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第三章:来たる日に備えて
ツッコミって難しい
しおりを挟む声をかけられた派手男は、
まだ、ダメージを引きずっているのか
うつむいたまま、反応しない。
それを黙って見つめる、若い男。
背がスラリと高く、髪は、黒の短髪。
切れ長の瞳が綺麗で、凛々しい表情。
バランスの取れた身体で
綺麗な装飾を施された
武術をたしなむ者が好む道着を
姿勢良く、堂々と着こなしていた。
そんな彼は、派手男を見守るように
距離をとったまま、動かなかった。
派手男からの反応を、
待つことに、決めたんだろう。
そんな、硬直状態の2人を
遠巻きに見ることしか、できないでいる俺に、
少し場違いな、のんきな声が降ってきた。
「あ!お前の叔父さん!
あっちでミチカが介抱してるからな。
まだ眠ってるけど、
目立った外傷も無かったし!
ま、すぐに目覚めると思うよ。」
ブラックアビス隊長の…
確か…ノヴァン、さん。
彼は、俺の横に立ったまま、
特に目を合わせることもなく、淡々と教えてくれた。
「…ありがとう、ございます。」
俺は、ひとまず感謝の意を述べる。
この人達が来てくれなかったら、
俺は今こうして、話せてはいないだろうから。
「いーっていーって!
俺たち、これから…
仲間になるんだから、さっ☆」
…目元に、ピースサイン。
そんな、謎のポーズをキメながら
座ったままの俺の顔を
斜め上から、まっすぐ見つめて、
ノヴァンさんは、満面の笑みで告げた。
(仲間…。)
「…。」
俺は、何も言い返さずに。
よく分からないから、
一旦、ノヴァンさんの付箋を読もうと…
「は~い!
シオン君、ツッコミ検定、不合格っ!」
そう言って、
ノヴァンさんは、大げさに両手を振り
「まったく~。
さっきのポーズに
ツッコんでくれないとはねぇ…。
シオン、お前
俺をスベらせるつもりかよっ!」
両手をバタバタ振り続けたまま
大げさに落ち込んでみせるノヴァンさん。
最後は、これも大げさに
片手をビシッと振り回して
呆然とする俺に
ツッコミを入れてきた。
(付箋…読めない…。)
慌ただしいノヴァンさんの動きのせいで、
舞い落ちる付箋は、
よく、見ることができなかった。
「お前なぁ、
そうやってすーぐ
会話から逃げるの、ダメダメよ!
今後は、ちゃ~んと会話するんだ。
俺たち”特色隊”の、チームのみんなと、な!」
「…特色隊?」
「そ!お前も知ってる、ヨウと…
俺がサクッと見つけてきた、
あそこの、大型新人!
”ヤマト・イーサル”と一緒に!
”禁色”3人組で、仲良く活動するんだぞっ☆」
ノヴァンさんは嬉しそうに、
また、俺にはよく分からない
さっきとは別の、謎のポーズをキメながら
派手男と対峙する
凛々しい男を、ビシッと指さした。
「ヤマト・イーサル…
禁色の、カラーズ持ち…。」
「んもうっ!
ま~たツッコミ忘れてるしっ!」
謎ポーズをやめたノヴァンさんは、
ガシガシと、頭を掻きながら
「シオンは
天性の不思議ちゃんだな、ったく。」
次は、俺でも分かる
やれやれのポーズをしながら言った。
かと、思ったら…
ーーバッ!!!
ノヴァンさんは突然、後ろを振り返り
「っ!!
おいおい、懐かしい感覚…!」
はた目には、何の変哲もない、
誰もいない、庭の隅を凝視したまま
そう、つぶやいた。
そんなノヴァンさんの横顔を
下から、覗くようにして、伺い見ると…
(…猛獣、みたいだ。)
その瞳は、ギラギラと輝き。
さっきまでのふざけた人とは、
まるで別人で…
一瞬で、恐怖すら、感じた。
「じゃあ!
俺からの説明は以上になりま~す!」
ノヴァンさんは、
何事も無かったかのように、パッと俺に向き直り。
また、あのヘラヘラした笑顔で、話し始めた。
「んじゃ、あとは仲良く
あの派手男を
お前たち”2人で”どうにかしろよ。
俺は、ちょっと用事ができたから、行ってくる。」
「”2人で”って、俺はもう…。
それに、行くって、どこへ…?」
「お、ちゃんと話せるじゃん!偉い偉いっ。
”2人で”は、言葉通り”2人で”、だな!
そんで、行くのは、ヨウのとこだ。
順調そうだったし、放置してたけど…
さっき、
大魔王が降臨なさったからな。
さすがに助けに行ってくるわ。それじゃーな!」
そう言って、
俺の返事は待たず
一瞬で、ノヴァンさんは、
俺の視界の中から、跡形もなく消えていた。
(まばたきした、ほんの一瞬で…!)
急いで、
ヨウの戦いに加勢しに行ったのだろう。
「ヨウ…大丈夫、かな。」
一緒に戦ってくれたヨウのことを、今更になって考える。
(自分のことで、一杯一杯だった…情けない。)
自己嫌悪に陥りながら、それでも…
(ノヴァンさんが向かったなら…きっと、大丈夫。)
そう、自然と安心している自分に…少し、驚いた。
「ははははっ!!!
痛ってぇなぁ!痛ってぇよマジで!!!」
ずっと黙っていた派手男が、
突然、大きな声で叫び始める。
「不意打ちで、
良い気になってんじゃねぇぞ、卑怯者が!」
派手男は、怒りと笑みが混ざったような
狂気的な表情で、ヤマトににじり寄っていた。
「ヤマト!気をつけろ!
あいつは、紐のようなチカラを使う!」
俺は急いで、ヤツの情報を
ヤマトに伝えようと、声を張り上げた。
「シオン、ありがとう。
そして、派手なアナタには、お話がありマス。」
ヤマトは俺に笑顔を向けた後
距離を詰めてくる派手男にも
相変わらず、優しい口調で
どこか懐かしいような、
彼、独特のなまりで、話しかけた。
「卑怯者…そう、アナタの言う通り。
いくらシオンを助けるためとは言え
無抵抗のアナタを蹴ったこと、申し訳なく思いマス。
だからこうして、待っていマシタ!
戦う前に、アナタから、
まずは一撃、もらいたいのデス。
そしたら本当の、正々堂々、ですよネ!」
ヤマトは、両手を合わせて、嬉しそうに提案する。
「なんだ、お前…頭湧いてんのか?」
派手男は、怪訝そうな顔で反応する。
俺も、にわかには信じられない提案だった。
「嘘じゃないデス!
僕は、武術家なので
勝負は、正々堂々行いたいのデス!
卑怯者と呼ばれたまま戦うなんて、出来ませン!」
ヤマトは必死で、自分の想いを主張する。
そんなヤマトの周りを、優雅に付箋が舞い…
【この人、強いヨ!】
【正々堂々、戦いたい!】
【修行っ!修行っ!】
(…戦闘狂かっ!)
俺は内心で、
生まれて初めてかもしれない、
真っ当なツッコミを入れた。
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