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第三章 ようこそ鹿児島!
第五十八話 あの日見た月(後編)
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~2097年 夏 西郷家~
「たぁかぁくぅん~!あきたよ~」
「優芽さんやい、飽きるの早すぎやしませんかね?」
「だって、私の家だもん。知らないところなんてないよ!」
「そりゃそうかも知れないけど、本当に探検しつくしたのか?」
「だから、さっきからそうだって…あっ」
「どうしたんだ?」
「一か所だけあったよ、入ったことない部屋」
優芽を問い詰めに問い詰めた結果、ついに見つけた西郷家秘境の地とは…
「ここだよ、おじいちゃんの部屋」
優芽のおじいさんの部屋だった。
「おじいちゃん、私が生まれるずっと前に死んじゃったから顔も写真でしか見たこと無いんだけど、すごい賢い人だったんだって」
「そんなすごいおじいさんの部屋なのか…」
「お母さんが、この部屋だけは絶対に入っちゃ駄目だって、ずっと言われてきたんだけど、今回は探検だもん!さぁ、貴君行くよ!」
「ちょ、優芽駄目なんだろ?やめとけよ」
「えぇーいいじゃんかちょっとくらい」
そう言いながら優芽がドアノブに手を掛けた。この部屋のドアは今どき珍しくアナログなドアノブで、雰囲気が出ている。
「こら!優芽、そこの部屋には入っちゃダメだっていいましたよね?」
「げっ、お母さんだ…・、貴君逃げるよ!」
「ちょ、」
「優芽、待ちなさい!」
「おい、すげぇ怒ってるぞお袋さん」
「屋根に逃げれば大丈夫だと思う…いざ行かん、屋根!」
「はぁ?屋根とか危なすぎだろ」
「いまお母さんから逃げ切れるのは屋根だけなの!」
「分かったから手を引っ張るなって!」
「話したら逃げてお母さんの味方するでしょうが!」
「…」
「沈黙は肯定ととらえるよ?」
「あぁーもうわかった、早く行くぞ」
屋根と言っても、この台風の中屋根に上ってしまえば雨風にさらされ、ひどい時には飛ばされてしまうだろう。
俺と優芽が向かったのは屋根は屋根でも屋根裏だ
屋根裏には小さな天窓が一つついていた。外は雨風が激しく、何も見えない
「はぁはぁ、ここまで来れば当分は追っ手から逃げられるでしょ」
「追っ手って言い方だろ…」
「あはは…確かにそうだね」
「あとでちゃんとお母さんに謝れよ?」
「その時は貴君も一緒にね」
「何でだよ」
「あはは!ごめんごめん」
その時、なんだか部屋の中がほのかに明るくなった気がした。
「あっ、貴君、見てみて月だよ!」
そう言って優芽が指さしたのは天窓から見える、雲の隙間から少しだけ顔をのぞかせている月だった。
「きれいだねぇ」
「そうだな」
「もう!そこは『いや、お前の方がきれいだぞ』でしょ」
「俺はお前の彼氏か」
―――――
「そんなこともあったな」
「ふふ、懐かしいね」
「貴君」
「ん?」
「月がきれいだね」
本当はあの時も、言いたかった。でも俺はその立場にないと思ったから思いとどまった。でもいまなら何のためらいもなく言える
「お前の方がきれいだぞ」
「たぁかぁくぅん~!あきたよ~」
「優芽さんやい、飽きるの早すぎやしませんかね?」
「だって、私の家だもん。知らないところなんてないよ!」
「そりゃそうかも知れないけど、本当に探検しつくしたのか?」
「だから、さっきからそうだって…あっ」
「どうしたんだ?」
「一か所だけあったよ、入ったことない部屋」
優芽を問い詰めに問い詰めた結果、ついに見つけた西郷家秘境の地とは…
「ここだよ、おじいちゃんの部屋」
優芽のおじいさんの部屋だった。
「おじいちゃん、私が生まれるずっと前に死んじゃったから顔も写真でしか見たこと無いんだけど、すごい賢い人だったんだって」
「そんなすごいおじいさんの部屋なのか…」
「お母さんが、この部屋だけは絶対に入っちゃ駄目だって、ずっと言われてきたんだけど、今回は探検だもん!さぁ、貴君行くよ!」
「ちょ、優芽駄目なんだろ?やめとけよ」
「えぇーいいじゃんかちょっとくらい」
そう言いながら優芽がドアノブに手を掛けた。この部屋のドアは今どき珍しくアナログなドアノブで、雰囲気が出ている。
「こら!優芽、そこの部屋には入っちゃダメだっていいましたよね?」
「げっ、お母さんだ…・、貴君逃げるよ!」
「ちょ、」
「優芽、待ちなさい!」
「おい、すげぇ怒ってるぞお袋さん」
「屋根に逃げれば大丈夫だと思う…いざ行かん、屋根!」
「はぁ?屋根とか危なすぎだろ」
「いまお母さんから逃げ切れるのは屋根だけなの!」
「分かったから手を引っ張るなって!」
「話したら逃げてお母さんの味方するでしょうが!」
「…」
「沈黙は肯定ととらえるよ?」
「あぁーもうわかった、早く行くぞ」
屋根と言っても、この台風の中屋根に上ってしまえば雨風にさらされ、ひどい時には飛ばされてしまうだろう。
俺と優芽が向かったのは屋根は屋根でも屋根裏だ
屋根裏には小さな天窓が一つついていた。外は雨風が激しく、何も見えない
「はぁはぁ、ここまで来れば当分は追っ手から逃げられるでしょ」
「追っ手って言い方だろ…」
「あはは…確かにそうだね」
「あとでちゃんとお母さんに謝れよ?」
「その時は貴君も一緒にね」
「何でだよ」
「あはは!ごめんごめん」
その時、なんだか部屋の中がほのかに明るくなった気がした。
「あっ、貴君、見てみて月だよ!」
そう言って優芽が指さしたのは天窓から見える、雲の隙間から少しだけ顔をのぞかせている月だった。
「きれいだねぇ」
「そうだな」
「もう!そこは『いや、お前の方がきれいだぞ』でしょ」
「俺はお前の彼氏か」
―――――
「そんなこともあったな」
「ふふ、懐かしいね」
「貴君」
「ん?」
「月がきれいだね」
本当はあの時も、言いたかった。でも俺はその立場にないと思ったから思いとどまった。でもいまなら何のためらいもなく言える
「お前の方がきれいだぞ」
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