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第2話「え、同棲ですか?」

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 みんなからの視線が痛い。
 特に男子からは殺意の視線を向けられている。

 おい、カズよ。そんな恐ろしい、憎悪に満ちたような目を向けないでくれ。俺は何も悪いことはしてないぞ?

 桜花アリナは俺の前まで歩み寄ってきて、目を疑うような行動に出た。なんと、彼女は俺に抱きついてきたのだ。それによって、カズの表情は憎悪というより、今にも泣きそうな顔になっていた。

「翔くーーん! 会いたかった……本当に……会いたかった」

 普通なら周りの目を気にして、やめるように言うところだろうが、彼女は本当に俺に会いたかったんだということが分かった。彼女の頬を涙が流れ、体も震えているように感じた。
 そんな彼女を引きはがすことは、俺にはできなかった。

 カズよ。そんな目で見ないでくれ。
 こんな状態で言うのもなんだが、これからも親友でいような。

 俺は、桜花アリナに小声で囁く。

「俺のことを覚えてくれていたんだね」

「当たり前じゃない! 何があっても翔くんのことだけは、忘れないよ!」

「ありがとう。でもね、みんなの視線が痛いからそろそろ……」

 彼女は俺の言葉を聞き、周りを見渡し、ごめんね! と、すぐに俺から離れた。
 本当はもっと抱き合っていたかったが、こればかりは仕方がない。

 今日、俺は全ての授業が終わるまで痛い視線を浴び続けた。

 *****

「はぁ、やっと学校終わった……」

「ため息をつきたいのは俺の方だっつうの。お前に許嫁がいたなんて聞いてねえぞ。そのせいで俺は玉砕しちまったじゃねえか」

「それは悪かった」

 カズに軽く謝罪を済ませた後、俺は教室を出て帰路につこうとしたのだが、桜花アリナが走ってきて俺の腕を掴んだ。

「どうしたの?」

「あの、一緒に帰らない?」

「うん、いいよ」

 俺は桜花アリナと一緒に帰ることになった。
 
 昔のことも色々聞きたいし、ちょうどよかった。
 こうして俺たちは帰路についた。

 *****

「そう言えば、聞きました?」

「何を?」

「いえ、そのうち分かると思うので今は言わないでおきますねっ」

 何の話だろう? 桜花アリナの反応からして悪い話ではなさそうだ。
 何の話か気になるが、まずは昔のことを聞くことにした。

「桜花アリナさんは、俺と離れ離れになった後、どこにいたんですか?」

「桜花アリナさんだなんて他人行儀な。昔みたいに『アリナ』って呼び捨てでいいですよ!」

「うん、わかったよ」

「よろしい。それでどこにいたかって話だったよね。私ね、父親の仕事の都合で福岡の学校に通ってたの。でも、今回、とある理由でまたここに戻ってくることができたんです!」

「とある理由?」

「それはすぐにわかると思いますよ」

 とある理由とは、何だろう。それにすぐにわかる? どういうことだ?

 俺が混乱しているうちに俺は自分の家に辿り着いた。

 アリナとは、ここまでだ……と思っていたのだが……。

「私も行きます」

「……え? 家に上がりたいってこと?」

「家に入ればわかりますよ」

 どういうこと? ここ、俺の家なんだけどなぁ。
 とりあえず、俺はアリナを家を上げることにした。

 ガチャッとドアを開けると、なんということでしょう! そこには、今朝まであったはずの父親と母親の荷物が消え去っていたのでした! それに代わり、謎の段ボールが大量に置かれているではありませんか!

「え? なにこれ、どういうこと?」

 俺の頭には大量のはてなマークが浮かんでいた。

 俺は困惑しながらも家に足を踏み入れ、リビングに入ると、そこには一枚の置き手紙が残されていた。
 内容はこうだ。

『親愛なる翔へ、

 父さんはロシアで友人と新しい事業を始めることにした。だから、父さんと母さんはお前がこの手紙を読むころには、日本にはいないだろう。
 その友人ていうのは、お前の義理の父親になる人だぞ!
 そして、その人の娘さん。つまり、お前の許嫁が日本に残りたいらしくて暮らす家もないということで、お前と同棲してもらうことになったから。それじゃあ、仲良くするんだぞ!

 父さんより』

 え? まじですか?
 俺、今日からロシア人ハーフの許嫁と同棲ですか?
 父さんよ、勝手すぎやしませんか? でも、父さんは絶対に考えを曲げないからなぁ。同棲なんて無理! と、俺が騒いでも何も変わらないんだろうなぁ。

 というか、俺は今朝までアリナのことを忘れていたっていうのに父さんは覚えていたんだな。

「アリナ、君はこのことを知ってたんだね」

「はいっ!」

 俺の問いに対し、アリナは元気よく満面の笑みを見せてくる。
 うん。控えめに言って天使。

 こんな天使と、俺は今日から同棲ですか。
 ははは、緊張しすぎて不眠症になる自信しかないです。

「知ってたんだったら、さっきの帰り道で教えてくれたらよかったのに」

「やっぱり、サプライズは大事ですから!」

 アリナは、えへへと笑顔で答える。

 ああ、この笑顔はずるいや。
 この笑顔があれば世界だって救えるよ。

「改めて、今日からよろしくお願いしますね! 翔くん!」

 アリナは俺の前に手を差し出す。
 今さら何をやっても無駄だし、しょうがないか。不眠症くらい甘んじて受けようではないか!

 俺はアリナと握手を交わす。

「今日からよろしく、アリナ」

「はいっ!」

 こうして俺とアリナの同棲生活がスタートしたのだった。 
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