43 / 47
43.妹
しおりを挟む
「妹……?」
俺がそう聞き返すと、リックは数秒間黙っていたが、怒りと悲しさの混ざったような表情のまま再び話し始める。
「俺には、五年前まで妹がいたんだ。名前は、エミリ。今も生きてたら十歳のはずだったんだ」
五年前まで妹がいた。
つまり、今はもういないということになる。
五年前に一体何があったんだ。
「五年前に何かあったのか?」
「ああ、そうだ。五年前にもこの街で爆破事件が起きたんだ」
「五年前にも?」
「ああ、その時に爆破されたビルの割れた窓ガラスが雨のように降り注いできた。それで、ビルの近くを歩いていた俺たちは大怪我を負った。妹はその時はまだ五歳で、俺よりも体が小さかったから命を落としてしまったんだ」
五年前にそんなことが起きていたのか。
俺は無知すぎる。
そんなことがあったというのに、俺は全く知らなかった。五年前の俺はニュースとかをあまり見るタイプの人間ではなかった。とはいえ、こんな大きな事件を知らなかったなんて。
俺は自分の無知さを恥じた。
ジョンの方を見てみると、ジョンはその事件のことを知っているようだった。
それで、その事件で命を落としてしまったのがリックの妹だと知ってかなり驚いているよう見えた。
やはりニューヨークではかなり有名な事件だったのかもしれないな。
俺たちが驚いていると、リックは俺たちを睨みつける。
「だから、俺はこの街の人たちにも同じ不幸を味合わせたかったんだ!」
そういうことだったのか。
五年前に起きた爆破事件でリックの妹が不幸にも命を落としてしまった。それがきっかけで、リックはこの街の人たちにも不幸を味合わせるために爆破事件を起こしてしまったんだな。
リックが爆破事件を起こした動機は分かった。でも、それは絶対にやってはいけないことだ。
「妹さんはどんな子だったんだ?」
「は? そんなん決まってるだろ。この世の誰よりも優しい子だったよ。だからこそ思ったよ。なんであんなにも優しい子の命が奪われなきゃならないんだってな!」
リックは妹のことを愛していたんだな。
それで、急に爆破事件が起こって、妹がその事件の犠牲者になってしまったんだ。他の人たちにも自分と同じ気持ちを味合わせてやると思っても不思議じゃないな。
だけど、それじゃダメなんだよ。
本当はリックも分かっているのだろう。
もし、本当に他の人にも自分と同じ思いをさせてやると思ったなら、深夜に爆破事件なんか起こさないだろう。
本当にやるつもりなら、街に人が多くなる昼頃に爆破事件を起こしているはずだ。
「おまえは本当に爆破事件で人の命を奪おうとしたのか?」
「はあ?! 何を言ってるんだ。そんなの当たり前だろ」
「それじゃあ、なんで人が少ない深夜に爆破事件を起こしたんだ?」
「そ、それは……」
俺の言葉にリックは言葉を詰まらせた。
そして、その会話を聞いていたサリナとジョンも理解したようだった。
理解してからは、サリナとジョンも戦闘態勢を解いた。
リックも本当は分かっているんだ。
こんなことしていいわけがないって。でも、頭の中で色々な感情が混ざって何が本当にすべきことなのか分からなくなってしまっているのだろう。
俺たちがここで本当はこんなことすべきじゃないと教えてあげなくてはならない。
今、俺たち以外にそれを教えることのできる人がリックにはいないのだ。
「本当はこんなことすべきじゃないって、分かっているんじゃないのか?」
「……そんなことは……ないはずだ」
「それなら何故、深夜に爆破事件を起こしたんだ?」
「別に偶然だろ」
「時間は適当に決めるにしても深夜はないだろ」
「そんなことはない! 本当に適当だったんだよ!!」
リックはキレ始めた。
やはり、図星だったのだろう。
出来るだけ住人に被害を受ける可能性が一番低い深夜の時間に爆破事件を起こしたのだ。爆破事件を起こしている最中は、本当にこんなことをしていいのか疑問に思いながらやっていたはずだ。
それに、リックの妹も自分の兄がこんなことをすることを望んでいるはずがない。
「幸いにもまだ誰も人は死んでいない。まだ、間に合う。もう、爆破事件を起こさないでくれ」
「なんでだよ。なんで、妹だけが酷い目にあわなきゃいけないんだよ! 他の奴らにも罰を与えなきゃダメだろ!」
「本当におまえの妹がそんなことを望んでいると思うのか?」
「……ッ!?」
リックは急に難しい顔をしながら黙ってしまった。
恐らく今までも分かってはいたけど、気づかないように自分を騙していたのだろう。でも、他人である俺に言われてしまい、混乱しているのだろう。
だが、目を背けてはならない。
リックのためにも、リックの妹のためにもこれは目を背けることは許されない。
「本当は分かっているんだろ?」
「…………」
俺はゆっくりとリックの方へと近づいていく。
まだリックが危険な人物であることは分かっている。
それでも、俺はリックの本音が聞きたかったんだ。
ジョンはリックに近づく俺を見て慌てていたが、少しだけ任せてほしい。
俺はリックの前で足を止めた。
俺がそう聞き返すと、リックは数秒間黙っていたが、怒りと悲しさの混ざったような表情のまま再び話し始める。
「俺には、五年前まで妹がいたんだ。名前は、エミリ。今も生きてたら十歳のはずだったんだ」
五年前まで妹がいた。
つまり、今はもういないということになる。
五年前に一体何があったんだ。
「五年前に何かあったのか?」
「ああ、そうだ。五年前にもこの街で爆破事件が起きたんだ」
「五年前にも?」
「ああ、その時に爆破されたビルの割れた窓ガラスが雨のように降り注いできた。それで、ビルの近くを歩いていた俺たちは大怪我を負った。妹はその時はまだ五歳で、俺よりも体が小さかったから命を落としてしまったんだ」
五年前にそんなことが起きていたのか。
俺は無知すぎる。
そんなことがあったというのに、俺は全く知らなかった。五年前の俺はニュースとかをあまり見るタイプの人間ではなかった。とはいえ、こんな大きな事件を知らなかったなんて。
俺は自分の無知さを恥じた。
ジョンの方を見てみると、ジョンはその事件のことを知っているようだった。
それで、その事件で命を落としてしまったのがリックの妹だと知ってかなり驚いているよう見えた。
やはりニューヨークではかなり有名な事件だったのかもしれないな。
俺たちが驚いていると、リックは俺たちを睨みつける。
「だから、俺はこの街の人たちにも同じ不幸を味合わせたかったんだ!」
そういうことだったのか。
五年前に起きた爆破事件でリックの妹が不幸にも命を落としてしまった。それがきっかけで、リックはこの街の人たちにも不幸を味合わせるために爆破事件を起こしてしまったんだな。
リックが爆破事件を起こした動機は分かった。でも、それは絶対にやってはいけないことだ。
「妹さんはどんな子だったんだ?」
「は? そんなん決まってるだろ。この世の誰よりも優しい子だったよ。だからこそ思ったよ。なんであんなにも優しい子の命が奪われなきゃならないんだってな!」
リックは妹のことを愛していたんだな。
それで、急に爆破事件が起こって、妹がその事件の犠牲者になってしまったんだ。他の人たちにも自分と同じ気持ちを味合わせてやると思っても不思議じゃないな。
だけど、それじゃダメなんだよ。
本当はリックも分かっているのだろう。
もし、本当に他の人にも自分と同じ思いをさせてやると思ったなら、深夜に爆破事件なんか起こさないだろう。
本当にやるつもりなら、街に人が多くなる昼頃に爆破事件を起こしているはずだ。
「おまえは本当に爆破事件で人の命を奪おうとしたのか?」
「はあ?! 何を言ってるんだ。そんなの当たり前だろ」
「それじゃあ、なんで人が少ない深夜に爆破事件を起こしたんだ?」
「そ、それは……」
俺の言葉にリックは言葉を詰まらせた。
そして、その会話を聞いていたサリナとジョンも理解したようだった。
理解してからは、サリナとジョンも戦闘態勢を解いた。
リックも本当は分かっているんだ。
こんなことしていいわけがないって。でも、頭の中で色々な感情が混ざって何が本当にすべきことなのか分からなくなってしまっているのだろう。
俺たちがここで本当はこんなことすべきじゃないと教えてあげなくてはならない。
今、俺たち以外にそれを教えることのできる人がリックにはいないのだ。
「本当はこんなことすべきじゃないって、分かっているんじゃないのか?」
「……そんなことは……ないはずだ」
「それなら何故、深夜に爆破事件を起こしたんだ?」
「別に偶然だろ」
「時間は適当に決めるにしても深夜はないだろ」
「そんなことはない! 本当に適当だったんだよ!!」
リックはキレ始めた。
やはり、図星だったのだろう。
出来るだけ住人に被害を受ける可能性が一番低い深夜の時間に爆破事件を起こしたのだ。爆破事件を起こしている最中は、本当にこんなことをしていいのか疑問に思いながらやっていたはずだ。
それに、リックの妹も自分の兄がこんなことをすることを望んでいるはずがない。
「幸いにもまだ誰も人は死んでいない。まだ、間に合う。もう、爆破事件を起こさないでくれ」
「なんでだよ。なんで、妹だけが酷い目にあわなきゃいけないんだよ! 他の奴らにも罰を与えなきゃダメだろ!」
「本当におまえの妹がそんなことを望んでいると思うのか?」
「……ッ!?」
リックは急に難しい顔をしながら黙ってしまった。
恐らく今までも分かってはいたけど、気づかないように自分を騙していたのだろう。でも、他人である俺に言われてしまい、混乱しているのだろう。
だが、目を背けてはならない。
リックのためにも、リックの妹のためにもこれは目を背けることは許されない。
「本当は分かっているんだろ?」
「…………」
俺はゆっくりとリックの方へと近づいていく。
まだリックが危険な人物であることは分かっている。
それでも、俺はリックの本音が聞きたかったんだ。
ジョンはリックに近づく俺を見て慌てていたが、少しだけ任せてほしい。
俺はリックの前で足を止めた。
0
お気に入りに追加
469
あなたにおすすめの小説
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ダンジョンの最深部でパーティ追放されてボコられて放置された結果、ダンジョンのラスボスの女の子が俺のご先祖様だったから後継者に指名された件
羽黒 楓
ファンタジー
アンデッドダンジョンの最深部で、パーティメンバーに追放宣言されリンチされ放置された俺は、そのまま死ぬはずだった。だが、そこに現れたダンジョンのラスボスは美少女な上に俺のご先祖様だった!
そろそろダンジョンマスターも飽きていたご先祖様は、俺を後継者として指名した。
そんなわけで今や俺がここのダンジョンマスターだ。
おや。またあいつらがこのダンジョンにやってきたようだぞ。
タブレットもあるし、全世界配信もできるな。
クラスメートたちも掲示板で実況盛り上がるだろうなあ。
あいつら俺というタンク役を失って苦戦しているって?
いまさら後悔してももう遅い。
今や俺がラスボスだ。
さて、どんな風に料理してやろうか?
※きわめて残酷な描写がありますのでご注意ください
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
勇者が街にやってきた
覧都
ファンタジー
大地震とともに空間に亀裂が入り、そこから勇者が現れた。
こいつら、事もあろうに人間をスライムといいながら経験値稼ぎとほざき殺しだした。
事もあろうに、こいつらには、こっちの兵器はほとんど通用しない。
だがおれは、偶然手に入れた異世界の魔法で、こいつらに逆襲する。
勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。
カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。
伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。
深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。
しかし。
お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。
伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。
その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。
一方で。
愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。
死へのタイムリミットまでは、あと72時間。
マモル追放をなげいても、もう遅かった。
マモルは、手にした最強の『力』を使い。
人助けや、死神助けをしながら。
10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。
これは、過去の復讐に燃える男が。
死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。
結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。
借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
羽黒 楓
ファンタジー
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる