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4章

ダンスを始めた

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 初めてのダンス教室は、実来ちゃんと仲直りしてから、三日後だった。
 ダンス教室をやっている建物の前まで来て、そこで深呼吸をする実来ちゃん。
「梨月ちゃん、緊張するよ~」
「わたしもしてる……」
「やっぱするよねー」
「うんうん」
 だけど、緊張してるからっていつまでもここで固まってたら、初めてのレッスンから遅刻することになっちゃう。
 そうなったら、もっと恥ずかしい。
「行くよ実来ちゃん」
「うん!」
 

 受付に行って、そして、まずはダンス教室のメンバーカードを作った。名札としても使うから、服につけるための、ピンがついている。
わたしはメンバーカードを眺めた。
「りつき」と大きな丸っぽい字で書かれている。
 もちろん、実来ちゃんの名札には、「みく」って書いてある。

 それから着替えて、名札をつけて、いよいよレッスン開始だ。
 わたしと実来ちゃん以外にも数人の人がいる、初心者のクラス。
 大きな鏡のある部屋で、ポニーテールの女性の先生が、わたしたちのほうを向いた。
「7月から入ってくれた皆さん、こんにちは。わたしは今日からみなさんにダンスを教えます、中島です」
 中島先生、美人でいい先生そうだなあ。
 ちょっと緊張がほぐれた。


 んだけど、もうレッスンが始まってすぐに、別の問題が。
「はい、りつきさん! 指先が全然のびてないですよ!」
「は、はいっ」

 うん、めっちゃ初回から厳しいよ!
 初めてのレッスンはまずはダンスを楽しんでみましょう! たんたかたん♪ 
 みたいな感じだと思ってたの。違った。中島先生、美人なのに厳しいから、なんかドラマとかの登場人物だったら、人気ありそうだなあ。
 隣の実来ちゃんを見てみたら、すっごく真剣。
 そうだよね、わたしも頑張らないと。
 指先を伸ばす。リズムにのる。
 よし。頑張る。
 まだ基本的なゆっくりな動きしかないって、中島先生も言ってたし、きっとこれからどんどん難しくなるんだから。

 それからも中島先生の熱血指導を受けて、気がついたら、一時間半たっていた。
 初めてのレッスンが終わったあとの感想。
 疲れたし厳しかったけど、ダンスって楽しい!

 今日は天気も良くて、とてもきれいな夕焼けの日。
 実来ちゃんとジュースを飲みながらのんびりと帰っていた。
 少し涼しくなった夏の夕方と、ジュースはすごく合う。
 つかれてなんか足とか手がへなへなする。運動会の後みたいな感じ。
 もしかしたら、これって、筋肉痛とかになっちゃうのかな。
 でも、とにかく今はすっきりだった。
「実来ちゃん、わたし、楽しかった」
「わたしも! よかったね。申し込んで」
「うん! 誘ってくれて、ありがと!」
「わたしこそ、梨月ちゃんと一緒で心強い!」
 二人で今日のダンスを思い出しながら笑った。
 そう、この時わたしは、すごくダンスは楽しいんだなって感じることができたんだ。


 だけど次の日、わたしは教室で痛がっていた。案の定だよね……。
「いたた」
「どうしたんだ?」
 心配してくれる陽飛。
 洋香ちゃんに優しいところとかも見たからか、わたしから見ると、妹を心配するお兄ちゃん感が出ている。
 そんな陽飛にわたしは答えた。
「筋肉痛」
「え、筋肉痛? もしかして、バレーやったのか?」
「ううん。バレーはしてないよ。でも、ダンス始めたんだ」
「ダンス。ダンスか。おれあんまりダンス詳しくないけど、確かにすごく筋肉使いそう」
「思ってたよりも使うかも」
「やっぱりそうか。腕が筋肉痛なのか?」
「うん。あと脚もだし、お腹も」
「大体全部じゃん」
 マイペースな陽飛もすかさず突っ込みを入れるくらい全部筋肉痛って、なんとも情けないオチ。週二回、ダンスやっていけるんだろうか、わたし。
「陽飛は、バレーしてて筋肉痛になったりしないの?」
 わたしは尋ねた。陽飛、きっとかなりレベルの高い練習してると思うから、なってるかもって。
 わたしがバレーしてた時は、そこまでならなかったけどね。
「うーん、そんなにならないかな」
「もう筋肉が強いんだ」
「そうなのかな。そうかもしれない」
 自分の腕をみつめる陽飛。確かに結構、しっかりした腕だ。そんな腕とか見てても、ちょっとドキッとしてしまう。

「あ、そうだ」
 陽飛がちょっと改まって言った。
 そしてなにやら机の横にかかっている袋をがさごそして、
「おれ、今度この大会に出るんだ」
 わたしの机と陽飛の机の、ちょうど間に置かれたチラシ。
 市の、バレーボール大会だった。すみっこにトーナメント表も印刷されている。
「すごい。陽飛のチームはどこなの?」
「これ」
 指さしたチームは……。
「ドルフィンズ?」
「そうそれ。なんか名前を誰かに教えるたびに、イルカってバレーボールするのかなって思うけど」
 そっか。ドルフィンってイルカの英語だもんね。
「するんじゃない? ほら、よくショーとかだったら、ボールでも遊んでるじゃん」
「たしかに」
 この前陽飛と行った水族館にはイルカはいなかったけど、イルカがいてショーをやってるところでは、高いところにあるボールをタッチしたり、水に浮いているボールを飛ばしたりしていた。
「この試合って、見に行けるの?」
 わたしはきいてみた。
 なんかちょっとまた、陽飛がバレーボールしてるの見てみたいなって。
「あ、もちろん見に来れるよ。試合会場、ここの小学校の体育館だし。ていうかおれ、梨月に、よかったら来てって言おうと思ってた」
「そうなの?」
「うん」
 それは意外。
 確かに最近陽飛とはたくさん話すけど、でも、バレーボールの試合を見に来ないか誘ってくれるとは思わなかった。
「あ、そうだ。洋香ちゃんは見にくるの?」
「うーん、結構遠いし、洋香はキツいかもなあ。でも見に来れなかったとしても、試合の動画を記録のためにとってるから、それを見せることはできるかな」
「そっか、じゃあ洋香ちゃんにかっこいい所見せれるじゃん。頑張ってね」
「……おお」
 うなずく陽飛。
 そして鳴る朝のチャイム。
 うちの学校って朝のチャイムだけ、ただのキーンコーンカーンコーンじゃなくて、ちょっとさわやかなメロディなんだよね。
 だからわたしは、陽飛のうなずき方がちょっとぎこちなかったのが、あんまり気にならなかったんだ。

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