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5章

陽飛と二人

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 全部のグループがおどりおわって、そしていつのまにかお昼だった。
 お、おなかめっちゃ空いてる!
 ホールを出た瞬間に気づいたよ。
「はい、みなさんお疲れ様でした! お昼ごはん食べたい人はホールの中のレストランもありますよ。はい、じゃあ解散です!」
 ダンス関連以外はすごくシンプルに終わらせる先生なんだなあ。
 新しいタイプの校長先生みたいだ。
 でもとにかく、これで解散だ。
 実来ちゃん、一緒にお昼ごはん食べてくれたりするかな?
 と思って実来ちゃんを見たら。
「わたし今日用事あるの~」
 って言って、ひらひら移動して行った。
 なんで? わたしのこと嫌いになったりしてない? 大丈夫かな……。
 しかもひらひら度合いがダンスの成果なのかなめらかで、よりリアルなエイに見えるよ。

 わたしはそんな実来ちゃんを見送るしかなかった。
 で、そしたら。
「おつかれ」
「よ、陽飛⁈」
「なんでそんな驚くんだよ」
「いやっ、だって……とにかく、来てくれてありがとう」
 わたしはお礼を言うとともに……。

ぐううううう!

「あ……」
 お腹の音も届けてしまった。
 恥ずかしい! これ、普通に今日一恥ずかしいかも!


 
 でもそのお腹の音がきっかけで!陽飛が「お昼ごはん食べよう」って言って、わたしたちはホールの中のレストランにいた。
 給食はいつも一緒に食べてるけどね。でもなんか雰囲気が違う。二人だし。

「ねえ陽飛」
「おお」
「……あ、なに話したいか忘れちゃった」
 わたしは、お皿に目を落とした。なんでかわかんないけど、二人ともカレーだ。
 まあ、うちの小学校は、ダントツでカレーが人気メニューだから、なんかカレーがそこにあるなら食べたくなっちゃうんだよね。
 でも高かった。アイスより高かった。そりゃあアイスより安かったら大変だけどね。
「ちなみに……ひとつ言うと、梨月、よかった」
「あそう。コケたのに?」
「あの流れよかった。ていうか盛り上げるために仕組まれてたのかと思うくらいだったな」
「うそつけ」
「ほんとだって。観客席からみたらそんなもん。逆にダンス見慣れてないおれからすると、ずっとそろってるほうがなんか目が疲れるし」
「あそう」
 人をフォローする天才なのでしょうかこの人は。
「ただ、おれ、ひとつだけききたいことがあるんだ」
「え、あ、うん、なに?」
「どうして、今日おれをさそってくれたの?」
「どうして……あ、じゃあ陽飛はさ、どうしてこの前、バレーボール大会にさそってきれたの?」
「あ、なんかずるいなそれは」
「ずるくないよ」
「……」
「あ、じゃあ、陽飛がさそってくれたから、わたしもさそったってことで」
「それますますずるいな」
「ずるくないもん」
「……」
「……」
 今度こそ、ちゃんとした沈黙だった。
 カレーを口に運ぶ。
 思ったよりも甘くて、なんだか安心した。
 辛すぎるのは苦手だし。
「わたしはね、陽飛にかっこいいところ見せられたらいいなって思って、さそったんだよ」
「……そっか。ありがとう。」
「これならずるくない?」
「ずるくない。けどおれは、梨月が、どうしておれにかっこいいと思ってほしいのかを知りたい」
 真剣な目。写真を撮ったりバレーをしたりしてる真剣な目だった。
 どうして。どうして今になってそんな真剣な目でわたしを見つめるの?
 そんなことするんだったら、わたし……もう伝えちゃうしかないじゃん。
「わたしね、陽飛が好きなの」
 陽飛は、ちょっと驚いていた。でも予想はしてたかもしれないとも思った。
 そして陽飛が何か言おうとする前に、意気地なしのわたしは、また口を開いた。
「わたしね、陽飛がかっこいいお兄ちゃんだって思うよ。だけどね、わたしは陽飛が、かっこいい男の子だとも思うんだ」
「それはよかった」
「え?」
 それはよかったって……
「だっておれ、梨月にかっこいいと思ってほしくて、頑張ってたところ、結構あるからさ」
「えっ、そうなの? だって、だって陽飛は、洋香ちゃんにとってかっこいいお兄ちゃんになることを目指してたんじゃないの?」
「それはそれで目指してたけど……おれは、梨月にも、かっこいいと思ってほしいから、ほら……二人の時とかも……」
 たしかに、二人の時も、陽飛は変わらずかっこよかった。でもそれは……
「洋香ちゃんがみてる前だけかっこよくするっていうのは、なんかよくない姿勢だからかと思ってた」
「おれはそんなにできた人じゃないって。いくらかっこいいお兄ちゃんを目指しててもさ、そりゃ洋香が見てない時はだらけるときはだらけるよ」
「うん」
「でもそれでもおれは、梨月の前ではかっこよくいたかった。それは……おれが、梨月を好きだからだ」
 陽飛はまっすぐわたしを見つめた。
 わたしは、スプーンを全く動かせない。
「おれたち、付き合おうよ」
「あ……」
 付き合うって……! しまった、陽飛に断られるんじゃないかってばっかり思いすぎて、あんまりその先のことを考えてない。
 だけど付き合うんだよね? いいんだよね?
 わたしは陽飛を見た。
 やっぱりまつ毛長い。でも、そう思うってことは、ちゃんと見つめられた証拠。
「うんっ。付き合おう、陽飛」
 わたしがそう返すと、陽飛は笑って。
 その笑顔はとっても素敵でかっこいい、わたしの彼氏の笑顔だったんだ。



 お昼ごはんの後、陽飛とちょっとドキドキしながら一緒に歩いて行って、それで家に帰ったら、お姉ちゃんが迎えてくれた。
「よかったよ! ダンス!」
「ほんと? あ……でも私転んだ……」
「いいんだって細かいことは。そんな細かいところどーでもいいから。全体的に良ければそれでいいんだよ。あ、お昼ごはんは食べたの?」
「食べたよ」
「誰と?」
「み、実来ちゃんとかな」
「はいうそー。だってね、お姉ちゃんが帰り道に実来ちゃんと会ったからです!」
 実来ちゃん……なんでお姉ちゃんと会っちゃうかなあ……。
「はい、で、誰と食べてたのを隠したかったのかな?」
「う」
 ここまで追及されるんなら、全部言っちゃった方がいいかも。
「あのね、わたし、付き合うことになったよ」
「ん? んんん? ちょおーい! それを早くいいなさいって、ああ素敵な恋ね、いえええええい! 神様ごらんなさい! わたしの妹は素敵な恋愛をしているわ!」
「うるさ……」
 ねえ、このうるさい謎の人が、わたしのお姉ちゃんで、本当はとっても優秀なんだよ。
「ふふっ、初デートはいつ行くの?」
「初デート? 何も考えてなかった……」
「あら、それはダメね。なら……お姉ちゃんのおすすめコースがあります」
 お姉ちゃんは胸を張って、タブレットを出してきた。
 そういやお姉ちゃんって彼氏いるのかな? なんでもこなしていつのまにか色々してるから、わかんないや。
「ほら梨月、ここの遊園地がおすすめ。しかもなんと、今ならお得!」
「なんでお得なの?」
「それはね、この遊園地の横のホールで、お姉ちゃんの演奏会があるからです! この前言ったでしょ」
「うん、チケット、わたしもらったね」
「そう、そのチケットがここにもう一枚あるから、遊園地のついでに二人でいらっしゃい」
「ありがとう」
 私は二枚目のチケットを受け取った。
 そして、お姉ちゃんはにやりとした。
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「えっ」
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「ふふふ。お姉ちゃん、この前スーパーのガラガラで当てちゃった」
「すごい。いいの? わたしが使っちゃって」
「全然おっけー」
 お姉ちゃん……さっきうるさい謎の人って心の中で言っちゃってごめんね。
 わたしは謝った。
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