絶海学園

浜 タカシ

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第一章 国立太平洋学園の潜伏者

第一話 はじまり

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「皆様、ただいま国立太平洋学園国際空港に着陸しました。飛行機が完全に…」

また新たな一年がはじまる。この学園に入学してから十二回目の春だ。

「本日も太平洋航空602便にご搭乗いただきましてありがとうございました。皆様良い一日をお過ごしください」

十二回目の平和な春が始まる。そう思っていた…。

ーーーーー

~2100年4月8日9:00 国立太平洋学園国際空港到着ロビー~
 俺、山本 貴文の通う国立太平洋学園、通称NPOCは日本初の国立教育一貫校として2070年に設立された。生徒数は20万人、教職員数は100万人。この学園は幼等部から大学院まであり、生徒は皆ここで青春時代の多くを過ごす。俺は今日から高等部一年になる。

「おーい、貴くん。待ってー」。
 後ろから名前を呼ばれたが無視でいい…。

「いっったー!何するんだよ優芽」

背中を思いっきりたたかれ思はず俺は大声を出してしまった。

「無視した貴君が悪いんですよーだ。」

ベーっだと言いながら舌を出しているこいつの名前は西郷 優芽。幼等部からの幼馴染だ。新学期早々俺を蹴ってきたバカであるが、これでもここの統括学園長つまりトップの娘である。実家は鹿児島で俺も何度かお邪魔したことがある。親父さんもお袋さんも気さくで優しい人だ。

「今日から高等部かー。ねぇ貴くん、今日入学式終わったら一緒にご飯食べに行こ」

優芽の食いしん坊ぶりは幼等部時代からの筋金入りである。

「何食べるんだよ優芽。どうせバイキング行くんだろうけど」
「えぇ!なんで私の考えてることわかるの?貴君まさかエスパー?」

優芽は本当に驚いたのだろう、目を真ん丸にしている。

「こんだけ長く一緒にいればそのぐらいわかる。ほら優芽、早くしないと電車来るぞ」
「むぅー。優芽だって貴君のことわかるもん!」

頬を膨らましながら優芽が言った。

「そこ張り合うところか?」

こんな奴だが、この学園で時間の多くを共有してきた。俺にとって一番の理解者は優芽である。
 
~13:00 高等部大講堂~
「続いて、統括学園長式辞」

高等部の入学式が始まって早20分。式をどうしてここまでつまらないのだろう。優芽の親父さんが壇上に立った。

「統括学園長の西郷だ。私からは一言。皆には希望をもってこの高等部で学んでもらいたい。以上だ」

優芽の親父さんは本当に一言だけ言って降壇した。

「続いて校キーン唱」
このキーンという金属音。この20分で何回聞いただろう。機器トラブルか?

「なぁ貴文、さっきからキーンキーンうるさくねぇか?」

俺の隣に座っていた吉岡 広大がそういった。

「広大もそう思うか。うるさくて寝るに寝れねぇよな」
「ホントだよな。早く終わらねぇかな」

俺と広大がだるそうにしていると

「以上で入学式を終了します」

と司会の田畑のアナウンスが入った。

「って言ってたら終わったな、入学式」
「あぁー腹減った。貴文メシ行こうぜ」
「わりぃ、今日優芽とバイキングなんだよ」
「相変わらずお熱いですな。入学早々デートですか。うらやましいー」

広大は昔から俺と優芽のことを冷やかすのが大好きだ。

「あのなぁ、俺と優芽はそんなんじゃないからな別に」
「どうだかねー」

こんなお約束みたいな会話をしていると教頭の田畑がまた何か言いだした。

「えぇーここで皆さんにお知らせです。この度政府推薦で一名、転入学してまいりましたので、ここで紹介します」
突然の発表に大講堂はざわついた。
「政府推薦って確かあれだよな。学力・体力ともに優れた善財が選ばれるってやつ」
「でも今どき珍しいな。政府推薦って確か10年前に一回あったくらいだろ」
「そうだなー。って女の子かあの転入学生。かわいいなぁ」

広大は壇上に上がった転入学生を見て言った。

「広大は女ならだれでもいいのか?」
「そんなことはねぇーよ。」
「この度転入学して参りました一ノ瀬 明衣てす。よろしくお願いします。」
「明衣ちゃんっていうのか。お近づきになりたいな」

鼻の下を伸ばした広大が言った。やっぱり女ならだれでもいいのか?

「はいはい。がんばってー」

あきれた俺は適当に返事した。


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