黒の悪魔が死ぬまで。

曖 みいあ

文字の大きさ
上 下
7 / 72
第一章:あの日、再び

水汲みは2人で

しおりを挟む

「そういえば仕事、ちゃんと上手くいってるの?」

俺より少し後に食べ終わったアオ兄と一緒に、
食器を洗う水を汲みに、家のすぐ近くの井戸へ向かった。

その道中、
特に気になっていた訳では無いが…何となく。
仕事について、質問をしてみた。

…いや、本当は、何となく…じゃ、ない。
さっき父さんのことを、思い出した時…


アオ兄一人に頼りきりのこの生活が、

少し…申し訳なく、なったからだった。


「そりゃもうバッチリよ!
 俺のリュウマは、優秀だからねぇ。
 さっきもばっちし!予想以上に実ったよ。」

チカラの効果が発揮される”実り”までは見ていなかったけど。
あの後すぐ、いつものように、木にはたくさんの果実が実ったらしい。

アオ兄の、”深緑のカラーズ”から発現した”オーバーのリュウマ”の炎には、
生命を癒したり、成長を促したりする”チカラ”がある。

さらに言うと、
その炎に促され実った果実自体にも、炎よりは劣るが、同じような力が宿る。

こうした”癒やしのチカラを保持した果実”は、アオ兄の仕事の中でも、よく依頼されるものの1つだ。

「依頼された分以外はジャムにして…保存がきくようにしてから、配るつもり。
そろそろ毎日山を降りるの、キツくなってきたからねぇ~。

ってか、毎年毎年、ミタ山の夏、暑すぎでしょ!」

昨日からいよいよ8月。
ここ、ミタ山で、最も山頂付近に暮らす俺たちの家から、
山の麓のジャアナの街まで…片道、だいたい歩いて2時間。

さすがに毎日降りるのは…厳しい季節だ。



「アオ兄も、歳には勝てない…か。」

「誰がオジサンだってぇ?」

コツッと、頭を殴られる。
もちろん、その顔は全然怒っていない。

「そういうヨウの方こそ!
昔っから夏、グッタリじゃん。よく親父と、水遊びしてただろ。」

そう言われて、自分の中にある、幼い記憶を引っ張り出す。

今日みたいに暑い日...たぶん6歳くらいか。

父さんが満面の笑みで…

俺に…


…水を、ぶっかけてくる。


「…父さん、イジワルだった。」

「はぁ?!どんな記憶だよ。」

「アオ兄とそっくりな、ニヤニヤ顔で…。水、ぶっかけてきた。」

それを聞いて、アオ兄はニヤッと笑う。

「違うちが~う!
ニヤニヤ顔じゃなくて!

『ヨウが愛しいな~』
って顔に、決まってるだろ?」

そう言って向けてくるキメ顔には…
…確かに、父さんの存在も感じられて。


「本当に…。
…父さんも、そう思ってくれてたなら。

まぁ…悪くない、かな。」

俺は、笑って答える。


「…思ってたよ。当たり前だろ。」

アオ兄も、俺と同じ顔で、そう言った。



「さ~て、はやく帰って、薪割り薪割りっと。」

元気よく水桶を担ぎ、アオ兄は来た道を戻り始めた。

その背中を追って、
父さんのオーバーである”黄緑色のドラゴン”を思い出し…

…俺は、寂しくても…温かい、気持ちになった。



ーーー【黒の再来】まで、あと9時間と16分ーーー


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...