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番外編① 貴文の誕生日
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6月19日は本作の主人公山本貴文の誕生日です。いやぁーなんだか自分の子供の誕生日みたいで嬉しいですね…。さて今回は通常更新とは別枠「番外編」としてお送りします。
(※【注意】 登場人物や施設設定等は通常更新分と変わりませんが、時間軸が通常更新分と異なっています。また貴文と優芽は既に恋人の設定です。その点をご理解いただき読んでいただけると幸いです)
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『6月19日』それは大切な日だ。大切な人の誕生日だ。私をいつも救ってくれる、守ってくれる、そんな彼の1年に1度の誕生日だ。なのに…
―1―
チュンチュン。外から聞こえる雀のさえずりで目を覚ます。NPOC US2に広がる噴水公園は野鳥が放たれていて豊かな自然を楽しめることでも有名だ。
「うわぁぁあー」
ベッドの上で体を伸ばす。ベッド横のカレンダーは6月19日を指している。今日は私の彼、貴君の誕生日だ。ん?誕生日…
「あっあああああああ!」
私は重大なミスに気が付き慌ててベットから飛び降りる。私のバカ!なんで忘れちゃってるかな…幸い今日は学校は休日で休み。サークルもなく一日フリーだ。
慌てて服を着替え、洗面所で身だしなみを整える。朝食は作る暇もないので食パンを口にくわえ、玄関を飛び出した。
彼の誕生日を『忘れていた』わけではない。誕生日プレゼントを『買い忘れていた』のだ…。
食パンを咥えたまま駅まで走ったせいでのどがカラカラだ。水を飲みたくてしょうがない。
仕方なく駅のホームの自販機で飲み物を買う。冷たい水がのどを潤し、少し生き返ったような気がした。
さてここで言い訳をしておこう。私は貴君の誕生日を忘れていたわけではない。断じて。じゃあなんで誕生日プレゼントを買い忘れるのか。それについて私の話を聞いてもらいたい。
―2―
話しは遡る事1週間前になる。私が所属する高等部のサークル「NPOC Cooking Students Club」まぁ俗に言う「家事部」ではあるトラブルに見舞われていた。
「みんな、いよいよ来週の18日は家事部恒例の特製弁当販売だよねぇ…」
そういうのは家事部の部長。特製弁当販売は毎年この時期に家事部が企画するNPOC内でも人気の企画。販売開始前から長蛇の列ができることで有名だ。
「そうですね部長。でも…」
「優芽ちゃん、どうしよう…私があんな失敗しちゃったせいで、でもイベントを中止するわけにもいかないしね…」
家事部のトラブル、まずは部員が私と部長しかいない事。部員が圧倒的に少なくて、人手不足であることは言うまでもない。今年は特に少ないらしい。
そしてもう一つがこの目の前に積まれた大量の食材。いうまでもなく弁当に使う食材たちなのだがなぜ1週間も前にそれもこんなに大量にここにあるのかというと
「私が、日付を間違えちゃったのと注文数100人分を1000人分にしちゃったからだよー。ホントごめんね優芽ちゃん…」
と半べそ気味の部長の言う通り用は発注ミスだ。それもこんなに…。
「どうしましょうか、販売は来週だし、量が量だし、でも食材無駄にするわけにもいかないし…」
「…」
部長がとうとうしゃべらなくなった。どうしたものかな…。
「なんじゃこりゃ」
入口の方で派手に驚いた様子の聞き覚えのある声が聞こえた。私の大好きな人の声だ。
「貴君、どうしたの?」
「ちょっとおなかすいたからなんか作ってないかと思ってきたんだが…どうしたんだこれ」
「実は…」
私は貴君に事情を事細かに説明した。貴君は時々質問や愉快なツッコミを混ぜながらも真剣に聞いてくれた。
「部長さん、今回も派手にやらかしましたね…」
「いやぁーあ!見ないで言わないで!前回も同じようなことしちゃって全く進歩してない私を見ないで―!」
部長はそう言い残し調理教室から出て行ってしまった。結構精神的にいてるんだろうな…。
「いっそのこともう弁当作っちゃえば?」
「えっ?」
「いや、食材このままにしてたら駄目になるだろ?だからもう総菜は調理しておいて冷凍しておけば、って駄目か?」
「いや、ナイスだよ貴君!」
―3―
そんなこんなで昨日まで休みなく部活に励み、何とか1000食販売しきった。部長はこれまた号泣しながら
「優芽ちゃん~!ありがとう~~~!」
と私を抱きしめて当分話してくれなかった。という事があり貴君の誕生日プレゼントを買っていない今に至るという事だ。
『次はUS3,US3お出口は左側です。本日もJR学園線各層環状をご利用くださりありがとうございました』
電車のアナウンスが目的の駅に着くことを教えてくれた。私は席を立ちドアの前に立った。
―4―
結論から言おう。結局誕生日プレゼントは買えなかった。理由は残高不足…。GWに調子に乗ってレストラン巡りをしたのがあだとなった。皮肉にも160円足りなかっただけだ。さっきの水を買わなければ買えたのに…。
憂鬱になりながら寮のあるUS2に戻ってきた。その時誰かからメッセージが来たのを知らせるため腕時計が自身を身震いさせた。
〔From:貴君 Subject:おはよう〕
おはよう。今日なんだが、久しぶりに二人で出かけないか?返事待ってる
たった一行のメール。でも嬉しかった。私はすぐに返信をし、1時間後に噴水の前で落ち合う事にした。
私が集合時間の5分前に噴水の前に行くとそこにはすでに彼の姿があった。こういう小さな気遣いも彼のいいところだ。
「貴くーん」
「おう」
「ごめん、待ったかな?」
「滅茶苦茶待ったぞ」
「だぁかぁらぁ、そこは『いや、今来たところ』っていうところだって何度も言ってるでしょうが!」
「へいへい」
「まぁ気を取りなおして、貴君お誕生日おめでとう!」
「覚えててくれたのか?てっきり忘れられてかと…」
「そんな訳ないでしょ!もう…」
「まぁ、あれだ、ありがと」
「うん!これからもよろしくね!」
「俺こそ。じゃあ行くか」
「そうだね」
―5―
そう言って彼と向かったのはUS3にある遊園地。ここが海の下だってことを忘れちゃうくらい広い。
US3層は言わずと知れた娯楽層。ショッピングモールにレジャープール。外部からのお客さん用にリゾートホテルまでもある。今回来た遊園地はこの娯楽層でも特に広い施設の一つだ。
「貴君何に乗りたい?」
「優芽が好きなものでいいぞ」
「ホントにじゃあ…」
「という事でやってきました、『ジェットコースター』!」
「おっ、おう…」
「それじゃあ行ってみよう!」
~乗車中~乗車中~乗車中~
「あっはぁ!いやー心臓飛び出すかと思ったよ」
「ゼェーハァー…そっ…そうだな」
「じゃあ次はあれね」
「…優芽さんや」
「どうしたのかな貴君?」
「次に乗るのってあのメリーゴーランドだよな」
「もう冗談はよしてよ、次に乗るのはメリーゴーランドの後ろに見える上がって一気に落ちる奴だよ」
「上がって一気に落ちる奴…」
「じゃあ張り切っていってみよう!」
(【丁寧な解説】 ここで二人が言っているアトラクションは「フリーフォール系」の呼ばれる奴です。垂直に上がって一気に落ちるあれですね。 By作者)
~上昇中~
「おいこれどこまでがるんだよ」
「あともうちょっとじゃない?」
「おい止まったぞ、なぁ優芽、優芽、優芽ぇー!」
~落下中~落下中~落下中~
「いやぁーどこかに飛んで行っちゃうかと思ったよ」
「…」
「どうしたの貴君?」
「いやさ、さっきから満面の笑みで「怖かった」とか言われてもな…俺のセリフだしそれ」
「あっ…そうだった…」
皆さん、もうお気づきだと思いますが、貴君は絶叫系が大の苦手なんです…。忘れてました。テヘペロ!
「そうかそうか、忘れてたか…じゃあ次はあ・れ・だ・な!」
そう言って貴君が指さした先にあったのは、見るからに呪われている廃墟(みたいな建物)だった…。
背筋を冷たい空気がなでるように通り抜ける。私は思わず身震いする。あぁーなんでもう人はこんなところに入りたがるのかな…
「どうした優芽、怖いのか?」
くっそぉーこいつさっきからニヤニヤしやがって…さっきまでの恨みを全部晴らそうっていう魂胆だな…
「いや、全然怖くないよ。ちょうど暑いと思ってたから涼しくて快適だよ」
「そうか、ならよかったな」
その時「わっ!」物陰からお化けが飛び出してきた。私はそこで意識がぷつりと切れた。
―6―
暖かい、広い、そして安心するような感じ。一定のリズムで揺れて心地いい。目を開けてみる。そこは彼の背中の上だった。
「起きたか優芽、お前また強がったりして。怖いの苦手なら苦手って素直に言えよ」
「怖いに嫌いだけど、あそこで言っちゃったらなんか負けたみたいで悔しいじゃんか」
「小さいころからその強がりの性格変わらないな…まぁあれだ…ごめん」
「へっ?」
「優芽が怖いの苦手って知ってながら、あと優芽の性格知ってるのに、あそこで挑発しちゃうようなことして悪かったよ」
ふふ…これも彼のいいところだ。自分のいけないところを素直に認められるところ。誰もができることじゃない。
「ねぇ、貴君」
「ん?」
「誕生日プレゼント買い忘れちゃった」
「そうか」
「怒らないの?」
「お前の事だ、わざとじゃないだろ。あれだろ、部活で忙しかったから買いに行く暇がなかったんだろ」
「なんでもお見通しか。やっぱり敵わないや貴君には」
「それにプレゼントなんてどうでもいいしな」
「なにそれ、私からのプレゼントは受け取れないって事?」ゴゴゴゴゴ
「バッ!ちげぇーよ、プレゼントなんてもらわなくても、優芽が一緒にいてくれるだけで十分だって事だよ」
そうだった…彼のいいところはいっぱいあるんだった。心が広いところ。いつも心配ばっかりしてくれるところ。大切にしてくれるところ。そして、今あるものを幸せって思えること。
みんながみんなできることじゃないよね。
「大好きだよ貴君」
「どうしたんだよ急に」
「私が言いたかっただけだよ」
「そうか…」
「…」
「あのさ優芽」
「俺絶対守るから、命に代えてもお前だけは」
「ふふ、何回も聞いたよそれ」
「悪い…」
「絶対私の事守ってよね貴君!」
恋の数だけ好きがある。私たちのもその一つ。どうかこの幸せが長く続きますように。
(※【注意】 登場人物や施設設定等は通常更新分と変わりませんが、時間軸が通常更新分と異なっています。また貴文と優芽は既に恋人の設定です。その点をご理解いただき読んでいただけると幸いです)
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『6月19日』それは大切な日だ。大切な人の誕生日だ。私をいつも救ってくれる、守ってくれる、そんな彼の1年に1度の誕生日だ。なのに…
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チュンチュン。外から聞こえる雀のさえずりで目を覚ます。NPOC US2に広がる噴水公園は野鳥が放たれていて豊かな自然を楽しめることでも有名だ。
「うわぁぁあー」
ベッドの上で体を伸ばす。ベッド横のカレンダーは6月19日を指している。今日は私の彼、貴君の誕生日だ。ん?誕生日…
「あっあああああああ!」
私は重大なミスに気が付き慌ててベットから飛び降りる。私のバカ!なんで忘れちゃってるかな…幸い今日は学校は休日で休み。サークルもなく一日フリーだ。
慌てて服を着替え、洗面所で身だしなみを整える。朝食は作る暇もないので食パンを口にくわえ、玄関を飛び出した。
彼の誕生日を『忘れていた』わけではない。誕生日プレゼントを『買い忘れていた』のだ…。
食パンを咥えたまま駅まで走ったせいでのどがカラカラだ。水を飲みたくてしょうがない。
仕方なく駅のホームの自販機で飲み物を買う。冷たい水がのどを潤し、少し生き返ったような気がした。
さてここで言い訳をしておこう。私は貴君の誕生日を忘れていたわけではない。断じて。じゃあなんで誕生日プレゼントを買い忘れるのか。それについて私の話を聞いてもらいたい。
―2―
話しは遡る事1週間前になる。私が所属する高等部のサークル「NPOC Cooking Students Club」まぁ俗に言う「家事部」ではあるトラブルに見舞われていた。
「みんな、いよいよ来週の18日は家事部恒例の特製弁当販売だよねぇ…」
そういうのは家事部の部長。特製弁当販売は毎年この時期に家事部が企画するNPOC内でも人気の企画。販売開始前から長蛇の列ができることで有名だ。
「そうですね部長。でも…」
「優芽ちゃん、どうしよう…私があんな失敗しちゃったせいで、でもイベントを中止するわけにもいかないしね…」
家事部のトラブル、まずは部員が私と部長しかいない事。部員が圧倒的に少なくて、人手不足であることは言うまでもない。今年は特に少ないらしい。
そしてもう一つがこの目の前に積まれた大量の食材。いうまでもなく弁当に使う食材たちなのだがなぜ1週間も前にそれもこんなに大量にここにあるのかというと
「私が、日付を間違えちゃったのと注文数100人分を1000人分にしちゃったからだよー。ホントごめんね優芽ちゃん…」
と半べそ気味の部長の言う通り用は発注ミスだ。それもこんなに…。
「どうしましょうか、販売は来週だし、量が量だし、でも食材無駄にするわけにもいかないし…」
「…」
部長がとうとうしゃべらなくなった。どうしたものかな…。
「なんじゃこりゃ」
入口の方で派手に驚いた様子の聞き覚えのある声が聞こえた。私の大好きな人の声だ。
「貴君、どうしたの?」
「ちょっとおなかすいたからなんか作ってないかと思ってきたんだが…どうしたんだこれ」
「実は…」
私は貴君に事情を事細かに説明した。貴君は時々質問や愉快なツッコミを混ぜながらも真剣に聞いてくれた。
「部長さん、今回も派手にやらかしましたね…」
「いやぁーあ!見ないで言わないで!前回も同じようなことしちゃって全く進歩してない私を見ないで―!」
部長はそう言い残し調理教室から出て行ってしまった。結構精神的にいてるんだろうな…。
「いっそのこともう弁当作っちゃえば?」
「えっ?」
「いや、食材このままにしてたら駄目になるだろ?だからもう総菜は調理しておいて冷凍しておけば、って駄目か?」
「いや、ナイスだよ貴君!」
―3―
そんなこんなで昨日まで休みなく部活に励み、何とか1000食販売しきった。部長はこれまた号泣しながら
「優芽ちゃん~!ありがとう~~~!」
と私を抱きしめて当分話してくれなかった。という事があり貴君の誕生日プレゼントを買っていない今に至るという事だ。
『次はUS3,US3お出口は左側です。本日もJR学園線各層環状をご利用くださりありがとうございました』
電車のアナウンスが目的の駅に着くことを教えてくれた。私は席を立ちドアの前に立った。
―4―
結論から言おう。結局誕生日プレゼントは買えなかった。理由は残高不足…。GWに調子に乗ってレストラン巡りをしたのがあだとなった。皮肉にも160円足りなかっただけだ。さっきの水を買わなければ買えたのに…。
憂鬱になりながら寮のあるUS2に戻ってきた。その時誰かからメッセージが来たのを知らせるため腕時計が自身を身震いさせた。
〔From:貴君 Subject:おはよう〕
おはよう。今日なんだが、久しぶりに二人で出かけないか?返事待ってる
たった一行のメール。でも嬉しかった。私はすぐに返信をし、1時間後に噴水の前で落ち合う事にした。
私が集合時間の5分前に噴水の前に行くとそこにはすでに彼の姿があった。こういう小さな気遣いも彼のいいところだ。
「貴くーん」
「おう」
「ごめん、待ったかな?」
「滅茶苦茶待ったぞ」
「だぁかぁらぁ、そこは『いや、今来たところ』っていうところだって何度も言ってるでしょうが!」
「へいへい」
「まぁ気を取りなおして、貴君お誕生日おめでとう!」
「覚えててくれたのか?てっきり忘れられてかと…」
「そんな訳ないでしょ!もう…」
「まぁ、あれだ、ありがと」
「うん!これからもよろしくね!」
「俺こそ。じゃあ行くか」
「そうだね」
―5―
そう言って彼と向かったのはUS3にある遊園地。ここが海の下だってことを忘れちゃうくらい広い。
US3層は言わずと知れた娯楽層。ショッピングモールにレジャープール。外部からのお客さん用にリゾートホテルまでもある。今回来た遊園地はこの娯楽層でも特に広い施設の一つだ。
「貴君何に乗りたい?」
「優芽が好きなものでいいぞ」
「ホントにじゃあ…」
「という事でやってきました、『ジェットコースター』!」
「おっ、おう…」
「それじゃあ行ってみよう!」
~乗車中~乗車中~乗車中~
「あっはぁ!いやー心臓飛び出すかと思ったよ」
「ゼェーハァー…そっ…そうだな」
「じゃあ次はあれね」
「…優芽さんや」
「どうしたのかな貴君?」
「次に乗るのってあのメリーゴーランドだよな」
「もう冗談はよしてよ、次に乗るのはメリーゴーランドの後ろに見える上がって一気に落ちる奴だよ」
「上がって一気に落ちる奴…」
「じゃあ張り切っていってみよう!」
(【丁寧な解説】 ここで二人が言っているアトラクションは「フリーフォール系」の呼ばれる奴です。垂直に上がって一気に落ちるあれですね。 By作者)
~上昇中~
「おいこれどこまでがるんだよ」
「あともうちょっとじゃない?」
「おい止まったぞ、なぁ優芽、優芽、優芽ぇー!」
~落下中~落下中~落下中~
「いやぁーどこかに飛んで行っちゃうかと思ったよ」
「…」
「どうしたの貴君?」
「いやさ、さっきから満面の笑みで「怖かった」とか言われてもな…俺のセリフだしそれ」
「あっ…そうだった…」
皆さん、もうお気づきだと思いますが、貴君は絶叫系が大の苦手なんです…。忘れてました。テヘペロ!
「そうかそうか、忘れてたか…じゃあ次はあ・れ・だ・な!」
そう言って貴君が指さした先にあったのは、見るからに呪われている廃墟(みたいな建物)だった…。
背筋を冷たい空気がなでるように通り抜ける。私は思わず身震いする。あぁーなんでもう人はこんなところに入りたがるのかな…
「どうした優芽、怖いのか?」
くっそぉーこいつさっきからニヤニヤしやがって…さっきまでの恨みを全部晴らそうっていう魂胆だな…
「いや、全然怖くないよ。ちょうど暑いと思ってたから涼しくて快適だよ」
「そうか、ならよかったな」
その時「わっ!」物陰からお化けが飛び出してきた。私はそこで意識がぷつりと切れた。
―6―
暖かい、広い、そして安心するような感じ。一定のリズムで揺れて心地いい。目を開けてみる。そこは彼の背中の上だった。
「起きたか優芽、お前また強がったりして。怖いの苦手なら苦手って素直に言えよ」
「怖いに嫌いだけど、あそこで言っちゃったらなんか負けたみたいで悔しいじゃんか」
「小さいころからその強がりの性格変わらないな…まぁあれだ…ごめん」
「へっ?」
「優芽が怖いの苦手って知ってながら、あと優芽の性格知ってるのに、あそこで挑発しちゃうようなことして悪かったよ」
ふふ…これも彼のいいところだ。自分のいけないところを素直に認められるところ。誰もができることじゃない。
「ねぇ、貴君」
「ん?」
「誕生日プレゼント買い忘れちゃった」
「そうか」
「怒らないの?」
「お前の事だ、わざとじゃないだろ。あれだろ、部活で忙しかったから買いに行く暇がなかったんだろ」
「なんでもお見通しか。やっぱり敵わないや貴君には」
「それにプレゼントなんてどうでもいいしな」
「なにそれ、私からのプレゼントは受け取れないって事?」ゴゴゴゴゴ
「バッ!ちげぇーよ、プレゼントなんてもらわなくても、優芽が一緒にいてくれるだけで十分だって事だよ」
そうだった…彼のいいところはいっぱいあるんだった。心が広いところ。いつも心配ばっかりしてくれるところ。大切にしてくれるところ。そして、今あるものを幸せって思えること。
みんながみんなできることじゃないよね。
「大好きだよ貴君」
「どうしたんだよ急に」
「私が言いたかっただけだよ」
「そうか…」
「…」
「あのさ優芽」
「俺絶対守るから、命に代えてもお前だけは」
「ふふ、何回も聞いたよそれ」
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