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第二章:新しい世界
おしゃべりな鳥
しおりを挟む「ヒュー・ブレイズの攻撃で、”本当の意味で”、亡くなったのは…1人、だけだぞ。」
ノヴァンは、頭を掻きながら、何でもないことのように、気楽に告げた。
そして、相変わらず軽い調子で続ける。
「言おう言おうと思ってたんだけど~。ついうっかり、忘れてたわ。てへ」
(1人だけ…。それって…。)
「はぁ?!それって…どういうことですか?確かに、2人のはず…。」
サクヤも、俺と同じように。
ノヴァンの言葉を、上手く理解できないようだった。
「あー、もうっ!説明すんの…めんどくさいな。
まぁ…”百聞は一見にしかず”、だな!」
ノヴァンが、彼の中で、ウンウンと納得した様子で…
…椅子の肘掛けに固定されていた、俺の左腕…二の腕部分を、思いっきり掴んだ。
そして…
「勅令するーーー…。」
ノヴァンのその低い声は…あまりにも小さくて。
勅令は、うまく聞き取れなかった。
勅令は普通、自分の体内のカラーズに響くように、それなりの大きさで言わないといけないのに…。
…これも、アオ兄やブレイズがやっていた、”勅令放棄”って、やつなのかな?
やっぱり…この人、すごい人…なのか?
…そんなことを考えながら。
いまだに状況が理解できないまま、数秒の間、腕を掴まれたまま。じっとしていると…。
俺の…左腕が。
段々と熱を帯びて……太陽のように、光を放ち始めた。
と同時に…
『ふぁ~。』
…よく、聞き慣れた声が。
左腕の、光の中から…
『なになに、俺のこと、誰か呼んだぁ?』
ハッキリと、聞こえた。
少し、離れただけなのに…
それは…ひどく懐かしい、アオ兄の、声だった。
「ア、アオ兄…!!!!」
「なっ!これは、一体…!?」
俺とサクヤは、光の中から飛び出した”それ”を見て。
同時に驚きの声を上げた。
「アオ兄、なの!?この…鳥…!」
光の中から飛び出した”それ”とは…
ハト…だった。ただし…深緑色の。
そして、アオ兄の声で、おしゃべりをする、ハト。
『おお!ヨウ!少し見ない間に…なんか、大きく…なったなぁ?
あれ…これ、俺が小さくなってんのぉ?』
深緑色のハト…もとい、アオ兄は。
その鳥類ならではの鋭い鉤爪で、俺の左腕に掴まったまま。
俺の顔を見上げて、その小さな頭と首を傾げた。
『そっか…。
ヨウが無事で、良かったよ。
あ!ついでに俺も!あの時は、絶対死ぬんだって思ったからさぁ~。』
サクヤが、大まかな事情をアオ兄に説明して。
話が終わると、アオ兄はそう言って、俺の腕から飛び立って。
『鳥かぁ~。一度はなってみたいって思うよな!飛ぶって、こんな感じなのかぁ~。』
暗い室内をくるくると旋回し。
また、俺の腕に戻ってきた。
「アオ兄、…のんきすぎだろ!」
「…僕も、ヨウ君と同じ意見です。」
「ハハハ!ヨウの兄ちゃん、面白いじゃん!」
ハトらしい振る舞いと、人間らしいセリフが、何ともチグハグで。
室内には、なごやかな雰囲気が漂っていた。
他に聞いたこともないことが、目の前で起こっているのに。
「アオバは、見ての通り、ヨウの身体から出てくる…オーバーだ。
ヨウのオーバーに、アオバの精神がくっついている。」
ノヴァンが、ハトのアオ兄を突っつきながら、話を続ける。
「俺は、相手の身体に触れれば、そいつの体内のカラーズを読み取ることができるんだよ。
発現の”チカラ”とは別の…俺の、一族だけがもつ。ま、体質みたいなもんだな。
それで、ヨウが気絶してる間に触れて調べた時、ヨウの体内には…”禁色”の深紅のカラーズと…
明らかにヨウのカラーズとは違う、…深緑色の。コイツ、アオバ・オリーヴァーのカラーズがあったわけだ。」
ハトのアオ兄は、ノヴァンの突っつきに耐えられなくなったのか。空中に逃げていった。
「あの時、一瞬でもニセモノでも、”黒の悪魔”のチカラを使ったからなのか。
…他人のカラーズが体内に入るなんて、見たことも聞いたこともないから。さすがの俺も驚いたわけだ。」
ウンウン、と、自分の説明に頷きながら。ノヴァンは説明を続ける。
「その時は驚いて…報告しようと思って…。なんでだったか…忘れてて。てへっ。」
サクヤが、説明を邪魔しないようにだと思うが…無言で、睨んでいる。
「んで、ついさっき思い出したんだよ。
今度は俺の”チカラ”で…ちょっと、深緑色のカラーズに働きかけてみるかって。
どうなるのか、さすがの俺にも分からなかったけど。
まさか、こんなに…アオバの精神が、カラーズに乗り移ってるとはな!
ハハハ、おしゃべりな鳥、面白すぎだろっ!」
ノヴァンは終始笑いながら、目の前の信じられない光景について、説明してくれた。
「でも…そろそろ、だな。」
ノヴァンがそう言うと。
「あれ?アオ兄…色が、薄くなって…。」
深緑色だったハトのアオ兄は、だんだんと…その身体が透け始めていた。
「きっかけは、俺の勅令だけど。
チカラが維持できるかは、もちろん、発現者であるヨウ自身の問題だからな。」
「え!そっか、俺…発現者なのか…!
えっと…、えぇーい!!!!」
ひとまず、憧れて、ずっとイメージしていた感じで。
ハトのアオ兄の”濃さ”を取り戻すべく、パワーを振り絞って、叫んでみる。
「ぷっ…ヨウ君。掛け声じゃ、チカラは増しませんよ。」
「ぶははっ!お前、バカだなぁ!」
黒の隊服の2人には笑われ。
『ヨウ、その雄叫び、カッコいいなぁ!
俺…超かっこいい発現者のオーバーになれて、超幸せだなぁ~。』
アオ兄も…左腕に掴まる、その見た目はハトだけど。
今までずっと見てきた、いつものニヤニヤ顔が…目に浮かぶようだった。
「ヨウは、ひとまず修行だな!
…”黒の悪魔”…本物は、生きてんだから。」
ノヴァンは、俺の方を見て、真剣に告げる。
「返事を…聞いてませんでしたね。」
サクヤも。少し微笑んで、俺の目を見て言う。
「俺…。
ブラックアビスに入るよ!そして…ヒマリを、世界を。
”黒の悪魔”から、守ってみせる。」
そしてーー
「あと…アオ兄も。
”黒の悪魔”のチカラで、俺の身体に入ったなら…。
俺の身体から…元に、戻せるなら。
全部の謎を知ってそうな、本物の”黒の悪魔”に、直接聞いてみる!」
俺は、まっすぐに前を見ながら。そう、高らかに宣言した。
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