絶海学園

浜 タカシ

文字の大きさ
上 下
8 / 67
第一章 国立太平洋学園の潜伏者

第六話 新発見

しおりを挟む
~2100年4月9日 8:30 首相官邸~
私が非常事態宣言を発令して早二時間が経とうとしている。学校や空港は閉鎖、生徒の移動はUS1~3に制限など様々な安全対策が完了しつつあるとの報告が上がってきている。

「統括学園長、システム管理課の東部長からお電話です」

近藤が通話中になっている携帯を差し出してきた。私は「ありがとう」と言いながら電話に出た。

「私だ。どうした東。」
「お疲れ様です統括学園長。それが至急報告しなければならないことがありまして。今お時間よろしいでしょうか」

東の声は震えていた。相当大きな発見なのだろう。しかし発見して嬉しいというものとは違って恐怖の感情が伝わってくるような声だった。

「あぁ、大丈夫だ報告してくれ」
「はい。先ほどUG3 システム管理課から連絡がありまして…」
「UG3 のシステム管理課からだと?ということはいい知らせではないな」

UG3といえば彼らからの報告だ。さすがに対応が早い。

「ご察しの通り良い知らせではありません。実はサイバー攻撃は外部からではなくNPOC内部からのものだというログが確認できたそうです。つまり…」

私は悟った。NPOCの中にスパイが紛れていることを。

「つまりNPOCに居る120万人の中に潜伏しているスパイがいるということだな」
「はいその通りです。ですのでシステム管理課としては内部からのサーバーアクセス停止を要請します。統括学園長はご存知と思いますが停止すればC-payを含むすべてのライフラインが使えなくなります。しかし事が事ですのでご決断を」

確かにライフラインが使えなくなればあの島に住む120万人の生活に支障が出てしまう。だがそれ以上に困るものがNPOCにはある。

「分かった。内部からのサーバーアクセスの停止を許可しよう。そして非常事態対策チームを発足する。関係部署の者に連絡を入れておいてくれ。あと東」
「何でしょう統括学園長?」
「対策チームに入れてほしい生徒が二人いるのだがいいか?」

~4月9日 8:45 NPOC UG2 高速道路~
優芽の自動運転車に揺られること一時間弱。ショッピングモールまであと少しというところで悪いニュースが飛び込んできた。

「全生徒・職員に連絡します。こちらはシステム管理課です。ただいまの時刻よりC-payを含む全てのシステムが利用不可能になります。システム復旧作業に伴うものです。皆様にはご迷惑をおかけしますが何卒ご理解お願いします。以上システム管理課からでした」

C-payが使えないということは買い物ができないということだ。ショッピングどころの話ではない。つまり今日のショッピングも中止だ。

「えぇー。C-payが使えないんじゃショッピングできないじゃんかー」

優芽は本気ではぶてている様子だ。

「残念てすね。ても仕方ありません。学生寮に帰りましょうか」
「そうだな。ここにいても何もできないしな。ほら優芽はぶててないで帰るぞ。」
「わかった…」

優芽のやつ本当に楽しみにしてたんだな。システムが復旧したら連れてきてやるか。俺がそんなことを考えているうちに自動運転車は帰宅の途に就いた。

~4月9日 10:00 US1 学生寮~
「ごめんな明衣。無駄な時間使わせちゃって」
「謝らないてください。車の中で皆さんとたくさんお話出来てたのしかったてすから」


明衣が微笑みながら言った。
「私も楽しかった!次こそショッピング行こうね明衣ちゃん!」
「はい優芽ちゃん」

こうしてショッピングは終わったのだった。明衣と別れ俺と優芽は寮に向かって歩いていた。

「貴君もごめんね。付き合わせた上にショッピングもできなくて」
「明衣も言ってただろ?別に優芽のせいじゃないんだから気にするなよ」

俺の言葉を聞くと優芽の顔に笑顔が戻った。やっぱり優芽には笑顔が似合う。

「山本 貴文君と西郷 優芽さんかな?」

急に後ろから名前を呼ばれ、俺と優芽は振り返った。

「あんた誰だ?」


俺たちの後ろにはスーツに身を包んだ男が立っていた。
「あっ、すまないね。私は東 時雄。ここのシステム管理課で働いているものだ」

システム管理課?あぁ、今回のサイバー攻撃の対処に当たっているはずの部署だ。

「で、システム管理課の方が私たちに何の用ですか?」

優芽も明らかに警戒している様子だ。

「二人とも、そんなに警戒しなくてもいいよ。実は今回の非常事態宣言を受けて対策チームが発足したのだけれど、統括学園長、優芽さんのお父さんから君たち二人もこのチームに加えてほしいとの要望があってね。だから迎えに来たんだ」
「お父さんが?」

優芽はまさか親父さんの名前が出てくると思っていなかったのだろう。少し困惑している様子である。

「優芽の親父さんのお願いなら聞きますけど、危険なことではないんですよね?」
「あぁ、そこに関しては問題ない。君たちの安全は私たちが保証するよ」

この東という男、どこか胡散臭い感じもする。でも優芽の親父さんのお願いだから俺たちは要請を受けることにした。

「それではついてきてくれ」

そういわれ東の後について歩いていたが案内されたのは行き止まりの路地だった。

「あんたやっぱり俺たちを騙したのか?」

俺は優芽をかばうようにしながら東を問い詰めた。

「まさか。ちょっと持ってね。」
そういいながら電気のメーターに東が腕時計を近づけると

ガッシャンウィーンガッシャン。行き止まりと思っていた壁が開き道が続いていた。

「ここから先は一般の生徒や職員は立ち入りできないんだ。私や優芽さんのお父さんのようなNPOCを管理するつまり裏方の人間が仕事をするNPOCの司令部さ」

十二年もこの学園に通っていたがこんな施設があるなんて知らなかった。

「わぁー!すっごい。かっこいいね貴君!」

優芽は隠し扉に目を輝かしていた。

「さぁ、行こうか」

俺たちは東に導かれNPOCの司令部に足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~

石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。 さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。 困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。 利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。 しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。 この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

Tokyo Flowers

シマセイ
現代文学
東京で働く25歳のユイは、忙しい毎日の中で、ふと立ち止まり、日常に 隠された美しさに気づき始める。それは、道端に咲く花、カフェの香り、夕焼けの色… 何気ない日常の中に、心を満たす美しさが溢れていることに気づき、彼女の心境に変化が訪れる。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

イクォール

おにぎり
現代文学
ユウスケとアヤは、些細なことでじゃれ合うような関係だった。 ある日、ユウスケはアヤをからかった後、機嫌を直させるためにお気に入りのパン屋へ誘う。 焼きたてのクロワッサンを食べながら過ごす時間は、彼にとってかけがえのないものだった。 しかし、その幸せな瞬間は突然終わりを迎える。

微熱の午後 l’aprés-midi(ラプレミディ)

犬束
現代文学
 夢見心地にさせるきらびやかな世界、優しくリードしてくれる年上の男性。最初から別れの定められた、遊びの恋のはずだった…。  夏の終わり。大学生になってはじめての長期休暇の後半をもてあます葉《よう》のもとに知らせが届く。  “大祖父の残した洋館に、映画の撮影クルーがやって来た”  好奇心に駆られて訪れたそこで、葉は十歳年上の脚本家、田坂佳思《けいし》から、ここに軟禁されているあいだ、恋人になって幸福な気分で過ごさないか、と提案される。  《第11回BL小説大賞にエントリーしています。》☜ 10月15日にキャンセルしました。  読んでいただけるだけでも、エールを送って下さるなら尚のこと、お腹をさらして喜びます🐕🐾

曾祖母の秘密

ハリマオ65
現代文学
*祖先のお宝と突然の不幸、子供、親戚、友人への援助は、身を助けるものだ!! 1995年8月13日の早朝に電話が鳴り金井次郎と奥さんの交通事故で死亡を知る。幸い長女・秀子と長男・秀二は軽傷で済んだ。残された秀子、秀二の兄弟をどうするか親族会議を開き祖父の金井一郎の家に住んだ。その後、両親を亡くした金井秀子、秀二など若手も進路を決め家を後にした。金井義朗と一郎は仕事と投資で資産ふやしていくが。その後、巻き込まれ・・・。  是非、本編をご覧下さい、宜しくお願いします。この作品はカクヨク、星空文庫、ツギクル、小説家になろうに重複掲載。

処理中です...