春待つ花嫁と妖狐の蜜契

多茶

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 蒔麻は覆いかぶさってくる阿生のキスを受け止めた。
 味なんてないはずなのに甘い。
 しんとした本殿で互いの体を抱き寄せ合えば、その肌に触れているだけで恍惚としてくる。

「心臓がなくてもどきどきするんですね」
「どきどきさせるのは番の役目だよ」
「神様になっても番でいられるんですか?」
「蒔麻くんは、神様で、人間で、俺の花嫁」
「すごい。自分の事と思えません……」
「でも慣れて?」

 焦りを孕んだ指先が胸の飾りに触れ、蒔麻は肩を後ろに反らした。色づいた縁取りを指の腹で撫でられ、蜜を絞り出すように真ん中の粒をきゅっと摘ままれる。
 尖った乳首を強く吸われると鼻から息が漏れた。

「ふ、ぁっ、……んっ」

 阿生の頭を抱えながら身じろぎをすれば、すっかり形を変え、先端から雫を溢れさせた性器が逞しい腹に擦れる。
 気づいた阿生はそれを容赦なく愛撫した。指で輪を作り、緩急をつけて陰茎を上下に擦られる。その間も首筋を吸ったり、肩口を齧ったり。蒔麻は与えられ続ける刺激にどきどきする余裕もなく翻弄された。

「あ…っ、ダメ……っ、そんな強くしたら、すぐ…ッ」
「構わない。もっと可愛い姿を見せてほしい。今日は、蒔麻くんの隅々まで触れたい」

 阿生は蒔麻の綻ばせ方を熟知している。
 気づけば蒔麻の体は膝を開き、阿生を奥の窄まりに誘っていた。
 何度も愛された後孔は蜜壺となり、誘い蜜を溢れさせながら阿生の指を難なく受け入れた。しかし、これでは足りないと蒔麻の首を左右に振らせる。
 恥も外聞も捨てて太股に当たっている猛りに手を伸ばした。
 白金の茂みから勃ち上がった同じ男なら羨むような雁高で逞しい性器。握った手のひらには幹に巻きついた血管の脈が伝わってくる。
 腹が疼き、蒔麻はちょうど前立腺に押しつけられていた阿生の指を締めつけた。

「っ、ああっ!」

 痴態に当てられたように阿生が息を飲む。指を引き抜き、早急な手つきで泥濘に屹立の先端を当てて覆い被さった。

「蒔麻くん……」

 熱のこもった声で名前を呼ばれると、いっそう大事にされているとわかる。

「俺も、もっと深くに欲しいです……」

 蒔麻は胸を震わせながら、腰を進めてくる阿生の体を受け入れた。

「あ、あ…っ、あ……っ」
「……っ」

 蒔麻の中で阿生の存在感が増していく。圧倒的な質量と圧迫感。蕩けた肉壁を掻き分け、奥へ奥へ押し挿ってくる快感に蒔麻の嬌声は掠れていた。

「ぁ、っアぁ……ひっ、アっ!」

 呼吸をするたびに中が蕩けるようで、このまま抱き合っていると阿生の熱と境目が無くなる気がした。
 乱れた息が整わない。結合部はこれ以上ないほど貪欲に拡がり、長大な阿生を根本まで飲み込んでいる。
 受け入れながら射精したはずの体は、すぐにも二回目の波を迎えようとしていた。

「あ…っ、は……っ、はぁ……」

 額にキスが下りてきて、「気持ちよくて、俺の方が抱かれてるみたい」と微笑まれる。その蟀谷には汗がにじんでいて、阿生が衝動を耐えているのがわかった。

「怖い?」
「よすぎて、少し……」

 あやすように蒔麻の頭を撫でながら、阿生も熱い吐息を漏らしている。

「でも、阿生さんがくれるものなら怖くないです」

 蒔麻の尻が揺れたのを合図に、阿生がゆっくりと腰を遣い始めた。堪らない疼きが下肢に走り、中を擦られるたびに声が零れる。

「アっ、んん、んァ……っ」

 より深く穿てるよう膝を抱えられ、脹脛の内側にキスをされた足先が跳ねる。足に性感帯などないはずが、足の指を噛まれただけで吐精していた。

「──あぁ…、んぅ…っ!」

 蒔麻の締めつけに阿生が奥歯を噛む。しかし、中がどれだけうねっても腰を止めてはくれなかった。

「や、ぁ……っ、あ、イッて、る……っから、あ、やぁあ…っ!」
「もっと悦くなる」

 耳の中に吹き込まれたのは振り絞るような低い声だった。同時に理性を捨て去った動きで突き上げられる。腰を掴まれ、後孔の入口から奥深くまで全てを擦るように抽挿が繰り返された。
 阿生に本気で求められているのだとわかる。
 食らいつくようなキスを受け入れ、振り落とされないよう肩にしがみついた。

「ひっ、あっああ──ッ!」
「……っ」

 阿生は一際大きく突き上げると、小さく唸って体を震わせた。
 胸に自分の欲が迸る感覚とともに、繋がった場所から熱が注がれてくる。

「は……、あ……っ、ぁ……」

 ひどく幸せで、圧しかかってくる重みさえ愛しくて、蒔麻は阿生の頬に手を伸ばした。

「へ?」

 自分の腕のはずが、着た覚えのない白い袖が見える。阿生が着ていたものと違い、光沢感のある正絹の生地には桜文の刺繍が施されている。
 阿生は蒔麻を抱き起こし、肩から落ちかけた白無垢を正した。

「守るだけじゃない。尽くすと誓うよ。──愛しています」

 熱のこもった視線を受け止め、瞬きをすると眦から涙が零れた。

「俺もです……」

 視界いっぱいに嬉しそうに笑う阿生が見える。
 愛しさがこみ上げてきて、どちらからともなく唇を重ねた。
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