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番外編② 優芽と貴文の修学旅行
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本日7月14日は本作のヒロイン西郷優芽の誕生日です。
これを機縁して本日は番外編「優芽と貴文の修学旅行」をお届けします。
それでは、どうぞ!
(本編)
~2099年 夏(修学旅行前夜)~
修学旅行、それは学校行事の中でもとりわけ生徒が楽しみにしているイベントの一つだろう。
ここ国立太平洋学園(NPOC)でも小等部6年、中等部3年、高等部2年で修学旅行が行われている。
「貴君、ちゃんとパンツ入れた?2泊3日だから3枚はないといけないよ?」
「3枚も?めんどくさいな、裏返せば一枚で行けるだろ」
「えっ…」
「おいちょっと待て、なぜ引く?」
「いや、ただちょっとやばいなと思って…」
そういいつつも優芽は後退を止めない。相当引かれてるな、これ…。
「あぁーもう分かった。分かったよ、ちゃんと3枚は持って行くから」
「持って行くだけじゃなくて、ちゃんと使ってよね?」
「はい…」
中等部の修学旅行は東京と決まっている。高等部になればアメリカ何だがな…、まぁいいだろう。
「東京って言ったらやっぱりあれだよね」
「もんじゃ焼きか?」
「そうそう、あの熱々の鉄板で焼かれるもんじゃ焼きと言ったら…、じゃない!違うよ、東京って言ったら、浦安ランドでしょ?」
「あの遊園地の事か?東京じゃないじゃんかよ」
「うるさい!」
「はい、すみません…」
優芽の言う浦安ランドは東京都ではなく、ぎりぎり東京都ではなく千葉県にある、遊園地の事だ。こんかいの修学旅行の目玉はやはりこれだろう。
「とりあえず貴君の荷物はこれで大丈夫かな?」
「優芽、自分の荷物は大丈夫なのか?」
「侮るなかれ!もう玄関にスーツケースが置いてあるんだから」
「おっ、おう…」
優芽の奴、楽しみなことは早め早めから準備するから…。昔から変わらないな。
「じゃあ明日早いんだから、そろそろ部屋に戻って寝ろよ?」
「そうだね、って言っても寝れる気がしないけど」
「楽しみすぎて寝れなくて、結局朝寝坊したって事にはなるなよ。小等部の時みたいに」
「げっ…」
というもの、優芽は小等部の修学旅行の時に楽しみすぎて逆に寝坊し、学園長、といっても親父さんだが、親父さんと一緒に後から合流したという伝説を既に作っている。
「だ、大丈夫だもん!」
「だといいが」
「なんか、そんなこと言われたら早く寝ないといけない気がしてきた…。じゃあ私戻るね、おやすみ」
「おやすみ」
こうして夜が更け、夜が明け、次の日となる…。
―――――
~修学旅行1日目 NPOCIA~
「貴君、おはよう!」
「おはよう、ちゃんと起きれたんだな」
「まだ言う?ちゃんと一人で起きれたんですからね」
エッヘン!と胸を張る優芽さん。でも俺は知っている。目覚ましを十数個かけ、挙句の果てにはお袋さんにモーニングコールまでお願いしていたことを俺は知っている。
口が裂けても優芽には言えないが…
「さっきからなにごにょごにょ言ってるの?」
「へぇあ⁉」
「ぷっ、あははは!なに『へぇあ⁉』って貴君大丈夫?」
「あっ…あぁ、大丈夫だ」
きゃあぁー!超恥ずかしいんですけど!修学旅行行かずに帰ろうかな…。
「中等部の諸君、航空券を渡すから受け取った者から保安検査場へ行くように」
前で教員が指示をし始めた。添乗員が搭乗券を前の方から配りだしたのも見える。
「いよいよ始まるね修学旅行」
「そうだな」
「楽しみだね!」
「おう」
こうして俺と優芽の修学旅行は始まったのだった。
―――――
東京へは飛行機で2時間弱。あっという間の空の旅であった。
「みんなバスに乗り込んでくれ」
「NPOC御一行様はこちらへどうぞ」
教員と添乗員の流れるようなコンビネーションで、生徒たちはバスへと誘導されていく。
「ねぇ貴君、今日の観光の目玉と言えば?」
「今日か…、今日は確か東京スカイタワーに雷門、旧築地市場跡地の見学とかだったよな」
「うん、そうだよ!特に東京スカイタワーが楽しみだよね」
優芽の言う東京スカイタワーは高さ1,634mを誇り、日本中の電波中継を一手に担う国内最大級の電波塔だ。
1,000m地点には展望台もあり、東京の街並みを天から見下ろすことができる人気のスポットだ。
「でもどうせ優芽の事だから、目的は展望台からの景色とかじゃないんだろうけど」
「へっ?」
「どうせお目当てはタワーの下にあるショッピングモールだろ?」
「げっ…」
「そこで食べ歩き…」
「ストップ、ストップ!分かった、分かったから…、あまり大きな声で言わないでよ」
「おい、山本!西郷!早くバスに乗れ!」
「先生も呼んでるし、そろそろ行こっか」
「おう」
優芽は食欲モンスターだ。よく食べる、もうそれは横綱並みに。
行きつけの店が、バイキングレストランだからな…。
でも彼女はそれを周りに知られることが嫌らしい。周りには少食系女子で売っているらしいのだ…。
あぁ、女子って怖っ…。
―――――
「という事で、やってきました東京スカイタワー!」
「いぇいーい」
「何そのテンション?もっと盛り上がっていこうよ」
「といってもな…」
俺のテンションがいまいち盛り上がらない理由。それは、俺の出身が東京だからだ。
ちいさいころからこのタワーも雷門も嫌になるほど見てきた。だから今回の、特に今日のコースはあまり気乗りしないのだ。
「ひゃぁー、優芽、タワーに来るの2回目だけど、やっぱり高いなー」
「そりゃ、低くなってもらっちゃ困るだろうよ」
「それはそうだけどさ、なんか、なんか来ても感動!ってことを表現したいんだよね」
あまり気乗りしない俺とは対照に優芽は心底楽しんでいるようで何よりだ。
「じゃあここからは、展望台を希望する者、下のショッピングモールを希望する者に分かれて行動してもらう。ショッピングモールに行くものはここで解散、展望台に行くものは私についてきてくれ」
「だってだ、優芽はどうするんだ?」
「私は…」
「ん?」
「私はね…」
「俺はショッピングモールに行きたいな~」
「…っ!し、しょうがないな、貴君一人だと寂しいだろうから私が一緒についていってあげるよ」
「ふふっ…、ありがとよ」
「どういたしまして」
「じゃあ行くか」
「うん!」
―――――
「NPOCの商業層も品ぞろえ豊富だけど、やっぱり、本島の、それも巨大ショッピングモールは違うね…。買いすぎちゃった」
「いや、買いすぎだろ」
優芽とショッピングモールを回ったのは良いものの、この女、次から次へと買い込んで、俺の両手がみるみる塞がっていった。
どうして女っていう生き物はこんなにショッピングが好きなのだろうか。
バスに戻り、俺たち一行は全ての工程を無事に終えた。
「部屋の振り分けは、工程表を参照の事。ホテル外への外出も許可するが、夕食開始までには戻ってきておくように。あと、男子どもは変な気を起こさないようにな」
変な気って…。今どきそんなことするのは、小説とか漫画の世界の話だろうに…。
そんな事を考えつつ俺は自分の部屋に着き、ベットに体を預けた。
「おぉーい、貴文」
「ん?どうした」
「行こうぜ、女子部屋!」
「おやすみー」
「ちょいまてぇい」
あぁーもううるさいな…。NPOCの修学旅行ではだいだい2人一部屋だ。おれも例外ではなく、まぁ、運命のいたずらか広大と相部屋になった。
今日一日思いのほか疲れたから、夕食まで寝ようと思った矢先、覗きらしい。
「んぁ、なんだよ広大、そんなに覗きたけりゃ一人で行けよ」
「なぁ、貴文」
「ん?」
「俺たち親友だよな」
「まぁ一応」
「親友なら、親友が覗きに行きたいって言ったら、手伝うのなんて当たり前だろ」
「なにがだよ」
「くっ…、貴文のチキン野郎め!」ガチャ、バタン
広大は、なんだかとても理不尽なことをぼやきながら出て行った。ありがとう、出ていってくれて。これで快適な仮眠が取れ… コンコン
ないようだな。誰だ、人の睡眠を邪魔しようとする不届き者は
コンコン「はいはい、只今。どちらさんですかね」
「やっほ!遊びに来ちゃった」
「優芽か…」
「なによ、優芽か…って!私じゃ不満だって事?」
「そういうわけじゃなくてだな…まぁいい、どうしたんだ?」
「おなか空いちゃって」
「ちょっと散歩がてらパフェでも食べませんかっていうお誘いか?」
「ほほぉー、正解だよ貴文君」
「さようならー」
「って閉めるな!ほら準備して、行くよ」
「は、はい…」
俺に拒否権無しですか…。とまぁ、半ば強引に優芽に連れ出され、俺たちは川沿いの道を歩いてみることにした。
「ひゃー!川だよ貴君、久しぶりに川を見た気がするよ」
「確かにNPOCの周りは見渡す限り海で川なんてないもんな」
「こうやって、貴君の一緒に散歩するのも久しぶりだよ」
「そうだな」
「へへへ…」
「どうした急に笑い出したりなんかして、病気か?それとも気が狂ったのか?それとも…」
「全部外れだよ!もう…」
「じゃあなんで、急に笑い出したりなんかしたんだよ」
もう一度念を押して聞くと、優芽は頬を真っ赤にし、そっぽを向きながら続けた。
「もう、貴君には関係ないよ!はい忘れた、忘れた」
「???」
やっぱり女心は分からん…。
「そんくらい気が付きなさいよ、バカ…」
―――――
夕食も終わり、後は風呂に入って寝るだけだ。
部屋に戻り、俺はテレビを見ながら、この旅先独特の雰囲気を楽しんでいた。
「おい、貴文!」
「どうした、広大」
「女湯覗きに行こうぜ!」
「誰が行くかアホ」
「つれねぇな」
「誰がつれるんだよ、そんなので」
女湯を覗くのはハイリスクハイリターンだ。俺はそんなに高いリスクを負ってまで裸を見ようとは思わないな…。こんなアホみたいなことやるのは広大くらいだろうな。
コンコン「広大いるか」
「おう、いるぞ」
「女湯覗きに行こうぜ!」
アホ多すぎだろ!
「やっぱ、修学旅行と言えば女湯覗きだよな、よっしゃ待ってろ女湯!という事で貴文、俺は今から重要なミッションがあるから部屋を開ける。じゃあ行ってくるぜぇい!」
「いってらー」
やっとアホがどっか行ってくれた。
「…」
さっきまで騒がしかったのに急に静かになってしまったからだろうか。どこか手持ち無沙汰を感じる。
「自販機でも行くか」
誰に言ったわけでもなく、俺はそうつぶやくと、重い腰を上げ、自販機へと向かった。
「おう山本、どうだ修学旅行は」
「宮本先生、結構疲れますね、修学旅行って…」
「ははは!そうかそうか。疲れるって事は、それだけ本気になって修学旅行を楽しもうとしていることの表れだろう。中学生の修学旅行は一度きりだからな。しっかり楽しんどけよ」
「うっす」
意外と俺も修学旅行を楽しめてるのかな…?俺は宮本先生との会話を思い出しながら思った。
気が付けば自販機コーナーについていたようだ。
校外でもC-payは使う事が出来、自販機や電車、買い物の支払いまで全てNPOCにいるときと変わらずこなすことができる。
俺はオレンジジュースを買い、併設してあるカフェコーナーに腰を下ろした。
カフェコーナーといってもただ椅子と机が置いてあるだけだが、部屋にいるときよりも手持ち無沙汰が薄れ、甘酸っぱいオレンジジュースを楽しむのにこの上ない環境であった。
「ごらぉ!待て、変態ども!」
「うわぁ、待ってくれ!話を聞いてくれよ!」
「聞く耳持つか、この変態ども!」
人が折角オレンジジュースを楽しんでいるのに目の前では変態ども(=覗き隊)と女子との攻防が繰り広げられていた。
「外にでも行くか」
―――――
騒々しい、ホテルから一歩出ると、昼間に優芽と歩いた川沿いの道へと歩を進めた。
道の傍に設置されたベンチに腰掛けると、夜風が気持ちいい。
「だーれだ」
「優芽」
「ちぇ、なんで当てちゃうかな」
「分かるだろ、普通」
「えっ?なんで、私だってわかるの?」
「声もそうだが、やっぱり」
「やっぱり?」
「こんなガキみたいなことするのは優芽しかいないしな」
「なっ!」
「図星だろ」
「ガキじゃないもん!」
「…」
「…」
「ふっ、あははは!私やっぱり静かなの苦手だな~」
「優芽は、元気に笑ってる方がいいよ」
「へっ?」
「あっ、いや…なんでもない。それより、昼間なんで笑ったかの理由聞いてなかったな」
「まだ諦めてなかったの?もう、しょうがないな」
そういうと優芽は俺に体を近づけた。頬に何かが優しく触れた。
「ちょ、お前…なんで急に」
「私が笑った理由だよ」
「はっ?」
「まぁ貴君には一生わかんないかもね」
東京の街並みがせわしく変化する中で、俺たち二人の関係も少しづつ前に進みだしたのかもしれない。
これを機縁して本日は番外編「優芽と貴文の修学旅行」をお届けします。
それでは、どうぞ!
(本編)
~2099年 夏(修学旅行前夜)~
修学旅行、それは学校行事の中でもとりわけ生徒が楽しみにしているイベントの一つだろう。
ここ国立太平洋学園(NPOC)でも小等部6年、中等部3年、高等部2年で修学旅行が行われている。
「貴君、ちゃんとパンツ入れた?2泊3日だから3枚はないといけないよ?」
「3枚も?めんどくさいな、裏返せば一枚で行けるだろ」
「えっ…」
「おいちょっと待て、なぜ引く?」
「いや、ただちょっとやばいなと思って…」
そういいつつも優芽は後退を止めない。相当引かれてるな、これ…。
「あぁーもう分かった。分かったよ、ちゃんと3枚は持って行くから」
「持って行くだけじゃなくて、ちゃんと使ってよね?」
「はい…」
中等部の修学旅行は東京と決まっている。高等部になればアメリカ何だがな…、まぁいいだろう。
「東京って言ったらやっぱりあれだよね」
「もんじゃ焼きか?」
「そうそう、あの熱々の鉄板で焼かれるもんじゃ焼きと言ったら…、じゃない!違うよ、東京って言ったら、浦安ランドでしょ?」
「あの遊園地の事か?東京じゃないじゃんかよ」
「うるさい!」
「はい、すみません…」
優芽の言う浦安ランドは東京都ではなく、ぎりぎり東京都ではなく千葉県にある、遊園地の事だ。こんかいの修学旅行の目玉はやはりこれだろう。
「とりあえず貴君の荷物はこれで大丈夫かな?」
「優芽、自分の荷物は大丈夫なのか?」
「侮るなかれ!もう玄関にスーツケースが置いてあるんだから」
「おっ、おう…」
優芽の奴、楽しみなことは早め早めから準備するから…。昔から変わらないな。
「じゃあ明日早いんだから、そろそろ部屋に戻って寝ろよ?」
「そうだね、って言っても寝れる気がしないけど」
「楽しみすぎて寝れなくて、結局朝寝坊したって事にはなるなよ。小等部の時みたいに」
「げっ…」
というもの、優芽は小等部の修学旅行の時に楽しみすぎて逆に寝坊し、学園長、といっても親父さんだが、親父さんと一緒に後から合流したという伝説を既に作っている。
「だ、大丈夫だもん!」
「だといいが」
「なんか、そんなこと言われたら早く寝ないといけない気がしてきた…。じゃあ私戻るね、おやすみ」
「おやすみ」
こうして夜が更け、夜が明け、次の日となる…。
―――――
~修学旅行1日目 NPOCIA~
「貴君、おはよう!」
「おはよう、ちゃんと起きれたんだな」
「まだ言う?ちゃんと一人で起きれたんですからね」
エッヘン!と胸を張る優芽さん。でも俺は知っている。目覚ましを十数個かけ、挙句の果てにはお袋さんにモーニングコールまでお願いしていたことを俺は知っている。
口が裂けても優芽には言えないが…
「さっきからなにごにょごにょ言ってるの?」
「へぇあ⁉」
「ぷっ、あははは!なに『へぇあ⁉』って貴君大丈夫?」
「あっ…あぁ、大丈夫だ」
きゃあぁー!超恥ずかしいんですけど!修学旅行行かずに帰ろうかな…。
「中等部の諸君、航空券を渡すから受け取った者から保安検査場へ行くように」
前で教員が指示をし始めた。添乗員が搭乗券を前の方から配りだしたのも見える。
「いよいよ始まるね修学旅行」
「そうだな」
「楽しみだね!」
「おう」
こうして俺と優芽の修学旅行は始まったのだった。
―――――
東京へは飛行機で2時間弱。あっという間の空の旅であった。
「みんなバスに乗り込んでくれ」
「NPOC御一行様はこちらへどうぞ」
教員と添乗員の流れるようなコンビネーションで、生徒たちはバスへと誘導されていく。
「ねぇ貴君、今日の観光の目玉と言えば?」
「今日か…、今日は確か東京スカイタワーに雷門、旧築地市場跡地の見学とかだったよな」
「うん、そうだよ!特に東京スカイタワーが楽しみだよね」
優芽の言う東京スカイタワーは高さ1,634mを誇り、日本中の電波中継を一手に担う国内最大級の電波塔だ。
1,000m地点には展望台もあり、東京の街並みを天から見下ろすことができる人気のスポットだ。
「でもどうせ優芽の事だから、目的は展望台からの景色とかじゃないんだろうけど」
「へっ?」
「どうせお目当てはタワーの下にあるショッピングモールだろ?」
「げっ…」
「そこで食べ歩き…」
「ストップ、ストップ!分かった、分かったから…、あまり大きな声で言わないでよ」
「おい、山本!西郷!早くバスに乗れ!」
「先生も呼んでるし、そろそろ行こっか」
「おう」
優芽は食欲モンスターだ。よく食べる、もうそれは横綱並みに。
行きつけの店が、バイキングレストランだからな…。
でも彼女はそれを周りに知られることが嫌らしい。周りには少食系女子で売っているらしいのだ…。
あぁ、女子って怖っ…。
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「という事で、やってきました東京スカイタワー!」
「いぇいーい」
「何そのテンション?もっと盛り上がっていこうよ」
「といってもな…」
俺のテンションがいまいち盛り上がらない理由。それは、俺の出身が東京だからだ。
ちいさいころからこのタワーも雷門も嫌になるほど見てきた。だから今回の、特に今日のコースはあまり気乗りしないのだ。
「ひゃぁー、優芽、タワーに来るの2回目だけど、やっぱり高いなー」
「そりゃ、低くなってもらっちゃ困るだろうよ」
「それはそうだけどさ、なんか、なんか来ても感動!ってことを表現したいんだよね」
あまり気乗りしない俺とは対照に優芽は心底楽しんでいるようで何よりだ。
「じゃあここからは、展望台を希望する者、下のショッピングモールを希望する者に分かれて行動してもらう。ショッピングモールに行くものはここで解散、展望台に行くものは私についてきてくれ」
「だってだ、優芽はどうするんだ?」
「私は…」
「ん?」
「私はね…」
「俺はショッピングモールに行きたいな~」
「…っ!し、しょうがないな、貴君一人だと寂しいだろうから私が一緒についていってあげるよ」
「ふふっ…、ありがとよ」
「どういたしまして」
「じゃあ行くか」
「うん!」
―――――
「NPOCの商業層も品ぞろえ豊富だけど、やっぱり、本島の、それも巨大ショッピングモールは違うね…。買いすぎちゃった」
「いや、買いすぎだろ」
優芽とショッピングモールを回ったのは良いものの、この女、次から次へと買い込んで、俺の両手がみるみる塞がっていった。
どうして女っていう生き物はこんなにショッピングが好きなのだろうか。
バスに戻り、俺たち一行は全ての工程を無事に終えた。
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変な気って…。今どきそんなことするのは、小説とか漫画の世界の話だろうに…。
そんな事を考えつつ俺は自分の部屋に着き、ベットに体を預けた。
「おぉーい、貴文」
「ん?どうした」
「行こうぜ、女子部屋!」
「おやすみー」
「ちょいまてぇい」
あぁーもううるさいな…。NPOCの修学旅行ではだいだい2人一部屋だ。おれも例外ではなく、まぁ、運命のいたずらか広大と相部屋になった。
今日一日思いのほか疲れたから、夕食まで寝ようと思った矢先、覗きらしい。
「んぁ、なんだよ広大、そんなに覗きたけりゃ一人で行けよ」
「なぁ、貴文」
「ん?」
「俺たち親友だよな」
「まぁ一応」
「親友なら、親友が覗きに行きたいって言ったら、手伝うのなんて当たり前だろ」
「なにがだよ」
「くっ…、貴文のチキン野郎め!」ガチャ、バタン
広大は、なんだかとても理不尽なことをぼやきながら出て行った。ありがとう、出ていってくれて。これで快適な仮眠が取れ… コンコン
ないようだな。誰だ、人の睡眠を邪魔しようとする不届き者は
コンコン「はいはい、只今。どちらさんですかね」
「やっほ!遊びに来ちゃった」
「優芽か…」
「なによ、優芽か…って!私じゃ不満だって事?」
「そういうわけじゃなくてだな…まぁいい、どうしたんだ?」
「おなか空いちゃって」
「ちょっと散歩がてらパフェでも食べませんかっていうお誘いか?」
「ほほぉー、正解だよ貴文君」
「さようならー」
「って閉めるな!ほら準備して、行くよ」
「は、はい…」
俺に拒否権無しですか…。とまぁ、半ば強引に優芽に連れ出され、俺たちは川沿いの道を歩いてみることにした。
「ひゃー!川だよ貴君、久しぶりに川を見た気がするよ」
「確かにNPOCの周りは見渡す限り海で川なんてないもんな」
「こうやって、貴君の一緒に散歩するのも久しぶりだよ」
「そうだな」
「へへへ…」
「どうした急に笑い出したりなんかして、病気か?それとも気が狂ったのか?それとも…」
「全部外れだよ!もう…」
「じゃあなんで、急に笑い出したりなんかしたんだよ」
もう一度念を押して聞くと、優芽は頬を真っ赤にし、そっぽを向きながら続けた。
「もう、貴君には関係ないよ!はい忘れた、忘れた」
「???」
やっぱり女心は分からん…。
「そんくらい気が付きなさいよ、バカ…」
―――――
夕食も終わり、後は風呂に入って寝るだけだ。
部屋に戻り、俺はテレビを見ながら、この旅先独特の雰囲気を楽しんでいた。
「おい、貴文!」
「どうした、広大」
「女湯覗きに行こうぜ!」
「誰が行くかアホ」
「つれねぇな」
「誰がつれるんだよ、そんなので」
女湯を覗くのはハイリスクハイリターンだ。俺はそんなに高いリスクを負ってまで裸を見ようとは思わないな…。こんなアホみたいなことやるのは広大くらいだろうな。
コンコン「広大いるか」
「おう、いるぞ」
「女湯覗きに行こうぜ!」
アホ多すぎだろ!
「やっぱ、修学旅行と言えば女湯覗きだよな、よっしゃ待ってろ女湯!という事で貴文、俺は今から重要なミッションがあるから部屋を開ける。じゃあ行ってくるぜぇい!」
「いってらー」
やっとアホがどっか行ってくれた。
「…」
さっきまで騒がしかったのに急に静かになってしまったからだろうか。どこか手持ち無沙汰を感じる。
「自販機でも行くか」
誰に言ったわけでもなく、俺はそうつぶやくと、重い腰を上げ、自販機へと向かった。
「おう山本、どうだ修学旅行は」
「宮本先生、結構疲れますね、修学旅行って…」
「ははは!そうかそうか。疲れるって事は、それだけ本気になって修学旅行を楽しもうとしていることの表れだろう。中学生の修学旅行は一度きりだからな。しっかり楽しんどけよ」
「うっす」
意外と俺も修学旅行を楽しめてるのかな…?俺は宮本先生との会話を思い出しながら思った。
気が付けば自販機コーナーについていたようだ。
校外でもC-payは使う事が出来、自販機や電車、買い物の支払いまで全てNPOCにいるときと変わらずこなすことができる。
俺はオレンジジュースを買い、併設してあるカフェコーナーに腰を下ろした。
カフェコーナーといってもただ椅子と机が置いてあるだけだが、部屋にいるときよりも手持ち無沙汰が薄れ、甘酸っぱいオレンジジュースを楽しむのにこの上ない環境であった。
「ごらぉ!待て、変態ども!」
「うわぁ、待ってくれ!話を聞いてくれよ!」
「聞く耳持つか、この変態ども!」
人が折角オレンジジュースを楽しんでいるのに目の前では変態ども(=覗き隊)と女子との攻防が繰り広げられていた。
「外にでも行くか」
―――――
騒々しい、ホテルから一歩出ると、昼間に優芽と歩いた川沿いの道へと歩を進めた。
道の傍に設置されたベンチに腰掛けると、夜風が気持ちいい。
「だーれだ」
「優芽」
「ちぇ、なんで当てちゃうかな」
「分かるだろ、普通」
「えっ?なんで、私だってわかるの?」
「声もそうだが、やっぱり」
「やっぱり?」
「こんなガキみたいなことするのは優芽しかいないしな」
「なっ!」
「図星だろ」
「ガキじゃないもん!」
「…」
「…」
「ふっ、あははは!私やっぱり静かなの苦手だな~」
「優芽は、元気に笑ってる方がいいよ」
「へっ?」
「あっ、いや…なんでもない。それより、昼間なんで笑ったかの理由聞いてなかったな」
「まだ諦めてなかったの?もう、しょうがないな」
そういうと優芽は俺に体を近づけた。頬に何かが優しく触れた。
「ちょ、お前…なんで急に」
「私が笑った理由だよ」
「はっ?」
「まぁ貴君には一生わかんないかもね」
東京の街並みがせわしく変化する中で、俺たち二人の関係も少しづつ前に進みだしたのかもしれない。
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