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5章
怖かった
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電車は空いていて、となりの席だった。
もう手は離してるけど、まだ手はあったかい。もっと寒い冬とかだったら、ずっとつないでいれるかな。
そんなことを考えながら、窓の外を見た。
電車は、どんどんと山のほうへと向かっている。
遊園地は、山の一部を切り開いたところにあって、たぶん、もうすぐ……
「あっ、観覧車!」
「ほんとだな。っていうか、梨月、観覧車でそんなにはしゃぐんだ」
「う、いいじゃん、そんな乗ることもないでしょ?」
「まあ、ないけどな。でもなんか、かわいい」
「かわいい? あ、そう」
ちがーう!!
かわいいって初めて言われたけど、でもそういうかわいいじゃないよ、わたしが言って欲しいのは。
ほら、今日着てるワンピースとか、初めてなんだけどなあ。大人っぽくて素敵な水色なんだけどなあ。
あと腕時計も珍しくつけてて、これもかわいいと思うんだけどなあ。
だめだな。なんもたぶん気づいてない。
遊園地がどんどん近づいて、そして、どんどん観覧車は大きくなって。
遊園地の最寄り駅に着いた。
まるで、この遊園地のためにあるかのような駅。
なんと、駅前から、ゴンドラに乗って入り口まで行くの!
ゴンドラなんて、なかなか乗る機会ないよ。
「おおー。ゴンドラ。すごいな。これで山の上のほうまで行ってそこが遊園地なわけだな」
「ふふ」
「なんだよ」
「だって、陽飛、観覧車では冷静だったかもしれないけど、ゴンドラだとテンション上がってるから」
「そりゃ、ゴンドラのほうが、観覧車よりも珍しいだろ」
「えー、そんなことないよ」
わたしは笑った。
大丈夫。わたしは、ちょっとはしゃいでるくらいの陽飛が好き。
もとはといえば、君は、突然迷路をやらせてくるような男の子なんだから。
ゴンドラは、色んな色のが順番に来るんだけど、わたしたちが乗ったのは、ピンクだった。
いいね、ピンク。中も全体的にピンクだった。
「なんか、女子力高めな感じだな」
「ただピンクなだけでしょ」
「たしかに。ていうかお、すごい。ぐんぐん山を越えてるぞ」
「ほんとだ」
下にはもこもこした木があって、そして、進んでる方向を見ると、前の青色のゴンドラと、その向こうには観覧車だけじゃなくて……ジェットコースターとか、タワーとかがある。
楽しみだなあ。
と思ってたけど、やっぱり現実っていうのは、ちょっと残念なところもあるもの。
「すごい人だね」
「まずチケット買う列がすごい長さだもんな」
「ほんとだ、お姉ちゃんチケットをくれてありがとうございます……!」
もともとチケットを持っていたおかげで、第一ミッションをすでにクリアしてる状態だもんね。
わたしと陽飛は、お姉ちゃんにこれでもかというくらい感謝しながら、遊園地の門をくぐった。
「なんだ、脱出ゲーム空いてるじゃん」
最初にやるってことになってた脱出ゲームの前まで来て、わたしは少し拍子抜けした。
脱出ゲームは、遊園地の奥のほうにあるから、まだあんまり人が来てないのかも。開園からそんなに時間たってないし。
それとも……怖いからみんな避けてる、とかじゃないよね。うん、ていうかわたし怖がりじゃないし。
「よし、入ろうか」
「うん。絶対脱出するよ」
看板には、20分で脱出できたら景品ありって書いてあった。
ちなみに、いつでもギブアップはできるらしい。なんか、途中でギブアップするでしょどうせって言われてる気がするよ。
「二名様ですか?」
入ってすぐ、受付のお姉さんに声をかけられた。奥にはのれん。あののれんの奥から、脱出ゲームが始まるんだ。
「はい!」
元気よく返事するわたし。
「あらら、元気なのはいいけど、元気すぎる人ほど、すぐギブアップしたりするわよ?」
「え?」
お姉さんの未来予知をしていそうな笑顔。
それをも見て、もしかして想像を絶するほど怖いのかな……と思いかけたけど、
「じゃあ、行こうか」
陽飛がすたすたのれんをくぐったので、私も気にするのをやめ、後を追った。
けど、しばらくして、わたしたちは固まっていた。
「ねえ、私の足をつかんでる手ってさ、どうやってとるの?」
「ギブアップボタンを押せばたぶんとれるぞ」
「それ、意味ないじゃん!」
でも、やだ……脱出ゲームってさ、パズルとか解いて部屋から出るものじゃなかったの? こんなの聞いてないよお……。
ちなみに陽飛もがっつり謎の手に捕まってます。陽飛が捕まってるのは足じゃなくて腕だけど。
何か呪文を唱えると、はなしてくれたりしないかなあ。
と思ってたら、よく見たら、何か壁に書いてあるのを発見。
これ……よく見たらカタカナじゃない?
「イツツノホシヨヒカレ?」
なんとなく読み上げてみたら、うす暗かった天井が明るくなって……あっ。手がゆるまった。
動ける! 陽飛のほうを見てみたら、陽飛も動けるみたい。
てことはまずは第一ステージクリアって感じですか?
なんだ。思ったよりも余裕じゃん。
さっきまでちょっと怖がってたわたしも、のど元すぎれば熱さ忘れる状態だった。
だけど……
「今度はなに?」
次の部屋に入ったわたしは固まった。
「なんかあれだな、たぶん……真っ暗になるやつだな。ていうかもうなってるか」
「陽飛どこ?」
「ここ」
肩に手が置かれた。だいじょうぶだよね? これ陽飛の手だよね?」
とりあえず、陽飛の手だと信じることにしてぎゅっとにぎった。
「強くにぎるなあ」
「だって、見えないじゃん。はぐれちゃうよ」
「まあな。うわ!」
「わっ」
いつのまにか陽飛とぶつかっちゃってたみたい。
「もうこのまま歩こう」
普通に歩いてたら、陽飛にこんなにくっついて歩こうなんて言えないのに、今は余裕で言えちゃうから、やっぱりここは何か特別な空間なんだ。
で、そのままちょっと歩くと……
「あ、明るいところがあるよ」
「洗面台だ。ここ、洗面所をイメージした部屋なんだな」
「なるほど。はあ、よかった。これで、とりあえず、ちょっとは怖くなくなりそうね」
わたしは小さな明かりがある方へと言った。鏡だ。自分の姿が見える。あと、となりの陽飛も。
と、その時。
鏡が真っ暗になり、いきなり……得体のしれないゾンビのようななにかが……こっちに手を伸ばした……
「きゃあああああああああ!」
わたしは悲鳴を上げた。で、もうよく覚えてない。
もう手は離してるけど、まだ手はあったかい。もっと寒い冬とかだったら、ずっとつないでいれるかな。
そんなことを考えながら、窓の外を見た。
電車は、どんどんと山のほうへと向かっている。
遊園地は、山の一部を切り開いたところにあって、たぶん、もうすぐ……
「あっ、観覧車!」
「ほんとだな。っていうか、梨月、観覧車でそんなにはしゃぐんだ」
「う、いいじゃん、そんな乗ることもないでしょ?」
「まあ、ないけどな。でもなんか、かわいい」
「かわいい? あ、そう」
ちがーう!!
かわいいって初めて言われたけど、でもそういうかわいいじゃないよ、わたしが言って欲しいのは。
ほら、今日着てるワンピースとか、初めてなんだけどなあ。大人っぽくて素敵な水色なんだけどなあ。
あと腕時計も珍しくつけてて、これもかわいいと思うんだけどなあ。
だめだな。なんもたぶん気づいてない。
遊園地がどんどん近づいて、そして、どんどん観覧車は大きくなって。
遊園地の最寄り駅に着いた。
まるで、この遊園地のためにあるかのような駅。
なんと、駅前から、ゴンドラに乗って入り口まで行くの!
ゴンドラなんて、なかなか乗る機会ないよ。
「おおー。ゴンドラ。すごいな。これで山の上のほうまで行ってそこが遊園地なわけだな」
「ふふ」
「なんだよ」
「だって、陽飛、観覧車では冷静だったかもしれないけど、ゴンドラだとテンション上がってるから」
「そりゃ、ゴンドラのほうが、観覧車よりも珍しいだろ」
「えー、そんなことないよ」
わたしは笑った。
大丈夫。わたしは、ちょっとはしゃいでるくらいの陽飛が好き。
もとはといえば、君は、突然迷路をやらせてくるような男の子なんだから。
ゴンドラは、色んな色のが順番に来るんだけど、わたしたちが乗ったのは、ピンクだった。
いいね、ピンク。中も全体的にピンクだった。
「なんか、女子力高めな感じだな」
「ただピンクなだけでしょ」
「たしかに。ていうかお、すごい。ぐんぐん山を越えてるぞ」
「ほんとだ」
下にはもこもこした木があって、そして、進んでる方向を見ると、前の青色のゴンドラと、その向こうには観覧車だけじゃなくて……ジェットコースターとか、タワーとかがある。
楽しみだなあ。
と思ってたけど、やっぱり現実っていうのは、ちょっと残念なところもあるもの。
「すごい人だね」
「まずチケット買う列がすごい長さだもんな」
「ほんとだ、お姉ちゃんチケットをくれてありがとうございます……!」
もともとチケットを持っていたおかげで、第一ミッションをすでにクリアしてる状態だもんね。
わたしと陽飛は、お姉ちゃんにこれでもかというくらい感謝しながら、遊園地の門をくぐった。
「なんだ、脱出ゲーム空いてるじゃん」
最初にやるってことになってた脱出ゲームの前まで来て、わたしは少し拍子抜けした。
脱出ゲームは、遊園地の奥のほうにあるから、まだあんまり人が来てないのかも。開園からそんなに時間たってないし。
それとも……怖いからみんな避けてる、とかじゃないよね。うん、ていうかわたし怖がりじゃないし。
「よし、入ろうか」
「うん。絶対脱出するよ」
看板には、20分で脱出できたら景品ありって書いてあった。
ちなみに、いつでもギブアップはできるらしい。なんか、途中でギブアップするでしょどうせって言われてる気がするよ。
「二名様ですか?」
入ってすぐ、受付のお姉さんに声をかけられた。奥にはのれん。あののれんの奥から、脱出ゲームが始まるんだ。
「はい!」
元気よく返事するわたし。
「あらら、元気なのはいいけど、元気すぎる人ほど、すぐギブアップしたりするわよ?」
「え?」
お姉さんの未来予知をしていそうな笑顔。
それをも見て、もしかして想像を絶するほど怖いのかな……と思いかけたけど、
「じゃあ、行こうか」
陽飛がすたすたのれんをくぐったので、私も気にするのをやめ、後を追った。
けど、しばらくして、わたしたちは固まっていた。
「ねえ、私の足をつかんでる手ってさ、どうやってとるの?」
「ギブアップボタンを押せばたぶんとれるぞ」
「それ、意味ないじゃん!」
でも、やだ……脱出ゲームってさ、パズルとか解いて部屋から出るものじゃなかったの? こんなの聞いてないよお……。
ちなみに陽飛もがっつり謎の手に捕まってます。陽飛が捕まってるのは足じゃなくて腕だけど。
何か呪文を唱えると、はなしてくれたりしないかなあ。
と思ってたら、よく見たら、何か壁に書いてあるのを発見。
これ……よく見たらカタカナじゃない?
「イツツノホシヨヒカレ?」
なんとなく読み上げてみたら、うす暗かった天井が明るくなって……あっ。手がゆるまった。
動ける! 陽飛のほうを見てみたら、陽飛も動けるみたい。
てことはまずは第一ステージクリアって感じですか?
なんだ。思ったよりも余裕じゃん。
さっきまでちょっと怖がってたわたしも、のど元すぎれば熱さ忘れる状態だった。
だけど……
「今度はなに?」
次の部屋に入ったわたしは固まった。
「なんかあれだな、たぶん……真っ暗になるやつだな。ていうかもうなってるか」
「陽飛どこ?」
「ここ」
肩に手が置かれた。だいじょうぶだよね? これ陽飛の手だよね?」
とりあえず、陽飛の手だと信じることにしてぎゅっとにぎった。
「強くにぎるなあ」
「だって、見えないじゃん。はぐれちゃうよ」
「まあな。うわ!」
「わっ」
いつのまにか陽飛とぶつかっちゃってたみたい。
「もうこのまま歩こう」
普通に歩いてたら、陽飛にこんなにくっついて歩こうなんて言えないのに、今は余裕で言えちゃうから、やっぱりここは何か特別な空間なんだ。
で、そのままちょっと歩くと……
「あ、明るいところがあるよ」
「洗面台だ。ここ、洗面所をイメージした部屋なんだな」
「なるほど。はあ、よかった。これで、とりあえず、ちょっとは怖くなくなりそうね」
わたしは小さな明かりがある方へと言った。鏡だ。自分の姿が見える。あと、となりの陽飛も。
と、その時。
鏡が真っ暗になり、いきなり……得体のしれないゾンビのようななにかが……こっちに手を伸ばした……
「きゃあああああああああ!」
わたしは悲鳴を上げた。で、もうよく覚えてない。
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