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現世 終わりという名の始まり

01話

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ふと思う時がある。もし今ここで足を一歩踏み出したとしよう。車が行き交う幹線道路に飛び出すわけだ。きっと死ぬだろう。
日常は選択の連続とは良く言ったものだ。一回でも選択を間違えば即刻死が待っているゲームなんてまっぴらごめんだ。

でも生きていれば知らず知らずのうちに死と隣り合わせの選択をしているのかもしれない。

―――――

暗い部屋の一角が眩いほどの光に包まれている。と言えば聞こえが少しは良くなるが実際のところ真っ暗な部屋でカーテンを閉め切ってパソコンと向かい合っている、ただそれだけだ。

日常は選択にあふれている。ゲームの世界なんて特にそうだろう。スライムが出てきたら「仲間にしますか?」とか、ギャルゲーなら「なでる」「耳元で囁く」とかまぁこんな具合にだ。

カチッ、カチッ、カチッ…秒針が一定のリズムを刻みながらまた一周、また一周と同じ来た道を辿っていく。

煌々と光る画面にまたも選択が出てきた。

《大黒炎魔法》◀
《超凍結魔法》

数々の選択を完璧に決め、戦いに勝利してきた俺にとってこんな選択なんのそのだ。大黒炎魔法と超凍結魔法の威力は正直言って五分五分だ。だったらどっちでもいいじゃんかって?
それはちょっと違うかな。超凍結魔法は相手を氷漬けにする魔法で持続性の高い魔法だ。つまりじわじわ相手を痛めつけながら殺るってことだな。
おれの性格というか趣味的にはこっちの方が性に合ってていいんだが、今回の敵はそうはいかない。なにせラスボスだからだ。

俺がプレイしているこの「スターフォートアドベンチャー」を一言で言い表すならムリゲー、クソゲー、鬼畜ゲーと言ったところか。この由縁は一度死ぬとタイトルに戻る、まぁ普通の仕様だが、そこに表示されるのは、

最初から

そう、「つづきから」などという概念は存在しないのだ。だから一度選択を誤ると最後、ライフと共に精神力や根気まで奪い去っていくのだ。
これが故に、ラスボスにたどり着いたものはほとんどおらず、クリアに至っては0人だ。多くのプレイヤーが途中で精神を殺られ、プレイするのをやめてしまった。

だからこそ俺はここで「自分の性格上」とかいう安易な考えでここまで費やしてきた時間、去っていったプレイヤーたちに託されたこのクソゲーのクリアを目前にした今この時を無駄に知る訳にはいかない。
だからこその大黒炎魔法だ。この魔法は一言で言えば即効型。「ドカーンと打ったら1回ダメージが入る」というやつだ。

ボスを確実に殺るにはこの大黒炎魔法を使うほかないだろう。
俺は緊張で震える右手でマウスの左クリックを押した。

「燃えよよ燃えよ、大地に宿りし大黒炎。放てよ放て我が身に宿りし魔法のすべてを…。深淵よりいでし我が炎、今ここに顕現せよ!大黒炎魔法(ダーク・オブ・ヘル)!」
俺の渾身の一撃がラスボスを黒い炎で包み込み画面が真っ白になった。しばらくするとゲームクリアの文字が画面に浮かんできた。

「ふぅー、やっとクリアしたか…」

今までが大変すぎてすっごくうれしいが喜びが表現できない状態に陥りながらも、確かにこの鬼畜ゲーをクリアしたという達成感が俺の胸をいっぱいにした。

ジャンジャカジャンジャカ…パソコンから軽快な音楽が流れ出した。きっとスタッフロールが流れ出したのだろう。画面に目を戻した俺は「はて?」と首を傾げた。というのはクリアしたはずのゲームが再びプレイ画面に戻っているからだ。それも初見のステージの様だし、クリア後の隠しステージとかボーナスステージとかそういった類のものだろうか。

しばらくすると画面は村のような場所に切り替わった。これまた不思議な村で畑は荒れ、水は枯れ、家は燃え、村人は死に伏している。いったい何があった設定なのだろうか。
全くストーリーが理解できないまましばらく画面を見ていると、地面に伏し泣いている女の子が現れた。それに伴うかのように見慣れた選択が出てきた。

《殺す》 ◀
《助ける》

「なんだこれ」

思わず言葉にしてしまうほど変な質問。今までプレイしてきてこんなバカげた選択は見たことがない。こういうときは…

「あっ…」

助けるはずなのに、間違えてエンターを押してしまった。失敗したと思っていると、予想に反してスタッフロールが流れてきた。

「なんだったんだ…」

全く意味の分からない選択に少し府が落ちない気もするが、こうして俺は一つのゲームをクリアすることができたのだった。
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