに寝転がりスマホを眺める。
　私の至福のひとときだ。
　たまに嫌なコメントが目に入ることもあるけど、ファンの言葉がそれを洗い流してくれる。

　……聖地巡礼？

　新しく送られたリプが目に入った。
　私のした告知ポストに返信されたものだ。

ーーーーー
アオイちゃんお誕生日おめでとう

推しの誕生日を祝って
今日は聖地巡礼しに行きまーす
待っててね
ーーーーー

　聖地巡礼、その意味は知っている。
　私も足利とかには行ったことがあるし。

　でも、私の聖地ってどこだろう？
　ふと疑問に思った。
　全く心当たりが無い。

　配信で特定の地域に触れた覚えはないし。
　アオイの出身地の話とかもした事ない。
　そもそも、リアルの話題は極力避けて来たのだ。

　Vtuberにとってリアルの話題は諸刃の剣。
　確かに話題にはなりやすい。
　でも、リアバレと言うもう1人の私を殺す行為に繋がりかねない。

　Vtuberはバーチャルな存在で無ければならないのだ。
　日向アオイはもう1人の私ではある。
　でも、私と日向アオイがイコールで結ばれてしまった時きっとバーチャルな存在の日向アオイは死んでしまう。

　私が喋ってるだけになってしまう。
　それは嫌だった。
　だから、そうして来たのだ。

　それに、待っててね……か。
　なんかちょっと怖い。
　別に悪気はないんだろうけど。

　ふろろさん。
　この人は、最近よくリプをくれる子だ。
　ご新規さんってやつ？

　配信でもよくコメントしてくれる方。
　たまに空気読めないコメントをする事はあるけど。
　ありがたく思っている。

　今回のもきっとそれだろう。
　そもそも、客観的に見れば問題があるようなリプにも見えない。
　私がリアルの話題に敏感すぎるだけか。

　目くじら立てる様なことでもない。
　私の誕生日を聖地で祝ってくれるって言うんだ。
　どこかは知らないけど、気持ちだけ受け取ろう。

『ありがとう』

　そうリプを送った。