まほろば大戦

うさはら

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アイツが再びやってきた!それはそれとしてコーヒー美味い♪

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霧島さんと別れた後。
自分なりに調べてみようと思い立ち、最寄りの図書館に向かった。
幸いにも自宅近くに図書館があったので、一旦電車に乗って笹塚駅に降り立った。
「図書館とか、何年ぶりだろ」
学校の図書室には行ったことがあるけど、街の図書館は本当に久しぶりだ。

図書館に行く道すがら、周囲を索敵してみると二つの反応があった。
一つは青葉さんっぽい。
けどもう一つは誰だろう。
透視との組み合わせで知ってる人は姿形でわかるんだけど、もう一人は全く知らない顔だった。
けれど僕を見ている反応がある。

・・・霧島さんと別れた後から付いてきていたから、僕目当てではあるんだろうけど。
とりあえず今すぐにどうこうされる感じではないので、気にせず図書館に入っていった。
反応のうち一つが距離を開けて図書館に入館。青葉さんだな。
もう一つは外で待つようで、中には入ってこなかった。
あるいは青葉さんを警戒しているのか。
まぁいいや、それよりまずは調べ物、っと。
法隆寺と聖徳太子。
この二つが分かる本は・・・
「歴史探訪、奈良法隆寺」「法隆寺ガイドブック」「奈良の寺社の歩き方」

うーん、観光ガイドは違うな?

そして3時間後。
僕は頭を抱えていた。
法隆寺、聖徳太子関連の書籍多すぎ・・・。

観光ガイドから歴史書、陰謀論までとにかく多種多彩。もはや何が真実とかの話ではなかった。

そろそろ法隆寺、という文字がゲシュタルト崩壊を始めてきた。
聖徳太子に至ってはもう線の組み合わせにしか見えない。

・・・休憩するか。

時間はお昼を過ぎた頃。お腹も減ってきたことだし、一旦外に出よう。
建物の外はよく晴れたいい天気だった。
大きく伸びをし、駅の方に歩いていく。索敵で引っかかった二つの反応も同じようについてくる。
もう一つが誰なのか気になるけど、今はそんなことよりご飯が食べたい。
通りを歩いていると目にハンバーガーショップの看板が飛び込んできた。
ここにしようか。

店内に入って手ごろなハンバーガーセットを注文。ここのポテトは塩が効いていて好きだ。
お昼を過ぎていたからか比較的店内はすいており、オーダーしたセットもほどなく出来上がった。

外が見える席に着き、出来立てのハンバーガーを頬張りながらも頭の中では歴史の話が渦巻く。法隆寺、聖徳太子、法隆寺、聖徳太子・・・。
頭がパンクしそう。

食事を終えると再び図書館へ。
うう、また活字とにらめっこかぁ。
重い足取りで再び歴史書を漁りに向かう僕だった。


「いまのところ、特に動きはありません。ただ、霧島さんと別れてからずっと図書館にこもっています」
「図書館・・どんなジャンルを見ているのかわかりますか?」
「主に歴史を調べているようです。どの時代かまではわかりません」
「・・そうですか。わかりました。では引き続き警戒を願います」
「あと、所属不明の人物が彼の監視を始めました。我々の手のものではないようです」
「所属不明・・と言うと真・法隆寺派でしょうか」
「それはなんとも。今日から監視に就いたようですので詳細はまだ判明しません。ただ、以前付きまとっていた人物とは違うようです。どうしますか?」
腕組みしながら私は考えた。
以前、小野と名乗る人物が彼に近づいていた。彼女は誘拐に失敗し、彼に正体がバレたことで少なくとも今日は動いていない。
新たな監視者を立てたのだろうか・・。
「とりあえず、そちらは彼に直接関わらないなら放置で構いません。接触するようなら稲葉君の監視を中止、そちらの追跡に入って下さい」

電話を切って空を見上げる。
真・法隆寺派・・余計な知識を与えてくれたな・・。それにあの道具を取り返されたのはまずかった。今後の計画に支障が無ければ良いのだけど。
彼を法隆寺に連れて行ったのは失敗だったかと思ってしまうが、彼の覚醒はどうしても必要だしな・・。
頭を抱えつつ、私は重い腰を上げた。


「あーーー!わかんねぇー!」
とうとう僕は叫んでしまった。集まる冷たい視線。僕を見つめながら静かに立ち上がる図書館司書たち。

結局、図書館は追い出されてしまった。
うーん、これからどうしようか。
時間はまだお昼過ぎ。仕方ない、駅前でコーヒーでも飲むか。

コーヒーを飲みながらスマホをいじりつつ考えてみる。
図書館では当たり前だけど、市販されている本がほとんど。
なのでほぼ教科書通りの歴史か、史実を独自に解釈したトンデモ本しかない。
つまり知りたいことは図書館ではわからないのだ。
知りたいのは
真・法隆寺派が言っていた誰も知らない史実が本当かどうかと言う事。
宇宙人が来ていたかなんて、歴史書には書かないよな・・・。
歴史書、つまりは公的文書か。
じゃあ私文書なら?
当時の日記とか庶民の記した何かが残ってたりはしないのかな。
その時代なら木簡かな。

やはりコーヒーはいい。
次々と考えが浮かんでくる。
傍から見たら、あのガキ生意気にコーヒー飲んで悦に入ってるぜ、みたいな感じだろうけどその通りです。

チョットカッコツケテマス。


しかしそんなもの、どこに行けば見られるんだろう。
腕を組んで考え込む、と、ふと駅のイメージが浮かんできた。
駅の掲示板が鮮明に見えてくる。
これは笹塚駅だな。でもなんで突然に?
・・・これはあれかな。新たな特殊能力ってやつかな。
「太悟は未来視を会得した」
ってとこだろうか。
とりあえずそこに行けば何かあるんだろう。
残りのコーヒーをぐっと飲み干すと、僕は店を後にした。

笹塚駅に着いた。まだ夕方には早い時間なので、人はまばら。
早速、イメージで見えたところに行ってみると・・何やらポスターが貼ってあった。
えーと、「記録が語る古代日本」
都内にある博物館のポスターで、そこでやってる特別展の告知だった。
普段なら見向きもしない内容だけど、よく読むと
「日本創世から奈良時代まで。記録で読み解く日本の古代史」とある。

縄文土器、木簡、紙に記録された情報。これがポスターに大写しにされていた。
これだ・・!

場所は新宿。これなら今からでも行ける。
そう思うと同時に足が動いていた。振り向きざまに改札をくぐり、タイミングよく入ってきた電車に乗り込む。新宿で乗り換えて四谷三丁目へ。
頭の中には特別展のことしかなかった。青葉さんたち追跡者もこの突然の動きについてこれず、偶然にも撒いたことに気づかないほどだった。

四谷三丁目から少し歩き、目的の博物館に着いた。
はやる気持ちが抑えられずつい小走りに来てしまったので息が切れる。
呼吸を整え、落ち着いたところで建物を見上げるとなんてことのない普通の建物。
入口に変なオブジェが置いてあるくらいで、どちらかと言うと地味な建造物だった。
入口周囲には特別展の案内が掲示されていた。ポスターで見た「記録が語る日本の古代史」だ。
入館料を払って入場すると、そこには新宿の歴史が広がっていた。
昭和の新宿とか、なかなか興味深いけど今日の目的はそこじゃない。
特別展。

常設展示をスルーして一直線に特別展会場に向かうと、そこには僕の求めていたものが展示されていた。
縄文期から奈良時代まで。
縄目での記録や木簡、古い書物が並べられていた。
その中でも木簡は比較的たくさん展示されていて、公文書的なものから庶民の日記的なものまで幅広く展示されている。
ここの展示物は科学的に年代が特定されていて、木簡に至ってはほぼ飛鳥時代のものであろうとされている。なので当然現代の文字とは違い、一見何が書いてあるのかわからない。
けれど・・・

じっと見ていると、何となく文字が読めた。意味もわかる。
何なら隣にある縄目も読めた。
これは・・また何かの特殊能力が開花したのかな?

木簡を読み進めていくと、いくつか見慣れない単語を見つけた。
「飛車」「浮舟」「うつろ船」「鉢」「巨大な鳥」
そして「舞い降りる人」「空を移動」「光る人」

このあたりの木簡はバラバラになっており、文章にはなっていない。
そのせいか展示解説では、何かの物語の一部ではないか、と解説されている。
そしてこれは公文書ではなく、庶民の落書きでは、とも書かれていた。

・・・背筋に冷たいものが走った。
確か、日本で一番古いと言われている物語は竹取物語だったような?
でもあれは平安時代のもので、展示されている木簡は飛鳥時代。
時代が全然違うのだ。
であれば、これは実際に当時の人たちが目にしたものを書き記したのか・・?

さらに展示物を細かく観察していくと、どうやら木簡は全国から取り寄せたものらしいが、とりわけ今の奈良県近辺のものが多いらしい。
ほとんどの展示解説には奈良の博物館や寺社の所蔵物と明記されている。
さらに展示物を見ていくと、やたら細かい字で書き込まれた木簡が展示されていた。
博物館的にあまり重要なものではないのか、展示室の隅っこのほうでひっそりと置かれていたそれが何故か目を引く。

木簡と呼ぶには少し大きいそれは、あまり詳しい解説もされていなくてただ「当時の庶民のいたずら書きと思われる」との説明がなされていた。
字もすっかり薄くなっており、かなり読みづらい状態ではあるけど僕にははっきりと読めた。
そこには・・・
「空から巨大な光る鳥が舞い降りた。中から数人の人らしきものが降り立ち、我らにたくさんの恵みを与えた。やがて彼らは言葉をもって我らを導いた。その地はのちに飛鳥と呼ばれる。彼らは人を使って新たな土地に巨大な建物を作らせた。不思議な技で作られた塔が目を引いた。その建物は空からやってきた仲間から「聖徳太子」と呼ばれている人物の指導の元、完成した。その名は法隆寺という」
という記述。

うそだろ・・・?
バラバラだったパズルのピースが一つに繋がった気がした。

内容については読み解けなかったのか解説されていないけど、飛鳥時代のものには違いないこの木簡。
これが真実なら、小野の言っていたことは正しかったのか・・?
史実では、その後聖徳太子は病死したと言われているが暗殺された、との説もある。
直系の後継者が不在となり、それが後の戦国時代のどさくさに乗っ取られるという事態に繋がったのだろうか。

飛鳥時代の展示はこれが最後だった。
この後は奈良時代へと続いていくが、その時代の展示物には法隆寺や飛鳥の記述はなかった。

ひととおりの展示を確認し、最後に売店で特別展のガイドブックを買った。
かなり高かったけど例の木簡の写真が載っていたから買わずにはいられなかったのだ。
写真撮影が許されていればこんなの買わなくて良かったのにな。

博物館から外に出ると、すでに夕暮れの時間だった。
お腹も減ったことだし、そろそろ帰ろう。あ、そういや青葉さんたちはどうなったのかな?
ふと思い立って周囲を索敵してみると、青葉さんはいなかった。あれ?どうしたんだろう。
その時後ろから声をかけられた。
「太吾くん、久しぶりだね」

慌てて振り向くと、そこには見慣れた姿の小野がいた。
「先日は迷惑かけたね。今日は君が見たものについて話したくてね。え、この姿かい?見慣れた恰好の方がいいかと思ってね。で、どうだい。我々の言っていることが嘘じゃないとわかってもらえたかな?」
「・・・正直まだ、半信半疑ですね。でもあの木簡には嘘が書いてあるとは思えません」
「そうだろうね。我々を信じてもらうにはまだ足りないだろうね。今気になっているのはその後の法隆寺のことだろう?」
「・・・」
「我々が宇宙人の直系、だと言うことをまず証明しようか。簡単だよ。特殊能力が使えることがその証明だ。君も使えるけど、今の君以上に私は能力が使える」
「それが証明になるんですか?それなら霧島さんだって使ってるじゃないですか」
「先日、彼女も誘拐されたことがあったよね?その時に調べさせてもらったんだよ。彼女が能力を持つ直系の人間かどうかをね。結果は・・何の能力も持たない普通の人間だった。
彼女が君の心を読んだり心を読ませないようにできたのは、あるアイテムのおかげなんだよ」
あるアイテム?道具で何とかなるものなのか?

「それは雪丸の勾玉、と言われているアクセサリーで我々真・法隆寺派がかつて所有していたとされる秘宝の一つだ。それがあると人の考えが読め、自身の考えは読まれなくなる。どういう経緯で彼女の手元にあるのかはわからんが・・・」

「で、今はその雪丸の勾玉はどこにあるんですか?」
「すでに取り返した。なので今の彼女は特殊能力は一切使えないのだ。君は先ほど彼女と会っただろう?その時に彼女の考えを読んでみたか?」
・・・そういえば、霧島さんは僕の考えを全く読み取っていなかったような・・?
いつもは考えを先読みされて声に出す前に返答されたりしたんだけど、そんなこと気にもしなかった。それにいつも頭の中をブロックされている、と思いこんでたから読もうともしなかったな。
「彼女としては、もう君には近づきたくないだろう。なにせ頭の中が読まれるのだから。なので君の呼び出しはある意味賭けだったと思う。何が目的で呼び出したのかまでは分からないが、その様子だと賭けには勝ったようだね。そして道具もなしに能力が使える、これが直系の人間なのだ」
「そうなると僕も宇宙人の子孫、ということになるのではないですか?」
「それなんだが・・おっと、そろそろ時間切れのようだ。続きはまたいずれ話すとしよう。今日私に会ったこと、ここの博物館で見たこと、知ったことは彼らには話したらいけないよ。話すと君の身が危なくなるからね。では」
「え・・ちょっと・・!」
言いたいことを言うと、小野は姿を消した。これもまた能力なのか・・。

念のため索敵してみたけど、小野の反応は無かった。
代わりに青葉さんと謎の人物の反応が復活していた。
近づいてはこないところを見ると、特に気にしなくても大丈夫かな?

小野と話し込んでいるうちにすっかり夜になってしまった。
街灯の明かりが道を照らす。
今日はいろんな事実を突きつけられ、頭が混乱してしまった。
それでも自分の知りたかったことが少しわかった気がする。
頭の中を整理したい。とにかく今は家に帰りたい。

夜空に浮かぶ月を見ながら、僕は地下鉄の駅に向かって歩き出した。
不穏な空気を全身に感じながら。

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