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学園

初めての授業

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「2:00に校舎裏庭集合といったろ君達。今まだ正午だぞ?」
学校中、自分の姿を魔法で消して一人で見学している中、昼の休憩の後の集合場所に差し掛かった時先生の呆れ声が聞こえた。確かに時計を初めて見る人がほとんどだろう。
(僕も公爵邸で初めて見た時には苦労したなー)
学校の建物を一通り見ると昼食を取り、再び中庭に戻り、まだ続いていた先生の臨時授業を横目に茂みの裏に横たわった。食後の眠気も合わさり、すぐに意識は途切れた。

「…レン…フレン?」
名前を呼ばれて目を覚ますとアリナがいた。
「えっ⁉︎…」
(透明化魔法を解除したっけ?彼女には見えないはずなのに!)
ふと彼女を見ると目線は合わず、フレンの胸辺りを見ていた。
「やっぱり。その声はフレンでしょう。」
「しまった。」
「意外と間抜けなのね」
(透明化魔法を使っているときに他人に話しかけない訓練はするけど、話しかけられた時の訓練はしないだろ。)
「なぜ分かった?」
「…」
(何故胸辺りを?…魔法自体の中心?)
「『視える』のか?」
彼女はぎくりと反応した。
「えっと…フレンの香りがしたから!」
「香りも魔法で隠してる。」
「…」
彼女の反応は至って普通だ。魔力を含めたあらゆるものを見抜くその眼は周囲から気味が悪いと思われるからだ。人数も少ないため、偏見が解消されそうな気配すらこの社会にはない。
「まぁ、いいよ。秘密の一つぐらい。」
彼女の横をすり抜けた。
「…見えるの。」
「やっぱりそうか。でも隠したいならどうして教室であんな事をした?」
「あなたほどの実力者なら知っても差別しないと思って。」
「あーなるほど。放課後にカミングアウトしようと思ったけどその前に訊かれてみたら怖くなったって事?」
「…うん。」
(まぁ、僕が言う事ではないけど年相応だな。)
「気にしないから泣くな。」
「いや、泣いてはいない。」
「じゃあ、うるっと来ている。」
「一緒でしょう。」
「否定はしないんだね。」
「認めてもいないけどね。それに、目は赤くないわ。」
「ムキにならなくても…」
大人が聞いたらギョッとするであろう8歳による間髪入れない高速の言い合いだった。世界広しといえども、このレベルの会話はこの二人組でなければ出来ないだろう。
「ところで私に魔法を教えてくれない?」
(逃げたな。)
「別に上位の魔法は使えないぞ。僕よりも適任はいるし、そもそも先生ではだめなのか?」
「冗談はいいの。先生よりも上手でしょ。だから…」
「本当に使えないぞ。」
「…あんなに綺麗なのに?」
「あー、言いたい事は分かる。僕にも『視える』からな。」
「…?」
(確かに意外だろうな。)
「視えるからくっきりとした輪郭を魔法に持たせたかった。魔法陣のこの輪郭のことだろ。」
魔法を解除する前に魔法陣を太くして見せた。
「そうだけど…本当に視えるの?」
「ああ。そうだが?」
「婚約して!」
「…は?」
(急にアリナの思考について行けなくなったぞ。なんでこんな僕と?もしかして領主である事を知っているのか?でもまだ公表はされていないし情報が漏れそうな要素は無い。でも理由は視える事らしいし…)
「フレン?」
「ちょっと待って。今考えてるから。」
(どうしたら視える事が婚約の決め手になるんだ…?あっ、僕自身ではなくて親の地位を知っている可能性もある。いやいや、まずは視える事についてだ。この混沌とした思考をなんとかしないとな。とりあえず自分と同じく視える人と結婚したいのはなんとなく分かる。差別されないだろうから。でも何がここまでアリナを急かしているんだ?…)
「急にごめんなさい。迷惑だっ」
「もう少し待ってて」
(まだ考えが纏まっていないからな。えっと…)
「…ごめんなさい。」
「ん?なんていった?」
「ごめんなさい!」
「違う。いや、それもだけどその前の方。」
「うっ」
急に彼女は逃げ出すように駆け出していった。
「責める気はなかったけどな。」
ふと時計を見ると時計は寝てから数分しか経っていなかった。
(これって寝られたと言えるのだろうか)
その後アリナを追いかける気にもならず、かといって今度は眠りにつく事もできず、ただ漫然と横たわっていた。
何やら騒がしくなってきたと思って庭を覗くとクラスメイトが集まり出していた。時計を見ると集合時間5分前だった。茂みから出ると目前の地面に影が落ちた。そこには誰もいない。しかし魔力の柱はそこにあった。
(魔法本体ではなさそう…透明化ではない?)
何も考えずに上を向くと先生が浮かんでいた。
「あと数人で全員だな。」
そう言いつつ先生は高度を下げてきた。
すると生徒が駆け寄って来た。
「飛行魔法ですか?」
「どうやっているんですか?」
(いや、その線は僕も考えたが、魔法本体が地面と先生の間にあるから厳密には伝説のあの魔法とは違う)
「ああ、浮遊魔法を自分にかけた。だから原理的に飛行魔法とは違う。」
着地すると続けた。
「自分の足元に逆さにした浮遊魔法を置いて、地面を下に押し出す反動で浮き上がっている。だからそんなに高くは行けないし自由に飛び回れる訳ではない。風にも弱いしね。その代わりに浮き上がるだけならこの学院の多くの人の魔力量でできる。」
(これは授業なのか?初めての授業にしては高望みをしているような気がするが…)
先生の周りに少し遅れて来た人達が集まり始めていて、しばらく静まりそうになかった。
「フレン!久しぶり!」
人生初の人助けした相手の公爵家次男のクロイスだった。
「ああ。さっきは教室でのあまりの君の人気で近づけなかったよ。」
「嘘だな。そもそも話す気が無かっただろ。」
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