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4章
どうして誘ってくれたんだろう
しおりを挟む陽飛のバレーボールの試合の日がやってきた。
実来ちゃんを誘ったんだけど、実来ちゃんは、おじいちゃんとおばあちゃんとご飯食べるから行けないって。
そういうわけもあって、結局一人で来た。
と思ったんだけど、
「あっ。梨月ちゃん!」
「洋香ちゃん!」
体育館の入り口で、洋香ちゃんに会った。となりにはお母さんもいる。てことはこの人が、陽飛のお母さんでもあるのかあ。
「あら、もしかして、梨月ちゃん?」
「あ、はい。こんにちは」
「わたしがこないだ会ったひと!」
「そうなのね。優しそうなお姉さんね」
「ほんとにやさしいよ!」
ああーっ。そういうこと目の前で話してると照れちゃうよ!
ていうかそもそも、いつも家では妹してるから、お姉さんとか言われるだけでもかなり照れるっていうのに。
「ねえねえ、梨月ちゃん」
「うん、どうした?」
照れてたらいつのまにかてくてく横を歩いてる洋香ちゃん。かわいい。
一緒に体育館に入ったところで、洋香ちゃんが続きを言った。
「梨月ちゃんって昔バレーボールしてたの?」
「うん、してた。だけど今はやめちゃったんだ」
「そうなんだ。わたしもね、入院しなきゃいけないから、バレーボール、最近やってないよ」
「そうなんだね」
「最近は、絵を描いたりするのをがんばってるよ」
「えらいっ」
わたしはうなずいた。洋香ちゃんの絵、今度見てみたいな。
体育館の中は、バレーボールのネットが真ん中に張られていて、バレーボールコートの両側には、椅子がたくさん置いてあった。
端っこの前のほうに、わたしたちは座った。
陽飛、どこだろ……あっ、いた。
ユニフォームを着てるから、なんかいつもと違いすぎてびっくり。
結構すらっとしてるんだなあ。
それにしても洋香ちゃん。体調が少しいいのか、今日来れてよかったね。
ふと洋香ちゃんを見ると、とっくに陽飛を見つけていて、すごいきらきらの目で見つめていた。
好奇心ある子どもが、まるで夜空を見上げてるみたい。
お兄ちゃん大好きなんだなあ……。とても幸せな光景。
一方、陽飛はといえば、少し緊張してる様子かも。
今から試合だもんね。
暑くてもなんとなくすーっとするあの感じ。わたしも少しだけならわかる。
まだ全然汗もかいてないウエアが、なんとなくかゆく感じたりして。
よく眺めてみると、陽飛のチームメイトの中にはすごく背の高い人もいた。
バレーボールのネットの高さは小学生は低めになってるんだけど、もう大人用でもいいんじゃないってくらい。
陽飛だって、少し背が高めくらいのはずなのに、さらに大きい。
しばらくすると、試合が始まった。
相手からのサーブ。
それを陽飛のチームメイトがしっかりとレシーブ。
陽飛がそのボールを、ネットのそばに高く上げた。
陽飛、セッターなんだ。
セッターは、最後にバシンッってアタックを打つ人のために、ボールをあげる役割の人。
そして高く上がったボールを……試合前から背が高いなあって思ってた人が、強く打った。
相手は誰も触れない。
すごいっ。完璧じゃん。
テレビ画面を通してみてるのかもしれないと思うくらいだよ。
わたしはそくざに拍手していた。
陽飛、すごくチームのみんなと頑張ってるんだ。
わたしはすごく感動して、間違いなくかっこいいと思ったけど、でもこういうところまで行けるくらいバレーボールを頑張れなかったわたしは、ちょっとさみしくなったりもした。
とはいえ、もうわたしはバレーボールに夢中だった。
相手も結構強くて、いい勝負。
試合が進んで、陽飛のすごいところにもう一つ、気がついた。
陽飛、めちゃくちゃサーブがうまいの。
スピードも結構早いんだけど、それ以上に、すごいコントロール。
相手が立ってるところのちょうど間とかに打つのが得意で、相手同士がぶつかって返せなかったりするの。
あんなに精密にサーブを打つのは難しいって、わたしはすごくよくわかってる。
だからもう、陽飛がサーブのトスを上げると、わたしは毎回、どんな球が放たれるのか、わくわくしちゃうんだ。
結局なんとか陽飛のチームは勝利した。
「やったー。お兄ちゃん勝った」
「勝ったね」
にこにこの洋香ちゃんを見ると、ますます嬉しくなってくる。
ふと、陽飛をみたら、こっちを見ていた。
ちょっと、手を振ってみる。
陽飛が笑った。
うん。かっこよかったよ。今日も。
「あ! もしかして陽飛、お前の彼女? あの子」
「え、妹だって」
「とぼけなんなって。となりにいるかわいい子の話だよ」
え、わたしってかわいいんだっけ。いや、わたし以外にいたのかな誰か。
思わずあたりを見回すが、わたしくらいの年の女の子はいない。
じゃあ、わたしのことか……。
「ちがうって。クラスメイト」
彼女なことは否定する陽飛。
だけど、勝ってご機嫌なチームメイトたちはさらにしつこく色々ときいてた。
「え、でも、陽飛が誘ったから、見に来てくれてるんだよな?」
「ま、まあな」
「てことはそういうことだろ。告っちゃえよ」
「うるさい」
あ、陽飛、ちょっと怒った。
そしてそのまま、タオルを被って、体育館の裏に行ってしまう。ロッカーとかあるところ。
だから陽飛の表情はわかんなくて。だけど、わたしはドキドキしていた。
そういえば、なんで陽飛は今日誘ってくれたんだろう?
わたしととなりの席で、最近仲がいいから……?
それとも……もっとほかのこと……?
陽飛のバレーボールの試合を見た次の日は、ダンスのレッスン二回目。
レッスンが始まる前、実来ちゃんと話していた。
「昨日、陽飛君の試合見に行ったんでしょ?」
「うん。陽飛のチーム勝ったよ」
「おっ。それも重要だけど、梨月ちゃんがどう思ったか、知りたいな」
「……かっこよかった」
「おおっ。梨月ちゃんの顔が!」
「えっ。わたしの顔、なんか変?」
「ううん。可愛いよ」
「どういうこと?」
気になるのに、実来ちゃんは、にこにこしてるだけ。
いったいどんな顔をしてたっていうの?
今日も厳しいレッスンだった。
でも、「超熱血指導! 水飲ませません!」みたいなやばい感じではない。
ちゃんと休憩はあるし。
けど、
「りつきさん! 腕の動きが遅いですよ!」
ええ……もうすごいきびきびおどってるつもりなのにー!
わたしは腕をもっとぶんぶん振った。腕ってバットだったっけ? ってくらい。
そんな厳しい練習の前半が終わったところで、中島先生が言った。
「今度、あなたたちで、ダンスの発表会に出てほしいと思います」
生徒が七人しかいないのに、なんかざわっとした。
だって、七月からダンス始めた人のクラスだもん。いきなり発表会なんて……。
学校が夏休みになったら、家とかでも多めに練習できるかも。でもそれでも自信ないよ。
「発表会は、七月に二十三日です」
しかも夏休み入ってすぐ⁈ 予想よりも早い!
どういうことだろう。
「みなさんもまず一回みんなの前で踊るってことをしてみると、ダンスの楽しさがわかるかもしれないってことで、早めの発表会です。それまでに、今踊ってる振りつけを完璧にしましょう」
ひえええ。そんな完璧って。今は鏡の前で先生の真似してるけど、本番は先生も鏡もないんでしょ。自分がどうなってるかわかんないじゃん。
実来ちゃんと思わず見つめあってしまった。やばいね。
後半のレッスンも、ビシバシな雰囲気。けど、なんか気合が入ってる気もする。
わたしも、周りのみんなも。
やっぱり発表会とか、そういう目標があったほうがいいのかもね。
レッスン終わり。
「はあー、また筋肉痛かなあ」
ため息をつくわたしに、
「でもなんか、この前より力まずにおどれたかも」
と実来ちゃん。
「たしかに」
今回の筋肉痛は控え目かも。
こうして鍛えられていって、体の動きが自然になっていくのかなあ。ダンスって面白いな。
ジュースを飲みながら二人で今日も歩く。
ダンスのレッスンをするたびにジュース買って飲んだら、お小遣いなくなっちゃうな。でも、今日もついつい買っちゃった。
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