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いざ奈良へ。その前にちょっと寄り道。
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霧島さんが我が家に来てから数日。良く晴れた初夏の土曜日の朝。
僕と両親は霧島さんに連れられて東京駅にいた。
今日これから奈良市まで移動し、そこで一泊。翌日曜日の朝七時に法隆寺に入る予定だ。
三連休を訳のわからないことで潰されるのは釈然としないけど、両親は大層喜んでいた。
「いやー先方が旅費一切を出してくださるなんてな!これはしっかり楽しまないとな!」
はしゃぐ父。そして母は・・
「奈良っておいしいものがあまりないのね・・。用事があるのは太吾だけだし、私たちは大阪にでも行こうかしら・・」
などと奈良をディスっていた。
「食事に関しては・・本当に何もないです。柿の葉寿司とか茶粥とか、地味なものばかりですね・・」
母の声を聞いた霧島さんは少し凹んでいた。
修学旅行でも、大阪ではいろいろ食べ歩いたんだけど奈良はなんか・・
幕ノ内弁当の記憶しかなかった。ごめんなさい霧島さん。フォローできません・・・。
東京駅を十時に発車した新幹線は、順調に走り続けて十二時過ぎに京都駅に到着した。
「時間もちょうどいいので、ここで何か食べていきましょう。」
霧島さんの提案に全員が頷いた。
京都駅はかなり大きな駅で、ホテルとデパートが入っていてそこに新幹線、在来線、近鉄、地下鉄が乗り入れている巨大駅。
「天井が高い!」「階段が大きい!」「人が多い!」
僕達家族がその大きさに感動している横で、霧島さんは微妙な顔をしていた。後でその理由が分かるのだが、今はまず腹ごしらえ。
地下街に入って適当なお店でランチを済ませ、この後の予定を確認。
「ここからは近鉄特急で奈良まで行きます。だいたい三十分くらいで到着しますが、どうされますか?夕方まで京都観光をするのも
良いですし、すぐに出発して奈良市内を観光しても構いません」
それなら僕は京都観光したいかな。
そう思っていたら「安倍晴明の神社に行きたい」と母が言い出した。
「清明神社ですね。他に行きたいところはありますか?私としては八坂神社、東寺、日本酒がお好きでしたら伏見もおススメです」
日本酒と、聞いて父が目を輝かせる。
「そうですね。京都と言えば伏見の日本酒!いいですね。それはぜひ行きましょう!」
「では決まりですね。それでは早速参りましょうか」
駅前でタクシーに乗り、まずは清明神社へ。
少し混雑していたけど、十五分ほどで清明神社に到着した。
「ここは映画で見て、一度来てみたかったのよね~」
とはしゃぐ母。境内あちこちに五芒星が描かれ、戻り橋、厄除け桃など普通の神社とは異なるオブジェは見ていて面白かった。
次に八坂神社。
ここは祇園に近く、市内中心部にも近いのでとにかく人が多かった。
屋台があちこちに立ち並び、参拝よりも食べ歩きを楽しむ人もまた多かった。
ここも修学旅行で来たなぁ、と少し懐かしい気分になる僕。
物見遊山で周囲を見回す僕達家族とは対照的に、霧島さんの目は鋭くあたりを見回していた。
「霧島さん、あまり楽しくないですか?」と問いかけると
「いえ、私はあなた方の護衛も兼ねていますので、浮かれるわけには参りません。気づいてますか?東京を出てからずっと何者かに見られているんですよ?」
すっかり観光気分だった僕は、周囲の考えを読むことすら忘れていた。
そうだ。霧島さんが言っていた大いなる魔、それはすでにどこかに存在しているのだ。
「とはいえ、今すぐ何かしらの手段を取るような感じではないので、皆さんはは気にせず楽しんで下さって大丈夫ですよ」
向こうはまだ様子を見ているだけのようですし、と彼女は小声で囁いた。
そんなことを聞かされると気が気ではない。
楽しむ両親を心配させないよう、少しではあるけど周囲の人たちにも気を配ることにした。
屋台グルメを楽しんだ両親は、すっかりお腹がふくれたようで歩くのもつらくなってきたようだった。
霧島さんの言葉で観光気分が飛んだ僕は、両親を説得して早々に八坂神社を後にするのだった。
「東寺はもういいかな。明日はどうせお寺だし、神社はもう十分に見たから伏見に行って、奈良に向かわないか?」
疲労の色が見え始めた父が言う。
母もそろそろ疲れてきたようだし、僕ももう寺社仏閣はお腹いっぱい。
「それでは、東寺はやめて伏見で酒蔵巡りをして、今日の宿に向かいましょうか」
霧島さんの提案に、家族一致で賛成。浮かれすぎてペース配分を考えなかった一家は、こうして次の目的地に向かったのだった・・・。
伏見ではあまり歩きまわる元気もなく、日本酒を買いあさって早々にタクシーに乗り込んだ。
「ここからなら京都に戻らず、途中の丹波橋から特急に乗った方が
近いですね。ですので丹波橋に向かってください」
タクシー運転手に指示を出し、最寄り駅に向かわせる。細い道を走り抜け、人をかき分けてようやくタクシーは止まった。
およそ駅前とは思えない、ロータリーや駐車スペースもない駅前でタクシーを降りた僕達は、狭い階段を上がってホームに降り立ち、特急列車に乗り込んだ。
僕たちが乗り込むと同時に、別の扉から同じ特急列車に乗り込む人物がいることには僕たちは誰も気づかなかった・・。
疲れ果てて列車に乗り込んだ僕達家族は、椅子に座るとすぐに眠ってしまった。目が覚めた時にはもう列車は奈良県に入っていた。
「もうじき着きますよ。駅から宿はすぐですから、もう少しだけ頑張ってくださいね」
霧島さんも疲れているだろうに、ずっと警戒してくれていたのか・・。
「私は鍛えていますし、これぐらい何でもありません」
また考えを読まれた。
読まれるのに読めない。何だかうまく言えないけどイーッとなる。
それもまた読んだのか、彼女は少し微笑んだ。
目覚めて少しすると、やたらと線路の多い駅に停まった。
ポイントがたくさんあるから列車が激しく揺れ、おかげで両親も目を覚ましたようだ。
「もうじき着くってさ。そろそろ起こそうと思ってたからちょうど良かったよ」
大きいあくびを披露するわが両親。
特急列車はほんの少しだけ停車すると、再び動き出した。
「もう少ししたら面白いものが見られますよ」
霧島さんにそう言われて車窓を眺めていると、にぎやかな駅前からマンションが立ち並ぶエリアを通過したところで急に視界が開けた。
車窓の両側に突然広がる荒野。やがて見えてくる巨大な木造の門。
「ここは平常京跡。右手に見えるのは朱雀門で、左手遠くに見えるのが大極殿ですね。近鉄線は遺跡の真ん中を突っ切っているのです」
修学旅行でも来たけど、あの時はバスだったし朱雀門しか見ていなかった。なるほど、列車からはこう見えるのか。
「世界遺産の真ん中に鉄道が走るなんて珍しいでしょう?これはここが都の跡だとわかる前に鉄道が敷かれたかららしいです。
路線を移転させる話もありましたが、こんな珍しい景色はこのまま残しておいてほしいものですね」
やがて列車は地下に入り、ゆっくりと速度を落とし始め終点奈良駅に
滑り込んだ。
時間はすでに夕方。けっこういい時間になっていた。
「ここから地上に出て、少し奈良公園の方に行ったところに宿を取っています。夕食も宿で手配していますので、今日はこのままゆっくりお休みください。明日は朝六時に迎えの車が参りますので、遅れないようによろしくお願いします」
説明をしながら前を歩く霧島さんについていく。
観光客やら通勤客やらでごった返す駅構内を出て地上に出ると、そこは噴水のある駅前広場。にぎやかなアーケード街を横目に緩い坂を上るとすぐに宿に到着。
老舗っぽい旅館は落ち着く和風旅館。いったいいくらするんだろう・・?
「我々が費用を持ちますから、気にしなくてもいいですよ。それではごゆっくりおくつろぎください。私も別の部屋で泊まりますので、
何かありましたらおっしゃって下さい」
ごく自然に考えを読むな、この人。
「あ、そうそう。旅館の外には遊んだりする場所はありませんのであしからず・・」
え、ここは奈良の中心地じゃないの?
「中心と言えば中心ですが、なにぶん田舎なもので・・」
言葉を交わさない会話にも慣れてきてしまった僕。
まぁ今日は疲れたし、明日は早いから出歩くこともないでしょう。
両親も疲れ切ってるようで、口数も少ないままに夕食を早々に終え、大浴場でくつろいだ後はそのまま布団に潜り込んでしまった。
僕ももう限界だ・・・。
明日からどうなるのかな・・。
法隆寺に何しに行くんだっけ・・。
などと考えているうちに、僕は深い眠りに落ちていった・・・。
僕と両親は霧島さんに連れられて東京駅にいた。
今日これから奈良市まで移動し、そこで一泊。翌日曜日の朝七時に法隆寺に入る予定だ。
三連休を訳のわからないことで潰されるのは釈然としないけど、両親は大層喜んでいた。
「いやー先方が旅費一切を出してくださるなんてな!これはしっかり楽しまないとな!」
はしゃぐ父。そして母は・・
「奈良っておいしいものがあまりないのね・・。用事があるのは太吾だけだし、私たちは大阪にでも行こうかしら・・」
などと奈良をディスっていた。
「食事に関しては・・本当に何もないです。柿の葉寿司とか茶粥とか、地味なものばかりですね・・」
母の声を聞いた霧島さんは少し凹んでいた。
修学旅行でも、大阪ではいろいろ食べ歩いたんだけど奈良はなんか・・
幕ノ内弁当の記憶しかなかった。ごめんなさい霧島さん。フォローできません・・・。
東京駅を十時に発車した新幹線は、順調に走り続けて十二時過ぎに京都駅に到着した。
「時間もちょうどいいので、ここで何か食べていきましょう。」
霧島さんの提案に全員が頷いた。
京都駅はかなり大きな駅で、ホテルとデパートが入っていてそこに新幹線、在来線、近鉄、地下鉄が乗り入れている巨大駅。
「天井が高い!」「階段が大きい!」「人が多い!」
僕達家族がその大きさに感動している横で、霧島さんは微妙な顔をしていた。後でその理由が分かるのだが、今はまず腹ごしらえ。
地下街に入って適当なお店でランチを済ませ、この後の予定を確認。
「ここからは近鉄特急で奈良まで行きます。だいたい三十分くらいで到着しますが、どうされますか?夕方まで京都観光をするのも
良いですし、すぐに出発して奈良市内を観光しても構いません」
それなら僕は京都観光したいかな。
そう思っていたら「安倍晴明の神社に行きたい」と母が言い出した。
「清明神社ですね。他に行きたいところはありますか?私としては八坂神社、東寺、日本酒がお好きでしたら伏見もおススメです」
日本酒と、聞いて父が目を輝かせる。
「そうですね。京都と言えば伏見の日本酒!いいですね。それはぜひ行きましょう!」
「では決まりですね。それでは早速参りましょうか」
駅前でタクシーに乗り、まずは清明神社へ。
少し混雑していたけど、十五分ほどで清明神社に到着した。
「ここは映画で見て、一度来てみたかったのよね~」
とはしゃぐ母。境内あちこちに五芒星が描かれ、戻り橋、厄除け桃など普通の神社とは異なるオブジェは見ていて面白かった。
次に八坂神社。
ここは祇園に近く、市内中心部にも近いのでとにかく人が多かった。
屋台があちこちに立ち並び、参拝よりも食べ歩きを楽しむ人もまた多かった。
ここも修学旅行で来たなぁ、と少し懐かしい気分になる僕。
物見遊山で周囲を見回す僕達家族とは対照的に、霧島さんの目は鋭くあたりを見回していた。
「霧島さん、あまり楽しくないですか?」と問いかけると
「いえ、私はあなた方の護衛も兼ねていますので、浮かれるわけには参りません。気づいてますか?東京を出てからずっと何者かに見られているんですよ?」
すっかり観光気分だった僕は、周囲の考えを読むことすら忘れていた。
そうだ。霧島さんが言っていた大いなる魔、それはすでにどこかに存在しているのだ。
「とはいえ、今すぐ何かしらの手段を取るような感じではないので、皆さんはは気にせず楽しんで下さって大丈夫ですよ」
向こうはまだ様子を見ているだけのようですし、と彼女は小声で囁いた。
そんなことを聞かされると気が気ではない。
楽しむ両親を心配させないよう、少しではあるけど周囲の人たちにも気を配ることにした。
屋台グルメを楽しんだ両親は、すっかりお腹がふくれたようで歩くのもつらくなってきたようだった。
霧島さんの言葉で観光気分が飛んだ僕は、両親を説得して早々に八坂神社を後にするのだった。
「東寺はもういいかな。明日はどうせお寺だし、神社はもう十分に見たから伏見に行って、奈良に向かわないか?」
疲労の色が見え始めた父が言う。
母もそろそろ疲れてきたようだし、僕ももう寺社仏閣はお腹いっぱい。
「それでは、東寺はやめて伏見で酒蔵巡りをして、今日の宿に向かいましょうか」
霧島さんの提案に、家族一致で賛成。浮かれすぎてペース配分を考えなかった一家は、こうして次の目的地に向かったのだった・・・。
伏見ではあまり歩きまわる元気もなく、日本酒を買いあさって早々にタクシーに乗り込んだ。
「ここからなら京都に戻らず、途中の丹波橋から特急に乗った方が
近いですね。ですので丹波橋に向かってください」
タクシー運転手に指示を出し、最寄り駅に向かわせる。細い道を走り抜け、人をかき分けてようやくタクシーは止まった。
およそ駅前とは思えない、ロータリーや駐車スペースもない駅前でタクシーを降りた僕達は、狭い階段を上がってホームに降り立ち、特急列車に乗り込んだ。
僕たちが乗り込むと同時に、別の扉から同じ特急列車に乗り込む人物がいることには僕たちは誰も気づかなかった・・。
疲れ果てて列車に乗り込んだ僕達家族は、椅子に座るとすぐに眠ってしまった。目が覚めた時にはもう列車は奈良県に入っていた。
「もうじき着きますよ。駅から宿はすぐですから、もう少しだけ頑張ってくださいね」
霧島さんも疲れているだろうに、ずっと警戒してくれていたのか・・。
「私は鍛えていますし、これぐらい何でもありません」
また考えを読まれた。
読まれるのに読めない。何だかうまく言えないけどイーッとなる。
それもまた読んだのか、彼女は少し微笑んだ。
目覚めて少しすると、やたらと線路の多い駅に停まった。
ポイントがたくさんあるから列車が激しく揺れ、おかげで両親も目を覚ましたようだ。
「もうじき着くってさ。そろそろ起こそうと思ってたからちょうど良かったよ」
大きいあくびを披露するわが両親。
特急列車はほんの少しだけ停車すると、再び動き出した。
「もう少ししたら面白いものが見られますよ」
霧島さんにそう言われて車窓を眺めていると、にぎやかな駅前からマンションが立ち並ぶエリアを通過したところで急に視界が開けた。
車窓の両側に突然広がる荒野。やがて見えてくる巨大な木造の門。
「ここは平常京跡。右手に見えるのは朱雀門で、左手遠くに見えるのが大極殿ですね。近鉄線は遺跡の真ん中を突っ切っているのです」
修学旅行でも来たけど、あの時はバスだったし朱雀門しか見ていなかった。なるほど、列車からはこう見えるのか。
「世界遺産の真ん中に鉄道が走るなんて珍しいでしょう?これはここが都の跡だとわかる前に鉄道が敷かれたかららしいです。
路線を移転させる話もありましたが、こんな珍しい景色はこのまま残しておいてほしいものですね」
やがて列車は地下に入り、ゆっくりと速度を落とし始め終点奈良駅に
滑り込んだ。
時間はすでに夕方。けっこういい時間になっていた。
「ここから地上に出て、少し奈良公園の方に行ったところに宿を取っています。夕食も宿で手配していますので、今日はこのままゆっくりお休みください。明日は朝六時に迎えの車が参りますので、遅れないようによろしくお願いします」
説明をしながら前を歩く霧島さんについていく。
観光客やら通勤客やらでごった返す駅構内を出て地上に出ると、そこは噴水のある駅前広場。にぎやかなアーケード街を横目に緩い坂を上るとすぐに宿に到着。
老舗っぽい旅館は落ち着く和風旅館。いったいいくらするんだろう・・?
「我々が費用を持ちますから、気にしなくてもいいですよ。それではごゆっくりおくつろぎください。私も別の部屋で泊まりますので、
何かありましたらおっしゃって下さい」
ごく自然に考えを読むな、この人。
「あ、そうそう。旅館の外には遊んだりする場所はありませんのであしからず・・」
え、ここは奈良の中心地じゃないの?
「中心と言えば中心ですが、なにぶん田舎なもので・・」
言葉を交わさない会話にも慣れてきてしまった僕。
まぁ今日は疲れたし、明日は早いから出歩くこともないでしょう。
両親も疲れ切ってるようで、口数も少ないままに夕食を早々に終え、大浴場でくつろいだ後はそのまま布団に潜り込んでしまった。
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