春待つ花嫁と妖狐の蜜契

多茶

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 朝日が差し込む敷き布団の上。寛ぐ阿生の足の間に座り、蒔麻は「失礼します」とお辞儀をして下衣のゴムに手を伸ばした。
 経験が浅いせいで阿生との行為では受け身になってしまう。与えられる快感が大きすぎて前後不覚になっては我に返って自己嫌悪を繰り返している。
 常々誰でもいいから抱かれてみたいと思ってきたが、実際に抱かれると抱いてもらっているという申し訳なさが先立った。
 阿生のように義務で蒔麻を抱いているなら尚更だ。

 ──今までだったら「動け」って殴られてたかもな……。

 その点、口淫はいい。顎の痛みに耐えながら、苦しい思いをして奉仕するのも性に合っている。何人かに褒められたことがあり自信もある。
 阿生の長大なものは咥えるだけで興奮するうえ、嘔吐きそうなほど深く咥え込めば精神的にも満たされた。

「ふ、ぅ…、ん、ぅ……」

 前髪を梳かれ、蒔麻は屹立の先端を喉で愛撫しながら視線を上げた。
 こちらを見下ろす双眸は呆れているようにも見えるが、熱を孕んでいるのも見て取れ、今のところ中断は考えなくて良さそうだ。
 少なからず悦くなってくれているなら嬉しい。
 頬を窄め、頭を上下させる。口に入りきらなかった幹は唾液と体液の滑りを借りて手で擦った。

「んっ、ん……ぅっ」

 膨張していく怒張に興奮し、蒔麻の腰も揺れ始めていた。しかし、ここで自慰を始めることもできない。

「っ、んん……っ!」

 しばらくして迸る熱を口腔に受け止め、蒔麻は粘度の高いそれを喉の奥に溜めながら飲み込んだ。
 一度で嚥下できず、何度かにわけて喉を鳴らす。口の中には青い阿生の味が広がった。

「ん、ん……っ」

 喉を流れていく感覚に目を閉じていると、汚れた口元を親指の腹で拭われた。

「上手だからびっくりした」
「本当ですか?」

 思わず声が弾んだ。こればかりは今までの恋人たちに感謝したかった。

「これだけは褒められたこともあるんです」

 言ってすぐに「他にできることがあればいいんですけど」と付け加える。

「あ……、その、なぜか最後までしようとするとおかしなことが起こるんです。物が飛んだり、部屋の電気が点滅したり」

 阿生の眉間にしわが寄る。

「なので誰も最後まで抱いてくれなくて……。男で初めても何もないんですけど、もらって欲しくても誰にももらってもらえなかったと言うか……。物が飛んでくると機嫌が悪くなる人が多くて。当然なんですけど……」

 言ってから後悔した。怪異のせいだと思っているが、気づいていないだけで蒔麻に原因があるかもしれないというのに、これでは相手だけが悪いみたいだ。
 この話題は妖狐でも受け入れがたいのか、阿生も頭を抱えている。

「今までそんな人間とばかり付き合ってきたの? だから口淫が上手に?」
「えっと、はい……。そもそも付き合ってくれる人が少なかったので、声をかけてもらえるだけで有り難かったですし」

 蒔麻は正座に直りながら、阿生が何を思って訊いているのか気が気でなかった。ただでさえ世話をしてもらっている状態だが、加えて面倒くさい男を拾ったと不快にさせていたら申し訳なかった。
 長い溜め息が聞こえ、蒔麻は再び居住まいを正した。

「怪異に感謝だね」
「え?」
「蒔麻くん。これからはそんな人間に近づかないようにね」

 阿生の言いたいことを捉えきれず、蒔麻は曖昧に頷いた。
 部屋着の着崩れを直した阿生が立ち上がる。

「あの、ごちそうさまでした」

 この挨拶で合っているかわからないが、黙っているのも違うような気がして小さく頭を下げた。

「……それ、素でやってるの……?」
「え?」

 首を傾げた瞬間、阿生に抱え上げられていた。子どものように抱っこされ、台所へ運ばれそうになる。

「えっ、ちょっと、自分で歩けますっ!」
「すごく嫌な予感がした……。朝の支度を全部任せてもらわないと気が済まないくらいに!」
「ええっ?」

 阿生の言う《嫌な予感》が何かわからないまま、蒔麻は洗面台で口を濯ぐところから病院の見送りまで、隈なく世話を焼かれるはめになった。
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