絶海学園

浜 タカシ

文字の大きさ
上 下
30 / 67
第二章 文月の奪還作戦

第二十八話 チャンス

しおりを挟む
~2100年7月13日 NPOC司令部個人執務室~
明衣が泣き止んだ執務室は静寂に包まれていた。俺はハンカチを明衣に差し出しながらこう続けた。

「もう泣くのはやめろ。お前が被害者だってことは分かった。分かったから涙を拭けよ」
「あ…ありがとう」

明衣は素直にハンカチを受け取った。俺は警備課や司法課から今回の判断を一任された。これも優芽のお父さんのお力添えがあってこそなのだが…。俺は自分の中で一つの答えを出した。

「一ノ瀬明衣。サイバー対策基本法及び諸刑法違反で立件したいところだが、状況が状況だ。今回は情状酌量という事でチャンスをあげたいと思う」
「チャンス?」
「あぁ、優芽を助けるために手伝ってほしいんだ」

~7月13日 NPOC統括学園長室~
優芽が誘拐されてから早3か月。この3か月はものすごく長く感じられた。優芽は無事だろうか?そして明日は…。

コンコン。「貴文です。失礼します」
「どうぞ入りたまえ」

ドアが開き現れたのは見慣れた少年の姿と連れられた少女の姿だった。

「貴文君久しぶりだね。そちらは?」
「今回のサイバー攻撃を起こした主犯の一ノ瀬明衣です」
「なんと…」

貴文君はなにを考えているのだろうか。私にこの娘を殴れとでもいうのか?

「今回警備課及び司法課より一ノ瀬に対する量刑の判断を一任されております」
「あぁ、それは私が許可したからね。それで?」
「一ノ瀬明衣には人道的に同情できる点が多々あり、反省の色も垣間見えることから情状酌量の余地があると判断しました」
「た…貴文君!君はふざけているのかね!」

なんだって娘を誘拐した、危険にさらしている主犯であるこの女に対し情状酌量の余地があるのだろうか。私はどこ知れぬ怒りを覚えた。

「も…申し訳ありませんて…で…した。どうぞ煮るなり焼くなりご自由になさってください」
「よし、そこまで言うなら娘の苦しみ味わわせてくれるわ!」

私は思いっきり拳を振り上げた。だがそれは貴文君に受け止められてしまった。

「どうして止める?君は優芽を危険にさらしているこの娘の味方をするのかね?」
「いえ。優芽を誘拐し、危険にさらしてることは絶対に許しません。後でそれ相応の罰は受けてもらうつもりです。ただ…」

貴文君が語りだしたのは少女の過去、そして少女のお母さんの話だった。同じ親としては何とも胸が苦しい話であった。

「というわけです。今回の情状酌量には条件もあります」
「条件?」
「はい。優芽の救出にはNPOCのようにRGH内部からサイバー攻撃を仕掛ける必要があります。それは我々にはできません。だから…」
「だから彼女にやらせると」
「はい、その通りです。どうか彼女にチャンスをやってください」

チャンスか…。私は目の前にいる何かを守ろうとしている男の目を見ながら少しの間考え始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~

石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。 さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。 困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。 利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。 しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。 この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

Tokyo Flowers

シマセイ
現代文学
東京で働く25歳のユイは、忙しい毎日の中で、ふと立ち止まり、日常に 隠された美しさに気づき始める。それは、道端に咲く花、カフェの香り、夕焼けの色… 何気ない日常の中に、心を満たす美しさが溢れていることに気づき、彼女の心境に変化が訪れる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

これも何かの縁(短編連作)

ハヤシ
現代文学
児童養護施設育ちの若夫婦を中心に、日本文化や風習を話題にしながら四季を巡っていく短編連作集。基本コメディ、たまにシリアス。前半はほのぼのハートフルな話が続きますが、所々『人間の悪意』が混ざってます。 テーマは生き方――差別と偏見、家族、夫婦、子育て、恋愛・婚活、イジメ、ぼっち、オタク、コンプレックス、コミュ障――それぞれのキャラが自ら抱えるコンプレックス・呪いからの解放が物語の軸となります。でも、きれいごとはなし。 プロローグ的番外編5編、本編第一部24編、第二部28編の構成で、第二部よりキャラたちの縁が関連し合い、どんどんつながっていきます。

微熱の午後 l’aprés-midi(ラプレミディ)

犬束
現代文学
 夢見心地にさせるきらびやかな世界、優しくリードしてくれる年上の男性。最初から別れの定められた、遊びの恋のはずだった…。  夏の終わり。大学生になってはじめての長期休暇の後半をもてあます葉《よう》のもとに知らせが届く。  “大祖父の残した洋館に、映画の撮影クルーがやって来た”  好奇心に駆られて訪れたそこで、葉は十歳年上の脚本家、田坂佳思《けいし》から、ここに軟禁されているあいだ、恋人になって幸福な気分で過ごさないか、と提案される。  《第11回BL小説大賞にエントリーしています。》☜ 10月15日にキャンセルしました。  読んでいただけるだけでも、エールを送って下さるなら尚のこと、お腹をさらして喜びます🐕🐾

処理中です...