黒の悪魔が死ぬまで。

曖 みいあ

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第三章:来たる日に備えて

子どもみたいに

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「なっ!俺の炎がっ!!!」


俺の右手から出た、

薄い深紅の膜に包まれた、水の塊は



狙い通り、レンの炎に当たって弾けて

赤橙色の炎を、跡形もなく蒸発させた。





「ふう…。

これでもう、その炎は、
俺には通用しないってことが証明されたな!」



慌てるレンを見て、

俺は内心、ホッと胸をなでおろす。



(初めて実戦でチカラ使ったけど…

上手くいって良かった!ほんとに!!)





俺の、今のところ唯一使えるチカラは

”左手で触れたモノを、右手から飛ばす”

という、何とも地味なもので。




初めて発現した時は…


『そこの塩取って~って時に、
サイコーなチカラだな!ぶははは!!』

って。

大先生に、盛大に笑われたりもしたけど。


でも…

(きっと、このチカラは、使い方次第…!)


そう、この左手と右手を繋ぐチカラは

俺と、すれ違ったレンを…繋いでくれるって、思うから。



(まずは…あの炎を、なんとかする!

それから、レンに、”アレ”を、飛ばせたら…!)






「レン…俺は、黒の悪魔じゃない!

それを、分かってもらえるまで…

お前が気の済むまで、
俺の深紅のカラーズで、受けて立つよ。」



「くっ…!どうなってんだよ…!

黒の悪魔は、
黒のチカラ以外にも、チカラが使えるってのか?」


レンは、まだ
目の前で起こったことに納得いかないみたいで。


その不安を振り払うように

勢いよく、右腕を振り上げて、

俺に向かって叫んだ。


「まだまだ…こっからだ!

勅令するーーウィンディ、焦がし滅せよ!」




俺も、改めて覚悟を決めて

左手を湖に浸して、叫び返した。


「こいよ!何度でも消してやる。

勅令するーーカルラ、繋ぎ与えよ!」






ウィンディから、今度は小さくて、

かなりスピードのある炎が、3つ飛び出し。



それぞれが意志を持つみたいに、

バラバラの軌道を描いて、俺に向かってきた。




「いけっ!」


俺は、左手で触れた湖の水を圧縮して、

右手から、小さなミカン位のサイズにして飛ばす。



(よっし!バッチリ!)


2ヶ月間、大先生と
みっちり特訓したおかげで、


左手で触れたモノの圧縮や、
放出するサイズ、放出してからのコントロールなど


だいたいの制御は、できるようになっていたから




ーージュ!ジュジュ!ジュウゥゥ!!


3つの炎は、
さっきの大きな炎と同様に

派手な音を立てて、一瞬で蒸発していった。





「くそっ!また消された…!」



レンは、

目の前で蒸発していく炎を、悔しそうに見つめて言う。





俺は、そんなレンに、自分のチカラを説明する。

…黒ではない、深紅のチカラを、分かってほしいから。


「右手から出る水の塊、

レンには、小さく見えるだろうけど…


実際は、
湖のかなりの量の水を、圧縮して当ててるんだ。


それが直接、一気に炎に当たってる。
いくらレンの炎がすごくても、大量の水には勝てないよ。


俺は、湖の水が無くなるまで、
何回だって、外さずに、当ててみせる。


これが、黒の悪魔なんかじゃない…

俺の、ヨウ・オリーヴァーのチカラだ!」


俺は、レンの目を見て、まっすぐに告げた。






レンは、悔しそうな顔のまま


「黒のチカラじゃない…

ヨウ自身のチカラが、この…モノを飛ばすチカラ…。」


ポツリと、そうつぶやいて。




「でも、これじゃ…

お前だって、俺に、勝てないだろ?


炎を、何回でも消すってさぁ…!

そんなんじゃ俺たち…決着が、つかないだろっ?!」


レンは、悔しさが、

苛立ちに変わっていくみたいに



「俺は、ヒマリの敵(かたき)を…

…お前を…殺さなきゃ、いけないんだよっ!」


俺を見ながら、でも…

…自問自答するみたいに、叫んだ。








「俺たち…まだまだ、子どもだよな。」


俺は、叫び終わったレンの目を見ながら、

この空き地に着いて、ずっと考えていたことを話し始めた。



「俺たち、子どもだからさ…

いっぱい、間違ったこともしちゃうし。

勘違いだって、ケンカだって、しちゃうよ。


大人と違って、
いろんなこと、まだ、経験してない。」



「なにが…言いたいんだよ!」




「俺もレンも…きっと、ヒマリも

きっと、”あの日”から、背伸びしてるんだ。

あの日…【黒の再来】の日、から。



でも、そうじゃないんだよ!

俺たち、もっと単純でいいんだよ。子どもなんだから。」



「単純で、いいって…。」



「復讐とか…殺す、とか。

俺も、ずっと考えてたけど…。



それって、子どもらしくないっていうかさ。

俺たち、らしくないよな?



俺は、ただ、…

また、みんなと、あの山で、
平凡だけど、幸せな日々を過ごしたいだけなんだ。

単純だろ?

また、レンと一緒に、
バカみたいなことして、笑っていたいだけなんだ、俺。」



「ヨウ…。」



「レンが、俺を信じられないのも…

でも、本当は信じたいって、迷ってくれてるのも…分かってる。


だから、1つだけ…レンに、お願いがあるんだ。」



「お願い?」



「俺を信じて…1回でいい、

今から、俺のチカラで飛ばずモノを、受け取ってほしいんだ。」



「俺に…お前の攻撃を、

ノーガードで受けろっていうのか?」



「攻撃じゃない!絶対に!


飛ばすのは……”俺の記憶”だ。」



「記憶…?そんなこと…。」



「うん、やったことは…ない。

でも、何でか分からないけど…

できるって、俺の心が、そう言ってる。



俺の、記憶の一部…

あの日起こった、本当のこと

レンにも、知ってほしいんだ。」



「あの日のことが、本当に…

分かるのか?

ヨウが…黒の悪魔じゃないって…。」



レンが、

不安と期待の入り混じった声と…

今にも泣き出しそうな顔で、俺に問いかける。






「俺が黒の悪魔じゃないって、

絶対に、レンに伝えるから!!!


俺のこと、信じて受け止めてくれ!」




俺は、心の底から、想う


(絶対に、俺とレンを、繋ぐ!!)




と、その時…



『ふわぁ~。よく寝たぁ~。』


対峙する、レンと俺の目の前に…



「アオ兄っ!!!」


薄いけど、それでもハッキリと見える

深紅の、カラスくらいの鳥が、空中に舞い上がって



『おはよ~ヨウ!』



優雅に羽ばたいた後、

俺の肩に止まって、にこやかに挨拶してきた。






「まさか、それ…。アオ、君…っ?」


レンは、泣き出しそうな顔のまま、

オーバーの姿になったアオ兄に、

恐る恐る話しかける。




『おぉっ!レンじゃん!

久しぶりだなぁ~。元気にしてたか?


俺はねぇ、ちょっと会わないうちに、

”人間をやめたぞー!”…なんちゃって!』



俺とレンが、ずっと

真剣な空気で戦っていた空き地に…



アオ兄の登場で、
一気に、別の空気が流れてきて



「いや、アオ兄、

その冗談、笑えないからっ!」



「あははっ!

アオ君、

そんな姿になっても、全然変わってねー!」



『えー?

鳥になっても、かっこいいって?』



俺もレンも、

まるで…子どもみたいに。


2人と1体で、顔を見合わせながら、笑いあった。
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