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始まりの日
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大いなる魔が訪れる時、大いなる聖人降臨す。
とある日、奈良県にある有名な寺院にて。
「たった今、あの方が降臨なされました。」
多数の僧侶の読経が響く中、ただ一人、 紫の衣を纏った高僧が告げた。
「ここから遠い地、今はまだ小さいけれど感じます。 あの方がこの地に降りてこられました。」
読経が止み、どよめきとため息が堂内に沸き起こった。
「お迎えせねばなりません。この寺に、 かの方が愛されたこの地に。」
そして僧侶達が、寺院が動き出した。
あの方を探し出し、お迎えするべく・・・。
僕の名前は稲葉大悟。都内に住んでいる普通の男子高校生。
何の特技もなく、何かやりたいことがあるわけでもない、 そんな普通の高校二年生。
ある一点を除いては。
僕は人の考えていることがわかる。
頭の中で紡がれた言葉が、口に出さなくても聞こえてくる。
僕と会話をしている人、僕の周囲にいる人、 離れている人でも考えが言葉になって聞こえてくる。
いつからこうなったのか、今でもはっきり覚えている。
中学三年の冬、あれは二月頃だった。
卒業を間近に控え、進学先もすでに決まってゆったりとした時間。
友人と談笑しながらの学校帰りにそれは起きた。
友人いわく、突然全身を痙攣させてそのまま倒れたそうだ。 雷に撃たれたらこうなるだろうな、といった様子だったらしい。
僕の記憶では突然全身に激痛が走り、気が付けば病院だった。
警察と救急を巻き込んでの騒動だったけど、 何故か怪我もヤケドも何もなく、 病院では異常は確認されなかった。
ただ、その時から人の考えがわかるようになった。
誰も口を開いていないのに声が聞こえる。
最初は幽霊でもいるのかと思ったけど、 人の考えたことが聞こえてくるのだと徐々に理解してきた。
当時はファンタジーや超能力系の小説や漫画を読んでいたから、 その事実はすんなり受け入れることができた。
慣れてくると狙った人の考えだけが聞こえるようになり、 複数の人の考えも同時に理解できるようになった。
最初こそ戸惑ったけど、慣れれば便利な能力だった。
人の考えに合わせられるのでクラスでは特定のグループに属さず、 けれど誰とも仲が良いというポジションを得られ、 要領よく立ち回れるので先生からも信頼されている。
だけど、時々ふと考えてしまう。
何でこんな能力を宿したのか。
少なくとも自分の知っている範囲では特殊能力を持っているような 人はいない。
誰でも持つようなものではなさそうだけど、何故自分が?
この疑問の答えが向こうからやって来るとは、 この時はまだ思いもしなかった・・・。
「見・つ・け・た」
思ったよりもあっさり見つかった。
寺院のお告げに従い、距離と方位を頼りに場所を特定。
昼と夜はほぼ移動していないので、学校とおおよその住居が特定できた。
そしてお告げの場所に必ずいる人物が見つかった。
対象者は男子高校生だった。特別イケメンではないけど好かれる外見ではある。彼がそうなのか・・?
さらに調査を進めると、どうやら超能力らしきものを発現している様子なので、ほぼ間違いなかった。
あとは本人と接触するだけ。だがどう切り出そうか・・・。
授業が終わり、特に部活動をしていない僕は、いつも通りに帰宅の途についていた。学校から繁華街を抜け、電車に乗って家に帰る。
いつものルーチンだったけど、その日は違っていた。
「こんにちは。少しお話よろしいですか?」
もう少しで繁華街に入る、というところでジーンズにジャケットという地味な出で立ちながら、周囲の目を引く謎の美女が声をかけてきた。
謎、とは言っても僕にとっては謎でも何でもない。いつも通りに考えを読み取れば・・「え?読み取れない?」
「今、頭の中を読もうとしましたね?でも読めないでしょう?」
・・・何だこの女は。
考えが読み取れない、なんてことは今までなかった。
当たり前にできていたことができない。
相手が何者なのか分からない。
人に対して、初めて恐怖を覚えた。
「そう警戒しないでください。私はあなたをお迎えに来たんです。そうですね・・少しお話しませんか?」
怪しい。これは小説や漫画でよく出てくるヤバい組織か?
攫われるのか?スキを見て逃げようか・・。
「君の自宅はすでに把握しています。よく行くネカフェも知っています。
逃げるよりも・・知りたくありません?君がなぜ人の考えが読めるのか」
僕の超能力を知っている?確かに以前から気にはなっていた。
誰にも言ったことのない秘密。
それを知っているのか・・。
「わかりました。逃げても無駄なようですし、僕は僕自身のことを少しでも知りたいです。」
観念した、というより興味があったのだ。僕は何なのか。この能力は何なのか。
僕は彼女の後について繁華街の喫茶店に入っていった・・。
「まずは自己紹介ですね。私の名前は霧島はるな。怪しい組織の人間ではなく・・皆さんご存じ、奈良の法隆寺の関係者です。」
法隆寺・・中学校の修学旅行で行った場所だ。
寺なんか面白くもなんともない、と思って行った場所なので、正直どんなところだったのか、あまり覚えていない。
ただ怪しい組織ではない、というのは分かった。
「お告げに従い、君を探していました。君のその能力は、ある人物の能力を発現したものなのです。その人物とは・・聖徳太子。歴史の授業で聞いたことがありますよね」
聖徳太子・・教科書でしか見たことない名前が出てきた。
「法隆寺の言い伝えによると、大いなる魔が訪れる時、大いなる聖人降臨す、とあります。君はある日突然、今の能力を身に着けたのでは?
言い伝えでは、過去にも突然に特殊能力を得て法隆寺に招かれた人物が多数いるそうです。君はそのうちの一人なのです。」
なんだかファンタジーな方向に話が進んでるなぁ・・
「あの、疑問がいろいろあるんですけど・・大いなる魔ってなんですか?」
魔ってなんだよ。お化けでもでるのか?妖魔的なやつとかか?
「たぶん想像しておられるものとは違うと思われます。伝承ではそう言われているだけで、現在の解釈では大災害や戦争といった、国家存亡の危機のことだと言われています。ただ我々の世代はそういったものに遭遇したことがないので、実際のところはわかりません。なので今わかっているのはこれから何かが起こる、ということです。」
「つまり、何が何を起こすかわからないってことですか?それ、僕に何かできるんですか?」
「平たく言えばそういうことです。そして君にはまず、お告げの精度を上げるために奈良に来ていただきたいのです。君の能力がそこで必要になるのです。大雑把に言うと、君の能力を増幅して調査する、といったところでしょうか」
「つまり、奈良に来い、ということですか?」
「そういうことですね。と言ってもそんな深刻に考えなくても大丈夫です。軽い旅行と思っていただければ。ご家族には私も説明いたしますので、遊びに行くつもりでおいでください。」
そう言って彼女はニッコリと微笑んだ。
とある日、奈良県にある有名な寺院にて。
「たった今、あの方が降臨なされました。」
多数の僧侶の読経が響く中、ただ一人、 紫の衣を纏った高僧が告げた。
「ここから遠い地、今はまだ小さいけれど感じます。 あの方がこの地に降りてこられました。」
読経が止み、どよめきとため息が堂内に沸き起こった。
「お迎えせねばなりません。この寺に、 かの方が愛されたこの地に。」
そして僧侶達が、寺院が動き出した。
あの方を探し出し、お迎えするべく・・・。
僕の名前は稲葉大悟。都内に住んでいる普通の男子高校生。
何の特技もなく、何かやりたいことがあるわけでもない、 そんな普通の高校二年生。
ある一点を除いては。
僕は人の考えていることがわかる。
頭の中で紡がれた言葉が、口に出さなくても聞こえてくる。
僕と会話をしている人、僕の周囲にいる人、 離れている人でも考えが言葉になって聞こえてくる。
いつからこうなったのか、今でもはっきり覚えている。
中学三年の冬、あれは二月頃だった。
卒業を間近に控え、進学先もすでに決まってゆったりとした時間。
友人と談笑しながらの学校帰りにそれは起きた。
友人いわく、突然全身を痙攣させてそのまま倒れたそうだ。 雷に撃たれたらこうなるだろうな、といった様子だったらしい。
僕の記憶では突然全身に激痛が走り、気が付けば病院だった。
警察と救急を巻き込んでの騒動だったけど、 何故か怪我もヤケドも何もなく、 病院では異常は確認されなかった。
ただ、その時から人の考えがわかるようになった。
誰も口を開いていないのに声が聞こえる。
最初は幽霊でもいるのかと思ったけど、 人の考えたことが聞こえてくるのだと徐々に理解してきた。
当時はファンタジーや超能力系の小説や漫画を読んでいたから、 その事実はすんなり受け入れることができた。
慣れてくると狙った人の考えだけが聞こえるようになり、 複数の人の考えも同時に理解できるようになった。
最初こそ戸惑ったけど、慣れれば便利な能力だった。
人の考えに合わせられるのでクラスでは特定のグループに属さず、 けれど誰とも仲が良いというポジションを得られ、 要領よく立ち回れるので先生からも信頼されている。
だけど、時々ふと考えてしまう。
何でこんな能力を宿したのか。
少なくとも自分の知っている範囲では特殊能力を持っているような 人はいない。
誰でも持つようなものではなさそうだけど、何故自分が?
この疑問の答えが向こうからやって来るとは、 この時はまだ思いもしなかった・・・。
「見・つ・け・た」
思ったよりもあっさり見つかった。
寺院のお告げに従い、距離と方位を頼りに場所を特定。
昼と夜はほぼ移動していないので、学校とおおよその住居が特定できた。
そしてお告げの場所に必ずいる人物が見つかった。
対象者は男子高校生だった。特別イケメンではないけど好かれる外見ではある。彼がそうなのか・・?
さらに調査を進めると、どうやら超能力らしきものを発現している様子なので、ほぼ間違いなかった。
あとは本人と接触するだけ。だがどう切り出そうか・・・。
授業が終わり、特に部活動をしていない僕は、いつも通りに帰宅の途についていた。学校から繁華街を抜け、電車に乗って家に帰る。
いつものルーチンだったけど、その日は違っていた。
「こんにちは。少しお話よろしいですか?」
もう少しで繁華街に入る、というところでジーンズにジャケットという地味な出で立ちながら、周囲の目を引く謎の美女が声をかけてきた。
謎、とは言っても僕にとっては謎でも何でもない。いつも通りに考えを読み取れば・・「え?読み取れない?」
「今、頭の中を読もうとしましたね?でも読めないでしょう?」
・・・何だこの女は。
考えが読み取れない、なんてことは今までなかった。
当たり前にできていたことができない。
相手が何者なのか分からない。
人に対して、初めて恐怖を覚えた。
「そう警戒しないでください。私はあなたをお迎えに来たんです。そうですね・・少しお話しませんか?」
怪しい。これは小説や漫画でよく出てくるヤバい組織か?
攫われるのか?スキを見て逃げようか・・。
「君の自宅はすでに把握しています。よく行くネカフェも知っています。
逃げるよりも・・知りたくありません?君がなぜ人の考えが読めるのか」
僕の超能力を知っている?確かに以前から気にはなっていた。
誰にも言ったことのない秘密。
それを知っているのか・・。
「わかりました。逃げても無駄なようですし、僕は僕自身のことを少しでも知りたいです。」
観念した、というより興味があったのだ。僕は何なのか。この能力は何なのか。
僕は彼女の後について繁華街の喫茶店に入っていった・・。
「まずは自己紹介ですね。私の名前は霧島はるな。怪しい組織の人間ではなく・・皆さんご存じ、奈良の法隆寺の関係者です。」
法隆寺・・中学校の修学旅行で行った場所だ。
寺なんか面白くもなんともない、と思って行った場所なので、正直どんなところだったのか、あまり覚えていない。
ただ怪しい組織ではない、というのは分かった。
「お告げに従い、君を探していました。君のその能力は、ある人物の能力を発現したものなのです。その人物とは・・聖徳太子。歴史の授業で聞いたことがありますよね」
聖徳太子・・教科書でしか見たことない名前が出てきた。
「法隆寺の言い伝えによると、大いなる魔が訪れる時、大いなる聖人降臨す、とあります。君はある日突然、今の能力を身に着けたのでは?
言い伝えでは、過去にも突然に特殊能力を得て法隆寺に招かれた人物が多数いるそうです。君はそのうちの一人なのです。」
なんだかファンタジーな方向に話が進んでるなぁ・・
「あの、疑問がいろいろあるんですけど・・大いなる魔ってなんですか?」
魔ってなんだよ。お化けでもでるのか?妖魔的なやつとかか?
「たぶん想像しておられるものとは違うと思われます。伝承ではそう言われているだけで、現在の解釈では大災害や戦争といった、国家存亡の危機のことだと言われています。ただ我々の世代はそういったものに遭遇したことがないので、実際のところはわかりません。なので今わかっているのはこれから何かが起こる、ということです。」
「つまり、何が何を起こすかわからないってことですか?それ、僕に何かできるんですか?」
「平たく言えばそういうことです。そして君にはまず、お告げの精度を上げるために奈良に来ていただきたいのです。君の能力がそこで必要になるのです。大雑把に言うと、君の能力を増幅して調査する、といったところでしょうか」
「つまり、奈良に来い、ということですか?」
「そういうことですね。と言ってもそんな深刻に考えなくても大丈夫です。軽い旅行と思っていただければ。ご家族には私も説明いたしますので、遊びに行くつもりでおいでください。」
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