黒の悪魔が死ぬまで。

曖 みいあ

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第三章:来たる日に備えて

背景に、溶け込む

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ーーギュルルル!!


まっ黄色のリボンが複数本、大きな木に一気に巻きつく。


リボンの1本1本が、
さっきまでとは比べ物にならないほど分厚くて





ーーメキ…!


リボンが絡みついた木から、不穏な音があがりはじめた。





「さーてと。このまま…

木と一緒に縛り上げちまえば、無事に気絶、だなっ!」



ーーメキメキメキ!!!


派手男が話し終わった瞬間、

大きな木から、悲鳴のような音が聞こえて。




俺は…



「…。」


じっと息をひそめて、

悲鳴をあげるかわいそうな木を、すぐそばで見つめていた。








「あれー?

絡まってんの…木、だけじゃねー?」



俺の悲鳴が、聞こえなかったからだろうか。


派手男は、不思議そうにそう言って。



ゆっくりと木に近付き、その後ろに回り込み


「くそっ!やっぱいねーじゃん!

チカラ使って逃げたのか?だっるー。」




そう、悪態をつきながら


「仕方ねーな。

ナナ、一旦休憩だ。戻っておいで。」


ヘビのオーバーを肩に乗せて。



そうして、木にからまったリボンは、

じんわりと、空気に溶けて、消えていった。






「そう遠くには、行ってねぇよなー。」


不機嫌そうにブツブツ言いながら、

レンとヨウの所へ、ゆっくりと歩いていく

派手男の後ろ姿を見ながら




(ここから、どうするか…。)


俺は、派手男のすぐ近くで、慎重に考えていた。





リボンに追い詰められた、あの時…


俺は、”透明に”、なった。




ヨウの誘いを断った時にも、使ったチカラだ。


(ほんとはあの時…ヨウの手を…。)


あの川での出来事が、一瞬、頭をよぎったけど。


(今は、考えない…。)


すぐに切り替えて、目の前の派手男を見つめる。



(俺には、気付いてない…か?)



このチカラは、俺自身と、
俺の肌に触れているモノが、透明になるだけで、

気配までは、消せない。



それに…

(…心の声が、見えない。)



2つのチカラは、同時に使えないから。



透明になっている間は、

派手男の付箋が、見えなくなっていた。




(一か八か…。)


間違いなく、俺の姿は見えていないはず。


気配さえ、完璧に消せれば…


(背後から…一気に絞め落としてやる。)



俺は、この2つのチカラしか使ったことがない。


それを使ってしまった今、

この流れで、派手男を気絶させなければ…。





「ったく、新人のやつ…
まだチカラも使ってねぇじゃねーか。

仲良く立ち話でもしてんのか?

仕事が遅ぇやつって、イライラするわー。」


レンやヨウの瞳の色が確認できる位、

派手男の距離が、2人に近付いていく。




(そろそろ…仕掛ける…!)


俺は、派手男の意識が

レンやヨウに向きはじめた、その時。




慎重に、でも素早く

背後から、一気に近付いて…





ーーギュン!!!



「くっ!!!」


庭に響く

喉が締め上げられる音と、苦痛の声。



苦痛の声は、続けて


「な、なんで…!!」


目の前の相手に、そう、問いかける。




目の前の、笑みを浮かべる…派手な男に。





「驚いたか?

お前みたいな、
戦闘のシロートが考えることなんてな、

チカラが無くったって、
余裕で読めるんだよ、ばーか。」


リボンに締め上げられ、
地面に転がった俺を見下しながら。

派手男は陽気に、しゃべり続ける。



「おっ!さすがの無表情も、
今は、なんで縛られてるか分かんねぇって顔してんな。

あっち、まだ終わってねーし、
気絶させる前に、説明してやるよ。」


嬉しそうにかがんで、

地面の俺に、視線を合わせ。


俺の前髪を、
慣れた様子でかき分けて、

瞳を見つめながら、話を再開した。


「お前、
極端に薄いカラーズ持ちだよな。

心の声を読むチカラ使ってても、
瞳の色が、さっぱり変わらねーし。


ま、薄いってことは…
”見えないチカラ”を、まず警戒するだろ、普通。


だから俺も、

”見えないリボン”で、対抗したんだよ。」




「…見えない、リボン?」




「そ。さっき言っただろ?

『俺のチカラ、本気出せば

リボンは一度に5本出せて、長さも太さも、自由自在だ。』ってな。

太くするだけじゃなくて…極限まで、細くもできんだよ。」



派手男は、

マジックの種明かしをするように。

得意げに、そう説明した。




「あーやって言った後に、太いリボン見せとけば…

まさか、細いリボンが作れるとは、思わねーだろ?



心を読まれねーかヒヤヒヤしたわー。


とにかく、読む暇を与えないように攻撃して、

お前が、消えるようなチカラを使ってから…


あとは、リボンを1本、極限まで細くして、

”見えない攻撃”に備えて、
俺の周囲に、ずっと罠みたいに張っておいたってわけ。


んで、お馬鹿なお前が、
まんまと罠にハマってくれたんだわ。」


派手男が、

ニヤニヤと俺の頭をなでる。


「んな怖い顔すんなって。

俺に負けた理由が聞けて、スッキリしただろ?

じゃ、ゆっくり眠れるな。おやすみー。」



ーーギギギ。


身体に絡みつくリボンに、チカラが込められていく。


「夢の中で、あのおっさんに、会えるといいな。」


目の前の派手男の顔が、

ゆっくりと、かすんでいく…。



(俺は…くそっ…!

こんなに悔しいこと、今までなかった…!)


自分の中に、

今まで感じたことのない、気持ちが、湧き上がって…。



「まだ…勝負は、これからだ!!」


俺は、かすんでいく視界の中の男を睨んで。

たぶん、人生で1番大きな声で、そう叫んだ。
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