黒の悪魔が死ぬまで。

曖 みいあ

文字の大きさ
上 下
55 / 72
第三章:来たる日に備えて

その瞳に映るのは

しおりを挟む

「よっし!今日もいい天気だな!

これなら、思う存分チカラが使えるぞ!」


昨夜は、あの後ミチカの待つ宿へ行き、
そのまま何事もなく一泊して。


今朝起きたら、2人部屋の、
俺の隣のベッドには、もう、大先生はいなかった。

たぶん、昨日の宣言通り、
ブラックアビス本部へ”禁色”の報告をするために
村の外、数キロ先にある通信箇所へ向かったんだろう。




「ヨウのあのチカラが…

シオン君を勧誘するのに、役立つのかしら?」


相変わらず嫌味なミチカと一緒に
昨日見つけた、シオンの家までの道中を歩く。


「ま、チカラは使いようだからな。任せとけって。」

俺は胸をはって、堂々と答えたけど。


(ほんとは…

特訓以外でチカラを使うの、初めてだから…)


「…緊張する…。」


「え?何か言った?」


「な、なんでもないっ!」



俺はつい口からこぼれていた本音を急いで飲み込んで。


「そうだ!

シオンが、ミチカにチカラを使うか分かんないけど…
もし使ったら、心の声はダダ漏れだからな。失礼なこと、考えるなよ。」


いつも嫌味っぽいミチカに、ひとまず釘をさしておく。




「失礼なことなんて、私考えないわっ!

私が考えてるのは……あぁっ!!!!」


「なんだよ!急に大声出して。どうかしたか?」


「いや…あの…私っ!!」


「大丈夫か?なんか…顔が、赤いぞ?」


ミチカの赤くなった顔を覗きこむと


「なっ、なんでもないっ!!!」


ーードンッ!


心配してやったのに、
なぜか理不尽に、顔を押し返されて。



「…私っ!

まだシオン君に会ったことないから、
先に言って、様子を見てくるわ!

本気でブラックアビスに入りたくないなら、
近付いてくるヨウを見て、またすぐ逃げちゃうかもしれないでしょ?

初対面の私なら、
すぐに逃げられる心配はないと思うわ。

よって、今日はまず私が1人で、彼に接触します!

だからヨウは、ちょっと後から、追いかけてきてね。

すぐには、来ちゃだめよ!絶対ね!」



そう言って、俺の返事も待たずに背を向けて


「ヨウの隣にいる時…
いつも、”好き”って考えてしまってること、バレちゃう…!

先に言って、口止めしなきゃ…!!」


ミチカは、俺には聞き取れない声量で、何かをつぶやきながら、

俺から聞いていた、シオンの家の方向へと走っていってしまった。



「ったく、やる気満々なのはいいけど…
顔も赤かったし…風邪とか、大丈夫なのか?」


(まあ、あれだけ走れれば…大丈夫…か?)

走っていくミチカの背中を、少し不安になりながらも見送って。





(ミチカが上手く引き止めてくれてる間に…
どうやって勧誘しよう…やっぱ、チカラ、使うべきかな?)


再度計画を練りながら、
あえてゆっくりと歩いて、シオンの家に向かった。








「あ!ヨウったら、やっと来たわ。」

気を使って、慎重に近付いたけど。

近付いてくる俺に気付いたミチカが
俺に向かって、大きく手を振って声をかけてきた。


そこは、シオンの家の庭で、
ミチカの隣には、いつもの無表情のシオンが。

「ヨウ、おはよう。この前は…ごめんね。」

俺の目を見ながら、
少しだけ申し訳なさそうに、挨拶をしてくれた。



「シオン、おはよう。
この前のこと…ちゃんと、理由を聞きたくて、来たんだ。

あ、今…チカラ、使ってるのか?」


シオンは、俺と同じで極端に薄いカラーズ…

つまり、チカラを使っていても、
瞳にカラーズのモヤは、浮かばないだろうから。


チカラを使っているのか、
見た目では判断できなくて、素直に聞いてみた。




シオンは少し、考えたような素振りをして


「…ヨウは、もう少し

ミチカちゃんを、大切にしてあげなよ。」


「シ、シオン君…!」


「え?ミチカ?

ミチカのことなんて、今1ミリも考えてないけど…。」


「…だから、だよ。」


「わ、私の話はいいからっ!」


無表情だけど、なんだかシオンは呆れた感じで俺を見ている。

そして、ミチカは相変わらず、いつもより顔が赤い。



「…ミチカちゃんは、風邪じゃないよ、ヨウ。」


「あ、やっぱチカラ使ってるんだな!」



何だか会話が分からなかったが、

やっと、シオンが俺の心の声を読んでいることが分かった。



「シオンにしか見えない、薄紫の付箋(ふせん)か~。

俺も、舞ってるの見たいな。絶対キレイだよな。」


良い天気の空を仰いで、そこに舞う紫色の紙を想像する。


「私もそう思うわ!きっと素敵でしょうね。」


ミチカも、俺と同じように、空を見上げて言った。




そんな俺たちを、シオンは黙って、無表情で見つめている。



俺には…

シオンが何を考えているか、もちろん分からないから。


俺たちを見ていたシオンに視線を合わせて、
そのまま少し近付き、声をかけた。


「シオン…

単刀直入に聞く。ブラックアビスに、入らないか?」


心の声を、読んでいるのなら。

”禁色”などの事情は、きっと伝わっているはずだから。



「それから、やっぱり…

俺と、友達になってほしいんだ。」


シオンから、目をそらさずに続ける。



「心の声を読んで、俺の気持ちは分かってるだろ?

でも俺は…声に出した方が、想いは伝わると思うから。

だから、何回でも言うよ。

俺と、友達になってくれ!」


昨日の夜に、逃げられた時と同じように。

もう一度、心から、シオンへ気持ちを伝える。

俺の周囲を舞ってる付箋にも、絶対、同じことが書いてあるはずだから。


「…うん。全く”同じこと”、だよ。」


シオンは、少し嬉しそうに笑って答えた。




「こんな僕に…ありがとう。

でも、僕は君たちと一緒には、行けない。

…叔父さんを、守らなくちゃ。」


「叔父さんを…?」


俺は昨日、窓から見た、
怒りに震えるシオンの叔父さんを思い出す。



「ヨウ…違うんだ。叔父さんは…。」



シオンが、そう話し始めた時…


「シオンっ!!!
そんな所で、一体誰と話しているんだ?!」


家の中から、叫ぶような声が聞こえて…


「昨日の男といい…
その2人も、この村の人間じゃないな?

まったく、何でシオンに近付くんだ!?」

玄関から、シオンの叔父さんが飛び出してきて。

俺とミチカに、鋭い視線を投げて話しかけてきた。




「…ヨウ、見て。」

シオンは、叔父さんに返事をするわけでもなく。

近くにいた俺の手を、ギュッと握って、そうつぶやいた。



「見るって、何を……あっ!!!」

シオンに握られた手から
ぬくもりと一緒に、何かが流れてくる感覚があって…



その後、俺の視界いっぱいに広がる
薄紫の、桜の花びらのような、付箋たち。




その、一枚一枚を、よく見ると…

【大切なシオンに…こいつら、何をするつもりだ。】

【シオンを失うのが、怖い…姉さんのように。】

【シオンは、俺が管理しないと。】

【シオンに嫌われてでも、俺が…。】



「シオンのことで、いっぱいだ…。」

その全てが、シオンを思う言葉で、埋めつくされていた。




「…うん。

だから、いくら殴られても…
叔父さんのこと、俺は嫌いになれない。」

シオンは、俺にだけ聞こえる声量で、そうつぶやく。



そんな俺たちを見て、

シオンの叔父さんは
怒りと困惑と不安の入り混じった表情で、俺に話し続ける。


「おい、何とか言ったらどうなんだ?!」


【シオンは、何でこんなやつと…?】

【また、殴らないと、分からないのか?】

【どうしたら、言うことを聞いてくれるんだ…?】


付箋にも、不安定な言葉が並び始めて。

そんな言葉に囲まれながら、シオンは悲しそうにつぶやく。


「叔父さんには…

何を言っても、だめだったんだ。

『俺は、母さんと違ってどこにもいかない』って、

いくら伝えても…信じて、もらえない。


叔父さんも、発現者なら…

俺の付箋、見せてあげられたのにな。」


そう言って、寂しそうな顔をするシオンに目を向けると


【叔父さんのそばにいなきゃ。】

【母さんの代わりに…俺が、一緒にいる。】


そんな付箋が。

ヒラヒラと、儚げに散っていた。





「シオン…。」

シオンの瞳には、いつも、
こんな景色が見えていたんだな。


相手の心の声が、
こんなに正確に分かっているのに…


「伝わらないなんて…そんな…。」


シオンと叔父さん、2人の
すれ違うような、付箋を見て。


どうしたらいいか、考え始めた、俺の瞳に…




「…ヨウ?

そこにいるのは…ヨウ・オリーヴァーか?!」



…懐かしい、


明るい、オレンジ色の髪をした、少年が…





「…っ!レ、レン!?」


数カ月ぶりに、俺の瞳に映った親友は…


…真っ白の隊服に、身を包んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...