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2章
球技大会
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日が明けて、今日は球技大会。
わたしは球技大会ってあんまり好きじゃない。普段の授業もそんなに好きじゃないから、球技大会のほうがまだマシかもしれないけど。
朝、一時間目の始めには、学年のみんなが校庭に座っていた。
「はいじゃあ、前半は、ドッジボールとサッカー。後半はバレーボールとキックベースします!」
先生がそう言う。はあ、なんかすごいね。チーズバーガーとてりやきバーガーと……うーん、思いつかないけどとにかく、違う種類のハンバーガー四つみたい。おも。
わたしを含めて、やる気なさそうな人は結構多い。
陽飛とかもやる気なさそうだなあ。って思ったのに。
え? あいつ、いやあいつって言っちゃダメか。いやでもあいつ、なんで準備運動してんの? 意識高い。どうせ今からみんなでグダグダやるのに。
驚きだ。陽飛、球技大会にやる気があるみたいだ。どうしてだろう。
今まで絶対そんなキャラじゃなかった。
ほかの男子にお前なんでやる気出してんだよって突っ込まれたりしてるけど、それに対してもスルーしてるし。
カッコつけてるのか知らないけど、あんまりカッコよくないよ。昨日の写真撮ってる姿の方が、まだかっこよかったかな。
そしてそんなやる気がある陽飛に気を取られていたら、あっという間に球技大会が始まった。
ドッジボールとかいやだし逃げまくればいいかな。
でも逃げまくるのも疲れるんだよなあ……。
て思ってたら、わたしのところにボールが飛んできた。
「ふんっ」
「えっ」
投げた相手が驚いている。そりゃ、キャッチくらいはできますよ。
わたしは近くにいた人にボールを渡した。
「あ、おれ?」
「あ……」
渡そうとしてた人、陽飛だった。
まあいっか。
「いいよ投げて」
「ありがと」
陽飛は受け取った。そして投げる。すごい速い球。
おかしい。
明らかに最近、そう、ちょうどわたしの隣の席になった時くらいから、陽飛のキャラが変わっている。
陽飛はあんなに一生懸命ボールを投げるキャラじゃないって。初日の迷路で遊んでた陽飛が毎日続くのが、本来の陽飛なのに。
真剣に授業を受けたり、真剣に写真を撮ったり、真剣にボールを投げたり。
うん。そんなね、三回も真剣な場面を見るのはおかしいの。
ちょっとだらけた変わったキャラだったはずなんだから。陽飛は。
第一試合が終わって休憩していると、同じチームの杏菜ちゃんが隣に座ってきた。
「むふふ。陽飛くんにボールあげてたね」
「ち、ちがうよ! たまたま近くにいる人に渡したら陽飛だっただけ」
「ふうん。ていうかそんなわたしには隠さなくてもいいのに。わたし言いふらしたりしないよ?」
「いやほんとに、陽飛が好きとかじゃないもん」
「そっかー。まあ、ならそれでいいや。でもね、梨月ちゃん」
「うん」
「陽飛くんはたぶん、梨月ちゃんが好きなんだと思う」
にやっとしながら言う杏菜ちゃん。
「えっ。なんでそう思うの?」
わたしが尋ねると、杏菜ちゃんはさらにニヤニヤな女の子となった。
「席替えしたあたりから、なんか一生懸命でしょ、陽飛くん」
「たしかに」
わたしだけじゃなくて杏菜ちゃんもそう思ってたんだ。
「陽飛くんね、梨月ちゃんにかっこいいと思って欲しいんじゃないかなって」
「そういうことなの?」
「だと思うよ~」
わたしは向こうで休んでいる陽飛を見た。
そう言われてから見ると、なんかカッコよく見られたくてふるまってる気も……するかな?
うーん。
あ。
陽飛がこっち見た。
どきっとした。
いやしてない。わたしドキッとしてません!
「ね? そういうことよ。わたし応援してるねっ」
「いやでもやっぱりっ」
「素直になりましょー。梨月ちゃん」
「ちがうっ」
「ふふふ。あ、次の試合が始まる、行かなきゃ」
杏菜ちゃん。逃げた。
わたしは考えた。陽飛がわたしに見てほしくて、真剣にいろいろやってるとしたら……やっぱり、わたしが好きなのかな……。
杏菜ちゃんの言う通りってことなのかな。
ああ~っ。なんか、こんなこと考えちゃうの、初めてだよ。
ドッジボールの次はサッカーだったんだけど、サッカーはわたし全然できない。
ボールが転がってきても、ちゃんとけれることがあんまりなくて、いつも隅っこの線の上で立ってたりする。まあサッカー習ってる人が頑張ってるから、それでいいの。
ちなみに陽飛は頑張ってるんだけど……もう疲れてた。しょうがないね。
というかむしろ、ちょっと体力を温存しているようにも見える。まだバレーボールとキックベースもあるもんね。こんな球技大会を一生懸命やる小学校って他にあるのかな。
何とかサッカーを乗り越えたら体育館に移動して、次はバレーボール。
まだ出番じゃないから、わたしは体育館の隅で実来ちゃんとのんびりおしゃべりしていた。
今はやめちゃったけど、前に習ってたバレーボール。
ちょっとは頑張りたいという気持ちと、もう頑張りたくないという気持ちが半々。
その結果、ドッジボールと同じくらいのモチベーションになっていた。
しかし、何かざわついている。
わたしの心がざわついてるとかじゃなくて、体育館の真ん中がざわついてる。真ん中でバレーボールの試合をやってるんだけど……え?
注目を浴びてるのは、陽飛だった。まじで?
目を疑う。
だって、陽飛、すごくうまいんだもん。すごい守備範囲で、遠いところのボールも難なく拾っている。
陽飛って、一番得意なスポーツ、バレーボールだったの?
今まで球技大会でも体育でもバレーボールをやったことはなくて、今回が初めて。
だから、陽飛がバレーボールがうまいっていうのも、みんな今初めて知ったんだ。もちろんわたしも。
すごい……ちょっとやってやめちゃったわたしだからなおさら分かるのかも。陽飛すごいよ。
仕方ないから心の中で断言すると、かっこいい。授業中に迷路をすすめてくる人と、多分人格が違う。まあ授業中に迷路すすめてくるのが悪いってわけじゃないけどね。
バレーボールをやったことのない人が大半だから、ポジションとかがある感じではなかったけど、陽飛はレシーブ、トス、アタック、全部で活躍していた。
「見とれてるねえ」
「えっ」
「見とれてるでしょ」
「……うん」
「おっ、認めましたね」
「だって……しょうがなくない?」
「まあね、梨月ちゃんもバレーやってたしね」
「うん」
ちょっと長すぎめな前髪だって、ジャンプとともに浮かび上がったら普通にプラスポイントだし。
で、一番の問題は、わたしにかっこいいと思ってもらいたいと思ってるんじゃないかってこと。
杏菜ちゃんにそう言われると、ほんとにそうなんじゃないかって気がしてきた。
だから……目が離せない。
これを見とれてるって、言うんだね。
わたしは球技大会ってあんまり好きじゃない。普段の授業もそんなに好きじゃないから、球技大会のほうがまだマシかもしれないけど。
朝、一時間目の始めには、学年のみんなが校庭に座っていた。
「はいじゃあ、前半は、ドッジボールとサッカー。後半はバレーボールとキックベースします!」
先生がそう言う。はあ、なんかすごいね。チーズバーガーとてりやきバーガーと……うーん、思いつかないけどとにかく、違う種類のハンバーガー四つみたい。おも。
わたしを含めて、やる気なさそうな人は結構多い。
陽飛とかもやる気なさそうだなあ。って思ったのに。
え? あいつ、いやあいつって言っちゃダメか。いやでもあいつ、なんで準備運動してんの? 意識高い。どうせ今からみんなでグダグダやるのに。
驚きだ。陽飛、球技大会にやる気があるみたいだ。どうしてだろう。
今まで絶対そんなキャラじゃなかった。
ほかの男子にお前なんでやる気出してんだよって突っ込まれたりしてるけど、それに対してもスルーしてるし。
カッコつけてるのか知らないけど、あんまりカッコよくないよ。昨日の写真撮ってる姿の方が、まだかっこよかったかな。
そしてそんなやる気がある陽飛に気を取られていたら、あっという間に球技大会が始まった。
ドッジボールとかいやだし逃げまくればいいかな。
でも逃げまくるのも疲れるんだよなあ……。
て思ってたら、わたしのところにボールが飛んできた。
「ふんっ」
「えっ」
投げた相手が驚いている。そりゃ、キャッチくらいはできますよ。
わたしは近くにいた人にボールを渡した。
「あ、おれ?」
「あ……」
渡そうとしてた人、陽飛だった。
まあいっか。
「いいよ投げて」
「ありがと」
陽飛は受け取った。そして投げる。すごい速い球。
おかしい。
明らかに最近、そう、ちょうどわたしの隣の席になった時くらいから、陽飛のキャラが変わっている。
陽飛はあんなに一生懸命ボールを投げるキャラじゃないって。初日の迷路で遊んでた陽飛が毎日続くのが、本来の陽飛なのに。
真剣に授業を受けたり、真剣に写真を撮ったり、真剣にボールを投げたり。
うん。そんなね、三回も真剣な場面を見るのはおかしいの。
ちょっとだらけた変わったキャラだったはずなんだから。陽飛は。
第一試合が終わって休憩していると、同じチームの杏菜ちゃんが隣に座ってきた。
「むふふ。陽飛くんにボールあげてたね」
「ち、ちがうよ! たまたま近くにいる人に渡したら陽飛だっただけ」
「ふうん。ていうかそんなわたしには隠さなくてもいいのに。わたし言いふらしたりしないよ?」
「いやほんとに、陽飛が好きとかじゃないもん」
「そっかー。まあ、ならそれでいいや。でもね、梨月ちゃん」
「うん」
「陽飛くんはたぶん、梨月ちゃんが好きなんだと思う」
にやっとしながら言う杏菜ちゃん。
「えっ。なんでそう思うの?」
わたしが尋ねると、杏菜ちゃんはさらにニヤニヤな女の子となった。
「席替えしたあたりから、なんか一生懸命でしょ、陽飛くん」
「たしかに」
わたしだけじゃなくて杏菜ちゃんもそう思ってたんだ。
「陽飛くんね、梨月ちゃんにかっこいいと思って欲しいんじゃないかなって」
「そういうことなの?」
「だと思うよ~」
わたしは向こうで休んでいる陽飛を見た。
そう言われてから見ると、なんかカッコよく見られたくてふるまってる気も……するかな?
うーん。
あ。
陽飛がこっち見た。
どきっとした。
いやしてない。わたしドキッとしてません!
「ね? そういうことよ。わたし応援してるねっ」
「いやでもやっぱりっ」
「素直になりましょー。梨月ちゃん」
「ちがうっ」
「ふふふ。あ、次の試合が始まる、行かなきゃ」
杏菜ちゃん。逃げた。
わたしは考えた。陽飛がわたしに見てほしくて、真剣にいろいろやってるとしたら……やっぱり、わたしが好きなのかな……。
杏菜ちゃんの言う通りってことなのかな。
ああ~っ。なんか、こんなこと考えちゃうの、初めてだよ。
ドッジボールの次はサッカーだったんだけど、サッカーはわたし全然できない。
ボールが転がってきても、ちゃんとけれることがあんまりなくて、いつも隅っこの線の上で立ってたりする。まあサッカー習ってる人が頑張ってるから、それでいいの。
ちなみに陽飛は頑張ってるんだけど……もう疲れてた。しょうがないね。
というかむしろ、ちょっと体力を温存しているようにも見える。まだバレーボールとキックベースもあるもんね。こんな球技大会を一生懸命やる小学校って他にあるのかな。
何とかサッカーを乗り越えたら体育館に移動して、次はバレーボール。
まだ出番じゃないから、わたしは体育館の隅で実来ちゃんとのんびりおしゃべりしていた。
今はやめちゃったけど、前に習ってたバレーボール。
ちょっとは頑張りたいという気持ちと、もう頑張りたくないという気持ちが半々。
その結果、ドッジボールと同じくらいのモチベーションになっていた。
しかし、何かざわついている。
わたしの心がざわついてるとかじゃなくて、体育館の真ん中がざわついてる。真ん中でバレーボールの試合をやってるんだけど……え?
注目を浴びてるのは、陽飛だった。まじで?
目を疑う。
だって、陽飛、すごくうまいんだもん。すごい守備範囲で、遠いところのボールも難なく拾っている。
陽飛って、一番得意なスポーツ、バレーボールだったの?
今まで球技大会でも体育でもバレーボールをやったことはなくて、今回が初めて。
だから、陽飛がバレーボールがうまいっていうのも、みんな今初めて知ったんだ。もちろんわたしも。
すごい……ちょっとやってやめちゃったわたしだからなおさら分かるのかも。陽飛すごいよ。
仕方ないから心の中で断言すると、かっこいい。授業中に迷路をすすめてくる人と、多分人格が違う。まあ授業中に迷路すすめてくるのが悪いってわけじゃないけどね。
バレーボールをやったことのない人が大半だから、ポジションとかがある感じではなかったけど、陽飛はレシーブ、トス、アタック、全部で活躍していた。
「見とれてるねえ」
「えっ」
「見とれてるでしょ」
「……うん」
「おっ、認めましたね」
「だって……しょうがなくない?」
「まあね、梨月ちゃんもバレーやってたしね」
「うん」
ちょっと長すぎめな前髪だって、ジャンプとともに浮かび上がったら普通にプラスポイントだし。
で、一番の問題は、わたしにかっこいいと思ってもらいたいと思ってるんじゃないかってこと。
杏菜ちゃんにそう言われると、ほんとにそうなんじゃないかって気がしてきた。
だから……目が離せない。
これを見とれてるって、言うんだね。
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