上 下
13 / 22
4章

どうして誘ってくれたんだろう

しおりを挟む


 陽飛のバレーボールの試合の日がやってきた。
 実来ちゃんを誘ったんだけど、実来ちゃんは、おじいちゃんとおばあちゃんとご飯食べるから行けないって。
 そういうわけもあって、結局一人で来た。
 と思ったんだけど、
「あっ。梨月ちゃん!」
「洋香ちゃん!」
 体育館の入り口で、洋香ちゃんに会った。となりにはお母さんもいる。てことはこの人が、陽飛のお母さんでもあるのかあ。
「あら、もしかして、梨月ちゃん?」
「あ、はい。こんにちは」
「わたしがこないだ会ったひと!」
「そうなのね。優しそうなお姉さんね」
「ほんとにやさしいよ!」
 ああーっ。そういうこと目の前で話してると照れちゃうよ!
 ていうかそもそも、いつも家では妹してるから、お姉さんとか言われるだけでもかなり照れるっていうのに。

「ねえねえ、梨月ちゃん」
「うん、どうした?」
 照れてたらいつのまにかてくてく横を歩いてる洋香ちゃん。かわいい。
 一緒に体育館に入ったところで、洋香ちゃんが続きを言った。
「梨月ちゃんって昔バレーボールしてたの?」
「うん、してた。だけど今はやめちゃったんだ」
「そうなんだ。わたしもね、入院しなきゃいけないから、バレーボール、最近やってないよ」
「そうなんだね」
「最近は、絵を描いたりするのをがんばってるよ」
「えらいっ」
 わたしはうなずいた。洋香ちゃんの絵、今度見てみたいな。
 
 体育館の中は、バレーボールのネットが真ん中に張られていて、バレーボールコートの両側には、椅子がたくさん置いてあった。
 端っこの前のほうに、わたしたちは座った。
 陽飛、どこだろ……あっ、いた。
 ユニフォームを着てるから、なんかいつもと違いすぎてびっくり。
 結構すらっとしてるんだなあ。
 それにしても洋香ちゃん。体調が少しいいのか、今日来れてよかったね。
 ふと洋香ちゃんを見ると、とっくに陽飛を見つけていて、すごいきらきらの目で見つめていた。
 好奇心ある子どもが、まるで夜空を見上げてるみたい。
 お兄ちゃん大好きなんだなあ……。とても幸せな光景。
 一方、陽飛はといえば、少し緊張してる様子かも。
 今から試合だもんね。
 暑くてもなんとなくすーっとするあの感じ。わたしも少しだけならわかる。
 まだ全然汗もかいてないウエアが、なんとなくかゆく感じたりして。

 よく眺めてみると、陽飛のチームメイトの中にはすごく背の高い人もいた。 
 バレーボールのネットの高さは小学生は低めになってるんだけど、もう大人用でもいいんじゃないってくらい。
 陽飛だって、少し背が高めくらいのはずなのに、さらに大きい。

 
 しばらくすると、試合が始まった。
 相手からのサーブ。
 それを陽飛のチームメイトがしっかりとレシーブ。
 陽飛がそのボールを、ネットのそばに高く上げた。
 陽飛、セッターなんだ。
 セッターは、最後にバシンッってアタックを打つ人のために、ボールをあげる役割の人。
 そして高く上がったボールを……試合前から背が高いなあって思ってた人が、強く打った。
 相手は誰も触れない。
 すごいっ。完璧じゃん。
 テレビ画面を通してみてるのかもしれないと思うくらいだよ。
 わたしはそくざに拍手していた。
 陽飛、すごくチームのみんなと頑張ってるんだ。
 わたしはすごく感動して、間違いなくかっこいいと思ったけど、でもこういうところまで行けるくらいバレーボールを頑張れなかったわたしは、ちょっとさみしくなったりもした。

 とはいえ、もうわたしはバレーボールに夢中だった。
 相手も結構強くて、いい勝負。
 試合が進んで、陽飛のすごいところにもう一つ、気がついた。
 陽飛、めちゃくちゃサーブがうまいの。
 スピードも結構早いんだけど、それ以上に、すごいコントロール。
 相手が立ってるところのちょうど間とかに打つのが得意で、相手同士がぶつかって返せなかったりするの。
 あんなに精密にサーブを打つのは難しいって、わたしはすごくよくわかってる。
 だからもう、陽飛がサーブのトスを上げると、わたしは毎回、どんな球が放たれるのか、わくわくしちゃうんだ。
 

 結局なんとか陽飛のチームは勝利した。
「やったー。お兄ちゃん勝った」
「勝ったね」
 にこにこの洋香ちゃんを見ると、ますます嬉しくなってくる。
 ふと、陽飛をみたら、こっちを見ていた。
 ちょっと、手を振ってみる。
 陽飛が笑った。
 うん。かっこよかったよ。今日も。
「あ! もしかして陽飛、お前の彼女? あの子」
「え、妹だって」
「とぼけなんなって。となりにいるかわいい子の話だよ」
 え、わたしってかわいいんだっけ。いや、わたし以外にいたのかな誰か。
 思わずあたりを見回すが、わたしくらいの年の女の子はいない。
 じゃあ、わたしのことか……。
「ちがうって。クラスメイト」
 彼女なことは否定する陽飛。
 だけど、勝ってご機嫌なチームメイトたちはさらにしつこく色々ときいてた。
「え、でも、陽飛が誘ったから、見に来てくれてるんだよな?」
「ま、まあな」
「てことはそういうことだろ。告っちゃえよ」
「うるさい」
 あ、陽飛、ちょっと怒った。
 そしてそのまま、タオルを被って、体育館の裏に行ってしまう。ロッカーとかあるところ。
 だから陽飛の表情はわかんなくて。だけど、わたしはドキドキしていた。
 そういえば、なんで陽飛は今日誘ってくれたんだろう?
 わたしととなりの席で、最近仲がいいから……?
 それとも……もっとほかのこと……?
 


 陽飛のバレーボールの試合を見た次の日は、ダンスのレッスン二回目。
 レッスンが始まる前、実来ちゃんと話していた。
「昨日、陽飛君の試合見に行ったんでしょ?」
「うん。陽飛のチーム勝ったよ」
「おっ。それも重要だけど、梨月ちゃんがどう思ったか、知りたいな」
「……かっこよかった」
「おおっ。梨月ちゃんの顔が!」
「えっ。わたしの顔、なんか変?」
「ううん。可愛いよ」
「どういうこと?」
 気になるのに、実来ちゃんは、にこにこしてるだけ。
 いったいどんな顔をしてたっていうの?

 今日も厳しいレッスンだった。
 でも、「超熱血指導! 水飲ませません!」みたいなやばい感じではない。
 ちゃんと休憩はあるし。
 けど、
「りつきさん! 腕の動きが遅いですよ!」
 ええ……もうすごいきびきびおどってるつもりなのにー!
 わたしは腕をもっとぶんぶん振った。腕ってバットだったっけ? ってくらい。

 そんな厳しい練習の前半が終わったところで、中島先生が言った。
「今度、あなたたちで、ダンスの発表会に出てほしいと思います」
 生徒が七人しかいないのに、なんかざわっとした。
 だって、七月からダンス始めた人のクラスだもん。いきなり発表会なんて……。
 学校が夏休みになったら、家とかでも多めに練習できるかも。でもそれでも自信ないよ。
「発表会は、七月に二十三日です」
 しかも夏休み入ってすぐ⁈ 予想よりも早い!
 どういうことだろう。
「みなさんもまず一回みんなの前で踊るってことをしてみると、ダンスの楽しさがわかるかもしれないってことで、早めの発表会です。それまでに、今踊ってる振りつけを完璧にしましょう」
 ひえええ。そんな完璧って。今は鏡の前で先生の真似してるけど、本番は先生も鏡もないんでしょ。自分がどうなってるかわかんないじゃん。
 実来ちゃんと思わず見つめあってしまった。やばいね。

 後半のレッスンも、ビシバシな雰囲気。けど、なんか気合が入ってる気もする。
 わたしも、周りのみんなも。
 やっぱり発表会とか、そういう目標があったほうがいいのかもね。

 レッスン終わり。
「はあー、また筋肉痛かなあ」
 ため息をつくわたしに、
「でもなんか、この前より力まずにおどれたかも」
 と実来ちゃん。
「たしかに」
 今回の筋肉痛は控え目かも。
 こうして鍛えられていって、体の動きが自然になっていくのかなあ。ダンスって面白いな。
 ジュースを飲みながら二人で今日も歩く。
 ダンスのレッスンをするたびにジュース買って飲んだら、お小遣いなくなっちゃうな。でも、今日もついつい買っちゃった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

処理中です...