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一章

日常 5

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 酒を飲んで、冒険者どもを眺めて、受付嬢と駄弁って……
 気がつけば窓の外も薄暗くなってきた。
 もう良い時間だ。
 酒も回って、気持ちよく酔っ払ったし。
 そろそろ、おいとましようかな。
 今日はこの後用事もある事だし。

「おばちゃんありがとね」
「はいよ。これだけ飲んだんだから今日は大人しく帰るんだよ」
「どうかな?」
「まったく……。体壊してからじゃ遅いんだからね」
「はいはい」

 酒場のおばちゃんに一言告げてからギルドを出る。
 他の冒険者はこんなことしないだろうけど、俺はここに長く居座るからね。
 コミュニケーションは大事だ。
 恨みを買って飯に毒でも混ぜられたら大変だし。
 まぁ、耐性があるから死にやしないんだけど。
 毒とかどう考えても味が落ちるだろうし、料理はうまい方がいいに決まってる。

「おじさん、帰るんですか?」
「あぁ、そうだが?」

 おばちゃんと話し終わったところで、受付嬢が待ち構えていたかのように声をかけてきた。
 ようにと言うか、明らかに待ち構えてただろコイツ……
 なんか笑顔だし。
 よくないことを考えてる顔だ。
 具体的には、おじさんに飯代をたかろうとしている顔。

「私も仕事上がりなんで、何処か連れてってくださいよー」
「無理」
「えー」
「いや、受付嬢がDランク冒険者にたかるんじゃないよ」
「別に割り勘でもいいのに、おじさんが意地張って毎回払ってるんじゃないですか」

 いや、俺が毎回望んで払ってるみたいな言い方するけどね。
 払わなかったら変な空気になるじゃん。
 絶対。
 ひとまわり以上年下の相手と割り勘とか、例え同じ男相手でもダメでしょ。
 受付嬢が気にしなくても、周りの人間は気にするだろうし。
 この街、そこまで飲み屋が多い訳でもないのに。
 使える店が減ったら困るのは俺なんよ。

「どっちにしろ今日は無理。予定入ってるから」
「けちんぼ」
「はいはい、おじさんはけちんぼですよ」

 そんなわけでギルドを後にする。

 目的地までは少し距離がある。
 歩くのはあんまり好きじゃないんだけど。
 まぁ、人通りの多いような場所に作る物じゃないしね。
 しゃーない。

 大通りから一本外れた裏路地。
 個人経営の飲み屋が何軒か並ぶ、アンダーグラウンドな雰囲気の通りのさらに奥。
 一見ただの宿屋にしか見えない。
 そんな店構え。
 ここが俺の目的地である。

「……いらっしゃいませ」

 扉を潜ればそこば別世界、なんてこともなく。
 内装もただの宿屋。
 宿屋の店員にしては不自然に上質な服を身に纏った男が店員をやってるが、違いといえばそれぐらいだろうか。
 まぁ、宿の機能もあるし宿屋ってのも間違いはないんだけど。
 別に宿に泊まりにきた訳じゃない。

 この街に住んで十年以上経っているのだ。
 当然、家ぐらいある。

「いつもの娘、今日出勤してる?」
「もちろんでございます」
「そんじゃ、指名で」
「お時間の方はいかがいたしますか?」
「いつも通りで」
「承知いたしました」
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