黒の悪魔が死ぬまで。

曖 みいあ

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第一章:あの日、再び

真っ白は正義

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「やっと着いたぁ~!」

ミタ山の、一番頂上に近い自分の家から、
麓の街”ジャアナ”に降りるまで、随分と時間がかかってしまった。

気付けばもうお昼が近い。

どこかで軽く食事でもして…
…ミッション2つ目に向けて、動き出さないと。

そんなことを考えていた矢先。
街の中央…大きな噴水の近くが、やけに騒がしいことに気付いた。



「はいはい、並んで並んで。
私はどこにも、行きませんよ。」

人混みの中心、そこには…

「ブレイズ隊長っ!!」

俺の、あこがれの人。

全身真っ白な
”高潔の白色隊(ホワイトノーブル)”の隊服に身を包んだ、
”ヒュー・ブレイズ隊長”の、姿があった。




「ブレイズ隊長っ!!!」

思わぬ人物に会えた嬉しさで、
俺は周りの目も気にせず。先程よりも、ずっと大きな声で叫んだ。

「やぁ!ヨウ君!
こんにちは。久しぶりだね。

…あっ!ちょっとだけ、待っててくれるかな?」

ブレイズ隊長は、俺に気付いて軽く目配せをし。

「はいっ!」

ウンウンと頷いた俺に、満足そうな顔をして。

再度、周りを取り囲んでいる少年少女たちに向き直った。


「みんなお待たせ。
じゃあ…いくよ。よーく、見ててね。」

ブレイズ隊長は、その色白の肌によく映える。
キラキラな銀髪に負けないくらいの、眩しい笑顔で…

…左腕を、前に、突き出した。


軽く息を吸い…
…よく通る声で、言葉をつなぐ。


「勅令(ちょくれい)するーーノエル、舞い踊れ。」


突き出された、左の上腕部が輝く。

と同時に、
ホワイトノーブルの隊服の”象徴”ともいえる
隊服の肩から垂れ下がる…
隊服と同じ色をした、真っ白の”ペリース”が…大きく、揺れ動いた。

ペリースとは…肩から垂れ下がる、マントのようなもので。

ブレイズ隊長の場合、左右の肩のうち、
チカラが発現する左肩にのみ、垂れ下がっている。

そんなペリースのはためく隙間から、
ブレイズ隊長特有のーーー”水色”のカラーズが、発現する。


溢れ出した水色のモヤは、
光が乱反射したようにキラキラと光り…

…ブレイズ隊長と、周囲の子どもたちを、包み込んだ。


「うわぁ!」
「きれい~!」

みんな、口々に喜びの声をあげる。

「ふふっ。みんな、
楽しいのは…ここから、だよ。」

ブレイズ隊長が、楽しそうにそう言うと。

そのモヤより、少し濃い水色のイルカ、
オーバーのノエルが。踊るように、飛び出してきた。

と同時に

ノエルの通った空間からは…
…水しぶきのような、キラキラとした水色の、
氷の結晶が、舞い落ちる。

「ステキっ!!」
「気持ちいいー!」
「冷たっ!」

先程よりも、更に大きく。
子供たちは喜びを口にする。

それを眺める周囲の大人たちも、みんな揃って楽しそうだ。




ノエルの発現が終わると、みんな口々にお礼を伝え。
ブレイズ隊長も、それに笑顔で答えている。

そんな様子を、俺は少し離れた芝生から眺めていた。


憧れの人の勅令を、たまたま間近で見ることができて

(今日はなんて良い日なんだろう!!)

と、一人ニヤニヤしながら芝生を転がっていた。

すると

「ヨウ君、お待たせ。君と話したいことがあってね。
お昼、まだだったら一緒にどうかな?」

頭上からいきなり、その憧れの人に声をかけられた。

「ひっ、ひゃいっ!」

思わず変な声で返事をしながら。
急いで身体を芝生から起こす。


…芝生、頭に付いてないかな。

「ふふっ。その返事は…
…OKってことで、良いのかな?」

口元に手を添えて笑う仕草まで、
隊長の名に相応しい上品さだ。

この世界の正義、と称される組織
”高潔の白色隊(ホワイトノーブル)には、数多くの隊員が所属している。

そして、その中でも”隊長”と呼ばれるのは…

…ブレイズ隊長を含め、たったの3人しか、いない。

その3人は、発現者としてのチカラも強力で…
…そしてこのブレイズ隊長は、
チカラだけじゃなく、見た目も振る舞いも考え方も、
何もかもがスマートで、カッコいい。

ブレイズ隊長は、出会った時…
そのチカラで…俺を、助けくれた、あの時から。
ずっと変わらず、俺の…憧れの人だ。

「ほら、芝生にはサヨナラして。
ヨウ君は、何か…食べたい物は、あるかな?」

いまだぼーっと、芝生に腰を下ろしたままの俺に、
ブレイズ隊長は、笑顔で手を差し伸べてくれた。

その細い腕の、どこにそんな力があるのか…
俺を軽々と引っ張り起こしてくれて。

「あ、ありがとうございますっ!
えっと、夜は…誕生日会だから。お昼は…軽めな物が、いいかもです。」

「あぁ!そうだったね。
いよいよ、今日が勝負の日…だったかな?」

嫌味のない笑顔でそう聞かれ。

この人には嘘は付けないと、少し赤くなった顔でうなずく。

「それじゃあ、来たる勝負に備えて!英気を養おうじゃないか。
…もちろん、軽めにね。」

ブレイズ隊長は、軽くウインクして。
そのまま街のメインストリートに向けて、歩き始める。

見た目以上に大きく感じるその背中を

「はいっ!」

俺は小走りで、追いかけた。



ーーー【黒の再来】まで、あと5時間と56分ーーー
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